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周波数サンプリングフィルタバンクを用いたサブバンド適応フィルタに関する研究

氏名 山田 洋士
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第224号
学位授与の日付 平成16年6月16日
学位論文題目 周波数サンプリングフィルタバンクを用いたサブバンド適応フィルタに関する研究
論文審査委員
 主査 教授 神林 紀嘉
 副査 教授 島田 正治
 副査 教授 吉川 敏則
 副査 助教授 岩崎 政彦
 副査 教授 貴家 弘志
 副査 助教授 張 熙

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目次

第1章 序論 p.1
 1.1 本研究の背景と目的 p.1
 1.2 本研究の概要 p.2

第2章 FSFバンクの設計 p.5
 2.1 まえがき p.5
 2.2 FSFバンクの定義 p.6
 2.2.1 QMFバンク p.6
 2.2.2 周波数サンプリングフィルタバンク p.7
 2.3 2種類のFSFバンク p.8
 2.3.1 EM-FSFバンク p.9
 2.3.2 CM-FSFバンク p.10
 2.4 FSFバンクの設計 p.12
 2.4.1 EM-FSFバンクの設計法 p.12
 2.4.2 CM-FSFバンクの設計法 p.13
 2.4.3 設計例 p.14
 2.5 FSFバンクのポリフェーズ構成 p.17
 2.5.1 EM-FSFバンク p.17
 2.5.2 CM-FSFバンク p.17
 2.6 まとめ p.19

第3章 最大間引きDFT-FSFフィルタバンクを用いたシステム同定 p.20
 3.1 まえがき p.20
 3.2 DFT-FSFバンク p.20
 3.2.1 ポリフェーズDFTフィルタバンク p.20
 3.2.2 提案するDFT-FSFバンク p.21
 3.3 周波数サンプリング定理に基づくシステムの同定 p.23
 3.3.1 離散周波数サンプル値によるシステム同定 p.23
 3.3.2 適応アルゴリズム p.27
 3.4 演算量の検討 p.28
 3.5 シミュレーション例 p.29
 3.6 周波数領域適応フィルタとの関係 p.31
 3.7 まとめ p.33

第4章 DFT-FSFアルゴリズムの収束値解析と間引き率の拡張 p.34
 4.1 まえがき p.34
 4.2 離散周波数点での同定のための評価関数 p.34
 4.2.1 離散周波数点でのエリアスフリー性 p.34
 4.2.2 評価関数の定義 p.35
 4.3 DFT-FSFアルゴリズムの収束値解析 p.37
 4.3.1 統計的性質に基づく収束値解析 p.37
 4.3.2 シミュレーション例 p.40
 4.4 まとめ p.43

第5章 時間領域で局在するインパルス応答の推定への適用 p.44
 5.1 まえがき p.44
 5.2 問題の定義 p.45
 5.3 DFT-FSFアルゴリズムによる周波数領域での同定 p.46
 5.4 時間領域で局在するインパルス応答の推定 p.47
 5.4.1 推定インパルス応答の冗長性(M≧Lの場合) p.48
 5.4.2 提案する推定法(L≧M≧Nの場合) p.48
 5.4.3 提案法の制限 p.50
 5.4.4 固定遅延Dの推定 p.51
 5.5 演算量の検討 p.52
 5.6 シミュレーション例 p.54
 5.6.1 IRER収束特性 p.54
 5.6.2 LMSアルゴリズムとの比較 p.55
 5.7 まとめ p.60

第6章 適応フィルタのためのスクランブル処理を用いた入力信号の白色化 p.61
 6.1 まえがき p.61
 6.2 提案法と直流オフセットの影響 p.62
 6.2.1 提案する白色化手法 p.62
 6.2.2 M系列の直流オフセット(47) p.64
 6.2.3 直流オフセットの影響 p.64
 6.3 白色化効果の確認 p.65
 6.3.1 有色性の改善 p.65
 6.3.2 直流オフセットの改善 p.66
 6.3.3 直流オフセットが変動する場合 p.68
 6.4 まとめ p.68

