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リン又はイオウ元素を持つ活性オレフィン類の電子移動型反応及び機能材料の合成と機能に関する研究

氏名 京田 誠
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第185号
学位授与の日付 平成14年3月25日
学位論文題目 リン又はイオウ元素を持つ活性オレフィン類の電子移動型反応及び機能材料の合成と機能に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 西口 郁三
 副査 教授 塚本 悟郎
 副査 教授 塩見 友雄
 副査 教授 五十野 善信
 副査 助教授 竹中 克彦
 副査 助教授 河原 成元

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総合序論 p.1
第一章 電極還元法あるいはMg金属を用いた還元法によるビニルホスホネート化合物の位置選択的炭素-アシル化反応
緒言 p.10
結果と考察
1-1. 電解還元反応の検討 p.11
1-1-1. 電極材料 p.12
1-1-2. 反応溶媒 p.13
1-1-3. 電流密度 p.13
1-1-4. ビニルホスホン酸エステル類と酸無水物の電極還元反応 p.14
1-2. Mg金属を用いた電子移動型還元反応(1) p.16
1-3. Mg金属を用いた電子移動型還元反応(2) p.18
1-4. 2-シアノエテニルホスホネートの電子移動型還元反応 p.20
1-5. 光学活性体の電子移動型還元反応 p.20
1-6. 反応機構 p.21
実験操作と解析 p.23
参考文献 p.33
第二章 Mg金属を用いたα-ホスホリルアクリレート誘導体の位置選択的炭素-シリル化反応
緒言 p.35
結果と考察 p.36
2-1. 電子移動型シリル化反応の検討 p.38
2-2. ビニルホスホネートを用いた検討 p.40
2-3. 反応性と還元電位の関係 p.42
実験操作と解析 p.44
参考文献 p.51
第三章 ビニルスルホン及びスルホキシド誘電体への電子移動型反応による高選択的脱離反応
緒言 p.53
結果と考察 p.55
3-1. 立体構造の決定 p.55
3-2. MT-スルホンの光異性化 p.56
3-3. MT-スルホンの金属Mgを用いた脱スルホン化反応の検討
3-3-1. 溶媒検討 p.57
3-3-2. Mgの使用量 p.58
3-3-3. TMSClの使用量 p.59
3-3-4. ベンゼン環上の置換基効果 p.60
3-3-5. 還元電位 p.61
3-3-6. (E)-,(Z)-MT-スルホンの脱スルホン化反応 p.61
3-3-7. プロトン源 p.62
3-4. (E)-β-シアノ-β-トシルスチレンの脱スルホン化反応 p.63
3-5. (E)-FAMSOの脱スルフィニル化(1) p.64
3-6. (E)-FAMSOの脱スルフィニル化(2) p.67
3-7. 反応機構の考察 p.67
実験操作と解析 p.71
参考文献 p.75
第四章 Upper Rimに4つのPhosphonateあるいはPhosphine Oxide基を有するカリックス〔4〕アレーンの合成・構造及び性質
緒言 p.77
結果と考察 p.79
4-1. ホスホリルカリックス〔4〕アレーン誘導体の合成 p.80
4-2. コンフォメーションの解析 p.82
4-3. 物性(融点) p.86
4-4. 抽出検討 1 (カチオン性金属抽出) p.87
4-5. 抽出検討 2 (アニオン性金属抽出) p.88
実験操作と解析 p.92
参考文献 p.97
結言 p.99
謝辞 p.102

