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3成分3分岐星型モデル高分子の合成に関する研究

氏名 張 洪敏
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第37号
学位授与の日付 平成3年3月25日
学位論文の題目 3成分3分岐星型モデル高分子の合成に関する研究
論文審査委員
 主査 助教授 五十嵐 善信
 副査 教授 今井 清和
 副査 助教授 塩見 友雄
 副査 教授 鈴木 秀松
 副査 教授 青山 安宏

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目次
第1章 序論 p.1
1-1 アニオン重合の特徴と展開 p.2
1-2 アニオン重合法を利用したモデルポリマーの合成 p.4
1-3 3成分、3分岐星型モデルポリマーの分子設計 p.5
1-4 本研究の目的 p.7
1-5 本論文の構成 p.10
文献 p.11
第2章 クロトン酸sec-ブチルのアニオン重合と重合体の性質 p.15
2-1 緒言 p.16
2-2 実験 p.19
2-2-1 試薬 p.19
2-2-2 重合 p.20
2-2-3 測定 p.21
2-3 結果と考察 p.23
2-3-1 検量線の作製 p.23
2-3-2 SBCのアニオン重合 p.23
2-3-3 ポリ(クロトン酸sec-ブチル)の性質 p.32
文献 p.40
第3章 メタクリル酸エステルのアニオン重合と重合体の分子量分布 p.41
3-1 緒言 p.42
3-2 実験 p.45
3-2-1 試薬 p.45
3-2-2 重合 p.46
3-2-3 測定 p.48
3-3 結果と考察 p.51
3-3-1 検量線の作製 p.51
3-3-2 MMA、NBMA、及びTBMAの単独アニオン重合 p.52
3-3-3 P(MMA)及びP(TBMA)の立体規則性 p.59
3-3-4 ブロック重合 p.59
文献 p.65
第4章 3成分、3分岐星型モデルポリマーの合成及びそのキャラクタリゼーション p.68
4-1 緒言 p.69
4-2 実験 p.71
4-2-1 試薬 p.71
4-2-2 p-(ジメチルヒドロキシ)シリル-α-フェニルスチレンのリチウム塩の合成 p.72
4-2-3 3成分、3アームスターポリマーの合成 p.75
4-2-4 GPCでの取分 p.79
4-2-5 測定 p.80
4-3 結果と考察 p.81
4-3-1 片末端にジフェニルエチレンタイプの二重結合を持つ反応性ポリジメチルシロキサンの合成 p.81
4-3-2 リビングポリスチレンの合成 p.86
4-3-3 3成分、3アームスターポリマーの合成とそのキャラクタリゼーション p.89
4-3-4 3成分、3アームスターポリマーのモルフォロジー p.100
文献 p.108
第5章 結語 p.112
発表論文 p.116
謝辞 p.117

