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ホットスポットの発生に起因した電流の振動現象に関する研究

氏名 茨木 靖浩
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第295号
学位授与の日付 平成16年3月25日
学位論文題目 ホットスポットの発生に起因した電流の振動現象に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 高田 雅介
 副査 助教授 安井 寛浩
 副査 助教授 末松 久幸
 副査 助教授 川本 昴
 副査 講師 木村 宗弘

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目次
第1章 序論 p.1
1.1 研究の背景 p.1
 1.1.1 ホットスポット現象 p.1
 1.1.2 LnBa2Cu3O7-δ(Ln:希土類元素)セラミックス p.3
 1.1.3 ホットスポットの発生機構 p.6
 1.1.4 熱平衡条件 p.10
 1.1.5 ホットスポットの移動 p.12
 1.1.6 ホットスポットを利用した各種デバイスの提案 p.14
1.2 本論文の目的と構成 p.17
参考文献 p.19

第2章 ホットスポット発生後における電流の振動現象 p.21
2.1 はじめに p.21
2.2 酸素分圧を変化させたときのホットスポットの特性 p.22
 2.2.1 実験方法 p.22
 2.2.1.1 試料の作製 p.22
 2.2.1.2 電流-電圧特性の測定 p.24
 2.2.1.3 通電中における線材の温度測定 p.25
 2.2.2 結果と考察 p.28
 2.2.2.1 X線回折パターンおよびSEM写真 p.28
 2.2.2.2 電流-電圧特性 p.30
 2.2.2.3 ホットスポットの温度 p.34
 2.2.2.4 振動電流の発生 p.37
 2.2.2.5 電流の波形の解析 p.38
 2.2.2.6 振動電流の印加電圧依存性 p.40
 2.2.2.7 振動電流の酸素分圧依存性 p.42
 2.2.2.8 振動電流の発生条件 p.45
2.3 まとめ p.49
参考文献 p.50

第3章 振動電流の発生機構 p.51
3.1 はじめに p.51
3.2 ホットスポット発生後の抵抗と温度の関係 p.52
 3.2.1 実験方法 p.52
 3.2.1.1 試料の作製 p.52
 3.2.1.2 線材の抵抗と温度測定 p.52
 3.2.2 結果と考察 p.53
 3.2.2.1 線材の抵抗変化 p.53
 3.2.2.2 線材の温度変化 p.55
3.3 SmBa2Cu3O7-δセラミックスの高温での電気特性 p.57
 3.3.1 実験方法 p.57
 3.3.1.1 試料の作製 p.57
 3.3.1.2 抵抗率の温度依存性 p.57
 3.3.2 結果と考察 p.58
3.4 線材の局所的な電気的・熱的物性 p.62
 3.4.1 実験方法 p.62
 3.4.2 結果と考察 p.63
3.5 線材の局所的な電流と電圧の関係 p.67
 3.5.1 実験方法 p.67
 3.5.2 結果と考察 p.68
3.6 振動電流の発生機構 p.70
3.7 まとめ p.72
参考文献 p.72

第4章 振動電流の周期の制御 p.73
4.1 はじめに p.73
4.2 雰囲気のガスの熱伝導率が振動電流に与える効果 p.74
 4.2.1 実験方法 p.74
 4.2.2 結果と考察 p.75
4.3 線材の断面積と振動電流の関連 p.81
 4.3.1 実験方法 p.81
 4.3.2 結果と考察 p.82
4.4 雰囲気の酸素分圧と周期の関係 p.85
4.5 振動電流と等価回路 p.86
4.6 まとめ p.88
参考文献 p.89

