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非単色信号で駆動されたジョセフソン接合の動特性に関する研究

氏名 高田 明雄
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第215号
学位授与の日付 平成16年3月25日
学位論文題目 非単色信号で駆動されたジョセフソン接合の動特性に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 濱崎 勝義
 副査 教授 八井 浄
 副査 教授 上林 利生
 副査 助教授 石黒 孝
 副査 助教授 末松 久幸

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目次
第1章 序論 p.1
1.1 はじめに p.1
1.2 ジョセフソン接合の高周波応用 p.3
 1.2.1 ジョセフソン電圧標準器 p.3
 1.2.2 周波数混合(ハーモニック・ミキシング) p.8
 1.2.3 高周波応用を目的としたジョセフソン接合の種類と特徴 p.9
1.3 ACジョセフソン効果のエンハンスメントに関する研究 p.13
1.4 本研究の目的と論文の内容 p.15
 参考文献 p.18

第2章 ジョセフソン接合のモデルと電流-電圧特性の解析法 p.22
2.1 理想的なジョセフソン接合とジョセフソン効果 p.22
2.2 ジョセフソン接合のモデル p.24
 2.2.1 Stewart-McCumberモデル p.25
2.3 RF駆動されたジョセフソン接合のモデル p.27
2.4 電圧源駆動された接合のモデル p.28
 2.4.1 単色信号駆動(マイクロ波照射)された接合 p.28
 2.4.2 位相ロック状態における接合電圧 p.30
 2.4.3 パルス列信号駆動された接合 p.31
 2.4.4 バイハーモニック信号駆動された接合 p.35
2.5 電流原駆動された接合のモデル p.37
 2.5.1 単色信号駆動された接合 p.37
 2.5.2 任意の周期信号で駆動された接合 p.38
 2.5.3 パルス列信号駆動された接合 p.38
 2.5.4 バイハーモニック信号駆動された接合 p.39
2.6 接合のアナログモデル p.40
 2.6.1 振り子モデル p.40
 2.6.2 洗濯板(波板)モデル p.41
 2.6.3 アナログシミュレータ p.43
2.7 数値計算による接合動特性の解析手法 p.49
 2.7.1 Euler法 p.50
 2.7.2 Runge-Kutta(Runge-Kutta-Gill)法 p.50
2.8 熱ノイズ p.51
 2.8.1 NbNナノブリッジの電圧ノイズスペクトル p.51
 2.8.2 ノイズ源を含んだジョセフソン接合のモデルおよびノイズパラメータ p.53
 2.8.3 ホワイトノイズ源を含んだアナログシミュレーション手法 p.55
 2.8.4 ホワイトノイズ源を含んだ数値シミュレーション手法 p.56
2.9 第2章のまとめ p.61
 参考文献 p.63

第3章 RF信号とジョセフ発振との位相ロックおよびその安定性 p.65
3.1 位相ロックとShapiroステップの発現 p.66
3.2 位相ロック状態の物理的解釈 p.68
 3.2.1 振り子モデルを使った解釈 p.68
 3.2.2 洗濯板モデルを使った解釈 p.69
3.3 電圧源駆動された接合の位相の振る舞い p.70
 3.3.1 単色信号駆動 p.70
 3.3.2 非単色信号駆動 p.72
3.4 位相ロックの安定性 p.75
3.5 非単色信号駆動した場合の位相ロックの安定性 p.78
 3.5.1 バイハーモニック信号駆動 p.78
 3.5.2 パルス列信号駆動 p.78
3.6 電流駆動された接合における位相ロックの安定性 p.81
 3.6.1 単色信号駆動 p.82
 3.6.2 非単色信号(バイハーモニック信号)駆動 p.85
 3.6.3 安定度のバイアス電流依存性 p.86
 3.6.4 非単色信号駆動によるACジョセフソン効果のエンハンスメントの解釈 p.91
 3.6.5 静電容量依存性 p.92
3.7 第3章のまとめ p.95
 参考文献 p.97

第4章 ジョセフソン接合におけるカオス p.98
4.1 ジョセフソン接合におけるカオスの形態 p.99
4.2 カオスの出現と各種パラメータ p.100
4.3 カオスの評価法 p.100
 4.3.1 シミュレーションして得られる電流-電圧特性のヒステリシス p.102
4.4 カオスの動作周波数・デバイスパラメータ依存 p.104
4.5 アンダーダンプされた接合のプラズマ周波数 p.108
4.6 フラクタル構造 p.110
 4.6.1 位相ロックとサブステップの出現 p.111
 4.6.2 単色信号駆動された接合のサブステップ p.111
 4.6.3 フラクタル次元 p.112
 4.6.4 パルス列駆動された接合のサブステップ p.116
 4.6.5 ポアンカレ写像とパワースペクトル p.117
4.7 第4章のまとめ p.120
 参考文献 p.121

第5章 電流-電圧特性のRF応答 p.123
5.1 電圧源駆動された接合の電流-電圧特性とShapiroステップ p.123
 5.1.1 単色信号駆動された接合のShapiroステップ高さ p.125
 5.1.2 非単色信号駆動された接合 p.127
5.2 電流源駆動された接合 p.132
 5.2.1 電流-電圧特性 p.133
 5.2.2 Shapiroステップ高さ p.135
 5.2.3 NbNナノブリッジのミリ波応答のシミュレーション p.136
5.3 ACジョセフソン効果のエンハンスメントとゼロクロス・ステップ p.138
 5.3.1 電圧源駆動された接合におけるゼロクロス・ステップ p.139
 5.3.2 電流源駆動された接合におけるゼロクロス・ステップ p.139
5.4 隣接シャピロステップ間の微分抵抗 p.147
 5.4.1 ジョセフソン接合を利用したスーパーへテロダインミキシング p.147
 5.4.2 結合パラメータ p.151
 5.4.3 ホワイトノイズを加えた電流-電圧特性のシミュレーション、および隣接ステップ間の微分抵抗 p.154
5.5 第5章のまとめ p.157
 参考文献 p.158

