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買物交通行動に対する都市部駐車政策の評価に関する基礎的研究

氏名 吉田 郎
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第26号
学位授与の日付 平成2年3月26日
学位論文の題目 買物交通行動に対する都心部駐車政策の評価に関する基礎的研究
論文審査委員
 主査 教授 松本 昌二
 副査 教授 小川 正二
 副査 教授 丸山 暉彦
 副査 助教授 中出 文平
 副査 東京大学 教授 新谷 洋二
 副査 東京大学 教授 大西 隆

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目次
序章 研究の目的と課題 p.4
1.研究の背景と目的 p.4
(1)社会的背景
(2)研究の目的
(3)研究の基礎的立場
2.既往研究の整理と本研究の課題 p.6
(1)買物行動と駐車サービスの関係を扱った研究のレビュー
(2)駐車場利用行動に関する研究のレビュー
(3)本研究の課題
3.研究の方法 p.9
(1)研究の枠組み
(2)研究の方法
4.本研究の構成 p.15
第1章 都心部商業の停滞と駐車サービスの現状 p.20
1-1 はじめに p.20
1-2 都心部商業の停滞とその背景 p.20
(1)都心部における商業停滞の現状
(2)モータリゼィションの進行と郊外大型店の進出
(3)都心部停滞化の過程における駐車サービスの影響
1-3 駐車サービスの格差の現状 p.28
(1)大型店専用駐車場の整備状況
(2)目的地への近接性
(3)駐車料金
1-4 本章のまとめ p.30
第2章 駐車サービスが買物頻度と買物目的地選択に与える影響の分析 p.33
2-1 研究の課題 p.33
2-2 モデル p.33
(1)駐車サービス変数の扱い方
(2)多次元選択行動モデルの設定
(3)買物頻度選択モデルの定式化
2-3 対象地域の現状 p.49
(1)商業地の分布と駐車場の整備状況
(2)休日における買物交通の特性
(3)都心部の駐車場利用
2-4 実証分析 p.63
(1)モデルの構成と適用サンプル
(2)駐車場選択モデルの推定
(3)買物目的地選択モデルの推定
(4)買物頻度選択モデルの推定
(5)全体モデルの評価
2-5 駐車サービスレベルの影響分析 p.91
(1)駐車サービスレベルの影響
(2)駐車サービス変数の感度分析
2-6 駐車政策の評価実験 p.99
(1)買物トリップ数の推計
(2)駐車政策の想定
(3)駐車政策の評価
2-7 本章のまとめ p.107
第3章 駐車サービスが買物目的地と交通手段選択に与える影響の分析 p.116
3-1 研究の課題 p.116
3-2 モデル p.116
(1)選択構造の仮定と駐車サービス変数の位置づけ
(2)多次元選択行動モデル
3-3 対象地域の現状 p.121
(1)商業地の分布と駐車場の整備状況
(2)休日における買物交通の特性
(3)都心部の駐車場利用
3-4 実証分析 p.129
(1)モデル適用の前提
(2)交通手段選択モデルの推定
(3)買物目的地選択モデルの推定
(4)全体モデルの評価
3-5 駐車サービスレベルの影響分析 p.139
(1)駐車サービスレベルの影響推定
(2)駐車サービス変数の感度分析
3-6 駐車政策の評価実験 p.142
(1)駐車政策の想定
(2)駐車政策の評価
3-7 本章のまとめ p.146
第4章 都市内駐車場の利用行動の分析 p.150
4-1 研究の課題 p.150
4-2 駐車場利用行動の基本的特性 p.150
(1)駐車場の利用目的
(2)駐車場の選択要因
(3)サービス指標でみる特性
(4)駐車場の利用構造
4-3 モデル p.156
(1)供給制約の捉え方
(2)モデルの構造
(3)駐車需要モデル
(4)駐車サービス関数
(5)利用者均衡問題の解法
4-4 実証分析 p.165
(1)分析用データ
(2)駐車需要モデルの推定
(3)入庫待ち時間関数の推定
(4)利用者均衡モデルの評価
4-5 駐車サービス変数の影響分析 p.176
(1)駐車サービス変数の弾力性
(2)駐車サービス変数間の相互作用
(3)駐車サービス変数の感度
4-6 駐車場計画・評価手法 p.186
(1)駐車場計画の枠組み
(2)計画の手順と方法
(3)ケーススタディ
(4)本手法の評価
4-7 本章のまとめ p.196
終章 まとめと今後の課題 p.203
1.各章の結論 p.203
2.総括 p.210
(1)駐車政策評価モデル
(2)都心部駐車場の計画・評価手法
(3)駐車サービス変数の影響推定
(4)駐車政策の効果推定
3.今後の研究課題 p.216

