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連続繊維シートによる鉄筋コンクリート部材の補強効果の評価手法

氏名 上原子 晶久
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第220号
学位授与の日付 平成13年3月26日
学位論文題目 連続繊維シートによる鉄筋コンクリート部材の補強効果の評価手法
論文審査委員
 主査 教授 丸山 久一
 副査 助教授 下村 匠
 副査 教授 鳥居 邦夫
 副査 教授 丸山 暉彦
 副査 教授 長井 正嗣

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第1章 序論 p.1
1.1 本研究の背景と目的 p.1
1.2 連続繊維シートとコンクリートとの付着・剥離機構の概略 p.3
1.3 既往の研究 p.4
1.3.1 連続繊維シートの付着・剥離挙動に関する研究 p.4
1.3.2 付着応力と相対変位の関係に関する研究 p.4
1.3.3 補強後のせん断耐力に関する研究 p.4
1.3.4 補強後の曲げ耐力に関する研究 p.5
1.4 本研究の範囲 p.5
1.5 本論文の構成 p.7
第1章の参考文献 p.8

第2章 連続繊維シートとコンクリートの付着・剥離性状 p.9
2.1 はじめに p.9
2.2 連続繊維シートとコンクリートとの一軸引張付着試験 p.9
2.2.1 試験の概略と試験体 p.9
2.2.2 載荷方法と計測 p.11
2.2.3 試験結果 p.12
2.3 付着応力と相対変位関係の導出 p.14
2.3.1 計算方法 p.14
2.3.2 結果の整理方法に関する検討 p.16
2.3.3 計算結果 p.18
2.4 付着応力と相対変位との関係のモデル化 p.18
2.5 各種要因が付着・剥離挙動に及ぼす影響 p.20
2.5.1 コンクリートの圧縮強度 p.20
2.5.2 表面処理の有無 p.21
2.5.3 連続繊維シートの接着幅 p.21
2.5.4 連続繊維シートの接着長さ p.22
2.5.5 連続繊維シートの弾性係数(連続繊維シートの種類) p.22
2.5.6 接着樹脂の弾性係数(接着樹脂の種類) p.22
2.6 まとめ p.23
第2章の参考文献 p.25

第3章 剥離破壊エネルギーの定量化 p.27
3.1 はじめに p.27
3.2 適用範囲 p.27
3.3 剥離破壊エネルギーの定化式 p.27
3.4 剥離耐力に関する検討 p.29
3.5 まとめ p.32
第3章の参考文献 p.33

第4章 付着構成モデルの数値解析への適用と感度解析 p.35
4.1 はじめに p.35
4.2 付着構成モデル p.35
4.3 基礎方程式 p.35
4.4 境界条件 p.37
4.5 計算方法 p.38
4.5.1 付着構成モデルに弾性―軟化―剥離型および弾性―塑性―剥離型モデルを適用した場合 p.38
4.5.2 付着構成モデルに弾性―剥離型モデルを適用した場合 p.40
4.6 計算結果 p.40
4.6.1 付着構成モデルの適用性に関する検討 p.40
4.6.2 剥離破壊エネルギーに関する検討 p.41
4.6.3 付着構成モデルの感度に関する検討 p.47
4.6.4 コンクリートを剛体と仮定することに関する検証 p.50
4.7 まとめ p.52
第4章の参考文献 p.53

第5章 連続繊維シート補強部材のせん断耐力評価手法の開発 p.55
5.1 はじめに p.55
5.2 基本概念 p.56
5.3 計算フロー p.57
5.4 連続繊維シート以外の構造が負担するせん断力の計算方法 p.58
5.5 連続繊維シートが負担するせん断力の計算方法 p.59
5.5.1 剛体モデル p.59
5.5.2 付着構成モデル p.60
5.5.3 連続繊維シートの剥離・破断を考慮した各分割要素での応力解析 p.60
5.5.4 連続繊維シートが負担するせん断力 p.66
5.5.5 破壊モードの判定 p.66
5.5.6 部材の終局せん断耐力 p.68
5.6 せん断耐力評価システムの検証 p.68
5.6.1 検証に用いたデータ p.68
5.6.2 算定精度に関する検討 p.69
5.6.3 要素分割数が算定精度に及ぼす影響 p.72
5.6.4 既往の設計式との比較 p.72
5.6.5 各種影響要因に関する検討 p.73
5.7 まとめ p.74
第5章の参考文献 p.75

第6章 せん断耐力評価の感度解析 p.77
6.1 はじめに p.77
6.2 パラメータの選定 p.77
6.3 連続繊維シートの物性値に関する検討 p.78
6.3.1 弾性係数 p.78
6.3.2 引張強度 p.79
6.4 接着樹脂の力学的特性に関する検討 p.80
6.4.1 材料パラメータτc p.80
6.4.2 材料パラメータδc p.81
6.4.3 剥離破壊エネルギー p.81
6.5 定着の有無による検討 p.82
6.6 既往の設計法との感度の比較 p.82
6.6.1 シートの剛性 p.83
6.6.2 シートの破断ひずみ p.84
6.6.3 コンクリートの圧縮強度 p.85
6.7 まとめ p.86
第6章の参考文献 p.88

第7章 結論 p.89

謝辞 p.91

付録A 一軸引張付着試験におけるシート変位について p.89
付録B 一軸引張付着試験の数値シミュレーションの結果 p.90
付録C 上端の定着が無い場合のせん断耐力の算定方法 p.93
付録D せん断耐力算定プログラムについて p.97

