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内湾停滞域での流況制御による海水交換促進の技術に関する研究

氏名 山崎 宗広
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第206号
学位授与の日付 平成15年9月17日
学位論文題目 内湾停滞域での流況制御による海水交換促進の技術に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 早川 典生
 副査 教授 福嶋 祐介
 副査 助教授 細山田 徳三
 副査 助教授 陸 旻皎
 副査 武蔵工業大学 工学部 教授 村上 和男

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目次
第1章 序論 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.2 研究の目的 p.2
1.3 研究の概要 p.5
参考文献 p.7

第2章 内湾の海水交換機構と流況制御による水質改善策 p.8
2.1 まえがき p.8
2.2 内湾の海水交換機構 p.9
2.3 内湾の海水交換の評価方法 p.10
 2.3.1 フラックス法による海水交換の評価 p.10
 2.3.2 ボックス法による海水交換の評価 p.12
 2.3.3 ラグランジュ法による海水交換の評価 p.14
 2.3.4 海水交換に係わる現象と評価時間の重要性 p.16
 2.3.5 水理模型実験における海水交換実験の手順 p.17
 2.3.6 水理模型による海水交換実験の手順 p.20
2.4 流況制御による潮汐残差流の重要性と水質改善策 p.22
 2.4.1 流況制御による潮汐残差流の重要性 p.22
 2.4.2 流況制御による水質改善策 p.22
2.5 まとめ p.24
参考文献 p.25

第3章 瀬戸内海の小内湾における環境諸特性 p.27
3.1 まえがき p.27
3.2 既往資料のデータ整理と解析 p.28
 3.2.1 小内湾の抽出 p.29
 3.2.2 小内湾の地形情報の整理と考察 p.31
 3.2.3 小内湾の海象情報の整理と考察 p.34
 3.2.4 小内湾の水質情報の整理と考察 p.36
 3.2.5 小内湾の関連情報の整理と考察 p.37
3.3 小内湾の閉鎖度と水理模型実験で扱う小内湾の諸特性 p.38
 3.3.1 小内湾の閉鎖度指標 p.38
 3.3.2 水理模型実験で扱う小内湾の諸特性 p.41
3.4 まとめ p.43
参考文献 p.44

第4章 湾口部が開放的な停滞域での流況制御による海水交換促進技術 p.45
4.1 まえがき p.45
4.2 湾口部が開放的な別府湾での現地調査 p.47
 4.2.1 現地調査の内容 p.47
 4.2.2 湾内の流動構造と考察 p.47
4.3 停滞域の流れを制御する海底構造物の設置効果 p.49
 4.3.1 海底構造物の設置効果に関する基礎水槽実験の内容 p.49
 (1)定常流場の実験に使用した水槽 p.49
 (2)振動流場の実験に使用した水槽 p.51
 4.3.2 水平二次元的な立場からみた海底構造物設置工法の評価 p.52
 4.3.3 鉛直二次元的な立場からみた海底構造物設置工法の評価 p.55
4.4 海底構造物設置工法による矩形モデル湾の基礎水槽実験 p.60
 4.4.1 矩形モデル湾の基礎水槽実験の内容 p.60
 4.4.2 海流が卓越している湾での海底構造物設置工法の評価 p.62
 4.4.3 潮流が卓越している湾での海底構造物設置工法の評価 p.65
4.5 瀬戸内海大型水理模型の別府湾における効果検証実験 p.67
 4.5.1 水理模型実験の内容 p.67
 4.5.2 海底構造物設置による湾内の流況変化 p.69
 4.5.3 海底構造物設置による海水交換の変化 p.70
4.6 まとめ p.72
参考文献 p.73

第5章 湾口部が閉鎖的な停滞域での流況制御による海水交換促進技術 p.74
5.1 まえがき p.74
5.2 湾口部が閉鎖的な徳山湾での現地調査 p.75
 5.2.1 流動調査の結果と考察 p.75
 5.2.2 流動調査の結果と考察 p.77
 5.2.3 水質調査の結果と考察 p.79
5.3 湾口地形改変工法による矩形モデル湾の基礎水槽実験 p.84
 5.3.1 冬の混合期を想定した均一流体場による基礎水槽実験 p.85
 (1)基礎水槽実験の内容 p.85
 (2)湾口地形改変による湾内潮汐の増幅機能 p.87
 (3)湾口地形改変による湾内水平循環流の強化機能 p.88
 (4)湾口地形改変による海水交換の促進 p.94
 5.3.2 夏の成層期を想定した淡塩二層流場による基礎水槽実験 p.96
 (1)基礎水槽実験の内容 p.96
 (2)実験前の塩分の初期状態 p.100
 (3)湾内の水平循環流の変化 p.101
 (4)湾内の塩分濃度の変化 p.103
 (5)湾内水と湾外水との海水交換 p.105
 (6)湾内の上下層間における海水交換 p.106
 5.3.3 水平形状の違いによる湾口地形改変の効果 p.108
5.4 瀬戸内海大型水理模型の徳山湾における効果検証実験 p.112
 5.4.1 水理模型の実験の内容 p.112
 5.4.2 湾口地形改変による潮汐・潮流の変化 p.114
 5.4.3 湾口地形改変による湾内の流況変化 p.116
 5.4.4 湾口地形改変による海水交換の変化 p.118
5.5 湾口地形改変工法の実用化に向けての提案と問題点 p.120
5.6 まとめ p.121
参考文献 p.123

