本文ここから

再すべり型地すべり斜面の崩壊メカニズムと安定性評価に関する基礎的研究

氏名 宮田 善郁
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第252号
学位授与の日付 平成14年3月25日
学位論文題目 再すべり型地すべり斜面の崩壊メカニズムと安定性評価に関する基礎的研究
論文審査委員
 主査 助教授 大塚 悟
 副査 教授 海野 隆哉
 副査 教授 福嶋 祐介
 副査 教授 杉本 光隆
 副査 金沢工業大学教授 川村 國夫

平成13(2001)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

第1章 序論 p.1
 参考文献 p.5

第2章 新潟県における地すべりの地質・地形学的特徴 p.7
 2.1 はじめに p.7
 2.2 地質、地形学と地すべり p.9
 2.2.1 地質年代と造山運動 p.9
 2.2.2 褶曲運動と地すべり p.14
 2.3 地すべり粘土の物理化学的性質と力学特性 p.16
 2.3.1 地すべり粘土の物理化学的性質 p.16
 2.3.2 すべり面粘土の形成過程 p.20
 2.4 まとめ p.24
 参考文献 p.26

第3章 間隙水圧載荷に対する粘性土のせん断挙動 p.27
 3.1 はじめに p.27
 3.2 試験の概要 p.28
 3.2.1 三軸試験機の概要 p.28
 3.2.2 供試体の作成 p.31
 3.2.3 メンブレンの通気性と供試体の飽和度 p.33
 3.2.4 リングせん断試験機の概要 p.35
 3.3 長岡粘土の力学特性 p.37
 3.3.1 圧密膨潤特性 p.37
 3.3.2 正規圧密粘土の非排水せん断強度 p.39
 3.3.3 大変位時のせん断特性 p.40
 3.4 間隙水圧増加に対する粘性土のせん断挙動 p.47
 3.4.1 はじめに p.47
 3.4.2 試験の概要 p.47
 3.4.3 供試体のマクロ的な有効応力、間隙比経路 p.47
 3.4.4 供試体の変形と降伏点 p.49
 3.4.5 間隙水圧の経時変化と進行性破壊 p.50
 3.4.6 間隙水圧の載荷に対する粘性土のせん断強度 p.52
 3.4.7 まとめ p.53
 3.5 間隙水圧載荷試験から見られる粘性土の時間依存性挙動 p.54
 3.5.1 はじめに p.54
 3.5.2 クリープ変形と崩壊予測 p.54
 3.5.3 時間依存挙動に着目した間隙水圧載荷試験 p.56
 3.5.4 時間依存挙動に関する考察 p.59
 3.5.5 まとめ p.61
 3.6 まとめ p.63
 参考文献 p.64

第4章 弾塑性構成式による間隙水圧載荷試験の数値シミュレーション p.67
 4.1 はじめに p.67
 4.2 弾塑性構成式の誘導 p.68
 4.2.1 カムクレイモデルの負荷基準 p.68
 4.2.2 カムクレイモデルの弾塑性構成式 p.71
 4.2.3 下負荷面カムクレイモデルの弾塑性構成式 p.72
 4.3 下負荷面カムクレイモデルを用いた数値シミュレーション p.75
 4.3.1 数値シミュレーションに用いる材料パラメータの設定 p.75
 4.3.2 数値シミュレーションによる長岡粘土の圧密・せん断挙動 p.77
 4.4 間隙水圧載荷試験の数値シミュレーション p.78
 4.5 間隙水圧の繰り返し載荷と破壊包絡線 p.81
 4.5.1 間隙水圧の変化と間隙比経路 p.81
 4.5.2 間隙水圧の繰り返し載荷による過圧密粘土のせん断挙動 p.84
 4.6 数値シミュレーション結果に基づく間隙水圧載荷試験 p.90
 4.6.1 間隙水圧の繰り返し載荷試験 p.90
 4.6.2 過圧密粘土に対する間隙水圧載荷試験 p.91
 4.7 繰り返しすべりを生じる地すべり斜面の破壊メカニズム p.93
 4.8 まとめ p.94
 参考文献 p.95

