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金属マグネシウムからの電子移動型反応による高選択的炭素・アシル化反応に関する研究

氏名 境 正浩
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第242号
学位授与の日付 平成14年3月25日
学位論文題目 金属マグネシウムからの電子移動型反応による高選択的炭素・アシル化反応に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 西口 郁三
 副査 教授 塚本 悟郎
 副査 教授 塩見 友雄
 副査 教授 五十野 善信
 副査 助教授 竹中 克彦
 副査 助教授 河原 成元

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総合序論 p.5
第1章 芳香族カルボニル化合物への電子移動型炭素-アシル化反応 p.17
1.1 緒言 p.17
1.2 結果及び考察 p.18
1.2.1 反応条件の検討 p.18
1.2.2 芳香族アルデヒド類の炭素-アシル化反応 p.20
1.2.3 芳香族ケトン類の炭素-アシル化の反応 p.21
1.2.4 反応性に及ぼす置換基の影響に関する考察 p.22
1.2.5 反応部位における立体障害の検討 p.24
1.2.6 酸塩化物[1]の立体障害の検討 p.26
1.2.7 反応機構の考察 p.27
1.3 実験の部 p.33
1.3.1 市販試料 p.33
1.3.2 測定機器および条件 p.33
1.3.3 芳香族カルボニル化合物の炭素-アシル化反応の一般的手順 p.33
1.3.4 スペクトルデータ p.34
第2章 α-置換芳香族カルボニル化合物への電子移動型アシル化反応 p.40
2.1 緒言 p.40
2.2 結果と考察 p.41
2.2.1 反応条件の検討 p.41
2.2.2 α-置換基の影響の検討 p.42
2.2.3 アシル化剤の種類による変化の検討 p.43
2.2.4 生成するエノールエステルの選択性の検討 p.44
2.2.5 反応機構に関する考察 p.46
2.3 実験の部 p.49
2.3.1 市販試料 p.49
2.3.2 測定機器および条件 p.49
2.3.3 α-置換芳香族カルボニル化合物の還元的酸素-アシル化反応の一般的手順 p.50
2.3.4 スペクトルデータ p.50
第3章 芳香族α,β-不飽和カルボニル化合物への電子移動型炭素-アシル化反応 p.53
3.1 緒言 p.53
3.2 結果と考察 p.55
3.2.1 酸無水物による桂皮酸エチルの炭素-アシル化反応 p.55
3.2.2 酸塩化物による桂皮酸エチルの炭素-アシル化 p.55
3.2.3 芳香族α,β-不飽和化合物[3]の炭素-アシル化 p.57
3.2.4 反応機構に関する考察 p.58
3.2.5 電子移動型反応による芳香族α,β-不飽和カルボニル化合物のC,O-ジアシル化反応 p.60
3.2.6 反応機構の考察 p.63
3.3 実験の部 p.64
3.3.1 市販試料 p.64
3.3.2 測定機器および条件 p.64
3.3.3 芳香族α,β-不飽和カルボニル化合物の炭素-アシル化反応の一般的手順 p.64
3.3.4 芳香族α,β-不飽和カルボニル化合物のC,O-ジアシル化反応の一般的手順 p.65
3.3.5 スペクトルデータ p.65
第4章 クマリン誘導体への電子移動型炭素-アシル化反応 p.75
4.1 緒言 p.75
4.2 結果と考察 p.76
4.2.1 クマリン誘導体の合成 p.76
4.2.2 クマリンのアシル化反応におけるアシル化剤の検討 p.78
4.2.3 クマリンのアシル化反応における試薬の当量の検討 p.79
4.2.4 クマリンのアシル化反応における滴下するクマリン溶液の濃度の影響 p.80
4.2.5 種々のクマリン誘導体のアシル化反応 p.81
4.2.6 クマリン誘導体アシル化物[5]の立体構造 p.82
4.2.7 電解反応によるクマリン誘導体のアシル化反応とその立体化学 p.85
4.2.8 クマリン誘導体のアシル化の反応機構 p.91
4.3 実験の部 p.92
4.3.1 市販試料 p.92
4.3.2 分析機器 p.92
4.3.3 クマリン誘導体の合成 p.92
4.3.4 金属マグネシウム還元によるクマリン誘導体のアシル化 p.94
4.3.5 電解還元反応によるクマリン誘導体のアシル化 p.99
第5章 スチルベン誘導体およびアセナフチレン誘導体への電子移動型炭素-アシル化反応 p.104
5.1 緒言 p.104
5.2 結果と考察 p.105
5.2.1 酸無水物存在下でのスチルベンおよびアセナフチレンの炭素-アシル化反応 p.105
5.2.2 酸無水物存在下でのtrans-α-メチルスチルベンもしくは1-メチルアセナフチレンの位置選択的アシル化反応 p.107
5.2.3 還元電位の測定 p.109
5.2.4 位置選択的炭素-アシル化反応における機構の考察 p.109
5.2.5 酸塩化物存在下でのスチルベンの炭素-アシル化反応 p.111
5.3 実験の部 p.115
5.3.1 市販試料 p.115
5.3.2 機器分析 p.116
5.3.3 実験操作および操作手順 p.116
総括 p.125
謝辞 p.127

