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大気と地表面の相互作用における陸面の影響と挙動について

氏名 熊倉 俊郎
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第220号
学位授与の日付 平成16年3月25日
学位論文題目 大気と地表面の相互作用における陸面の影響と挙動について
論文審査委員
 主査 教授 早川 典生
 副査 教授 福嶋 祐介
 副査 教授 東 信彦
 副査 助教授 陸 旻皎
 副査 助教授 細山田 徳三

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目次
第一章 はじめに p.1
第一部 陸面状態と大気との相互作用 p.5
第2章 土壌水分量の評価 p.7
2.1 背景 p.7
2.2 データと手法 p.7
 2.2.1 衛生によるマイクロ波観測値 p.7
 2.2.2 GSWP p.8
2.3 結果と考察 p.9
 2.3.1 水平分布 p.9
 2.3.2 時系列分布 p.11
2.4 まとめ p.11

第3章 陸面の非均一性と数値実験の問題 p.13
3.1 背景 p.13
3.2 しようしたデータと陸面モデル p.13
3.3 水平解像度の違うデータでの被覆率の変化 p.14
3.4 大気状態を与えたときの応答の違い p.16
3.5 陸面の非均一性の水平分布 p.17
3.6 まとめ p.18

第4章 陸上植生の影響 p.21
4.1 背景 p.21
4.2 データと手法 p.22
 4.2.1 植生分布 p.22
 4.2.2 境界条件の作成 p.23
 4.2.2.1 代表的な値の導出 p.23
 4.2.2.2 実際の処理 p.23
 4.2.3 大気大循環モデル p.24
 4.2.4 数値実験 p.24
4.3 結果と考察 p.26
 4.3.1 水平分布 p.26
 4.3.2 陸面の影響 p.26
 4.3.3 大気の動き p.29
4.4 まとめ p.33

第2部 陸面を変貌させる降積雪の挙動 p.35
第5章 多層積雪モデルの構築 p.37
5.1 背景 p.37
5.2 モデル構成 p.37
 5.2.1 圧密過程 p.37
 5.2.2 降水除雪判定 p.38
 5.2.3 圧縮粘性係数 p.38
 5.2.4 新雪密度 p.39
 5.2.5 降水量計の補足率補正 p.39
 5.2.6 融雪過程 p.39
 5.2.7 積雪層内熱伝導 p.41
5.3 検証と考察 p.43
 5.3.1 観測値 p.43
 5.3.2 圧密モデルの内部誤差 p.44
 5.3.3 降水降雪判定の影響 p.45
 5.3.4 降雪量の算定とその影響 p.47
 5.3.5 積雪底面融雪の取扱い p.48
 5.3.6 新雪密度の影響 p.48
 5.3.7 各積雪層の圧縮粘性係数の影響 p.49
 5.3.8 雪温予測について p.51
 5.3.9 十日町試験地での採取結果 p.53
5.4 まとめ p.55

第6章 北陸域積雪の水平高解像度解析 p.57
6.1 背景 p.57
6.2 AMeDAS観測値 p.57
6.3 結果と考察 p.58
 6.3.1 多層積雪モデルの適用 p.58
 6.3.2 実験結果の時系列変化 p.60
 6.3.3 水平分布 p.60
 6.3.3.1 計算値と観測地の違いの水平分布 p.60
 6.3.3.2 Rと降積雪特性について p.63
6.4 まとめ p.68

第7章 降雪量の評価 p.69
7.1 背景 p.69
7.2 データと手法 p.69
 7.2.1 局地気象モデル p.69
 7.2.1.1 NHM p.69
 7.2.1.2 MM5 p.70
 7.2.2 初期、境界条件 p.70
 7.2.2.1 NHM p.72
 7.2.2.2 MM5 p.72
 7.2.2.3 実験期間と気象概況 p.72
 7.2.2.4 実験条件 p.72
 7.2.3 観測値 p.73
 7.2.3.1 地上観測 p.73
 7.2.3.2 レーダAMeDAS観測値 p.75
 7.2.3.3 GMS観測値 p.76
 7.2.3.4 高層気象観測値 p.76
7.3 結果と考察 p.76
 7.3.1 観測値での時系列比較 p.76
 7.3.2 AMeDAS観測値との差の水平分布 p.77
 7.3.3 レーダAMeDAS観測との比較 p.78
 7.3.4 雲の生成について p.80
 7.3.5 界面境界条件について p.80
 7.3.6 陸面パラメータの検討 p.82
 7.3.7 側面境界条件の検討 p.87
7.4 まとめ p.87

