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カワラケツメイ(Cassia nomame)抽出物の変異抑制作用と作用成分分画法の検討

氏名 門脇 慎一
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第221号
学位授与の日付 平成16年3月25日
学位論文題目 カワラケツメイ(Cassia nomame)抽出物の変異抑制作用と作用成分分画法の検討
論文審査委員
 主査 教授 山元 晧二
 副査 教授 福本 一朗
 副査 教授 渡辺 和忠
 副査 助教授 本田 元
 副査 助教授 高原 美規

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目次
緒言 p.1
1.背景と目的 p.1
2.発ガンと変異 p.2
3.変異原性を検定する試験法と変異抑制試験 p.3
4.マイトマイシンC(MMC)について p.5
5.チャイニーズハムスター卵母細胞K1株(CHO-K1)について p.6
6.本論文の構成 p.7
第1部 カワラケツメイ抽出物の変異抑制作用 p.10
1章 緒言 p.10
1.1 はじめに p.10
1.2 カワラケツメイについて p.11
1.3 カワラケツメイ抽出物の調製法 p.12
1.4 カワラケツメイ抽出物の添加前処理および培地添加量 p.12
2章 カワラケツメイ抽出物の染色体異常抑制作用 p.14
2.1 染色体異常試験法の原理 p.14
2.2 染色体異常試験の結果と発ガン性との相関 p.16
2.3 染色体異常抑制試験 p.16
2.4 方法 p.17
 2.4.1 用いた細胞と培養条件 p.17
 2.4.2 マイトマイシンC(MMMC)処理 p.17
 2.4.3 染色体異常試験法 p.17
2.5 結果と考察-マイトマイシンCのクラストゲン作用に対する p.18
 2.5.1 染色体異常の判定 p.18
 2.5.2 カワラケツメイ抽出物の染色体異常抑制効果 p.22
 2.5.3 カワラケツメイ抽出物がMMCで処理した細胞の細胞周期を遅らせる可能性 p.23
 2.5.4 染色体異常抑制試験のまとめ p.25
3章 マイトマイシンC処理後の第一細胞周期の遅延 p.26
3.1 はじめに p.26
3.2 M期同調法と分裂周期測定について p.26
3.3 1細胞コロニーと2細胞コロニーの比率変動のグラフについて p.27
3.4 方法 p.28
 M期同調法ー p.28
 MMC処理に対する抽出物の効果ー p.29
 コロニーの観察ー p.29
3.5 結果-マイトマイシンC処理の有無と抽出物添加の有無による細胞周期長の変化- p.31
3.6 考察 p.32
3.7 本章のまとめ p.34
4章 MMC処理後の細胞増殖 p.35
4.1 はじめに p.35
4.2 方法 p.35
4.3 結果と考察 p.37
 4.3.1 カワラケツメイ抽出物の細胞増殖回復作用 p.37
 4.3.2 MMC処理後第一細胞周期の遅延 p.38
 4.3.3 カワラケツメイ抽出物によるMMC処理後第一周期の遅延とその後の増殖 p.38
4.4 本章のまとめ p.39
5章 フォーカス試験 p.40
5.1 フォーカス試験の原理 p.40
5.2 Balb/3T3 A31-1-1細胞について p.42
5.3 方法 p.42
 5.3.1 用いた細胞と培養条件 p.42
 5.3.2 フォーカス試験法 p.43
5.4 結果と考察-マイトマイシンCの変異原性に対する抽出物の抑制効果- p.45
5.5 本章のまとめ p.47
6章 総合考察 p.48
6.1 変異原に対するカワラケツメイ抽出物の作用 p.48
6.2 染色体異常頻度抑制試験と細胞周期 p.48
6.3 MMCで誘導された染色体上の傷のカワラケツメイ抽出物による修復 p.49
 6.3.1 抽出物は細胞周期制御機構に直接作用しない p.49
 6.3.2 細胞周期と修復機構は深く結びついている p.50
 6.3.3 カワラケツメイ抽出物は修復機構と細胞周期制御機構共通の制御機構に関する p.51
6.4 カワラケツメイ抽出物の効果 p.52
6.5 カワラケツメイ抽出物の可能性 p.54
第2部 カワラケツメイ抽出物の有効成分の探索 p.54