第5章 剛塑性有限要素法による斜面安定解析 p.97
 5.1 はじめに p.97
 5.2 極限平衡法による斜面安定解析 p.98
 5.2.1 はじめに p.98
 5.2.2 斜面安全率の定義 p.98
 5.2.3 分割法による円弧・非円弧すべり法 p.99
 5.2.4 上界定理と円弧すべり法 p.101
 5.2.5 極限平衡法における構成関係 p.102
 5.2.6 非円弧すべり線法の考察 p.103
 5.2.7 まとめ p.104
 5.3 上界定理と剛塑性構成式 p.105
 5.3.1 はじめに p.105
 5.3.2 Load factorと上界定理 p.106
 5.3.3 上界値の最小化演算 p.107
 5.3.4 有限要素法による離散化 p.109
 5.3.5 Drucker-Pragerの降伏関数を用いた上界計算 p.110
 5.3.6 剛塑性構成式の誘導 p.112
 5.3.7 Drucker-Pragerの降伏関数の材料パラメータと土質定数 p.115
 5.3.8 非関連流れ則に基づく剛塑性構成式 p.116
 5.3.9 有限要素離散化と非線形連立方程式の解法 p.118
 5.3.10 まとめ p.119
 5.4 剛塑性有限要素法を用いた斜面安定解析 p.120
 5.4.1 はじめに p.120
 5.4.2 斜面安定解析のための剛塑性構成式の誘導 p.120
 5.4.3 単純斜面の安定解析 p.123
 5.4.4 複雑な形状をした斜面の安定解析 p.127
 5.4.5 まとめ p.131
 5.5 再すべり型地すべり斜面の安定解析 p.132
 5.5.1 はじめに p.132
 5.5.2 強度の不連続線における剛塑性構成式の誘導 p.132
 5.5.3 変位速度場の不連続性を考慮した剛塑性有限要素解析 p.135
 5.5.4 極限平衡法と剛塑性構成式 p.138
 5.5.5 不連続線の形状と破壊形態 p.140
 5.5.6 単純斜面の安定解析 p.144
 5.5.7 既存すべり線を内包する地すべり斜面の安定解析 p.148
 5.6 まとめ p.152
 参考文献 p.153

第6章 結論 p.155
 6.1 はじめに p.155
 6.2 各章のまとめ p.156
 6.3 主要な結論 p.158

謝辞 p.160

付録A 試験手順 p.161
 A.1 試験機前の準備 p.161
 A.2 供試体の作成 p.162
 A.3 供試体のセット p.163
 A.4 測定器の初期値設定 p.164
 A.5 通水作業、予備圧密と寸法の測定 p.166
 A.6 圧密 p.169
 A.7 せん断 p.169
 A.8 解体 p.170

