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d10電子状態の典型金属酸化物の水の分解反応に対する光触媒作用

氏名 佐藤 淳也
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第301号
学位授与の日付 平成16年3月25日
学位論文題目 d10電子状態の典型金属酸化物の水の分解反応に対する光触媒作用
論文審査委員
 主査 教授 井上 泰宣
 副査 助教授 松原 浩
 副査 教授 野坂 芳雄
 副査 助教授 梅田 実
 副査 東京工業大学 資源化学研究所教授 堂免 一成

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目次
第1章 序論
 1.1 光触媒の背景 p.1
 1.1.1 化石エネルギーから代替エネルギーへ p.1
 1・1・2 水の光分解の歴史と現状 p.2
 1.2 本研究の目的および意義 p.12
 文献 p.14

第2章 典型金属イオンから構成される酸化物の光触媒作用
 1:In酸化物光触媒
 2.1 はじめに p.16
 2.2 実験 p.16
 2.2.1 In酸化物の作製 p.16
 2.2.1.1 共沈粉末焼成法によるIn酸化物の作製 p.16
 2.2.1.2 混合粉末焼成法によるIn酸化物の作製 p.18
 2.2.2 RuO2担持In酸化物の作製 p.18
 2.2.3 In酸化物およびRuO2担持In酸化物のキャラクタリゼーション p.21
 2.2.3.1 X線回折測定 p.21
 2.2.3.2 走査型電子顕微鏡(SEM)観察 p.21
 2.2.3.3 比表面積測定 p.22
 2.2.3.4 拡散反射スペクトル測定 p.22
 2.2.3.5 X線光電子スペクトル測定 p.23
 2.2.3.6 レーザーラマンスペクトル測定 p.24
 2.2.3.7 光触媒反応装置および反応条件 p.24
 2.3 結果 p.26
 2.3.1 水の分解反応に対するRuO2担持In酸化物の光触媒作用 p.26
 2.3.1.1 RuO2/MIn2O4(M=Ca,Sr)による水の光分解反応の経時変化 p.26
 2.3.1.2 異なる作製法により作製したCaIn2O4の光触媒活性 p.28
 2.3.1.3 光触媒活性に及ぼすRuO2の酸化温度依存性 p.28
 2.3.1.4 光触媒活性に及ぼすRuO2の担持量依存性 p.31
 2.3.1.5 光触媒活性に及ぼすCaIn2O4の焼成温度依存性 p.31
 2.3.1.6 光触媒活性の照射光波長依存性 p.31
 2.3.1.7 RuO2担持In酸化物の光触媒活性比較 p.35
 2.3.2 In酸化物およびRuO2担持In酸化物のキャラクタリゼーション p.35
 2.3.2.1 X線回折パターン p.35
 2.3.2.2 走査型電子顕微鏡(SEM)像 p.42
 2.3.2.3 比表面積測定結果 p.48
 2.3.2.4 光吸収特性 p.48
 2.3.2.5 X線光電子スペクトル測定結果 p.50
 2.3.2.6 レーザーラマン分光スペクトル測定結果 p.50
 2.4 考察 p.54
 2.4.1 光触媒活性に及ぼす因子 p.54
 2.4.1.1 RuO2担持の効果 p.54
 2.4.1.2 焼成温度が光触媒活性に及ぼす影響 p.55
 2.4.2 光触媒活性と局所構造との相関 p.56
 2・4・3 SrIn2O4の電子構造 p.62
 2.4.4 d0遷移金属光触媒およびd10典型金属光触媒の光励起過程の比較 p.65
 2.5 まとめ p.67
 文献 p.68

第3章 典型金属イオンから構成される酸化物の光触媒作用
 2:Sn及びSb酸化物光触媒
 3.1 はじめに p.70
 3.2 実験 p.70
 3.2.1 Sn及びSb酸化物の作製 p.70
 3.2.1.1 Sn酸化物の作製 p.70
 3.2.1.2 Sb酸化物の作製 p.72
 3.2.2 RuO2担持Sn酸化物およびSb酸化物の作製 p.72
 3.2.3 光触媒活性の測定 p.72
 3.2.4 SnおよびSb酸化物のキャラクタリゼーション p.72
 3.3 結果 p.73
 3.3.1 Sn酸化物の光触媒作用 p.73
 3.3.1.1 水の光分解反応の経時変化 p.73
 3.3.1.2 Sn酸化物の光触媒活性 p.75
 3.3.2 Sn酸化物のキャラクタリゼーション p.75
 3.3.2.1 X線回折パターン p.75
 3.3.2.2 走査型電子顕微鏡(SEM)像 p.78
 3.3.2.3 光吸収特性 p.78
 3.3.3 Sb酸化物の光触媒作用 p.81
 3.3.3.1 水の光分解反応の経時変化 p.81
 3.3.3.2 Sb酸化物の光触媒活性 p.81
 3.3.4 Sb酸化物のキャラクタリゼーション p.84
 3.3.4.1 X線回折パターン p.84
 3.3.4.2 走査型電子顕微鏡(SEM)像 p.84
 3.3.4.3 光吸収特性 p.87
 3.4 考察 p.87
 3.4.1 光触媒作用と局所構造との相関 p.87
 3.4.2 SnおよびSb酸化物の電子構造 p.94
 3.4.3 d10典型金属酸化物(In3+,Sn4+,Sb5+)の光触媒活性の比較 p.94
 3.5 まとめ p.96
 文献 p.98

