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酸化すず薄膜のガス検知特性に関する研究

氏名 柳 在相
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第67号
学位授与の日付 平成4年9月30日
学位論文の題目 酸化すず薄膜のガス検知特性に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 高田 雅介
 副査 教授 植松 敬三
 副査 教授 山田 明文
 副査 助教授 安井 寛治
 副査 助教授 小松 高行

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目次
第1章 緒論 p.1
1.1 本研究の背景 p.1
1.1.1 酸化すずガスセンサーについて p.1
1.1.2 酸化すずガスセンサーの検知機構 p.3
1.2 本研究の目的と論文の構成 p.8
参考文献 p.10
第2章 酸化すず薄膜の作成条件とガス感度特性 p.12
2.1 はじめに p.12
2.2 実験 p.13
2.2.1 薄膜の作成 p.13
2.2.2 電気抵抗率およびガス感度測定 p.13
2.3 結果 p.17
2.4 まとめ p.28
参考文献 p.28
第3章 酸化すず薄膜の結晶配向とガス感度特性 p.29
3.1 はじめに p.29
3.2 実験 p.30
3.2.1 薄膜の作成 p.30
3.2.2 電気抵抗率およびガス感度測定 p.30
3.2.3 配向度の計算 p.32
3.3 結果 p.33
3.3.1 スパッタ条件と酸化すず膜の結晶構造 p.33
3.3.2 酸化すず薄膜のガス感度特性 p.33
3.4 考察 p.37
3.5 まとめ p.44
参考文献 p.44
第4章 配向性に及ぼすスパッタガス組成の影響 p.45
4.1 はじめに p.45
4.2 実験 p.46
4.2.1 試料作成 p.46
4.2.2 組成観察 p.46
4.2.3 構造解析とガス感度測定 p.48
4.3 結果と考察 p.49
4.3.1 結晶構造および微細構造 p.49
4.3.2 ガス感度特性 p.55
4.4 まとめ p.59
参考文献 p.59
第5章 酸素欠損とガス感度特性の温度依存性 p.61
5.1 はじめに p.61
5.2 実験 p.62
5.2.1 薄膜の作成 p.62
5.2.2 電気抵抗率測定 p.62
5.3 結果と考察 p.64
5.3.1 ガス感度の温度依存性 p.64
6.3.2 酸化すず感度へのスパッタ雰囲気効果 p.69
5.4 まとめ p.73
参考文献 p.73
第6章 結論 p.75
後記 p.76
謝辞 p.78

 本論文は、高周波マグネトロンスパッタ法により作製した酸化すず薄膜のガス検知特性
の評価を行うとともに、薄膜の結晶構造及び化学量論性とガス検知特性の関連をガス検知
機構の観点から考察した結果をまとめたものであり、「酸化すず薄膜のガス検知特性に関
する研究」と題し、六つの章から構成されている。
 第一章「緒論」では本研究に至までの研究背景として、酸化すずを用いたガスセンサー
の開発上の問題点と、そのガス検知特性の改善のために行われているセンサー研究の現状
を述べ、また、現在まで提案された様々なガス検知機構のモデルを整理し、本研究の目的
であるガス検知機構を基としたガス検知特性の解釈の重要性を述べた。
 第二章「酸化すず薄膜の作製条件とガス感度特性」では高周波マグネトロンスパッタ法
により酸化すず薄膜を作製し、種々の作製条件、すなわちスパッタガス圧、スパッタ時間
、スパッタガス中の酸素濃度などが作製した膜の結晶構造や水素ガス検知特性に与える影
響を調べた。その結果、ガス感度特性に影響する重要な因子として薄膜中の生成結晶相、
基板に対する結晶の配向性および化学量論性があることを見出した。
 第三章「酸化すず薄膜の結晶配向とガス感度特性」ではAr/O2雰囲気中の種々のスパッ
タ条件で作製した酸化すず薄膜に対し、X線回折による構造解析から結晶配向性を評価す
るとともに、被検ガスに対するガス感度特性との相関性を検討した。その結果、酸化すず
結晶の(110)面の優先配向が水素ガス感度を向上させることを見出した。このガス感度
の結晶配向依存性に対して、表面伝導機構および酸化・還元反応機構などのガス検知機構
の観点から考察を行い、実験で観測された(110)面優先配向膜における高感度の発現は
吸着ガス量、反応サイト数に直接寄与する表面原子密度の増大に起因することを示した。
 第四章「配向性に及ぼすスパッタガス組成の影響」では、スパッタガスとしてN2/O2混
合ガスを使用して作製した膜の構造、特に結晶配向と水素ガス感度の相関性を検討した。
その結果、Ar/O2混合ガスを使用した膜を作製した場合に比べ、比較的低い酸素濃度で(
110)面の高配向性を有するSnO2単相の薄膜が作製できることを見出した。また、水素ガ
ス感度特性において、N2/O2ガスを用いて作製した膜の感度がAr/O2ガスを用いて作製した
膜より1.5倍大きい感度を示したことから、スパッタガスとして従来用いられてきた
Ar/O2ガスに対してより反応性が高いN2/O2を使用して成膜することが有効であることを示
した。
 第5章「酸素欠損とガス感度特性の温度依存性」では、スパッタガスとしてAr/O2と
N2/O2を用いて作製した膜について、常温~500℃までの測定温度範囲で水素ガス中におけ
る電気抵抗率及びガス感度の温度変化を比較・検討した。Ar/O2混合ガスを用いて作製し
た膜は測定温度の変化に伴い、吸着ガスの脱離、酸化・還元反応およびその飽和からなる
ガス検知機構を有するのに対して、N2/O2ガスを用いて作製した膜は酸化・還元過程が観
測されないことから、成膜時の還元雰囲気によって膜中に導入された酸素欠損の濃度がガ
ス検知特性に影響することを示した。特に、N2/O2混合ガスを使用して作製した膜の水素
ガス感度はAr/O2ガスを使用して作製した膜のそれよりも低い温度で最大値を示すことか
ら、良好なガス感度を得るためには伝導電子の供給に関与する酸素欠損量を作製時の還元
雰囲気の制御などにより最適化することが重要であることを明らかにした。
 第六章「結論」では、本論文を総括した。
 以上をまとめると、本論文は酸化すず薄膜において、良好なガス検知特性を得るための
要因として1)生成相は不純物相を含まないSnO2単相であること、2)SnO2の結晶面のうち、
最も原子密度が高い(110)面が基板と平行に優先配向していること、3)伝導電子を供給
する酸素欠陥量を最適化すること、が重要であることをガス検知機構の観点から明らかに
した。さらに、これらの諸条件を満足させるために、スパッタガスとして従来用いられて
きたAr/O2ガスに対し、より反応性の高いN2/O2ガスを使用して成膜することが有効である
ことを指示した。

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