 互いに非相溶な高分子種が共有結合でつながった形の多成分系高分子の著しい特徴は特有のミクロ相分離構造にある。現在までにいろいろな形の多成分系高分子が合成され、そのモルフォロジーも明らかにされてきた。これらの様々な共同合体はそれぞれ異なった幾何学的構造を有しているが、各成分間の結合様式には共通点がある。そこでは必ず二つの異なる成分がある点で連結されているわけである。従って、これらの共重合体のミクロ相分離構造は基本的には最も簡単なジブロック共重合体のモルフォロジーをもとに理解することができる。しかし、もし三つの異なったポリマー種が一点で結合した3成分、3分岐星型高分子が合成されたならば、事情は全く異なってくる。三つの成分高分子が互いに相分離するためには、その結合点が一次元的に並ばざるを得ない。もしこのような構造がエネルギー的に不利ならば、本来非相溶な成分が強制的に混じらざるを得ないであろう。従って、3成分、3分岐星型共重合体では新しい相分離構造あるいは新しい性質が期待できると考えられる。本研究の目的はリビングアニオン重合法を用いて、性質の完全に異なる三本の枝分子からなる3成分、3分岐星型モデル高分子の合成方法を確立することにある。
 ミクロ相分離構造を観察するためには、性質の完全に異なる非極性高分子(例えばポリスチレン)、主鎖中に炭素原子の含まれていない高分子(例えばポリジメチルシロキサン)、及び極性ポリマーの組合せが最も望ましいと考えられている。しかし、極性ポリマーのアニオン重合法による合成方法は完全には確立されていない。そこで、本研究ではクロトン酸エステル及びメタクリル酸エステル類のアニオン重合について予め検討し、比較することにより、3成分、3分岐星型高分子の合成に最も適したモノマーを選択した上で、主たる目的のスターポリマーの合成条件を確立しようとした。
 第2章では、クロトン酸エステルの一つであるクロトン酸sec-ブチルのアニオン重合に対する開始剤の種類、添加塩及び重合温度の影響について、及び様々な性質について検討した結果を示す。ポリクトロン酸sec-ブチルの分子量分布は開始剤、重合温度にあまり依存せず、開始剤と等モル量の添加塩(LiBr)を加えると、分子量分布が狭くなると同時に収率もやや高くなる。収率及び開始効率は開始剤の種類、重合温度及び添加塩に共に影響される。かさ高い開始剤である1,1-ジフェニルヘキシルリチウムは、開始段階での副反応を抑えるには効果的であり、n-ブチルリチウムあるいはsec-ブチルリチウムを開始剤に用いた場合より、収率及び開始効率が共に高く、50時間以上重合すれば、ほぼ定量的に重合物が得られる。195-273Kの温度範囲では、233K付近で収率及び開始効率が極大値をとる。このポリマーは屈曲性の高い主鎖を持つ非結晶性ポリマーであり、光透過性及び屈折率は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)と変わらないが、PMMAより低密度で、ガラス転移温度、体積膨張率ともに高く、柔軟性、伸展性に富み、気体透過性も高いというような特性を持っている。従って、このポリマーはフレキシブルで透明性の高い材料として期待される。しかし、開始効率が50%以下であるためにモデルスターポリマーの合成には適していないと言える。
 第3章では、クロトン酸エステル類モノマーより重合性の高いメタクリル酸エステル類のアニオン重合についての検討結果を記す。THF中、195Kで、かさ高い開始剤1,1-ジフェニルヘキシルリチウムを用い、同一条件下でエステル基の異なるメタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸n-ブチル(NBMA)及びメタクリル酸tert-ブチル(TBMA)のアニオン重合を行った結果、かさ高いジフェニルエチレンタイプのカルバニオンとかさ高いtert-ブチル基が副反応の抑制に効果的であることがわかった。PMMAでは数平均分子量が1x105以上で、分子量分布の狭い重合物を得るのが困難であるのに対し、PTBMAでは数平均分子量が18x104で、かつMw/Mn=1.07と分子量分布の狭い重合物を得ることができる。更に、THF中、195Kでスチレンあるいはα-メチルスチレンを重合させた後に1,1-ジフェニルエチレンを活性末端に対し等モル添加し、続いてTBMAを重合させると、ブロック重合が定量的に進行し、開始効率も高く、得られた重合物の分子量分布も狭くなることがわかった。TBMAモノマーはモデルスターポリマーの合成に適している。
 第4章では、ポリスチレン(PS)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、及びポリメタクリル酸tert-ブチル(PTBMA)からなる3成分、3分岐星型モデル高分子の合成方法を検討した結果について述べる。p-(ジメチルヒドロキシン)シリル-α-フェニルスチリルリチウムを開始剤とし、THF中、298Kでヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)を重合させた。得られたポリジメチルシロキサン(PDMS)は片末端にジフェニルエチレンタイプの二重結合を有する。
 n-ブチルリチウムを開始剤とし、ベンゼン中、303Kで得たリビングポリスチレンを、この末端反応性PDMSとカップリングさせると、ジブロック共重合体P(S-b-DMS)が生成すると同時に、二本のブロック鎖の中央にジフェニルメチルアニオンも生成するので、ここから更にTBMAを重合させることにより、3成分、3分岐星型高分子を合成した。三つの枝分子鎖が別々に合成されるので、それぞれの枝ポリマーの分子量を制御できる。更に、出発物質である反応性PDMSは片末端にのみジフェニルエチレン型の反応性基を有するので、4本以上の枝分子を持つスターポリマーも生成せず、また、反応性PDMSを過剰に用いれば、ジブロック共重合体[P(St-b-TBMA)]の生成をも完全に抑制することができる。最後に分取操作で過剰部分のPDMSを除去することにより、構造が明確で、分子量分布が狭く、かつ純粋な目的物が得られた。本研究により、3成分、3分岐星型モデル高分子の合成方法が初めて確立された。

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