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陽極酸化反応からの特異な電子欠損型活性種を用いた高選択的有機分子変換反応に関する研究

氏名 伊藤 光太郎
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第217号
学位授与の日付 平成13年3月26日
学位論文題目 陽極酸化反応からの特異な電子欠損型活性種を用いた高選択的有機分子変換反応に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 西口 郁三
 副査 教授 塩見 友雄
 副査 教授 五十野 善信
 副査 教授 塚本 伍郎
 副査 助教授 竹中 克彦
 副査 助教授 河原 成元

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序論 p.1

第一章 金属水素化物の陽極酸化によって生じる活性種の挙動と反応 p.8
1.1 序説 p.8
1.2 結果および考察 p.9
1.2-1 脂肪族アセチレン類存在下における水素化ホウ素ナトリウムの陽極酸化反応 p.9
1.2-2 芳香族アセチレン類存在下における水素化ホウ素ナトリウムの陽極酸化反応 p.13
1.3 実験 p.18
1.4 文献 p.24

第二章 金属ハロゲン化物存在下でのアセチレン類の陽極酸化反応 p.26
2.1 序説 p.26
2.2 結果および考察 p.28
2.2-1 アセチレン類のヨウ素化反応 p.28
2.2-2 アセチレン類の臭素化ならびに塩素化反応 p.33
2.3 実験 p.35
2.4 文献 p.43

第三章 エノールエステル類の陽極酸化反応における不斉誘導 p.45
3.1 序説 p.45
3.2 結果および考察 p.47
3.2-1 1-アセトキシ-3,4-ジヒドロナフタレン類の陽極酸化反応 p.47
3.2-2 1-アセトキシスチレン類の陽極酸化反応 p.55
3.3 実験 p.57
3.4 文献 p.65

第四章 エノールエステルの陽極酸化反応を鍵段階に用いる2-アリールシクロヘキサノン類の新規合成法 p.67
4.1 序説 p.67
4.2 結果および考察 p.69
4.2-1 2-メトキシシクロヘキサノン類の合成 p.69
4.2-2 2-アルキルシクロヘキサノン誘導体の合成 p.72
4.2-3 2-アリールシクロヘキサノン誘導体の合成 p.73
4.3 実験 p.78
4.4 文献 p.86

第五章 陽極酸化による環状1,3-ジケトン類の特異的骨格転位反応 p.88
5.1 序説 p.88
5.2 結果および考察 p.89
5.2-1 トリフルオロ酢酸存在下での環状1,3-ジケトン類の陽極酸化反応 p.89
5.3 実験 p.93
5.4 文献 p.96