付録B 供試体の作成 p.171
 B.1 試料の準備 p.171
 B.2 予備圧密試料の作成 p.172

 国土の大半を山岳地で占める我が国では非常に多くの地すべり災害が発生している。国土防災・自然環境保全の観点から地すべりを防止・抑制するための技術開発が求められているが、地すべりではどのようなメカニズムで崩壊に至っているのかが十分に解明されていないために合理的な対策方法が明示されていないのが現状である。地すべりの破壊形態は地質や地形、気象条件など地域によって様々なため地すべり崩壊メカニズムもそれだけ多様である。本論文では北陸地方において多く発生する再すべり型地すべりに着目して崩壊メカニズムの解明並びに安定性評価手法の開発を目的に研究を行った。以下に各章の内容を概説するとともに得られた結論を述べる。
 第1章では、本論文の構成について概観して、本研究の目的、着眼点、アプローチ方法について述べている。
 第2章では、北陸地方における地すべりの地質・地形的特徴について既往の研究を基に整理した。ここでは、北陸地方における地すべりの多くが再すべり型地すべりであることを説明して、地すべり問題に対する他の研究者の取り組みについてまとめた。また、本研究の着目点として、再すべり型地すべりは何故緩い勾配の斜面でもすべりを生じるのか、何故非常に緩慢な速度ですべりを生じるのか、長期間にわたって繰り返しすべりを生じるのは何故か、一度すべりを生じた後の地すべり粘土は次のすべりに対してどのようなせん断強度を発揮するのか、などの問題点を提起した。
 第3章では、再すべり型地すべりの崩壊メカニズムの解明を目的に三軸試験機を用いて間隙水圧載荷試験を実施した。間隙水圧載荷試験は初期せん断応力の作用する粘性土供試体に強制的に間隙水圧を載荷する試験である。初期せん断応力の載荷は斜面勾配の緩急に応じて地すべり粘土に作用するせん断応力(崩壊ポテンシャル)を表したもので、間隙水圧の載荷は降雨や融雪等による地すべり斜面内部の間隙水圧変化を表したものである。本試験により間隙水圧の増加により粘性土が過圧密粘土化しながら破壊へと至る過程を応力経路、間隙比経路より観察した。この結果、間隙水圧の増加に伴い粘性土が弾性状態から弾塑性状態に移行する降伏点、急激に塑性変形を生じて破壊に至る破壊点、という粘性土のせん断特性が変化する2つの状態点の存在を明らかにした。また、試験終了時の供試体の間隙比分布を測定して、すべり線近傍の間隙比が供試体内部の他の部分より大きいことを観察した。すべり線近傍における間隙比の増大はせん断変形の卓越する部分で塑性軟化に伴う進行性破壊を生じたことを意味する。間隙水圧の載荷初期にはほぼ一定の時間間隔で間隙水圧が伝達されるが、応力状態が降伏点に近づくにつれて伝達時間は長期化して、破壊点に至るまでには実に長い時間をかけて間隙水圧が伝達される。この理由は粘性土が水の移動に伴う進行性破壊を生じているためである。再すべり型地すべりは非常に緩慢な速度ですべりを生じるが、この理由はすべり面に沿う粘性土が吸水膨張に伴う進行性破壊を生じているためと説明できる。
 第4章では、間隙水圧載荷試験の結果を土の弾塑性構成式(下負荷面カムクレイモデル)を用いて数値シミュレーションした。この結果、間隙水圧載荷による粘性土のせん断挙動が数値シミュレーションにより精度良く表現できることを示した。また、すべり面上の粘性土はすべりを繰り返すことによってどのような状態変化を生じて、次のすべりに対してどのようなせん断強度を有するのかを数値シミュレーション並びに間隙水圧載荷試験結果より検討した。その結果、粘性土が繰り返しせん断破壊することによって辿る破壊包絡線の存在を明らかにして、過圧密粘土が破壊により徐々に正規圧密粘土化する過程を示した。再すべり型地すべり斜面のすべり面上の粘性土はすべりを繰り返すことにより、水圧載荷に対するせん断強度が低下して最終的にはせん断強度がそれ以上変化しなくなる定常状態に達すると考えられる。この状態に至ると降雨や融雪により間隙水圧が増加または減少してもせん断に伴う塑性軟化と圧密によるせん断強度の回復を繰り返す定常サイクルに至ると予測される。地すべり斜面内部の土要素に作用するせん断応力、間隙比が測定または推測できれば、破壊包絡線によりすべりを生じるときの応力状態を予測することが可能となった。
 第5章では、再すべり型地すべり斜面の高精度な安定性評価手法の開発を目的に剛塑性有限要素法を用いて斜面の安定解析を行った。再すべり型地すべり斜面の特徴は地すべり斜面内部に過去のすべりによって生じた既存すべり線が存在して、地すべり土塊と基盤とがこの既存すべり線にて不連続に変形を生じる点にある。再すべり型地すべり斜面は既存すべり線の影響で多様な破壊形態を示すが、従来用いられている安定解析手法ではこのような斜面の安定性評価を行うことはできない。本研究では斜面部と既存すべり線部にそれぞれ異なる剛塑性構成式を適用することで、再すべり型地すべりの特徴を陽に取り入れた安定解析を可能にした。これにより、既存すべり線に沿った地すべり土塊のすべり、既存すべり線とそれ以外の部分での複合的なすべり、既存すべり線とは無関係な場所でのすべり、複数の既存すべり線による複合すべり、など複雑な破壊形態を示す再すべり型地すべり斜面の安定性評価が容易に行えるようになった。
 第6章では、本研究で明らかになった事項が実際の地すべり問題にどのように適用可能なのかを述べ、再すべり型地すべりについての総合的な考察を行った。また、今後の研究課題や展望についても述べている。

非公開論文

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る