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スメクティック液晶自己保持膜の構造解析

氏名 奥村 恵隆
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第265号
学位授与の日付 平成15年3月25日
学位論文題目 スメクティック液晶自己保持膜の構造解析
論文審査委員
 主査 教授 赤羽 正志
 副査 教授 高田 雅介
 副査 助教授 安井 寛治
 副査 助教授 河合 晃
 副査 助教授 小野 浩司
 副査 講師 木村 宗弘

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目次

第1章 研究背景と目的 p.1
1.1 研究背景 p.1
1.2 研究の目的 p.2
1.3 本論文の構成 p.3

第2章 液晶自己保持膜 p.5
2.1 液晶相 p.5
 2.1.1 スメクティック液晶 p.7
 2.1.2 強誘電性液晶 p.10
 2.1.3 反強誘電相 p.10
2.2 本研究で使用する液晶材料 p.12
 2.2.1 MHPOBC(4-(1-methylheptyloxy carbonyl) p.12
 pheny4'-octyloxybipheny-4-carboxylate)
 2.2.2 8CB(4-octyl-4'-cyanobiphenyl) p.14
2.3 液晶自己保持膜 p.14
 2.3.1 自己保持膜とは p.14
 2.3.2 自己保持膜の作製 p.15
 2.3.3 液晶自己保持膜の目視観察 p.17
2.4 まとめ p.17

第3章 実験方法 p.21
3.1 透過偏光解析法による実験と解析手順 p.21
 3.1.1 PEMを用いた透過エリプソメントリー法での測定原理 p.22
 3.1.2 光学系の調整 p.27
 3.1.3 測定系の構成と特徴 p.30
 3.1.4 測定結果の評価手順 p.31
3.2 反射分偏光解析 p.32
3.3 分子動力学シュミレーションによる層構造の観察 p.35
 3.3.1 分子動力学法(MD法) p.35
 3.3.2 シュミレーションの条件 p.36
3.4 まとめ p.36

第4章 薄膜での層構造 p.39
4.1 薄膜での層間隔の大きさ p.39
4.2 薄膜での層間隔とチルト角との関係 p.43
4.3 薄膜で温度依存性測定結果 p.46
4.4 まとめ p.49

第5章 自己保持膜での屈折率 p.51
5.1 透過偏光解析による自己保持膜での屈折率の評価結果 p.51
5.2 反射分偏光解析の結果 p.52
5.3 まとめ p.60

第6章 分子動力学シュミレーション p.61
6.1 バルク状態での結果(分子結晶を初期構造とした場合) p.61
6.2 自己保持膜状態での結果 その1(分子結晶を初期構造とした場合) p.64
6.3 自己保持膜状態での結果 その2(面内方向に応力を印加した場合) p.67
6.4 自己保持膜状態での結果 その3(分子の向きに偏りが生じた場合) p.69
6.5 層感覚、オーダーパラメータ、面内分子数密度などの変化 p.74
 6.5.1 バルクと自己保持膜での層構造の変化 p.74
 6.5.2 計算条件による各パラメータの変化 p.76
6.6 まとめ p.82

第7章 自己保持膜でのSmC*α相の振る舞い p.83
7.1 バルク状態でSmA*相の発想する温度範囲での温度依存症 p.83
7.2 層構造の電界強度依存性 p.85
7.3 まとめ p.89

第8章 熱い層での層構造 p.91
8.1 螺旋構造を仮定した場合の入射角依存性 p.91
8.2 螺旋構造を勝てした場合のチルト角依存性 p.92
8.3 測定結果からの考察 p.96
8.4 まとめ p.97