 有機合成化学において、目的化合物の骨格形成、中でも、炭素-炭素結合の形成は、その中核を成す反応として不可欠なものである。特に典型金属を用いる近年の有機金属化学の発展に伴い、カルボアニオン中間体は、有機合成化学において様々な形態の炭素-炭素結合形成反応への利用がなされるようになってきた。また、遷移金属を中心とする触媒化学の発展により、驚く程高選択的且つ、高収率な反応が、数多く見い出されている。しかし、これらの有機金属化合物は殆んどハロゲン化合物をその生成の出発物としている。
 一方、電解合成法は、反応の真の主役である電子を清浄な試薬として使うことにより、環境負荷の高い酸化還元試薬や触媒などを必要とせずに、目的とする反応を常温常圧の温和な条件で起こさせることが可能である。この反応では、反応活性種として、イオンラジカルが発生することが確認されており、これは一電子移動が中心となる電子移動型反応に独特な反応活性種である。一般にこれらの電子移動型反応は出発基質はハロゲン化合物だけでなく、電子欠損型多重結合やカルボニル基などの官能基を持つ広範囲な化合物を用いる事が出来る。一電子移動型反応においては多くの場合極性反転を伴なうため、通常の有機反応では不可能、又は困難な反応が容易に進行するケースも多くあり、反応化学の見地からみても非常に興味深い。しかし、電解合成法は特別な装置が必要であったり、電極表面のみで起こる反応であるためにスケールアップが困難であることなどの短所も有している。
 ところで、同じく直接的な電子移動を利用した反応として、高い還元力を有する金属を電子源として利用した反応も多く試みられてきた。多くの場合、高い還元力を有する金属として、取り扱いに困難や特別の注意を要する金属リチウムやナトリウムが用いられることが多く、決して扱い易い反応とは言えなかった。一方で、ヨウ化サマリウム化合物を利用した電子移動型反応も数多く報告されている。これらの反応は反応論的には興味深いが、希土類金属である高価なヨウ化サマリウムを化学量論量必要とするなど有機合成化学として有用な方法とは言い難い。又、発癌性の疑いのあるHMPAを用いることが必要不可欠である。
 そこで、本論文では、グリニヤール用の削状マグネシウムを何の前処理も無しに用いて、種々の電子移動型反応を起こし、発生したアニオンラジカル活性種に対し求核的な炭素-アシル化を試みたところ、従来の方法では合成困難な炭素-炭素結合を有する化合物を、常温常圧下という温和な条件下で合成することに成功し有用な新手法であることを確認した。金属マグネシウムは、還元力が高い上に安価で入手が極めて容易であり、クロロフィル(葉緑素)や人体にも多く含まれている生体関連金属である。
 第一章では、金属マグネシウムから芳香族カルボニル化合物への電子移動型反応を利用した炭素-アシル化反応を検討し、対応する非対称型アシロイン誘導体を選択的に得られることを見い出した。電子移動型反応における、芳香環上の置換基による効果を検討したところ、芳香族上に電子吸引性置換基を持つ芳香族カルボニル化合物ほど高い反応活性を示すことを確認した。又、炭素-アシル化を受けるカルボニル基の立体障害が大きい場合、大きく反応が阻害されるのに対し、アシル化剤がかさ高い場合にはむしろ、アシル化がスムーズに進行することを見い出した。
 第二章では、第一章において検討した芳香族カルボニル化合物においてα-位に脱離基を有する場合の反応について検討した。本反応では、電子移動とそれに共なう脱離反応が進行し、その結果、酸素-アシル化されたエノールエステル誘導体の生成を確認した。また、本反応は極めて激しいが、酸無水物を用いたアシル化ではうまく進行せず、酸塩化物を用いる必要があることを示した。さらに、生成したエノールエステルは選択的にZ-体が生成することを見い出した。
 第三章では、金属マグネシウムからの桂皮酸誘導体への電子移動型反応を利用した炭素-アシル化反応を検討した結果、位置選択的な炭素-アシル化が進行し、1,4-ジケトン類が生成することを確認した。この反応は、アシル化剤として酸塩化物と酸無水物の両方が使用可能であり、電解合成法では行えない種々のアシル化が可能であることを示した。さらに、本反応を芳香族α,β-不飽和ケトン類にも応用した結果、炭素-アシル化と同時に酸素-アシル化も進行し、対応するβ-位にアシル基を導入したケトンのエノールエステルが生成することを見い出した。
 第四章では、クマリン類に対する金属マグネシウムからの電子移動型反応を検討し、β-位で位置選択的なアシル化が進行することを見い出した。更に、α-位やβ-位に置換基を有するクマリン類においては、β-位に結合するアシル基とα-位の置換基がcis-配位である炭素-アシル化生成物が高選択的に生成することも示した。
 第五章では、スチルベン誘導体への電子移動型反応を利用した炭素-アシル化反応を検討した結果、スチルベンのアシル化は他のアシル化反応と異なり、アシル化剤により生成物が異なることを見い出した。すなわち、酸無水物によるアシル化では単純に炭素-アシル化された生成物が得られたのに対し、酸塩化物を用いたアシル化ではシクロプロパノールエステル誘導体が得られた。さらに環状のアセナフチレン類に対する炭素-アシル化も検討し、良好な収率で炭素-アシル化が進行することを見い出した。二重結合部位にアルキル基を有するスチルベン類やアセナフチレン類ではアルキル基を有する炭素への位置選択的な炭素-アシル化を確認した。

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