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地方都市中心部の居住機能再構築に関する基礎的研究

氏名 樋口 秀
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第216号
学位授与の日付 平成16年3月25日
学位論文題目 地方都市中心部の居住機能再構築に関する基礎的研究
論文審査委員
 主査 教授 中出 文平
 副査 教授 松本 昌二
 副査 助教授 佐野 可寸志
 副査 金沢大学工学部 教授 川上 光彦
 副査 長岡工業高等専門学校 助教授 宮腰 和弘

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目次
第1章 序論 p.1
1.1 社会情勢の変化 p.1
1.2 研究の問題意識と目的 p.8
 1.2.1 研究の問題意識 p.8
 1.2.2 地方都市の既成市街地居住・人口減少に関するこれまでの研究展開 p.9
 1.2.3 研究の目的 p.11
1.3 基礎概念の定義 p.13
 1.3.1 居住機能の再構築 p.13
 1.3.2 地方都市 p.13
 1.3.3 地域区分としての中心部、中心市街地、都心部、都心周辺部 p.14
 1.3.4 市街地のコンパクト化 p.16
 1.3.5 土地の有効利用 p.16
1.4 研究の方法と構成 p.17
1.5 主要研究対象都市の概要 p.19
(参考資料) p.24
(補注) p.27
第2章 地方都市の人口分布の変化 p.29
2.1 はじめに p.29
2.2 全国および都道府県人口の推移 p.30
2.3 地方都市および長岡市の都市人口・世帯数、DID面積・DID人口の推移 p.32
 2.3.1 人口、世帯数の推移 p.32
 2.3.2 DID面積、DID人口密度の推移 p.33
 2.3.3 研究対象都市としての長岡市の位置付け p.34
2.4 市街地内部の人口変動 p.35
 2.4.1 既存文献から見た中心部の人口変動 p.35
 2.4.2 市街化区分別人口密度変化 p.37
 2.4.3 公共施設の利用状況-児童数の推移に着目して p.41
2.5 長岡市の都市計画と建築動向 p.43
 2.5.1 長岡市の都市計画の変遷 p.43
 2.5.2 住宅ストックの推移 p.47
 2.5.3 建築動向 p.51
 2.5.4 中高層共同住宅の建築動向 p.55
 2.5.5 中心部の市街地変容 p.58
2.6 地方都市の従業者数(昼間人口)の変化 p.61
 2.6.1 都市規模別にみた従業者数の変化 p.61
 2.6.2 中心部、商業地域内の産業構造の変化 p.63
 2.6.3 小結 p.70
2.7 まとめ p.70
 (補注) p.71
第3章 都心周辺部の土地利用および人口の物理的変化 p.73
3.1 はじめに p.73
3.2 中心部の地区類型 p.74
3.3 都市周辺部の土地利用の変化 p.77
 3.3.1 街区構造と敷地特性から見た土地利用の変化 p.77
 3.3.2 住環境から見た市街地変容 p.84
 3.3.3 小結 p.85
3.4 土地利用・人口変動と土地所有の関係 p.86
 3.4.1 土地所有状況 p.86
 3.4.2 土地・建物所有からみた土地利用・人口変動 p.87
3.5 まとめ p.90
 (補注) p.91
第4章 居住者と居住意識から見た人口減少要因分析 p.93
4.1 はじめに p.93
4.2 住居形態(所有形態)による居住者属性、居住状況、居住意識の分析 p.94
 4.2.1 戸建住宅居住世帯の居住者特性と居住意識 p.94
 4.2.2 更新住宅世帯の居住特性 p.103
 4.2.3 共同住宅居住者の居住者特性と居住意識 p.105
 4.2.4 小結 p.108
4.3 転出者から見た人口減少要因分析 p.109
 4.3.1 転出者特性 p.109
 4.3.2 家族転出者の転出行動分析 p.111
 4.3.3 小結 p.112
4.4 中高層共同住宅の居住者像と居住者意識 p.114
 4.4.1 調査の概要 p.114
 4.4.2 分譲の住戸の状況と居住者像 p.114
 4.4.3 賃貸の住戸の状況と居住者像 p.119
 4.4.4 小結 p.121
4.5 まとめ p.123
 (補注) p.124
第5章 地方都市中心部の低未利用地の実態 p.127
5.1 はじめに p.127
5.2 既往研究からみた低未利用地に関する知見と対応 p.128
 5.2.1 大都市部での低未利用地 p.128
 5.2.2 地方都市での低未利用地 p.130
 5.2.3 自治体の把握する駐車場について p.131
 5.2.4 国の土地対策と低未利用地への対応 p.132
 5.2.5 小結 p.132
5.3 地方都市中心部の屋外駐車場の分布状況 p.133
 5.3.1 研究の方法 p.133