1章 エタノール沈殿上清画分の変異抑制作用 p.54
1.1 はじめに p.54
1.2 エタノール沈殿上清画分の染色体異常抑制試験の方法 p.55
 1.2.1 エタノール沈殿上清画分調製 p.55
 1.2.2 染色体異常抑制試験 p.56
 用いた細胞と培養条件ー p.56
 マイトマイシンC(MMC)処理ー p.56
 染色体異常試験法ー p.57
1.3 結果と考察-エタノール沈殿上清の染色体異常抑制効果- p.57
2章 エタノール沈殿上清のHPLC分析 p.59
2.1 はじめに p.59
2.2 材料および方法ーHPLC条件ー p.59
2.3 結果と考察 p.60
3章 エタノール沈殿上清の粗分画と画分の染色体異常抑制効果 p.62
3.1 はじめに p.62
 3.1.1 粗分画法の確立 p.62
 3.1.2 画分の混合物の染色体異常抑制効果を調べる意味 p.64
3.2 方法ー分画法および画分の染色体異常抑制試験法ー p.66
 3.2.1 分画法 p.66
 n-ブタノール抽出ー p.66
 逆相中圧カラムー p.67
 順相中圧カラムー p.68
 3.2.2 染色体異常抑制効果の検討に行う画分について p.68
 3.2.3 各画分の染色体異常抑制試験法 p.70
3.3 結果 p.70
 3.3.1 エタノール沈殿上清の効果 p.70
 3.3.2 各画分の染色体異常頻度 p.71
3.4 考察ー各画分の染色体異常抑制作用についてー p.73
4.1 材料およびHPLC分析方法 p.77
4.2 結果 p.78
4.3 考察ークルマトグラムの比較ー p.90
第3部 有効成分探索に用いる試験法の提案 p.93
1章 緒言 p.93
1.1 はじめに p.93
1.2 非同調系による染色体異常試験の問題点 p.93
1.3 第1部3章のM期同調法の問題点 p.95
2章 M期シェイク同調法 p.96
2.1 はじめに p.96
2.2 M期シェイク同調法の採用について p.96
2.3 原理と改良点 p.97
2.4 方法 p.99
 2.4.1 継代法 p.99
 2.4.2 同調法 p.101
2.5 同調率の確認 p.103
2.6 同調後の通常培養における細胞周期の確認 p.103
2.7 MI積算曲線の作成と解釈 p.105
2.8 染色体標本から測定されるMIの換算と積算値の算出法 p.106
2.9 M期シェイク同調法のまとめ p.109
3章 細胞周期同調系の積算マイトティックインデックスの解析 p.111
3.1 同調化細胞のステージ分布は正規分布に従う p.111
3.2 M期同期細胞集団の積算マイトティックインデックス p.112
3.3 fM(t)の数値解析 p.116
4章 通常培養条件での細胞周期 p.119
5章 MMC処理におけるMI細胞周期の変動 p.122
6章 MMC処理後のカワラケツメイ抽出物原液処理におけるMI細胞周期の回復 p.125
7章 M期同調系における染色体異常 p.129
7.1 MMC処理後基本培地での培養における染色体異常頻度の再現性 p.129
7.2 MMC処理後カワラケツメイ抽出物添加培地での培養における染色性異常頻度 p.130
M期シェイク同調法を用いた染色体異常抑制試験のまとめ p.134
総合考察 p.136
第4部 補足 p.138
引用文献 p.146

本研究は、ガンの発生を抑える効果のある成分を植物抽出物から探し出すことを目的として行ったものである。緑茶の発ガン抑制作用や漢方薬の薬理作用などに示されるように、植物の代謝産物が動物に対しさまざまな生理作用をもつことが知られている。マメ科植物は、動物体内で生産される機能性物質に構造が似た成分を産出するという植物全般には見られない特徴を持つので、発ガン抑制作用を有する成分を含有する可能性が比較的高いと考えた。入手したマメ科の野草のうち、カワラケツメイ抽出物にマイトマイシンCによる染色体異常誘発を抑制する作用が見られたことから、カワラケツメイ抽出物の効果を詳細に試験した。紫外線や食品中に含まれる発ガン性物質は細胞内のDNAに変異を引き起こす能力があり、変異誘発に対して細胞の防衛または修復機構が正常に働かなければ、細胞はガン細胞へと変化すると考えられている。