第9章 結論 p.103

参考文献 p.105

現在まで、ディスプレイには、主にネマティック液晶が用いられてきた。このネマティック液晶ディスプレイでは、応答速度などの面で限界も見えてきており、一つのブレークスルーを与える可能性があるものに、強誘電性や反強誘電性を発現する液晶がある。強誘電性や反強誘電性は、スメクティック相で発現する。このスメクティック相では、液晶分子は層状に配置しており、層内での配向方向などの違いにより様々な層構造が存在することが分かっているが、その中には未だに構造がよく分かっていないものがある。
 スメクティック液晶の層構造は、様々な方法で解析がなされてきているが、その際にはしばしば実験対象として液晶自己保持膜が用いられる。液晶自己保持膜は、スメクティック液晶を用いて作製される、いわゆる「シャボン玉」で、空気中で作製されるため、光学的手法を用いた解析を行う場合に基板の影響を取り除くことができることや、非常に均一性の高いサンプルを作製することができるなどの長所がある。一方、自己保持膜では、バルクと異なり液晶自身が空気と直接界面を持ち、実験等に一般的に用いられるサンドイッチセルと状態が異なっている。この液晶 - 空気界面がバルクの物性に及ぼす影響は分かっていない。また、自己保持膜は、数百分子層から薄い物では2分子層まで作製することができるが、極端に薄い膜になると系が2次元の世界になり、このような世界での液晶の振る舞いを調べることは大変に興味深い。
 本研究では、スメクティック液晶を用いた様々な厚さの液晶自己保持膜に対して、光学的手法を用いた実験・解析を行い、液晶 - 空気界面がバルクに及ぼす影響や、薄膜での層構造の振る舞いについて調べ、また、分子シミュレーションの観点から、バルクと薄膜における層構造の振る舞いの違いを明らかにすることを目的として研究を行った。
 2分子層膜から数1000nmの膜厚を持つ自己保持膜についての解析と、分子動力学シミュレーションにより以下の知見を得た。
 10分子層よりも薄い膜においては、明らかにバルクとは異なる相転移挙動を示し、相転移点が薄い膜ほど高温側にシフトし、薄膜ではより低温側に現れる相が発現しやすいということが分かった。また、膜厚による屈折率の値の変化について調べた。MHPOBCサンプルについて、屈折率は、200nm以上の膜厚においてバルクでの値と同程度の値を示すが、薄膜においては、少なくとも屈折率もしくは層間隔の値がバルクとは異なることが分かった。また、8CBサンプルを用いた薄膜での解析の結果、薄膜における液晶の屈折率異方性の大きさは、バルクにおける値よりも非常に小さい事が分かった。これは、自己保持膜における液晶分子の密度がバルクよりも小さいことや、自己保持膜の法線方向への分子数の減少などが原因で起こっているものと考えられる。
 ダイレクタが層法線から傾いた相について、薄膜では層間隔の値はチルト角に対して独立であったが、数百nm以上の厚い膜では、バルクと同様に明らかにチルト角に対して層間隔の値が変化する様子が見られた。また、薄い自己保持膜において反強誘電相が発現した場合、電界の印加方向に対するディレクタのチルト方向は、偶数層か奇数層かによって異なることが分かっている。これは、液晶が空気との界面を持つことによるものであるが、100層程度より厚い自己保持膜になるとチルトする方向を固定する力が弱くなり、チルトする方向が90°異なる2つの状態間を行ったり来たりする現象が観測された。
 分子動力学の手法を用いたシミュレーションを行い、バルクと自己保持膜でのオーダーパラメータを温度依存性から液晶相の発現する温度範囲を調べたところ、発現する温度は現実のサンプルよりも100Kも高温であったが、その温度範囲の大きさは現実のサンプルでの値とほぼ等しい値を得た。同じ温度における自己保持膜を仮定したシミュレーション結果と比較したところ、層間隔の値はほぼ等しく、膜面内の分子数密度は、自己保持膜の方が低いことが分かった。しかしながら、実験結果に見られるような極端な屈折率の値の減少を導くような大きな分子数密度の変化は得られなかった。
 薄膜におけるSmCα相の層構造の解析を行ったところ、5層程度の周期を持つ螺旋構造で、螺旋の解けるしきい値電界の大きさが層数によって異なることが分かった。また、その発現する温度範囲は、バルクでの値よりも数十℃も高温側に広く、数千nmの膜厚を持つ厚い膜においても変化がなかった。このことより、液晶と空気との界面がSmCα相の安定化に大きく寄与しているのではないかと考えられる。

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