 本研究は、都心部の駐車政策が買物交通行動に与える影響を計測するための手法について検討し、駐車政策の効果を実証的に分析したものである。
 第一に、本研究では確率効用理論から導出された非集計ロジットモデルを基本として、駐車サービスレベルを明示的に扱う買物行動モデル(駐車政策評価モデル)を構築した。ここでは、既往研究の課題に対してつぎのような結論を得た。
 1.買物行動の包括的記述
 個人の買物行動を一連の段階的選択行動として捉え、それぞれの選択行動と駐車サービスレベルとの関連性を明らかにした。ここで対象とした選択行動は、駐車政策の評価において特に重要と考えられる、1)買物頻度選択、2)目的地選択、3)交通手段選択、4)駐車場選択の4段階である。多次元選択行動モデルを適用の結果、全ての選択段階に対して駐車サービスレベルの影響が統計的に有意と認められた。よって、買物行動における駐車サービスレベルの位置づけを明確にし、その重要性を示したと考えられる。
 2.買物頻度選択モデル
 多次元選択行動モデルの体系に整合し、かつ複数回の頻度選択を説明する2つのモデルを検討した。既存の序列変数選択モデル(以下OLモデル)の改良と、二項分布の仮定による繰り返し行動モデル(以下RLモデル)の提案である。実際のデータに適用した結果、OLモデルについては、効用関数の推定方法に改善を加え、より説明力の高いモデル(部分制約型OLモデル)を示した。一方、RLモデルは二項分布の仮定に限界が認められたものの、通常のOLモデルと同程度の精度が得られることを示した。また、両モデルの有効性を従来の線形回帰モデルとの比較から示した。
 3.駐車サービス変数の扱い方
 都心部駐車場にあっては、利用者は複数の駐車場を選択的に利用可能であり、この点に配慮する必要がある。このため、本研究では駐車場選択モデルの構築を通じて駐車場の効用関数を推定し、総合的な駐車サービスレベルを計測した。結果的に、駐車サービスレベルを規定する要因として、1)駐車場捜しの時間、2)駐車場での入庫待ち時間、3)駐車場の容量、4)駐車場から目的地までの距離(あるいは歩行時間)、5)駐車料金の有意性が認められた。
 4.容量制約を考慮した駐車場選択モデル
 駐車場の容量制約を明示的に扱うために、個人の駐車需要と個別駐車場のサービスレベルとの相互作用から均衡モデルを定式化した。ここでの仮定は、「駐車需要量と駐車サービスレベルとの間に需要調整作用が働き、結局は均衡状態に達する(利用者均衡の仮定)」というものである。実証分析の結果、統計的に有意なモデルが得られ、現況再現力は通常の駐車場選択モデルより極めて高いことが確認された。よって、仮定の妥当性が示され、通常の選択モデルに比べ本モデルの有効性が明らかになったと考えられる。また、このモデルにより、サービスレベルの変化を考慮した感度分析や需要予測の有用性を示した。
 第二に、ここで得られた駐車政策評価モデルの実用的な利用方法の1つとして、都心部駐車場の計画・評価手法について検討した。この手順は、個別レベルの最適化と地区レベルの評価からなる。個別レベルの最適化は、駐車場の稼働効率(回転率)を計画目標とした場合に、過不足のない駐車容量を決定する段階である。この問題は、利用者均衡モデルから得られる駐車需要量と計画駐車容量との均衡問題に帰着する。地区レベルの評価は、代替案の比較分析であり、地区全体でみた稼動効率と駐車サービスレベルを指標として、配置案の評価を行うものとした。さらに、駐車サービスレベルの変化は、買物行動モデルにおける効用の変化に反映され、地区駐車需要の変化を考慮できる。
 第三に、駐車政策評価モデルのシミュレーションから、買物目的地の駐車サービスレベルが買物行動に及ぼす影響を推定した。買物頻度に与える影響は、買い回り品と最寄りの品とで大きく異なる。最寄り品の場合、その影響はわずかであるが、買い回り品は極めて大きい。目的地選択に与える影響はトリップ比率で10%~26%と推計され、買い回り品と最寄り品を比較すると、最寄り品の場合にその影響が大きい。これは買物頻度と逆の傾向であり、駐車サービスレベルの影響範囲が買物品目により異なることを示唆する。また、都心部への交通手段選択に対する影響は、駐車サービスレベルによって自動車利用が制限されているような都市において見られ、市街地居住者について顕著に現れている。
 さらに、都心部における駐車場利用への影響については、駐車場から目的地までの距離が極めて感度の高い変数であり、新たな駐車場整備にあたってその配置が重要であることを示唆した。

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