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電気化学反応における重力効果-銅の無電解めっき反応解析への応用-

氏名 押切 剛伸
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第317号
学位授与の日付 平成16年6月30日
学位論文題目 電気化学反応における重力効果-銅の無電解めっき反応解析への応用-
論文審査委員
 主査 教授 山田 明文
 副査 教授 野坂 芳雄
 副査 助教授 梅田 実
 副査 助教授 小林 高臣
 副査 分析計測センター 松原 浩
 副査 青柿 良一

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目次 p.1

第1章 序論 p.1
 1.1 はじめに p.2
 1.2 物質移動に対する重力効果 p.5
 1.2.1 平行重力の場合 p.5
 1.2.2 垂直重力の場合 p.7
 1.3 反応電流解析 p.8
 1.4 無電解めっきに関する重力効果 p.8
 1.5 本論文の構成 p.10
 第1章の参考文献 p.12

第2章 重力電極を用いた平行重力場における電子移行過程の検討 p.15
 2.1 はじめに p.16
 2.2 理論 p.18
 2.2.1 重力加速度の生成 p.18
 2.2.2 平行重力における拡散電流式 p.18
 2.2.3 物質移動および電子移行における混合律速の電解電流 p.23
 2.2.4 反応・拡散混合律速式 p.25
 2.3 実験方法 p.28
 2.4 結果と考察 p.29
 2.5 結論 p.34
 第2章の参考文献 p.36

第3章 重力電極を用いた垂直重力場における電子移行過程の検討 p.54
 3.1 はじめに p.55
 3.2 理論 p.57
 3.3 実験方法 p.61
 3.4 結果と考察 p.62
 3.5 結論 p.64
 第3章の参考文献 p.65

第4章 銅の無電解めっきにおける重力効果 -電場効果と比較- p.77
 4.1 はじめに p.78
 4.2 理論 p.82
 4.3 実験方法 p.84
 4.4 結果と考察 p.85
 4.5 結論 p.90
 第4章の参考文献 p.91

第5章 総括 p.110

付録 p.114
付録 A 高重力場における微小電極上の単一対流セルの電気化学的測定 p.115
 A.1 はじめに p.115
 A.2 理論 p.116
 A.3 実験方法 p.121
 A.4 結果と考察 p.122
 A.5 結論 p.124
 付録Aの参考文献 p.126

研究業績一覧 p.1

謝辞

宇宙開発技術の発展と共に微小重力に対する関心が高まる中、重力場を応用した遠心分離技術は様々な分野で利用されている。電気化学系への重力場の影響は、自然重力のもとで重力場に対して平行に配置した、垂直つり下げ電極の近傍で生じる対流が知られている。また微小重力下での物質移動現象解明のために、微小重力のもとで反応イオンについて拡散係数の精密な測定がなされ、その結果は自然重力下での拡散係数の測定値とよく一致した。高重力場における物質移動に関しては、超遠心力下での金属の酸による溶解においてベナールセルを反映した対流セルの発生により、金属面上に溶解による特異的なパターン形成されることが報告されている。しかしながらこれらいくつかの例を除いて、電気化学反応における重力効果の解明は未だ不十分のままであると結論することが出来る。そこで、高重力場における電気化学反応解析を目指して新たに重力電極が開発された。この重力電極を用いると、電極系を高速で円運動させることで反応中の電極表面に簡単に数百Gの重力加速度を加えることが出来る。
電極系は装置寸法に比べて十分に小さいので、反応物質は地上と同じ一方向の重力を感じることができる。重力によるエネルギーは化学反応の活性化エネルギーに比べて小さいので(電位換算で数mV)、重力による電子移行過程や分子運動に対する効果は無視できる。しかしながら、反応に伴って生じる溶液の密度変化は高重力場中で様々な対流現象を生み出す。この対流は大きく分けて電極面に対し平行に重力が加わる場合と垂直に加わる場合の2種類のモードを持つ。これは対流のおこる仕組みが平行重力の場合と垂直重力の場合で大きく異なるためであり、重力が電極に平行に加わる場合には電極に沿って溶液が流れるが、重力が電極に垂直に加わる場合にはこれとは全く異なり、0.1mm程度の小さい回転する対流セルが電極上に多数発生する。これらの異なる対流は電解電流に異なる影響を与える。
本論文では、高重力場が電気化学反応に与える効果を理論的に明らかにするために、はじめに平行重力場のもとでの拡散電流密度式を導いた。平行・垂直両重力場での反応・拡散混合律速における電解電流密度式を導き出して、それぞれの重力場における反応速度解析の方法を確立した。その後フェリシアン化カリウム・フェロシアン化カリウムの酸化還元反応系で実験を行って理論の正当性を確認した。さらに、複雑な電気化学反応系であり、応用上も重要な銅の無電解めっきを外部場としての重力場で制御することを目指して、その垂直重力場効果について検討した。
本論文は全5章から構成されており、各章の概要は以下の通りである。
第1章は序論であり、本研究の背景と新規性および必要性について述べ、本研究の意義を明らかにするものである。
第2章では、特に電極に対し平行に重力が加わる場合の電気化学反応を理論的に検討した。まず電極面に沿って溶液の運動方程式と拡散方程式を理論的検討が容易な積分方程式で表し、拡散電流式を導いた。求まった式が高重力場中で成り立つことから、拡散係数は高重力場中でも一定であることが結論できる。次に平行重力場における電子移行過程についての解析のために、反応・拡散混合律速系の場合の電流密度を表す理論式を導いた。実験により式の正当性を確認するとともに、高重力場中でも反応速度係数に変化がないことを確かめることが出来た。
第3章では、電極に対し垂直に重力が加わる場合の検討を行った。電極面に垂直に重力加速度が加わる場合にすでに求まっている拡散電流式から、垂直重力場における混合律速式を導出した。次に実験により、求まった理論式の正当性を確認した。その結果、垂直重力場においても反応速度係数に変化が無いことを確認した。
第4章では、銅の無電解めっき反応の垂直高重力場効果について検討した。その結果、垂直高重力場では対流セルと銅の析出に伴う非平衡ゆらぎとの相互作用が生じないために、重力加速度とともに析出速度が増加し、結晶粒径も大きくなることがわかった。この結果は、磁場中での同じ銅の無電解めっきの結果と比較された。こちらの場合は同じ物理量のもとでの効果であっても重力場とは全く異なり、磁場とともに反応は抑制され、析出量、結晶粒ともに減少する。この相違については、2つの構造に原因を求めることができる。磁場中では生じる回転運動はさらに小さな渦運動を含んでいるために、この渦が析出反応を支配している非平衡ゆらぎと容易に相互作用をして、その結果の干渉効果によりゆらぎの抑制がおこり、反応自体が押さえられる。一方、重力場中では生じる対流セルの方は、このような微細な構造を持たないために、非平衡ゆらぎとの相互作用が起こらず、対流運動による物質移動の促進が起こると結論された。
第5章では以上述べたことを総括し、結論した。

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