第6章 総括 p.160

記号表 p.164
付録 p.167
謝辞 p.176
研究業績一覧 p.177

本論文は、「非単色信号で駆動されたジョセフソン接合の動特性」と題し、ジョセフソン接合の高周波(RF)信号に対する応答性を向上させる目的で、従来駆動源に広く用いられてきた単色信号を非単色化することについて、モデルならびにシミュレーションに基づいて考察したものである。
第一章「序論」では、本研究の背景としてジョセフソン接合の高周波応用として代表的な電圧標準器および周波数混合器(ミキサ)の開発現状および今後検討すべき課題について述べている。さらには、接合のモデル化に際し、高周波デバイスとして用いられる各種ジョセフソン接合の構造に起因する接合のインピーダンス成分に着目して、接合をダンピングが弱いもの(アンダーダンプ型接合)および強いもの(オーバーアンプ型接合)の二種類に分類している。ジョセフソン接合のRF応答性を決定するACジョセフソン効果をエンハンスさせる非単色信号駆動方式について、これまで報告されてきたバイハーモニック信号駆動式およびパルス列駆動方式を踏まえ、従来の研究で不足していた点および本研究の意義を明らかにしている。
第二章「ジョセフソン接合のモデルと電流-電圧特性の解析法」では、従来の接合のRF駆動モデル、すなわち単色信号駆動された接合のモデルを、非単色信号駆動した場合に拡張し、接合の動特性を支配する方程式ならびにパラメータを明らかにしている。また、アンダーダンプ型、およびオーバーダンプ型それぞれの非単色信号駆動モデルに加え、振り子モデルや洗濯板モデルのアナログモデル、さらに、電子回路シミュレータの構成、演算性能などについて述べている。
アンダーダンプ型の接合において、従来検討されていなかったパルス列信号駆動された場合の電流―電圧特性を導き、Shapiroステップ高さの最大値はパルス列のデュティー比のみで決定されることを明らかにしている。さらに、バイハーモニック信号駆動についても、パルス近似によって得られる信号波形がShapiroステップ高さの増大に最も有効であるこという従来の研究で不足していた点を明らかにした。また、オーバーダンプ型接合の特性解析のためのアナログ・数値両シミュレーション手法について述べ、さらに熱ノイズを考慮した場合について、任意のRF信号駆動式についてシミュレーションできる方法について明らかにしている。
第三章「RF信号とジョセフソン発振との位相ロックおよびその安定性」では、ジョセフソン接合のRF応答を決める巨視的波動関数の位相差の時間変化について考察している。すなわち、単色、バイハーモニック、ならびにパルス列それぞれのRF信号で接合を駆動した場合におけるジョセフソン発振と位相ロックの安定性について振り子の回転運動の安定性に置き換えた検討を行っている。位相ロック状態をこの巨視的波動関数の位相差の時間変化、すなわち振り子の振れ角の推移から視覚的に明らかにしているが、バイアス電流依存性などをも明らかにする目的で、位相差の余弦関数をとり、それを時間平均したものを位相ロックの安定度としている。これにより、バイアス電流、RF電流振幅などのパラメータ依存の定量的な評価を可能としている。結果として、非単色信号駆動した接合においては、単色信号駆動の場合に比較して、高バイアス電流領域においても比較的強い位相ロックが得られることを確認し、そのメカニズムを洗濯板モデルから説明している。また、静電容量が位相ロックの安定度を低下させる要因となることについても言及している。
第四章「ジョセフソン接合におけるカオス」では、単色信号駆動された接合において不安定動作の要因として従来知られていたカオスについて、電流-電圧特性上の特定のバイアス点における電圧スペクトルやポアンカレ写像などから非単色信号駆動された接合についてもカオスが存在することを確かめ、さらにはカオス出現のパラメータ依存を初めて明らかにしている。また、電流-電圧特性上に現れるフラクタル構造について、パルス列信号駆動された接合の場合、単色信号でみられたカントール集合的な自己相似構造が現れないことを見出している。しかし、接合を単色信号駆動した場合と非単色信号駆動した場合のカオス出現のパラメータ依存については、大差がないことを初めて明らかにしている。
第五章「電流-電圧特性のRF応答」では、接合を非単色信号駆動した場合の電流-電圧特性のRF応答について、それぞれアンダーダンプ、オーバーダンプされた接合について考察している。特に、Shapiroステップ高さのRF信号振幅依存性については、これまで報告がなされていなかったパルス列電圧駆動した場合、およびバイハーモニック電流駆動した場合それぞれについて明らかにし、パルス列的な波形をもつRF信号駆動がACジョセフソン効果のエンハンスメント、換言すれば、Shapiroステップ高さの増大に有効であることをそのパラメータ依存も含めて総合的に明らかにしている。さらにはゼロ電流軸と交わるShapiroステップ、すなわちゼロクロス・ステップのパラメータ依存についても初めて明らかにしている。特にオーバーダンプ型の接合において、10%のデュティー比をもつパルス列で接合を駆動した場合には、最大ジョセフソン電流の約半分に相当する大きなゼロクロス・ステップが得られることを明らかにし実用価値の高さを示している。
一方、パルス列近似して得られるバイハーモニック信号を局部発振源としたジョセフソンミキサについて、隣接Shapiroステップ間の微分抵抗および結合パラメータを数値計算から求めたところ、単色信号を用いた場合に比べて約二倍の変換効率が期待できることを明らかにしている。
第六章「総括」では、本研究で得られた結果を総括的にまとめている。

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