 5.3.2 屋外駐車場の位置付け p.134
 5.3.3 中心部での駐車場の変化 p.136
 5.3.4 駐車場の変化と用途地域との関係 p.144
 5.3.5 屋外駐車場と土地利用の変化 p.145
 5.3.6 小結 p.146
5.4 駐車場の敷地特性 p.147
 5.4.1 詳細検討地区の抽出 p.147
 5.4.2 駐車場の敷地面積とその推移 p.147
 5.4.3 駐車場の権利関係 p.149
 5.4.4 小結 p.149
5.5 所有者の意識 p.150
 5.5.1 調査の概要 p.150
 5.5.2 駐車場所有者の土地利用意向 p.150
 5.5.3 駐車場化のメカニズム p.152
 5.5.4 中心街地衰退に対する意向 p.155
 5.5.5 小結 p.155
5.6 まとめ p.157
 (補注) p.158
第6章 中心部居住推進への各種計画と制度手法の検討 p.161
6.1 はじめに p.161
6.2 中心市街地活性化基本計画 p.164
 6.2.1 法制度までの市街地整備の流れと国レベルでの衰退の認識 p.164
 6.2.2 中心市街地活性化法の課題 p.167
 6.2.3 策定状況 p.173
 6.2.4 計画策定自治体の意向 p.175
 6.2.5 まとめ p.176
6.3 地方都市の各種計画の問題点-長岡市を事例として p.177
 6.3.1 基本構想・基本計画 p.177
 6.3.2 都市計画マスタープラン(都市計画MP) p.179
 6.3.3 中心市街地活性化基本計画 p.179
 6.3.4 住宅マスタープラン p.180
 6.3.5 長岡市および類似都市の計画内容 p.181
 6.3.6 長岡市独自の住宅政策 p.186
 6.3.7 まとめ p.187
6.4 現行都市計画制度の問題点 p.188
 6.4.1 区域区分制度の変遷と課題 p.188
 6.4.2 用途地域制の問題点 p.192
 6.4.3 地区計画の策定状況と課題 p.197
6.4.4 市街地開発事業等の課題 p.200
 6.4.5 中心市街地における定住人口確保策としてのまちづくり条例 p.206
 6.4.6 まとめ p.212
6.5 地価と固定資産税の課題及び低未利用地の有効活用方策の検討 p.213
 6.5.1 市街地整備の視点からみた地価の問題点 p.213
 6.5.2 固定資産税制度の抱える課題 p.215
 6.5.3 低未利用地の有効活用法策の検討 p.221
 6.5.4 まとめ p.224
6.6 まとめ p.225
 (補注) p.226
第7章 結論 p.229
7.1 結論 p.229
 (1)地方都市の人口分布の変化(第2章) p.229
 (2)中心部の市街地変容(第3章) p.230
 (3)居住者像、居住意識から見た人口減少要因(第4章) p.230
 (4)低未利用地の実態(第5章) p.231
 (5)現行の都市計画制度、市街地整備事業の問題点(第6章) p.233
7.2 提言に向けた課題の整理 p.234
 (1)中心部での人口減少・市街地衰退への計画的対応と市街地像の提示 p.234
 (2)人口減少への対応 p.234
 (3)低未利用地増加に対する防止策 p.234
 (4)独自財源の確保からみた財政上の問題 p.235
7.3 中心部居住推進への計画的提言 p.235
 (1)市街地像の提示 p.235
 (2)居住継続者支援策と新規居住者の誘導方策 p.236
 (3)低未利用地化の制御と低未利用地の有効活用方策 p.236
 (4)財政基盤の強化 p.238
 (5)居住機能の再構築に向けて p.238
7.4 今後の課題 p.239
 (補注) p.239
参考文献一覧 p.241
論文図表一覧 p.247
公表論文一覧
あとがき・謝辞

地方都市では、郊外部でのスプロール開発による市街地拡大と同時に、中心市街地の衰退が大きな都市問題となっている。今後は、人口減少、高齢化が確実な中で、市街地拡大の制御と合わせて、既成市街地内の再整備が重要となっている。そこでは、都市計画の方向性として「持続可能な都市」、「コンパクトシティの構築」といった概念が提示されているが、既成市街地内の市街地整備の詳細な方向性は示されていない。これは、人口減少、市街地の衰退に対する実態把握が不足していることに起因している。
 本研究は、中心市街地の活性化は念頭に置きつつも、都市に求められる機能の中から特に重要な居住機能に着目し、居住機能の再構築として中心部の居住密度を高めるための施策を検討するために、1)市街地変容の詳細な実態把握、2)居住密度低下の原因究明、3)地方都市の抱える都市計画上の問題点の整理、を一連の流れとして解明した。さらに、大都市での市街地整備を目的とした制度手法を用いるのではなく、地方都市の実態に即した、居住密度向上に向けた対応策を検討した。本研究は、以下に示す7章で構成されている。
 まず、第1章では、研究の背景・目的をまとめるとともに、基礎概念を定義した。