第5章 総括 p.90

業績一覧 p.92
謝辞 p.96

LnBa2Cu3O7- (Ln:希土類元素)セラミックス線材に、室温、空気中で閾値以上の電圧を印加すると、線材上に局所的な赤熱領域(ホットスポット)が発生し、それが電流方向に毎分数mmの速度で移動するという現象が現れる。ホットスポット現象は、様々な機能物性を有し、定電流発生素子や酸素センサ等の機能デバイスへの応用が期待できる。
 LnBa2Cu3O7- におけるホットスポットの発生には酸素欠損量 の変化が密接に関係している。この材料は典型的な酸素欠損型化合物であり、その電気特性はその欠陥の量に大きく依存する。この材料の酸素欠損量 は400oC以上において、温度上昇と酸素分圧の低下に伴い、ほぼ0~1の範囲で変化することが知られている。
 筆者は、線材の電気的特性に与える雰囲気の酸素分圧の影響を調査した結果、ホットスポットに関連する新規現象を見出した。すなわち、低酸素分圧下でSmBa2Cu3O7- セラミックス線材にホットスポットを発生させると、線材を流れる電流が振動する現象である。電流の振動現象は、単一線材に直流電圧を印加するだけで発生するという興味深い物性を有しているが、その発現機構については明確になっていない。
 本論文は、電流の振動現象の基礎的物性を調査することにより、物性発現機構の解明とデバイスへの応用の検討を行った。
 第1章「序論」では、本研究で扱うLnBa2Cu3O7- セラミックス線材におけるホットスポットの発生機構・デバイス応用について説明した。次に、LnBa2Cu3O7- の欠陥構造と電気的・熱的特性の概要についてまとめた。最後に本論文の目的と構成について述べた。
 第2章「ホットスポット発生後における電流の振動現象」では、酸素分圧を変化させたときのSmBa2Cu3O7- セラミックス線材の電気的特性を調査した。
 電流-電圧特性を調査した結果、低酸素分圧下でホットスポットを出現させると、線材を流れる電流が振動した。また、電流が振動しているときの線材の温度分布を観察したところ、電流と同様にホットスポットの温度とサイズが増減を繰り返すことがわかった。さらに、本研究で得られる振動電流を解析した結果、振幅が時間経過とともに指数関数的に減衰する超低周波の正弦波であることがわかった。振動の周期は、印加電圧の増加と酸素分圧の低下に伴い増加した。また、減衰の時定数も同様に増加した。電流の振動現象は、低酸素分圧下でホットスポットを発生させた後に、印加電圧の変化をトリガーとすることによって発現することがわかった。
 第3章「振動電流の発生機構」では、SmBa2Cu3O7- セラミックスの高温での電気的特性、ホットスポット発生後における線材の電気的特性と温度の関係を詳細に調査することにより、振動電流の発生機構を調査した。SmBa2Cu3O7- の抵抗率の温度依存性を測定した結果、本材料はPTCR(Positive Temperature Coefficient of Resistivity)およびNTCR(Negative Temperature Coefficient of Resistivity)特性を有することがわかった。さらに、ホットスポット近傍における抵抗と温度の関係を調査した結果、ホットスポットの中心部分にはNTCR領域が、端の部分にはPTCR領域が存在することがわかった。振動電流の発生は、NTCRおよびPTCR領域の温度とホットスポット自体の大きさが増減を繰り返すことによって、線材の抵抗が変化することに関係していることがわかった。
 振動電流が低酸素分圧下で現れる原因を明らかにするために、ホットスポット部分における温度と抵抗との関係を調査した。その結果、酸素分圧が低いほど、温度変化に伴う抵抗の変化量が大きかった。酸素分圧が低い場合ほど、電流の振動現象が顕著に現れるのは、PTCRおよびNTCR特性における抵抗の温度係数の絶対値が大きいことに起因することがわかった。
 第4章「振動電流の周期の制御」では、試料の形状や雰囲気の環境を変化させたときの振動電流を測定した。その結果、線材の断面積の増加、雰囲気のガスの熱伝導率の減少に伴い周期が増加した。ジュール熱による試料の温度応答の観点から検討した結果、振動電流の周期は、試料の熱容量、比表面積によって制御できることがわかった。
 この結果は、ホットスポットに関連する電流の振動現象を利用することによって超低周波発振器へのデバイス応用が期待できることを示しており、工業上有用な知見を得ることができた。
 第5章「総括」では、以上の各章で得た結果を総括し、本論文の結論とした。

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