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全NbNナノブリッジdc-SQUID磁束計に関する研究

氏名 長岡 史郎
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第30号
学位授与の日付 平成2年12月31日
学位論文の題目 全Nbnナノブリッジdc-SQUID磁束計に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 山下 努
 副査 教授 飯田 誠之
 副査 教授 松田 甚一
 副査 助教授 濱崎 勝義
 副査 筑波大学 教授 井口 家成

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目次
第1章 序論
1-1 本研究の背景
1-1-1 SQUID磁束計の開発経緯 p.1
1-1-2 dc SQUIDデバイスに関する研究状況 p.4
1-2 本研究の目的及び本論文の構成 p.9
1-3 参考文献 p.10
第2章 エピタキシャルNbN膜の成膜法及び超伝導特性の評価 p.15
2-1 SQUID用電極材料の選択 p.20
2-2 高配向MgO膜及びNbN膜の成膜方法 p.21
2-3 MgO/NbN積層膜の結晶解析及びNbN薄膜の超伝導特性
2-3-1 MgO/NbN積層膜のX線回折法による結晶解析 p.22
2-3-2 MgO/NbN/MgO/NbN4層膜のX線回折及び電子線回折による結晶解析 p.30
2-3-3 エピタキシャルNbN膜の超伝導特性の評価 p.39
2-4 まとめ p.47
2-5 参考文献 p.49
第3章 電界蒸発法によるNbNナノブリッジの作製およびdc SQUIDの試作 p.53
3-1 dc SQUIDの設計 p.54
3-1-1 設計手順 p.54
3-1-2 dc SQUIDパラメータ値の設定 p.70
3-2 薄膜インプットコイルを備えたAll NbNナノブリッジdc SQUIDの作製と評価
3-2-1 電界蒸発法を用いたAll NbNナノブリッジ素子の作製 p.78
3-2-2 All NbNナノブリッジdc SQUIDの特性評価 p.84
3-3 まとめ p.95
3-4 参考文献 p.97
第4章 dc SQUID磁束計の作動特性
4-1 FLL回路の動作原理 p.101
4-2 ピックアップコイル整合回路の設計 p.105
4-3 All NbNナノブリッジdc SQUID磁束計の雑音 p.111
4-4 dc SQUID磁束計の周波数特性及びスルーレート
4-4-1 周波数特性 p.124
4-4-2 スルートーレ p.127
4-5 二次微分型磁束検出コイル用いた磁束検出システム
4-5-1 二次微分型磁束検出コイルの性能評価 p.131
4-5-2 疑似信号を用いたシステムの評価 p.135
4-6 まとめ p.139
4-7 参考文献 p.141
第5章 結論 p.145
謝辞 p.148
記号表 p.149
発表論文 p.156