第4章 典型金属イオンから構成される酸化物の光触媒作用
 3:Pb酸化物光触媒
 4.1 はじめに p.99
 4.2 実験 p.99
 4.2.1 Pb酸化物の作製 p.99
 4.2.2 RuO2担持Pb酸化物の作製 p.101
 4.2.3 光触媒活性の測定 p.101
 4.2.4 Pb酸化物のキャラクタリゼーション p.101
 4.3 結果 p.102
 4.3.1 d10電子状態のPb酸化物M2PbO4(M=Ca,Sr,Ba)の光触媒作用 p.102
 4.3.1.1 光触媒活性 p.102
 4.3.1.1.1 光触媒活性試験 p.102
 4.3.1.1.2 d10電子状態のPb酸化物の光触媒活性 p.102
 4.3.1.1.3 犠牲試薬を用いた可視光応答試験 p.102
 4.3.1.2 RuO2/Sr2PbO4の反応後の溶液の原子吸光測定 p.106
 4.3.1.3 d10電子状態のPb酸化物のキャラクタリゼーション p.106
 4.3.1.3.1 X線回折パターン p.106
 4.3.1.3.2 走査型顕微鏡(SEM)像 p.106
 4.3.1.3.3 光吸収特性 p.109
 4.3.2 d10s2-d10電子状態のPb複合型酸化物PbSb2O6 p.109
 4.3.2.1 水の光分解反応の経時変化 p.109
 4.3.2.2 PbSb2O6の光吸収特性 p.112
 4.3.2.3 RuO2担持Pb1-xMxSb2O6(M=Ni,Cu,Co,Mn)の光触媒活性 p.112
 4.3.2.4 Pb1-xMxSb2O6(M=Mn,Co,Ni,Cu)の光吸収特性 p.112
 4.4 考察 p.118
 4.4.1 d10電子状態のPb酸化物M2PbO4(M=Mn,Co,Ni,Cu)の光触媒作用 p.118
 4.4.2 d10s2-d10電子状態のPb複合型酸化物PbSb2O6の光触媒作用 p.121
 4.5 まとめ p.126
 文献 p.127

第5章 d10-d0およびd10-d10電子状態の金属イオンを持つ複合型酸化物の光触媒作用
 5.1 はじめに p.128
 5.2 実験 p.129
 5.2.1 複合型酸化物,酸化硫化物および窒化物の作製 p.129
 5.2.1.1 d10-d10およびd10-d0電子状態のIn複合型酸化物の作製 p.129
 5.2.1.2 d10電子状態の酸化硫化物LaInS2Oの作製 p.131
 5.2.1.3 d10電子状態の窒化物Ge3N4の作製 p.131
 5.2.2 RuO2担持光触媒の作製 p.131
 5.2.3 光触媒活性の測定 p.131
 5.2.4 複合型酸化物,酸化硫化物および窒化物のキャラクタリゼーション p.131
 5.3 結果 p.132
 5.3.1 d10-d0複合型酸化物の光触媒作用 p.132
 5.3.1.1 水の光分解反応の経時変化 p.132
 5.3.1.2 d10-d0複合型酸化物のキャラクタリゼーション p.132
 5.3.1.2.1 X線回折パターン p.132
 5.3.1.2.2 走査型電子顕微鏡(SEM)像 p.136
 5.3.1.2.3 光吸収特性 p.136
 5.3.2 d10-d10複合型酸化物の光触媒作用 p.139
 5.3.2.1 水の光分解反応の経時変化 p.139
 5.3.2.2 d10-d10複合型酸化物のキャラクタリゼーション p.139
 5.3.2.2.1 X線回折パターン p.139
 5.3.2.2.2 走査型電子顕微鏡(SEM)像 p.142
 5.3.2.2.3 光吸収特性 p.142
 5.3.4 LaInS2Oの光触媒活性およびキャラクタリゼーション p.142
 5.3.5 Ge3N4の光触媒活性およびキャラクタリゼーション p.145
 5.4 考察 p.145
 5.4.1 d10-d0およびd10-d10電子状態のIn複合型酸化物の光触媒活性 p.145
 5.4.2 d10-d10およびd10-d0電子状態のIn複合型酸化物の結晶構造 p.149
 5.4.3 d10-d10およびd10-d0電子状態のIn複合型酸化物の電子構造 p.149
 5.4.3.1 d10-d0複合型酸化物の電子構造 p.149
 5.4.3.2 d10-d10複合型酸化物の電子構造 p.153
 5.4.3.3 複合型酸化物の電子構造の比較 p.153
 5.4.4 d10電子状態の酸化硫化物LaInS2O p.155
 5.4.5 d10電子状態のGe4+の窒化物Ge3N4 p.158
 5.5 まとめ p.161
 文献 p.163