総括 p.97

主要論文目録 p.99

参考論文目録 p.100

学会発表リスト p.101

謝辞 p.103

 有機電極合成化学は、従来の有機合成化学と電気化学とが結びつき発達してきた比較的若い分野である。その基本原理は、溶媒中で反応基質となる物質と電極との間の電子移動過程により活性な中間体を生じさせ、この活性種を合目的的に制御して、有機合成反応に組み込むことである。この活性化は、従来の有機化学における手法とは異なり、電子移動過程によって引き起こされるため、ラジカルカチオンという特異な電子状態や反応性を示す活性種が生成する。さらに電極と基質との間の電子移動が、電極と溶液の固液不均一面である特異な反応場において起こるため、生成物に特異な位置選択性及び立体選択性の発現が期待できる。
 また、有機電極反応は、“清浄な試薬”である電子が関与し、電極と基質の間での電子の移動によって進行するため、従来法の反応に必要な高温高圧などの過激な条件、有害で取り扱いに注意を要する重金属酸化剤または還元剤、および多段階合成等を用いる必要がなく、常温常圧で簡便に活性種を生成することができる。現在、環境保全が要望されており、いかにして無公害かつ簡便なプロセスで目的物を合成するかという観点からも、電極反応は大きな優位性を有している。
 本研究では、通常の化学的手法による生成が困難である特異的な活性種を簡便に生成することのできる陽極酸化反応に着目した。そして、通常のカチオン種とは異なる電子状態を持つ特異な電子欠損型活性種の生成と、その反応性や挙動の合目的的な制御について、官能基の導入反応、変換反応、付加反応、および転位反応に分けて詳細に検討し、種々の高選択的新規有機合成反応の開発とその応用を行った。
 第一章では、金属水素化物の陽極酸化反応によって生じる活性種の挙動と反応について検討した。通常、取り扱いが困難で、空気中で発火するなどの危険性を伴うジボランを、ジグライム中、水素化ホウ素ナトリウムを陽極酸化することにより生成させ、さらに取り出すことなく同じ反応系中で炭素―炭素三重結合を有する化合物と反応させた。その結果、末端にアセチレン部位を持つ直鎖型の脂肪族炭化水素からは、水酸基が反Markovnikov型に導入された第一級アルコールが選択的に得られた。一方、エチニルベンゼン類からは、第一級アルコールは生成せず、選択的に二量化反応が進行した。これらの反応は簡便な手法によるヒドロホウ素化反応、および特異的なカップリング反応と位置付けられる。
 第二章では、金属ハロゲン化物存在下でのアセチレン類の陽極酸化反応について検討した。1-ヨードアルキン類は有機合成中間体として広く利用されており、また有機合成中間体として非常に興味深い。本研究では、メタノール中、支持電解質としてヨウ化ナトリウムを用いて陽極酸化することにより、毒性の強い分子状ヨウ素を化学量論以上用いることなく、アセチレンの末端水素原子をヨウ素原子へ置換できる新規の効率的ヨウ素化反応を確立した。一方、金属ハロゲン化物として臭化リチウム、または塩化リチウムを用いた場合は、ヨウ素化反応とは異なり、1,2-ジブロモオレフィン体やα-ジクロロケトンアセタール体などが得られることより、ヨウ素化反応は、臭素化や塩素化反応とは明確に異なる反応機構により進行することが示された。
 第三章では、エノールエステル類の陽極酸化における不斉誘導について検討した。医薬品研究などにおいてキラル化合物の合成は、非常に重要であるが、電極反応を用いた不斉誘導については、過去に修飾電極の例を除いて優れた報告はなく、また特に陽極酸化反応における直接的不斉誘導については例がなかった。しかし、本研究において、この新たな不斉誘導に挑戦し、基質にエノールエステル類、キラルな支持電解質として新規に合成した(S)-テトラエチルアンモニウムカンファースルホネートを用いる事によって、従来よりも高いエナンチオ選択性を伴ったα-アセトキシケトン類を得る、電気化学的不斉誘導をはじめて確立した。
 第四章では、エノールエステルの陽極酸化反応を鍵段階に用いる2-アリールシクロヘキサノン類の新規合成法について検討した。α-アリールケトン類の一般合成手法は種々報告されているが、いずれも簡便ではなかった。本研究では、エノールアセテート類をメタノール中で陽極酸化して得られるα-メトキシケトン類に、Grignard試薬を反応させβ-メトキシアルコール類へ変換した後、酸触媒によるカルボニル基の1,2-位置変換により、α-アリールケトン類へと選択的かつ効果的に変換できる簡便な新規合成法を確立した。
 第五章では、陽極酸化反応による環状1,3-ジケトン類の特異的骨格転位反応について検討した。電気化学的手法を用いる1,3-ジケトン類の酸化反応は、その酸化電位は非常に高いためほとんど報告されていなかったが、特異な溶媒特性を持っているTFA存在下で、環状-1,3-ジケトン類の陽極酸化したところ、環開裂 / 転位 / 再閉環を経て、α-ヒドロキシ-α-カルボメトキシシクロペンタノン類が得られる特異的骨格転位反応を見出した。

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