第8章 まとめ p.91

参考文献 p.92

謝辞 p.96

陸面は食物や水資源を人間に供給する一方で、災害の発生箇所でもある。それらの様々な現象を明らかにすることは、人間が活動する上で従来から必要なことであった。陸面は全球表面の3割の面積とはいえ、非常に広大な領域であり、しかも、気候帯毎に様々な様相を持ち、かつ、水平スケール的にも細かな異種の分布を持つ。生活に密着した地域的な陸面の研究の一方で、全球的な気候変動の一因とも考えられており、全球規模の大気を含めた研究も行なわれている。近年は、気候変動研究に伴い、陸面過程を表わす数値モデルの研究も大気循環モデルの発展と共に盛んに行なわれるようになってきた。本研究では、観測と数値モデルの比較、及び数値モデルでの大気陸面相互作用実験を基に、陸面での素過程の重要性、数値実験の限界点を明らかにした。さらに、陸面素過程からスケールアップしていくために、全球的にも局地的にも、気候的にも気象的にも比較的影響力の強い降雪、積雪、融雪の問題に焦点を当て、詳細モデルの開発とそれを駆動するための解像度の比較的高い数値実験を実施し、それぞれの重要性を示した。
第1部は問題を提起するための章を立てて、それぞれの問題点を抽出した。2章では、受動型マイクロ波衛星計測結果を基にした土壌水分量指標と、気象解析値を利用して陸面数値モデルを駆動した結果を比較し、観測値と計算値の違いから、モデル自体が含む問題点を明らかにした。3章では植生分布を大気大循環モデルに反映させるためにどうしても避けられない、解像度の低下が起こすシステム的な問題点を考察し、その地域特性の解析結果を示した。4章では、異なる植生分布を与えた時の大気陸面相互作用で起こりうる違いの解析を行った。植生の持つそれぞれの特性を考慮すれば現在気候で起こり得る植生分布が導出されており、潜在植生分布と呼ばれている。これと、現存する植生分布を用いて2種類の陸面境界条件を作成し、大気大循環モデルに与えて気候実験を行ない、両者を比較した。結果は、植生の繁茂と粗度の対応を考えると植生高さと降水量が弱い正の相関を持つことがわかり、多くの地域で矛盾ない結果となった一方で、逆相関を持つ地域もあった。その地域での大気の動きを解析することにより、モデル自体の解像度に起因するような振舞いの違いが見られることを示した。
第2部は、第1部で明らかになった、数値モデルの素過程の重要さと水平解像度の確保の重要さを踏まえて、雪氷の問題を取り上げながら、水平解像度の高い積雪層の特性分布の解析と、大気との相互作用における積雪陸面の重要性について考察を行なった。
その中で第5章では、積雪層の圧密式を基本とした乾雪を対象とした多層積雪モデルを構築し、検証を行なった。湿雪の多い地域での検証であったため、積雪層断面観測との不一致が見られたが、全積雪深の時系列は積雪過程を良く表わしていることがわかった。
第6章では、その積雪モデルを用いて、比較的水平解像度が高い定常観測点のデータを基に、モデルの乾雪の仮定との相違点を見ることによって、降雪と積雪の特性について水平面的に導出した。雪の圧縮粘性係数の変化が積雪層内に大きく現われる場所を示し、その一方で、それ以前に降水降雪の判定が気温だけの判断では難しい地域も示した。第7章では、局地気象数値モデルを用いた北陸域での降雪期の数値実験を行ない、陸面の重要性を示した。局地気象モデルでは、全球モデルに比べてはるかに水平解像度が高く、前線に伴う総観スケールの現象を良く表わしていたが、冬季の季節風下では観測値と比べて十分な降雪量が得られなかった。陸面状態を森林の比較的多い積雪面と仮定して陸面パラメータを選んだ結果、本州に近い日本海上での降雪雲の生成が観測と一致する傾向が強まり、また、陸面上での大気運動に対して積雪は陸面上の冷気キャノピーを強化する効果があり、それによる降雪量増加が見られるなど、大気に対して陸面の状況が大きく影響していることが明らかとなった。
以上から、陸面の数値モデル研究では、個々の現象を細かく解きほぐして記述し、陸面の複雑さを考慮しながら水平解像度を選び、そこからスケールアップしていくことが非常に重要であると考えられる。しかし、その空間代表性に関しては、十分に考慮されなければならない。また、積雪に関しては、融雪による消雪時期が合わない問題が重要と考えられている。その点で、精密な積雪モデルによる水熱収支解析が今後必要になっていくと考えられ、その意味で本モデルの構築は意義あるものと考えられる。

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