第6章 総括 p.165

本論文に関する発表論文 p.169

本論文に関する学会発表(国際会議) p.171

本論文に関する学会発表(国内) p.172

謝辞 p.175

 本研究は水の光分解反応に対して活性をもつ新規な光触媒の開発を目的とし、従来のd0電子状態の遷移金属酸化物に対し、これまでに全く研究の行われていない、d10電子状態を持つ5pグループのIn3+, Sn4+, Sb5+および6pグループのPb4+を骨格イオンとして含む典型金属酸化物、およびd10電子状態イオンに他のd10やd10s2電子状態を組み合わせた複合酸化物の光触媒作用について調べた。
 これらのd10典型金属酸化物は共沈粉末焼成法および混合粉末焼成法により作製し、その構造と電子状態に関するキャラクタリゼーションをX線回折法、走査型電子顕微鏡(SEM)観察、レーザーラマン分光法、拡散反射スペクトル法、およびX線光電子分光法により行うと共に、助触媒としてRuO2を担持し、水の光分解反応に対する光触媒活性を調べた。
 5pグループの中で、d10電子状態の典型金属イオンであるIn3+から構成される酸化物Sr1-xMxIn2O4(M=Ca, Ba), NaInO2およびLaInO3がRuO2を担持することにより水の光分解反応に対して活性な新しい光触媒となることを示し、これらのIn酸化物を構成する歪んだInO6八面体は内部に双極子モーメントを持ち、この分極場が光励起電荷の分離に有効に作用し、光触媒活性を発現するという機構を明らかにした。さらに、密度汎関数法によるバンド計算により、d10電子状態のIn酸化物では、価電子帯はO2p軌道のみで構成されるが、伝導帯は骨格金属イオンの5sおよび5pの混成軌道から構成され、この軌道は分散が大きく、励起電子が高い移動度を持つため、高い光触媒活性のが発現することを明らかにした。
 さらに、d10電子状態のSn4+およびSb5+から構成される典型金属酸化物の光触媒作用について調べ、M2SnO4(M=Ca,Sr)、NaSbO3、CaSb2O6、M2Sb2O7(M=Ca,Sr)が助触媒RuO2担持により水の光分解反応に対して活性を持つ新しい光触媒となること見出した。これらのSn酸化物およびSb酸化物を構成する歪んだMO6八面体が、光触媒活性の発現に影響を与えること、またバンド構造の計算からIn酸化物と同様に伝導帯がs+pの混成軌道から構成され、高い移動度を持つ励起電子を発生できることを示した。
 6pグループに属するd10電子状態のPb4+を含む酸化物M2PbO4(M=Ca, Sr, Ba)はO2生成能を持つこと、およびd10s2-d10電子状態の複合酸化物PbSb2O6はRuO2担持により水の分解反応に対して高活性な光触媒となることを見出した。バンド計算から、金属イオンの複合化により伝導帯がSb(5s,5p)+Pb6pの混成軌道から構成されることを明らかにした。
 さらに、異なる電子状態の金属イオンを組み合わせることによる複合化効果に着目し、d10-d10電子状態およびd10-d0電子状態の複合酸化物光触媒への展開を行った。典型金属イオンであるIn3+から構成されるd10-d10型複合酸化物Ba3In2Zn5O11、LiInGeO4およびd10-d0型複合酸化物AgInW2O8、In6WO12は助触媒RuO2担持により、水の光分解反応に対して活性な光触媒となること示した。バンド計算によりd10-d10電子状態およびd10-d0電子状態の複合酸化物の価電子帯と伝導帯を構成する軌道を明らかにした。異なる電子状態の複合化により伝導帯のみならず、価電子帯の軌道も混成を生じ、バンドギャップを狭くできることを示した。さらに酸化物の代わりにd10典型金属窒化物であるGe3N4が、RuO2担持により、窒化物として初めて水の分解反応に対して活性な光触媒となることを見出した。
 本研究の成果は、従来のd0電子状態の遷移金属主体の光触媒に対し、d10電子状態の典型金属元素から構成される金属酸化物が水の光分解反応に活性な新しい光触媒系になること、およびd10電子状態の金属イオンと他の電子状態の金属イオンの組み合わせにより高活性な光触媒となることを示したこと、およびd10典型金属窒化物が窒化物として初めて水の分解反応に対して活性な光触媒であることを見出したことであり、d10電子状態をベースとする金属酸化物、窒化物および硫化物が可視光での水の光分解反応を進行する光触媒の開発において重要な役割を持つものと結論される。

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