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木質系バイオマス炭化物の機能性科学とその環境分野への利用に関する研究

氏名 浅田 隆志
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第325号
学位授与の日付 平成16年12月31日
学位論文題目 木質系バイオマス炭化物の機能性科学とその環境分野への利用に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 山田 明文
 副査 教授 梅田 実
 副査 教授 野坂 芳雄
 副査 助教授 小松 高臣
 副査 教授 松下 和正
 副査 及川 紀久雄

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目次

第1章 序論 p.1
 1.1 炭素材料の炭素構造による分類 p.2
 1.2 炭化過程における木材の変化 p.4
 1.3 炭化過程における細孔構造の変化 p.7
 1.4 炭化過程における表面化学構造の変化 p.7
 1.5 本研究の目的と概要 p.9
 1.5.1 本研究の目的 p.9
 1.5.2 本研究の概要 p.10

第2章 揮発性有機化合物(VOC)と臭気物質の吸着特性 p.15
 2.1 緒言 p.16
 2.2 実験 p.17
 2.3 結果 p.19
 A 比表面積および細孔分布 p.19
 B 電気抵抗測定 p.19
 C 有害ガス吸着試験 p.22
 D 臭気物質吸着試験 p.22
 E 電子スピン共鳴スペクトル測定 p.22
 2.4 考察 p.32

第3章 アミン類化合物の吸着特性 p.36
 3.1 緒言 p.37
 3.2 実験 p.38
 3.3 結果および考察 p.40
 A 500℃炭化物と活性炭の表面特性 p.40
 B 除去効率の経時変化 p.42

第4章 環境ホルモンの吸着特性 p.48
 4.1 緒言 p.49
 4.2 実験 p.50
 4.3 結果および考察 p.52
 A 炭化物の細孔特性 p.52
 B 炭化物の表面官能基 p.52
 C ビスフェノールAおよびβ-エストラジオールの吸着等温線およびFreundlichの吸着定数 p.55

第5章 木質系バイオマス炭化物の環境分野への応用 p.62
 5.1 炭化物ボードによる室内空気汚染対策 p.63
 5.1.1 緒言 p.63
 5.1.2 実験 p.64
 5.1.3 結果および考察 p.70
 A 炭化物の表面特性 p.70
 B テドラーバックにおけるガス吸着試験 p.71
 C 接着剤の影響 p.76
 D 繰り返し吸着試験 p.78
 E 実際のモデル試験室における吸着試験 p.80
 5.2 500℃炭化物と活性炭の表面特性 p.86
 5.2.1 緒言 p.86
 5.2.2 実験 p.87
 5.2.3 結果および考察 p.90
 A 500℃炭化物と活性炭の表面特性 p.90
 B 回収率と再現性 p.90
 C 抽出条件の影響 p.91
 D アンモニアガスの捕集効率 p.93
 E 捕集量と応答値の直線性 p.93
 F 実試料の測定 p.95

第6章 銅の機能性(銅ファイバーの残留塩素除去効果) p.98
 6.1 緒言 p.99
 6.2 実験 p.99
 6.3 結果および考察 p.101
 A 形状による残留塩素除去効果の比較 p.101
 B 銅繊維重量による残留塩素除去効果の比較 p.102
 C 残留塩素除去試験後の銅繊維表面の元素分析 p.102
 D 水中に溶出した銅イオン量の測定 p.105
 E 銅溶出液による残留塩素除去効果 p.105
 F 石英ウールによる残留塩素除去効果 p.108
 G 銅(2価)標準液による残留塩素除去試験 p.108
 H バソクプロイン添加による残留塩素除去抑制試験 p.111
 I DMPO(5,5-dimethyl-1-pyrroline-N-oxide)による残留塩素除去抑制試験 p.113
 J 活性酸素種発生の確認 p.115
 K 脱気水による抑制試験 p.115
 6.4 結論 p.118