 第3周期の元素であるリンは最外殻電子構造が 3s23p3 であり、同族元素である 2s22p3 の窒素と類似した性質を持つが、これらはd軌道が反応に関与できるためα位のアニオンを安定化し、Wittig反応又はHorner-Emmons反応に代表されるような特異な反応挙動を示す事が知られている。また有機リン化合物は、核酸や補酵素の構成成分として生体中に数多く存在するだけでなく、医農薬品、医薬中間体、難燃剤、可塑剤、重金属抽出剤、等の様々な用途があり、その新規機能性有機材料の開発が盛んに行われている。
 さらにイオウもd軌道が反応に関与できるため、Corey-Chaykovsky反応に代表されるようにα位のアニオンを安定化し、特異な反応挙動を示すことが知られている。
 一方、電気化学的手法を用いて有機化合物の選択的な変換・合成を行う有機電極反応は、電極と反応基質との間での電子移動により開始され、多種多様の特異な反応性を持つ活性種を発生し、選択性や特異性の高い反応を引き起こす興味深い反応である。また、Mg金属は高い還元ポテンシャルを有し、生体関連金属であるためクリーンな電子を試剤として用いる事ができ、本質的に無公害かつ省資源・省エネルギー性に優れ、さらに従来には見られない特異な形式の高選択的な電子移動型反応を簡便にかつ温和な条件で促進させる事ができる。
 本研究では、まずα,β-不飽和ホスホネート類を基質として用い電子移動型反応を行うことで炭素―炭素結合あるいは炭素―ケイ素結合を形成させ、有用な合成中間体を得ることに成功した。次いで、α,β-不飽和スルホン類は同様の条件下、高立体選択的に脱スルホン化が進行する事を見出した。また、金属抽出能を持つホスト分子であるカリックス[4]アレーンに着目し、その4つのUpper Rimにリン原子団の導入を試み、新規金属抽出剤の開発について検討した。
 第一章から第三章までは、電極あるいは金属Mg(削状の Grisnad 反応試薬用)から基質への一電子移動により発生した反応活性種(ラジカルアニオン種)が関与する電子移動型の反応について検討を行った。
 第一章では、α,β-不飽和ホスホネート誘導体をジメチルホルムアミド(DMF)溶媒中、酸無水物あるいは酸塩化物存在下で電極還元反応あるいはMg金属を用いた電子移動型反応を行うと、好収率かつ位置選択的にそのβ-位がアシル化される事について検討を行った。また、光学活性な(R)-1,1'-ビナフチル ホスホネートを反応基質として用いた場合、17%d.e.で目的物が得られることを見出した。得られた化合物は、医薬中間体、難燃剤等の有用な合成中間体として期待される。
 第二章では、α,β-不飽和ホスホノアクリレート類をDMF溶媒中、トリメチルクロロシラン(TMSCl)存在下でMg金属を用いた電子移動型反応を行い、同一分子上にケイ素とリン元素を持つ特異な化合物がジアステレオマー混合物として好収率(84-97%)で得られることを見出した。また、第一章で用いたα,β-不飽和ホスホネート誘導体を用いて同様の反応を行った場合は、シリル化よりもむしろ二量化が優先して進行する。これら反応性の違いを考察するために、エステル基、ニトリル基といった異なる電子吸引性置換基を有する化合物の場合についても検討し、酸化還元電位を測定する事で明らかにした。
 第三章では、β-メチルチオ-β-トシルスチレン、またはβ-メチルチオ-β-メチルスルフィニルスチレン誘導体をジメチルスルオキシド(DMSO)溶媒中、Mg金属を用いた電子移動型反応型反応を行うと、出発物質が(E)-及び(Z)のいずれの幾何異性体からも脱スルホン化反応、または脱スルフィニル化反応によって、ほぼ完全に立体選択性を有した対応する(E)-β-メチルチオスチレン誘導体が収率33~75%で得られることを見出した。またその立体選択性について考察すると共に、最終段階のプロトン付加は系内の湿気及び溶媒のDMSOに起因している事を重水素化実験により確かめた。この脱離反応はβ位のメチルチオ基をシアノ基に変換しても反応が進行することから、本反応は一般性の高いことが確認できた。
 第四章では、新規カリックス[4]アレーンについて検討を行った。テトラt-ブチルカリックス[4]アレーンから3段階で合成できるテトラブロモカリックス[4]アレーンを基質として用い、ホスファイトあるいはホスフィナイトとニッケルブロマイド存在下Arbuzov反応を行うと、Upper Rimに4つのホスホネートあるいはホスフィンオキシド基を持つ新規カリックスアレーン誘導体が好収率にて得られることを見出した。それらのコンフォメーションの決定には31P-NMRを用いて行った。またホスフィンオキシドタイプのカリックス[4]アレーンは塩化鉄に対して高い抽出能力を持ち、かつ他の多種類の金属塩化物が共存する溶液からも高選択的に抽出できる事を見出した。コンフォメーションと抽出機構についても考察を行った。

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