 コンクリート構造物のライフサイクルは自然災害や周囲の環境条件などに依存する.しかしながら,構造物自身が有する性能が低下する前,あるいはその後でも構造物に適切な補修や補強を施すことによって,性能は初期のレベルと同程度,あるいはそれ以上に回復させることが可能となる.本研究では多くの補修・補強工法の内,連続繊維シートを用いた工法に着眼点を置いた.
 本研究の方法論は以下の通りである.すなわち,連続繊維シートとコンクリートとの付着・剥離現象を解析し,要素試験から抽出した付着に関する構成側を数値計算に適用すれば,連続繊維シートで補強された鉄筋コンクリート部材の力学性状は十分な精度で予測することが出来るものと考えられる.補強後の部材が有する力学性能の中でも,本研究ではシート補強後のせん断耐力の評価方法を開発することを最終目標と定めた.
 本論文で得られた知見を以下にまとめる.
 第1章は本章であり既往の研究と本研究との位置付けや本研究の意義について解説したものである.
 第2章では,連続繊維シートとコンクリートの付着・剥離挙動を解析した.まず,連続繊維シートとコンクリートとの一軸引張付着試験を行い,その挙動を実験的に観察するとともに,シートのひずみ分布を計測した.次にこのひずみ分布を基に付着応力とシートとコンクリート間の相対変位との関係を導出する方法を示した.この方法によって得られた付着応力と相対変位の関係は,概ね弾性と軟化の2つの領域で構成されることを明らかにした.次に,以上の知見を踏まえて付着応力と相対変位曲線を2直線で構成される,すなわち弾性―軟化―剥離型の付着構成モデルへとモデル化する方法を示した.モデル化の過程で同定された材料パラメーター,並びに構成モデルの曲線内の面積で定義される剥離破壊エネルギーを要因ごとに比較した結果,コンクリートの表層や接着樹脂で構成されるシートとコンクリートとの間に存在する境界層の影響がシートとコンクリートの付着・剥離挙動に最も強く影響していることを明らかにした.
 第3章では2章で行った一軸引張試験の数値シミュレーションを基に,付着構成モデルの感度解析を行った.構成モデルの感度を検討するため,シミュレーション,すなわち数値計算には3種類の構成モデルを用いた.一つは2章で開発した弾性―軟化―剥離型モデル,二つ目は既往の研究で提案されている弾性―塑性―剥離型モデル,そして三つ目は弾性―剥離型モデルである.弾性―塑性―剥離型,および弾性―剥離型モデルの材料パラメーターは,弾性―軟化―剥離型モデルを基に決定した.3種類の構成モデルを適用した計算結果と実験結果を比較した結果,弾性―軟化―剥離型モデルが実際にシートが示した付着・剥離挙動を的確に表現し得ることが明らかとなった.算定精度は弾性―軟化―剥離型,弾性―塑性―剥離型,そして弾性―剥離型の順で低下する.しかしながら,数値計算が簡便であるというアドバンテージを有する弾性―剥離型モデルでも,シートの剥離が進展していく過程を弾性―軟化―剥離型モデルを適用した場合と同等の算定精度で予測し得る結果となった.よって,数値計算の簡便性,および部材の挙動に及ぼす感度を考慮して,シート補強後の部材レベルの数値解析には弾性―剥離型モデルを適用することにした.
 第4章では一軸引張付着試験より得られた剥離耐力より,剥離破壊エネルギーを数式によって求め,さらに付着構成モデルの材料パラメータを同定する方法を示した.2章で示した手順,実測のひずみ分布から導出した剥離破壊エネルギーと剥離耐力から同定される破壊エネルギーをそれぞれ比較・検討した.この結果,一軸引張試験で得られた最大荷重の85%を剥離耐力として適用すれば,実測のひずみ分布より導出した剥離破壊エネルギーとほぼ同等の数値が得られることを明らかにした.
 第5章では第4章までの検討を基に連続繊維シート補強後のせん断力評価手法の開発を行った.本研究で開発したせん断耐力評価手法の特徴は,斜めひび割れの開口とこのひび割れを跨ぐシートの剥離過程を応力解析によって評価することにより終局時にシートの負担するせん断力を評価していること,破壊モードを「せん断圧縮破壊モード」と「シート破断モード」とに応力解析の過程で自然に判定可能であること,そして既往の評価手法で用いられていた物理的根拠の低減係数や補強効率に依存することなく応力解析にシートの物性値を与えて合理的に耐力評価が行えること,の以上3点である.既往の実験データを用いた検証の結果,提案手法は設計指針に採用されている手法と同等,あるいはそれ以上の算定精度を与えることを明らかにした.
 第6章では提案したせん断耐力評価手法の感度解析を行った.まず,効果的な補強方法について検討するため,シートの物性値や付着構成モデルの材料パラメータを変化させて計算を行った.この結果,シートの破断ひずみが小さく,且つシートの積層数が少ない場合には未剥離のまま破断して終局耐力の増加が期待出来ないこと,シートの引張強度を増加させるよりも積層数を増加させることがせん断耐力の増加に効果的であること,そして付着構成モデルの材料パラメーター,換言すれば剥離破壊エネルギーを増加させることによってシートの負担するせん断力が増加すること,の以上3点を明らかにした.また,シートを閉鎖型に巻き立てる,あるいは部材端部におけるシートを機械的に定着することは,シートの負担するせん断力を確保するために必要不可欠であることを示した.以上の知見は実際の補強設計や材料開発において有益な情報である.次に,補強設計指針に用いられている手法と本研究で提案した手法による計算結果を比較することによって,提案手法の位置付けと両者の感度を比較した.この結果,コンクリートの圧縮強度を除いてシートの剛性や破断ひずみなどの要因に対しては,両者とも同様の感度を有していることを明らかにした.
 第7章は本論文で得られた知見をまとめたものである.

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