第7章 総括 p.121
 7.1 まとめ p.122
 7.2 今後の展望 p.125

本研究に係わる発表論文 p.126
その他の発表論文 p.127
謝辞 p.128

木質系バイオマスの炭化物である木炭や竹炭は古くから主に燃料として使用されてきた。また、近年では土壌改良剤、調湿剤、脱臭剤、水質浄化剤等様々な分野でも利用されてきており、環境問題への関心と共に注目されてきている。しかし木炭や竹炭に関する知見は古くからの経験則によるものが多く細孔構造や表面化学構造に関する物理化学的な研究やその特色を生かした機能性に関する研究は数少ない。一方、活性炭は各種炭化物を賦活することにより得られるが、化学工業の発展に伴い、分離、精製、触媒、あるいは溶剤回収への利用、また廃水処理、公害対策用吸着剤、医療用吸着剤など広い分野で利用され、今やなくてはならないものとなっている。活性炭に関しては細孔構造、表面化学構造と様々な化学物質の吸着特性など多岐にわたって研究されている。一般に活性炭は賦活により細孔が発達し表面積が大きくなっているため竹炭や木炭に比べて吸着剤としての性能が著しく高いと思われがちである。しかし、細孔の発達した活性炭が木炭や竹炭などに比べて必ずしも優れた機能性を持っているわけではないことが最近の研究においても分かってきている。そこで本論文では木質系バイオマス炭化物である木炭や竹炭の炭化条件と各種化学物質の吸着特性との関係を検討し、室内空気汚染や脱臭、水質浄化など環境分野での木炭や竹炭および活性炭の利用について検討した。また、他材料との複合化による複合材料の開発のために銅の機能性を検討し木質バイオマス炭化物との複合化の可能性を検討した。
本論文は全7章から構成されており、各章の概要は以下の通りである。
第1章は序論であり、本研究の背景と新規性および必要性について述べ、本研究の意義を明らかにするものである。
第2章は木質系炭化物である竹炭化物の炭化温度と近年シックハウス症候群や化学物質過敏症の原因物質として問題となっているVOCや臭気物質に対しての竹炭化物の吸着除去効果の関係を検討した。竹炭化物は基本的に1000℃までの領域において炭化温度を増加させるほど細孔が発達し細孔容積、比表面積が増加するため物理吸着効果が大きく、また、400~500℃の温度域では熱分解が活発に起こっているために400~500℃で炭化した竹炭化物は表面にカルボキシル基等の官能基を多く持ち化学吸着効果が大きいことが見出された。
第3章では悪臭物質であるアミン類の脱臭剤として木炭や活性炭を利用するために、木質炭化物および活性炭への吸着特性を検討した。アミン類はいずれも塩基性のガスであるがアミノ基の数により吸着特性が異なることが確認された。吸着温度が5℃の条件ではアンモニア、モノメチルアミンは活性炭よりも500℃で炭化した炭化物の方が有効で、物理吸着効果よりも化学吸着効果が優位であり、ジメチルアミンとトリメチルアミンについては500℃で炭化した炭化物よりも活性炭の方が有効であり化学吸着よりも物理吸着の方が優位であった。さらに吸着温度が室温の条件下ではアンモニア、モノメチルアミンに加えジメチルアミンも化学吸着効果の方が優位であり、冷蔵庫等での脱臭には500℃炭化物と活性炭を混合し使用すること有効であることが示された。アンモニアだけでなくモノメチルアミンや条件によってはジメチルアミンも活性炭より500℃で炭化した炭化物が有効であることが見出された。
 第4章では近年、環境問題として多く取り上げられている環境ホルモンを吸着除去するために有効な炭化物の炭化条件を検討し、また活性炭との比較も行った。ビスフェノールAは低濃度領域では1000℃で炭化した竹炭化物が効果的であるが高濃度領域では活性炭が有効であった。また、β-エストラジオールについては1000℃の竹炭化物の方が有効であるという結果が得られた。また、吸着質の水への溶解度により1000℃の竹炭化物と活性炭の優位性が変化することさらに、細孔の発達が活性炭よりも少ないが表面極性の小さな1000℃で炭化した炭化物が疎水性の大きな物質の吸着において活性炭よりも有効であるという炭化物の機能性を見出した。
 第5章では木質系炭化物の環境分野での利用について検討し、全2項で構成されている。
 第1項では木炭を室内空気汚染対策用の建材ボードとして利用することを検討し、各種の化学物質を広く吸着除去するために約500℃の低温で炭化した木炭と約900℃の高温で炭化した木炭を混合することが重要であり、ボード化するための接着剤としては木炭の吸着効果の低減を少なくするためにアルギン酸ナトリウムを使用することが有効であることを見出した。また、実際の住宅を想定したモデルルームにおいて木炭ボードの効果を評価し実用可能であるとの見解を得た。
第2項では低温域での竹炭の利用先として大気中アンモニア分析のための捕集剤としての利用を検討した。500℃で炭化した竹炭を捕集剤として用いると大気中のアンモニアをほぼ100%捕集することが可能であり、捕集したアンモニアを硝酸で抽出しイオンクロマトグラフで分析することで簡便に大気中アンモニアの測定が可能であった。
第6章では銅の機能性として残留塩素除去効果を検討した。銅ファイバーにより水中の残留塩素も効果的に除去することが可能であり、そのメカニズムとしては活性酸素種の関与が示唆された。今後、木質バイオマス炭化物との複合化が期待される。
第7章では以上の内容を総括し、結論した。

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