第6章 結論 p.125
謝辞 p.127

流れの遅い停滞域では,外海との海水交換が小さく,そのために水質環境が極度に悪い.そのような水質環境の悪い停滞域は,瀬戸内海の閉鎖性海域に多くみられる.瀬戸内海等の閉鎖性海域の汚濁防止策として,これまでに陸側から各種の排水規制が実施されてきた.しかしながら,大都市を背後に控える海域では,有機性の汚濁物質による水質汚染は未だに改善されておらず,広い範囲で貧酸素水塊の形成や赤潮の発生といった,水質環境問題が依然として存在している.この水質環境問題の原因は,排水規制等の努力にも拘わらず閉鎖性海域に流入する汚濁負荷量が,自浄作用や海水交換によって海域外に出ていく量よりも多く,有機性の汚濁物質がその海域内に蓄積することにある.そして,その原因の主要なものとして,流れが遅く停滞域となっていることが多い.
 本研究では,環境修復技術における海水の流れの重要性に着目し,停滞域の流れを制御して汚染された湾内水と清浄な湾外水との海水交換を促進する技術について述べた.これは,構造物の設置や地形操作といった人為的手段によって,停滞性海域の流動を積極的に改変し,物理的側面から海の持つ自浄能力を改善することの可能性を検討したものである.以下に,本論文における各章の概要を述べる.
 第1章においては,本研究の背景,目的を述べ論文の構成を示した.
 第2章においては,内湾の海水交換のメカニズムとその評価方法,海水交換の大きさについて従来の研究を概観し,水理模型実験における海水交換の評価方法について述べた.
 第3章においては,瀬戸内海の小内湾を75海域抽出し,その小内湾の地形特性,物理特性,水質環境特性を既往資料より整理し,各特性の関係を示した.また,地形特性より湾を3つのタイプに分類化し,停滞域との関係を示した.湾口部に深みを持つ小内湾に対しては,閉鎖度指標と湾内外比のCODとの間に正の相関関係が認められた.
 第4章においては,湾口部が開放的な停滞域を取り上げ,流況制御による海水交換促進技術について述べた.取り上げた技術は,海底構造物設置工法である.ここでは,湾口部が開放的であっても湾内の流れが弱く停滞域となり,水質・底質が汚染されている別府湾を検討した.別府湾の夏期の現地調査より,残差環流と湾奥部での停滞域を確認した.海底構造物の設置効果を検討した基礎水槽実験より,海底構造物の流れに対する効果を明らかにした.それは,海底構造物近傍での縮流,海底構造物背後での逆流域の形成,海底構造物から剥離した渦による乱れ成分の増大であり,海底構造物を設置することで流れを変えられることを示した.矩形モデル湾の基礎水槽実験より,海底構造物の湾口部での設置は,湾外の強い流れを湾内に導入し,海水交換を促進することができることを示した.瀬戸内海大型水理模型実験より,別府湾の停滞域の解消と海水交換促進のために海底構造物設置工法が有効な手段になることが確かめられた.この海底構造物設置工法による海水交換促進のメカニズムは,水平循環流による海水交換が大きく増大しているためである.
 第5章においては,湾口部が閉鎖的な停滞域を取り上げ,流況制御による海水交換促進技術について述べた.取り上げた技術は,湾口部の深みを埋め込む湾口地形改変工法である.ここでは,湾内が停滞して水質環境の悪い徳山湾を検討した.徳山湾の現地調査より,湾奥部の停滞域を確認した.また冬期の混合期では,上層も下層も同じような流速分布を示すのに対し,夏期の成層期では上層の流れが下層の流れよりも大きくなることが観測結果より示された.冬の混合期を想定した均一流体場の基礎水槽実験より,湾口部の海底形状の違いは,湾口流速の違いや湾口で形成される渦度の発達・減衰・輸送形態の違いとして現れることが分かった.湾口部の深みを埋め込む湾口地形改変工法は,湾口部で形成される渦度を湾内に輸送させ,この渦度が湾内の循環流を促進して停滞域を解消し,海水交換の促進につながることを示した.夏期の成層期を想定した淡塩二層流場の基礎水槽実験より,湾口部に深みを持つ地形の場合,密度成層が存在すると下層よりも上層の方が流れは大きくなることが分かった.これは,密度成層が存在することにより海水の上下混合が弱くなり,上層では海底地形の深みの影響を受けることが小さくなったためである.この現象は,成層期の現地調査からも得られており,基礎水槽実験結果の妥当性が確かめられた.湾口部の深みを埋め込む地形改変工法は,成層状態でも湾内の流動規模を大きくし,海水交換を促進することができる.瀬戸内海大型水理模型実験より,徳山湾の停滞域の解消と海水交換促進のために湾口地形改変工法が有効な手段になることが確かめられた.この湾口地形改変工法による海水交換促進のメカニズムは,水平循環流による海水交換が大きく増大しているのと,湾口部での潮流の増大による海水交換が増大しているためである.
 第6章においては,第2章から第5章において得られた知見をまとめて結論とした.

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