 第2章では、居住機能に着目し都市構造という観点から人口分布の変化とその要因を考察した。まず、全国および都道府県人口の推移から、自都道府県内移動が人口増減に大きく影響していることを確認した上で、地方都市および研究対象都市である長岡市の都市人口・世帯数、DID面積・DID人口の推移から、地方100都市の動向を確認するとともに、研究対象都市として長岡市の位置付けを行った。次に、市街地内部の人口変動について、長岡市を対象として市街化区分を用いた人口密度変化を考察した結果、1970年以降にDIDに編入された地域と面的な整備を行ってきた新市街地で人口密度が急激に増加している一方で、中心部(1970年DID)内で激減しており、人口密度から見た明確な中心性の低下が明らかとなった。さらに、市街化区分を用いた1990年以降の建築動向、および人口変動に大きな影響を与える中高層共同住宅の立地動向を分析した。また、従業者数の変化からは、大都市圏での中心部人口の減少は、昼間人口の増加とトレードオフの関係にあることが指摘されている中で、地方都市では人口減とともに昼間人口としての従業者数が減少している状況を明らかにした。
 第3章では、地方都市中心部の人口減少によりもたらされた市街地変容の実態を解明した。まず、長岡市を対象として、人口密度減少が激しい都心周辺部の地区に焦点を当て、街区構造と敷地特性の関係、建築活動特性、および住環境指標から市街地変容の実態を分析した。さらに、土地利用の変化に影響を与える土地・建物の所有状況を把握し、都市中心部での人口減少と市街地変容の物理的な特徴を抽出して課題を整理した。その結果、人口減少に伴い、低未利用地が増加していること、不在地主は少なく持地持家による土地建物権利の固定化が明らかとなった。
第4章では、人口減少要因を居住者の視点、すなわち居住者の意向から検証した。まず、地区内居住者の属性および意識を所有形態(戸建持家、借家、共同住宅)別に把握した。その結果、人口減少は戸建住宅居住世帯からの転出による影響が大きいこと、居住環境に満足している世帯が多いものの共同住宅では住戸面積が不十分であり転出を余儀なくされていること、高齢世帯では居住継続の可能性が低いことが明らかとなった。次に、人口減少を直接引き起こす転出者に着目して、その転出要因を分析した結果、子供を含む家族世帯の市内転出への対応策の重要性を指摘した。さらに、中高層共同住宅に着目し、分譲、賃貸といった所有形態を考慮して分析した結果、定住人口の確保、中心市街地活性化に対して一定の効果がみられるものの、世帯構造、居住満足度、定住希望の相違がみられるとともに、築後年数を経た分譲共同住宅では入居率の低下、居住者の高齢化を問題点として指摘した。
第5章では、人口減少による市街地変容の結果として生じている低未利用地の実態を明らかにした。ここでは、低未利用地のうち特に屋外駐車場に着目し、地方都市中心部を対象とした低未利用地の定量的な実態把握を行った。その結果、中心部内では、急激かつ広範囲に駐車場化が進行し、20年間で敷地数が約3倍に増加していることを提示した。さらに、登記簿調査から、敷地特性、所有状況を把握し、土地所有者に対するアンケート調査、およびヒアリング調査から駐車場化の経緯と今後の土地利用に対する意向を分析し、積極的な駐車場利用と同様に、税金対策といった消極的な理由による低未利用地発生のメカニズムを明らかにした。
第6章では、地方都市の各自治体が行う市街地整備に関する現行の都市計画、中心市街地居住推進への各種計画と制度手法の実態を検討し、中心部での住宅整備上の課題を抽出した。中心市街地活性化基本計画では、策定自治体に対する意向調査から、居住に対する対応や都心周辺部の人口減少に対する認識度が低いことが明らかとなった。次に、地方自治法による「基本構想」、都市計画法による「市町村の都市計画に関する基本的な方針」、住宅建設計画法にもとづく「住宅マスタープラン」を取り上げ、各計画間の連携の実態と課題を分析した。さらに、既存の都市計画制度として(1)区域区分、(2)用途地域、(3)地区計画、および(4)根拠法を持たない事業制度、(5)まちづくり条例を取り上げ、法改正とその背景を整理するとともに、地方都市での運用状況を確認し、地方都市の問題解決に対する課題を抽出した。さらに、中心部の整備を考える上で欠くことのできない地価、固定資産税、低未利用地活用の問題を取り上げて市街地整備上の問題点を検討した。その結果、既存の制度は運用面で課題を抱えていること、限定された中心市街地のみの計画では居住に対する整備に限界があることを示した。また、低未利用地の地権者意向から、有効活用に対する可能性が見いだせ、事業化に向けて行政によるリスク回避等の支援策の必要性を指摘した。
 第7章では、本論文で得られた結果をまとめるとともに、市街地変容の実態を踏まえた住宅整備施策、および低未利用地の有効活用方策を提案した。

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