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イネにおける植物特異的な転写因子の構造及び発現の解析

氏名 岡 久子
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第287号
学位授与の日付 平成16年3月25日
学位論文題目 イネにおける植物特異的な転写因子の構造及び発現の解析
論文審査委員
 主査 教授 山元 皓二
 副査 教授 松野 孝一郎
 副査 教授 椋本 一朗
 副査 助教授 高原 美規
 副査 助教授 城所 俊一
 副査 独立行政法人農業生物資源研究所 研究チーム長 菊池 尚志

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目次

第1章 緒言 p.1
1-1 ゲノムの構造解析 p.1
1-2 ゲノムの機能解析 p.2
1-3 ゲノム情報の応用 p.3
1-4 本研究の目的 p.4
1-5 本論文の構成 p.6

第2章 転写因子 p.7
2-1 緒言 p.7
2-2 収集及び解析方法 p.8
2-3 結果及び考察 p.8
2-3-1 生物全てに共通な転写因子の比較 p.14
2-3-2 植物に特異的な転写因子の比較 p.18
2-3-3 動物に特異的な転写因子 p.20
2-3-4 酵母に特異的な転写因子 p.21
2-3-5 その他の転写因子 p.21
2-4 まとめ p.22

第3章 イネとシロイヌナズナの転写因子 p.24
3-1 諸言 p.24
3-2 収集と解析方法 p.25
3-3 結果及び考察 p.26
3-3-1 MADSドメインの比較 p.28
3-3-2 植物特異的な転写因子 p.30
3-4 まとめ p.35

第4章 NACファミリー p.39
4-1 諸言 p.39
4-2 収集と解析方法 p.40
4-2-1 NACファミリーの収集 p.40
4-2-2 NACドメインのアライメントと系統的解析 p.43
4-2-3 転写活性領域(TAR;transcriptional activation region)において保存されているモチーフの解析 p.49
4-2-4 NECファミリー遺伝子のマッピング解析 p.50
4-3 結果及び考察 p.50
4-3-1 NACファミリーの収集 p.51
4-3-2 NACドメインの分類 p.55
4-3-3 NACドメインの構造 p.57
4-3-4 TARの解析 p.60
4-3-5 NACファミリーの構造解析と機能関係 p.63
4-3-6 NACファミリーのマッピング解析 p.73
4-3-7 NACファミリーの遺伝子のスプライシング p.78
4-3-8 NACドメインによる分類とマッピング解析との関係 p.80
4-4 まとめ

第5賞 マイクロアレイを用いた遺伝子の解析 p.85
5-1 諸言 p.85
5-2 材料及び実験方法 p.86
5-2-1 植物体材料 p.86
5-2-2 RNAの抽出 p.94
5-2-3 mRNAの精製 p.94
5-2-4 マイクロアレイ p.99
5-2-5 ラベル化,ハイブリダイゼーション,洗浄 p.99
5-2-6 スキャニングと定量化処理 p.100
5-2-7 発現解析の方法と評価 p.101
5-3 結果及び考察 p.104
5-3-1 実生植物体地上部(対照)におけるNACファミリーの発現解析 p.104
5-3-2 各組織におけるNACファミリーの発現解析 p.114
5-3-3 カルス再分化培養段階におけるNACファミリーの発現解析 p.115
5-3-4 ストレス応答に対するNACファミリーの発現解析 p.117
5-3-5 NACドメインの分類とNACファミリーの発現解 p.122
5-3-6 オルタネイティブスプライシングと遺伝子発現解析の関係 p.128
5-4 まとめ p.130

第6章 総合考察 p.132
6-1 植物界,動物界,菌界における転写因子 p.132
6-2 イネとシロイヌナズナの転写因子 p.137
6-3 NACファミリーの構造解析と機能予測 p.140
6-4 MACファミリーの進化的多様性 p.141
6-5 今後の課題 p.144

引用文献 p.146
参考図書 p.155
付録1 p.156
付録2 p.159
付録3 p.163
付録4 p.166
付録5 p.168
付録6 p.171