化学物質の発ガン性を予測する試験法に、染色体異常試験法とフォーカス形成試験法がある。In vivoにおいて発ガン性が確認された物質の多くは、動物培養細胞に染色体異常を誘発し、接触阻止を起こさなくなるトランスフォーメーションを引き起こす。接触阻止を消失した細胞が出現すると、培養器内でこの細胞が増殖して細胞塊を作る。これは、一種の腫瘍にあたり、フォーカスと呼ぶ。本研究では、DNAの架橋剤であるマイトマイシンCを用いて、動物培養細胞のCHO-K1に染色体異常を誘発させ、BALB/3T3-A31-1-1細胞にトランスフォーメーションを誘発させた。検体であるカワラケツメイ抽出物がマイトマイシンCで誘発されるはずの染色体異常とフォーカス形成の発生を抑制すれば、カワラケツメイ抽出物にガンの発生を抑える効果がある可能性が示されたことになる。
CHO-K1細胞を2.5μMマイトマイシンC(MMC)で1時間処理し、洗浄後、通常の培地とカワラケツメイ抽出物を添加した培地で培養を行い、それぞれの染色体異常頻度を計測した。さらに、BALB/3T3-A31-1-1細胞を用いたフォーカス試験を同様に行った。MMCにより誘発された染色体異常頻度およびフォーカスの形成率は、カワラケツメイ抽出物添加培地で培養した場合の方が添加していない培地の場合に比べ有意に低かった。カワラケツメイ抽出物は発ガンを抑制する成分を含んでいる可能性が示唆された。
染色体異常抑制試験の結果から、カワラケツメイ抽出物にMMC処理した細胞の細胞周期を遅延させる作用が予想された。この遅延効果について、M期同調化CHO-K1細胞を用いた試験で確認したところ、カワラケツメイ抽出物がMMC処理後の第一細胞周期を遅延することが確認された。第二細胞周期以降における遅延効果の持続を確認するため、細胞増殖試験を行った。MMC処理した細胞はMMCの傷害性により増殖が抑制されるが、抽出物添加培地で培養することにより増殖が通常の培養時と変わらない程度まで回復することが明らかになった。MMC無処理の細胞をカワラケツメイ抽出物添加培地で培養した場合、M期同調化細胞による試験(MMC処理後第一細胞周期)と細胞増殖試験(第二細胞周期)のいずれにおいても細胞周期への遅延は観察されなかった。
細胞内の細胞周期制御機構は、通常時において修復機構とは独立に細胞周期の制御を行っている。細胞に発ガン物質などのストレスが加わることにより、修復機構を誘導する上流機構が同時に細胞周期制御機構に働き、G1期停止などに導くことが分かっている。カワラケツメイ抽出物は、ストレスの無い通常時には、細胞周期を遅延させないことから、細胞周期制御機構に直接的に作用しないと言える。MMC処理のストレスを与えられ、修復機構を誘導する上流機構が働いたと考えられるときに、カワラケツメイ抽出物の細胞周期遅延効果が見られることから、カワラケツメイ抽出物がDNA修復と関連性のある細胞周期制御機構に作用している可能性が示唆された。
カワラケツメイ抽出物に含まれる上記の効果を有する作用成分を特定するために、ブタノール-水系液液抽出により2つの中間画分に分け、さらにシリカゲル担体中圧カラムとゲルろ過中圧カラムを用いて、4つの画分を得た。各画分の効果を染色体異常試験で検定した結果、単独で有効性を示す分画と、単独では有効性を示さないが、他の成分と混ぜることにより協働的に作用を示す分画が見つかった。この各画分のHPLC分析との照合から、有効成分の主体は水溶性で比較的非極性な領域のピークに、補助的効果を示す成分が極性領域にあることが分かった。この粗分画の結果から成分ピークの絞込みを行い、有効成分同定に向けて逆相HPLCクロマトグラムのどのピーク群を分画し作用検定を行えばよいかの指針を示した。
有効成分同定手法において、作用検定の予想される回数が膨大なものとなるため、作用検定法の簡略化と、同時に非同調細胞を用いた作用検定法のさまざまな欠点の改良を試み、M期同調化染色体異常試験法を確立した。本法のプロトコールを示し、マイトテックインデックス(分裂指数)を用いて細胞周期の追跡が可能なことを明らかにした。本法を用いると、非同調細胞を用いた試験法では数値化できないMMC処理した細胞の何割について染色体を観察できたかの指標を示すことができ、より信頼性の高いデータを提示できることを明らかにした。有効成分を特定する手法として、M期同調化染色体異常試験法を応用して、HPLCによる分画物を検定する方法を提案した。

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