 MRI-CTを中心とする生体磁気計測器は、今後ますますその重要性を増して行くことが予想される。本研究では、生体磁気、特に脳内磁気(1012~10-14Tesla)をも測定し得る超高感度の量子干渉型磁束計(dc-SQUID磁束計)の作製及び動作特性の評価について基礎的検討を行っている。特に、小型冷凍機で駆動し得るdc-SQUID磁束計を開発する上で最も重要となる全NbNナノブリッジdc-SQUIDの作成方法、及びその動作特性についての詳細な検討を行った。得られた結果を以下に列記する。
(1)界面デバイスであるブリッジ型ジョセフソン素子を作製する上で、ブリッジ寸法(長さlb、厚さtb、幅wb)はLikhrevの条件(lb<(3-5)ξ、tb~ξ、wb~λ)を満足しなければならない。ここで、ξは超伝導コヒーレンス長、λは磁場侵入長である。本研究では、新しくブリッジ素子の構造を3次元構造とし、NbN/MgO/NbNからなるSIS積層膜の絶縁層のMgO膜中にブリッジを設ける構造を提案している。この構造では、lbを正確に決めるために、絶縁層MgO界面の上部電極NbNの超伝道特性が重要になる。本研究では、下地に高配向MgO膜を成膜し、そのうえにNbN/MgO/NbN積層膜をエピタキシャルに成長させることにより、絶縁層MgO界面の上部電極NbNの超伝道特性を著しく改善できた。
 (2)(200)面に配向したMgO膜上にエピタキシャル成長させたNbN薄膜の超伝導転移温度Tcは膜厚100nm以上の場合、16K程度の値が得られ、膜厚が10nmと極めて薄い場合でも、Tcは14Kと従来の報告値に比べて3K以上高い値が得られた。また、抵抗率ρoも~200μΩ・cmと低い値を得た。Tcとρから評価した超伝導の磁場侵入長λは約300nmとなり、dc-SQUIDの量子干渉パターンから求めた実験値ともよく一致した。λの値はいままで報告されてきた値の約1/2まで短くできた。短いλの値は、薄膜のカイネティックインダクタンスを低減できるので、薄膜トランスの結合係数を改善する上で有用である。また、NbN薄膜の臨界電流-磁界特性からGL理論を用いて評価したξの値は、約4.5nmと従来の値に比べ約2倍の長さに改善できた。この結果は、ブリッジ部の作製を容易にするので、dc-SQUIDの作製プロセス上有用である。
(3)dc-SQUIDに用いる2つのジョセフソン素子は、素子の臨界電流が等しい場合最も感度が高くなる。本研究では、臨界電流の値を素子作製後に、動作温度(Tc<16K)でin-situ的に調整でき、また素子容量の小さい素子作製法(電界蒸発法)を新しく提案した。これにより絶縁層の厚さを厚く(5~10nm)したSIS構造の絶縁層中に、ブリッジ寸法がξ程度と推察されるナノブリッジを再現性よく作製できた。ナノブリッジの臨界電流は、印加する電圧パルスの数や電圧値を変えることにより容易に調整でき、従来困難であった数ないし数十ナノメートル程度の寸法をもつブリッジ型ジョセフソン素子を再現性よく作製できることがわかった。
(4)上記方法で作製した全NbNナノブリッジdc-SQUIDの出力電圧、臨界電流、常伝導抵抗は2年間の空気中の保存、数十回の熱サイクルを経た後もまったく変化は見られなかった。
(5)SQUIの出力電圧が80μV、ループインダクタンスLs=200pH、相互インダクタンスM1=200pHをもつdc-SQUIDの感度を測定した結果、雑音磁束5×10-6Ф。/Hz、固有エネルギー感度50h程度の値を得た。また、磁束ロック(FLL: Flux Locked Loop)回路を構成し磁束分解能の測定を行った結果、熱雑音を示す周波数領域で3.0×10-5Ф/Hzの値を得た。また、低周波領域では8.1×10-5f-0.2Ф/Hzの1/f雑音が観測された。これらの値は、まだ周辺エレクトロニクスからの雑音の寄与が大きく、例えばIBMから報告されているトンネル型ジョセフソン素子によるdc-SQUIDの値よりも若干大きいが、理論的な固有雑音はトンネル型よりも十分小さいことから、エレクトロニクスの雑音を軽減できれば実用センサとして有用である見通しを得た。
(6)Nb-Ti超伝導線を石英ボビンに巻いた2次微分型ピックアップコイルをもつdc-SQUID磁束計を構成し、磁場検出の予備実験を行った。ピックアップコイルのベースアップライン下においた信号用小コイルにより磁場を印加し、システムを用いて磁場検出の基礎実験を行った結果、約10-9Teslaの磁場を検出することができ、磁束計として動作していることが確認できた。本研究のdc-SQUIDの固有エネルギー感度は、約50hと十分な感度をもつが、2次微分型検出コイルをもつシステム全体の検出感度は脳内磁場を測定するために充分な値がまだ得られなかった。しかし、ピックアップコイルとインプットコイルのインピーダンス整合の改善、及びFLL回路の出力のアベレージングをとれば104倍の感度向上が容易に期待できる見通しを得ており、本研究のdc-SQUID磁束計は10-13Tesla程度の、すなわち脳からの磁気信号を検出し得るものと期待される。

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