微生物,動物,植物の多くの種で全塩基配列の決定(全ゲノムの解読)が完了している.そして今後の研究は,ゲノム構造解析から遺伝子の機能解析へと移行し,医学,薬学,農学,工学などの幅広い分野において応用されることが期待されている.完全長cDNAは,遺伝子発現の転写段階の産物であるmRNAを逆転写して合成したDNA鎖であり,それぞれの完全長cDNAは,完全なタンパク質をコードする情報を含んでいるため,それらの収集は重要な遺伝子資源となる.本研究はイネ完全長cDNA情報をもとに,遺伝子発現において重要な役割を果たしている転写因子に注目し,イネの転写因子ファミリーの分類とその構造的特徴の解析を行った.
イネ完全長cDNA情報とゲノム解読が完了している生物のゲノムから予測される遺伝子の情報を用いて,植物(イネ,シロイヌナズナ),動物(ヒト,マウス,ショウジョウバエ,線虫),菌類(酵母)における転写因子ドメインの比較を行った.その結果,植物,動物,菌類共通に存在している転写因子に加えて,それぞれに特異的な転写因子ドメインの存在が明らかとなった.植物特異的な転写因子は,花芽形成,トライコーム形成などの植物特異的な器官形成や,植物ホルモンへの応答などの植物特異的応答に対して必要な制御因子であることが示唆され,動物に特異的にみられた転写因子は,動物特異的な形態形成や環境などへの応答に関与する転写因子であることが示唆された.また,共通にみられる転写因子は全生物の生命の維持に必要な発現に関与していると思われる.それらも生物によって転写因子ドメイン数に違いがみられた.特に植物で多くみられたMyb,MADS,HBは,植物において多様化した特異的な構造を持つことが明らかにされた.
さらにイネとシロイヌナズナの転写因子ドメインにおいて系統的解析を行った.特に転写因子ドメインの数において大きな差がみられたMADSドメインの系統的解析の結果,イネでみつかった全てのMADSドメインは,グループMIKC (MADSドメイン以外にK-boxを持つ構造)に含まれることが明らかとなった.シロイヌナズナでは,グループMα,Mβ,Mγ,Mδに分類できるドメインが存在し,シロイヌナズナ特異的な遺伝子制御があることが予測された.
植物特異的転写因子ドメインであり,茎頂分裂組織の形成・維持,花器官形成,側根形成などに必要な制御因子とされているNACファミリーに注目し, NACドメインの分類,TAR(転写活性化領域)の構造解析,マッピング解析によるexon数やNACドメインにおけるintron挿入サイトの調査を行った.NACドメインの系統的解析により,大きな2つのグループと19のサブグループに分類した.その結果,3つの単子葉植物特異的サブグループ,5つの双子葉植物特異的サブグループの存在が明らかとなり,NACドメイン構造において,単子葉植物,双子葉植物の特徴が明らかにされた.NACドメインのアライメント解析により,特に保存性の低いサブドメインEが,NACドメインの多様性に関与していることが示唆された.TARの構造解析において,多様化したTARの配列に,13のモチーフがみつかった.これらの多くは,NACドメイン構造に基づいた分類におけるサブグループ内で共通にみられ,TARの構造とNACドメイン構造の組み合わせには保存性があることが示唆された.同じ機能を持つ既知NACファミリーは,NACドメインの分類において同じサブグループに存在することから,既知遺伝子の機能と構造の関係を保持しつつ多様化していることが示唆された.これらの結果から,サブグループNAM,NAC1,OsNAC7に属するクローンは形態形成に関与することを予測し,サブグループNAP,AtNAC3,ATAF,OsNAC3に属するクローンはストレス応答に関与することを予測した.マッピング解析の結果,exon数,intron挿入サイトが明らかにされた.Exon数は3個から構成されているクローンがイネ,シロイヌナズナ共に最も多いことが分かった.さらに,イネでは2個,シロイヌナズナでは6個のexonから構成されているクローンが比較的多いことが明らかにされた.NACドメインにおけるintron挿入サイトは,イネ,シロイヌナズナともに厳密に保存されていた.さらにシロイヌナズナ特異的サブグループのクローンは第1染色体上の端にマップされ,第1染色体の端の構造が進化に関与していることが示唆された.
さらに22Kライスオリゴマイクロアレイ(カスタム版)を用いて,56個のNACファミリー遺伝子の発現解析を行った.実生植物体地上部をコントロールとして,各組織(発芽種子,茎頂分裂組織,根,成熟葉,幼穂),カルス化再分化系における各培養段階,各ストレス処理(浸透圧,塩,低温,乾燥,冠水)に対するNACファミリー遺伝子の発現のプロファイルと挙動を明らかにした.この結果,構造による分類のサブグループと発現プロファイルに関連がみられ,転写因子の構造が機能と関連しつつ多様化していることが示唆された.
 生物をつくり,生命活動を遂行するには,多くの遺伝子が関与していることは明らかであるが,これらの機能遺伝子の発現制御機構は非常に複雑である.本研究では,機能遺伝子の発現を制御する転写因子に注目したことによって,下流遺伝子の機能を予測することができた.このことから,今後の遺伝子の機能解析において転写因子の研究は重要であることが明らかにされた.

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