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金属および電極からの電子移動型反応による実践的炭素骨格形成反応に関する研究

氏名 山本 祥正
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第307号
学位授与の日付 平成16年3月25日
学位論文題目 金属および電極からの電子移動型反応による実践的炭素骨格形成反応に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 西口 郁三
 副査 教授 塩見 友雄
 副査 教授 五十野 善信
 副査 助教授 竹中 克彦
 副査 助教授 河原 成元

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目次
序論 p.1
第1章 電極還元反応によるスチレン誘導体もしくはリタクリル酸エステル誘導体のワンポット二重アシル化反応 p.15
1.1 序説 p.15
1.2 結果および考察 p.18
 1.2.1 電極還元反応によるスチレン誘導体の二重炭素-アシル化反応- p.18
 1.2.1.1 反応条件の最適化 p.18
 1.2.1.2 種々のアシル化剤の存在下におけるスチレン誘導体の二重アシル化反応 p.20
 1.2.2 電極還元反応によるメタクリル酸エステル誘導体の二重炭素-アシル化反応 p.27
 1.2.2.1 反応条件の最適化 p.27
 1.2.2.2 種々のα,β-不飽和エステル類のアシル化反応 p.29
1.3 実験 p.32
 1.3.1 試料 p.32
 1.3.2 機器分析 p.33
 1.3.3 反応装置 p.33
 1.3.4 実験操作 p.34
1.4 参考文献 p.44

第2章 金属マグネシウムからの電子移動による非対称ピナコールカップリング反応とその応用 p.47
2.1 序説 p.47
2.2 結果および考察 p.51
 2.2.1 芳香族カルボニル化合物と脂肪族カルボニル化合物の分子間非対称ピナコールカップリング反応 p.51
 2.2.1.1 反応条件の最適化 p.51
 2.2.1.2 非対称ピナーコールカップリング反応の一般性 p.54
 2.2.2 芳香族イミン類と脂肪族カルボニル化合物の分子間非対称ピナーコールカップリング反応 p.59
 2.2.3 分子内非対称ピナーコールカップリング反応 p.63
 2.2.4 ピナーコール転位反応 p.65
2.3 実験 p.68
 2.3.1 試料 p.68
 2.3.2 機器分析 p.69
 2.3.3 実験操作 p.69
2.4 参考文献 p.94

第3章 金属マグネシウムからの電子移動によるスチルベン誘導体と脂肪族カルボニル化合物の位置選択的なクロスカップリング反応 p.97
3.1 序説 p.97
3.2 結果および考察 p.100
 3.2.1 反応条件の最適化 p.101
 3.2.2 スチルベン誘導体と脂肪族カルボニル化合物のクロスカップリング反応における一般性 102
3.3 実験 p.111
 3.3.1 試料 p.111
 3.3.2 機器分析 p.112
 3.3.3 実験操作 p.112
3.4 参考文献 p.123

第4章 金属マグネシウムからの電子移動による2,3-ジヒドロフラン類の高選択的合成 p.125
4.1 序説 p.125
4.2 結果および考察 p.129
 4.2.1 反応条件の最適化 p.129
 4.2.2 2,3-ジヒドロフラン類のワンポット合成法における一般性 p.130
 4.2.3 反応中間体の解析および反応機構 p.133
4.3 実験 p.140
 4.3.1 試料 p.140
 4.3.2 機器分析 p.140
 4.3.3 実験操作 p.141
4.4 参考文献 p.148

第5章 金属亜鉛存在下におけるα,β-不飽和エステル類もしくは二トリル類,ヨウ化アルキル類およびアルキルニトリル類の位置および反応順序選択的ワンポット三成分結合反応 p.150
5.1 序説 p.150
5.2 結果および考察 p.152
 5.2.1 反応条件の最適化 p.152
 5.2.2 三成分結合反応の一般性 p.155
 5.2.3 反応機構についての検討 p.159
5.3 実験 p.161
 5.3.1 試料 p.161
 5.3.2 機器分析 p.162
 5.3.3 実験操作 p.162
5.4 参考文献 p.171

総括 p.173

謝辞 p.175

主要論文目録 p.176
参考論文目録 p.177

電子移動型反応は、深刻な環境汚染をもたらす重金属酸化剤や取り扱いに特別な注意を必要とする金属還元剤を用いることなく、"電子"という清浄な反応試薬を用いて様々な反応活性種を発生させることが可能であり、この反応活性種を目的に応じて制御して有機合成に組み込むことができる。
 このような反応活性種を発生させる手段の一つとして有機電極合成化学がある。有機電極合成化学、特に電極還元反応の基本原理は、溶媒中で反応基質となる物質への電極からの電子移動過程により活性なアニオン性反応中間体を生じさせ、この活性種を合目的的に制御して有機合成反応に組み込むことである。この活性種は、従来の有機化学における手法とは異なり、電子移動過程によって引き起こされるため、ラジカルアニオン種という特異な電子状態や反応性を示す活性種が生成する。また、電極還元反応は有機ハロゲン化物のみならず、幅広い複数の有機化合物に対して有効であり、同一反応場に存在する二種類の求電子剤のうち一方が極性反転(Umpolung)により求核剤に変換され、共存する他の求電子剤との炭素骨格形成反応が可能となる。
 一方、還元力の高いリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属やサマリウムやイッテルビウムなどの二価の希土類金属試薬を電子発生源として利用することにより、同様の反応活性種を生成させることも可能である。しかしながら、反応性が極めて高いために完全禁水、低温条件下での反応を余儀なくされるアルカリ金属や高価な希土類金属試薬を必要とするため、大量合成には不向きであり、有機合成反応としての有用性には限界がある。このような問題点を克服して温和な条件下、簡便な操作で電子移動型反応を行うことができる電子発生源として金属マグネシウムを著者の所属研究室では見出している。金属マグネシウムは安価であり、また、常温常圧下における空気中で発火する恐れはほとんどないために取り扱いが安全で容易である。更に、クロロフィル(葉緑素)や人体にも多く含まれている生体関連金属であるため、安全性および環境調和性を併せ持つ優れた還元試薬である。
 本研究では、電極および金属からの電子移動が重要な鍵段階となる電子移動型還元反応に着目し、ラジカルアニオン種という特異な電子状態を持つ反応活性種の生成・制御と炭素骨格形成反応への応用について検討した。
 第一章では、酸無水物存在下におけるスチレン誘導体もしくはメタクリル酸エステル誘導体の電極還元反応について検討した。その結果、ワンポットにてスチレン誘導体もしくはメタクリル酸エステル誘導体のオレフィン部位への二重炭素‐アシル化反応が円滑に進行し、高収率で合成中間体として非常に有用な1,4-ジケトン類が得られることを見出した。またアシル基のみならず、N-カルボアルコキシイミダゾールを使用することによりカルボアルコキシ基の導入にも成功した。
 第二章では、取り扱いや入手が極めて容易な金属マグネシウムを電子発生源として使用した芳香族カルボニル化合物と脂肪族カルボニル化合物の非対称型ピナコールカップリング反応について検討した。その結果、芳香族カルボニル化合物と脂肪族カルボニル化合物の還元電位の差と使用量の差を利用することにより、対称型ピナコールカップリング反応が抑制されて選択的に非対称型ピナコールカップリング反応が進行し、対応する1,2-ジオール類が好収率で得られることを見出した。本反応は、芳香族カルボニル化合物のみならず、芳香族イミン類に対しても有効であり、さらに分子内に二種の異なるカルボニル基を有する基質の使用により、分子内環化反応が効率的に進行することを見出した。また、本反応により得られた1,2-ジオール類のピナコール転位反応への応用により、高選択的なアルキル転位反応、環拡大反応および環縮小反応が円滑に進行することが明らかとなった。
 第三章では、金属マグネシウムを電子供給源として使用した電子移動型反応によるスチルベン誘導体と脂肪族カルボニル化合物のクロスカップリング反応について検討した。その結果、好収率にて対応するフェネチルアルコール類が得られることを見出した。また、スチルベン誘導体の片方のオレフィン部位にアルキル基を有する基質を使用したところ、立体的に不利なアルキル基が付いているオレフィン炭素と脂肪族カルボニル化合物の間で位置選択的に炭素骨格が形成されることが判明した。
 第四章では、電子移動型反応における電子供給源として金属マグネシウムを用いた芳香族-不飽和カルボニル化合物と脂肪族アルデヒド類のクロスカップリング反応について検討した。その結果、芳香族-不飽和カルボニル化合物への金属マグネシウムからの優先的な電子移動により生成するアニオン性反応活性種と脂肪族アルデヒド類の間での位置選択的な炭素骨格形成と、その後の環化・脱水反応による2,3-ジヒドロフラン類の高選択的ワンポット合成法を見出した。また、本反応の中間体の捕捉により、反応機構がより明確に考察された。
 第五章では、金属マグネシウムと同様に安全性、簡便性および環境調和性を併せ持つ金属亜鉛を利用した -不飽和エステル類(またはニトリル類)、ヨウ化アルキル類およびアルキルニトリル類または酸無水物の三成分結合反応について検討した。その結果、-不飽和エステル類(またはニトリル類)の -炭素アルキル化および -炭素アシル化がワンポットにて位置および反応順序選択的に起こり、対応する -ケトエステル類(または -ケトニトリル類)が好収率で得られることを見出した。また、3-ヨードプロピオニトリルまたは4-ヨードプロピオニトリルを反応剤として使用することによるワンポット分子間環化付加反応にも成功した。

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