第7章 結論 p.70
謝辞 p.73
参考文献 p.74
本研究に関する発表論文 p.79

適応フィルタは、エコーキャンセラや能動騒音制御など伝達関数の推定を行うことにより不要成分の打消しをオンライン的に行う応用や、伝送路等化器など伝送路の特性を補償するための応用において重要な役割を担っている。フィルタバンクを用いて帯域を分割し、複数のサブバンドで適応係数の更新を行うサブバンド適応フィルタでは、信号の間引きを行うことで高次のフィルタの適応問題を低レートで動作する複数個の低次の適応問題に帰着させることができる。しかしながらサブバンド符号化等で利用される従来のフィルタバンクでは、その完全再構成条件がアナライザとシンセサイザの間にフィルタが挿入された場合に無意味になるため、間引きの際のエリアジングの影響が回避できないという問題がある。
 本論文では、このような問題の改善策の一つとして、従来のフィルタバンクとは異なるクラスのフィルタバンクを利用したサブバンド適応フィルタが有効であることを示している。本論文で示すフィルタバンクは、各サブバンド内においてエリアジングが生じない周波数点が存在するという特徴を有しており、離散周波数点におけるエリアスフリー性の性質に基づいて各サブバンドでの適応動作を行っている。本論文は7つの章から構成されており、第1章では序論として本研究の背景と目的を示している。第2章以降の概要を以下に示す。
第2章では、本論文の基礎となるFSF(frequency sampling filter)バンクの定義とその一般的な設計法について論じている。FSFバンクは、等間隔離散周波数点においてエリアジングを生じない性質を有する新しいクラスのフィルタバンクである。離散周波数点における完全再構成条件を満足する解は無数に存在するが、本章ではそれらの解の中で最低次数のFSFバンクを得る設計法を示している。
第3章では、最大間引きDFT(discrete Fourier transform)-FSFフィルタバンクを用いた適応フィルタの実現について述べている。最大間引きDFT-FSFバンクは、2章で述べたFSFバンクに包含されるクラスのフィルタバンクであり、各バンドに1点のみのエリアスフリー点を有する特徴がある。この種類のFSFバンクは、FFT(fast Fourier transform)を用いて効率的に実現することが可能である。本手法では、フィルタ長Mの適応フィルタの係数更新処理をM分割の最大間引きDFT-FSFフィルタバンクと各サブバンドあたり1個の適応係数の組み合わせにより実行しており、サブバンド適応フィルタにおけるレート低減効果を最大限に高めた構成を実現している。また、すでに知られている従来の周波数領域適応フィルタとの関係についても言及している。
第4章では、第3章で述べたDFT-FSF適応アルゴリズムの収束値解析を示している。まず、DFT-FSFアルゴリズムの解析モデルを示すとともに、評価関数を定義している。次いで、評価関数を最小化することにより、等間隔離散周波数点における未知システムの周波数領域サンプル値を推定可能であることを示している。また、間引き率選択における自由度についても論じている。
第5章では、第3章で述べた 分割のDFT-FSFアルゴリズムを時間領域で局在するインパルス応答の推定問題へ適用する手法について論じている。伝送路に遅延を含む系などに適用されるエコーキャンセラでは、模擬すべき未知インパルス応答(応答長 とする)におけるエネルギの大きい部分が時間軸上の局部的な位置に集中して存在する場合がある。本論文では、これを時間的に局在するインパルス応答と呼び、応答長 のインパルス応答の主応答部(エネルギ大の部分)と条件によって変化する遅延部分 から構成されているインパルス応答としてモデル化している。提案法は離散周波数点において未知インパルス応答推定を行っているため、遅延 の影響が推定結果の円状シフトとして現れる特徴を有している。この性質を利用すると、 を満たすM個の適応係数で所望のインパルス応答を推定可能であり、同時にタップ割り当て問題の複雑度が時間領域の適応手法の場合に比較しておよそ に減少することを指摘している。
第6章では、適応フィルタのための入力信号の白色化手法について述べている。一般に、適応フィルタの入力信号の平均は零であり直流オフセットなしと仮定されている。平均が零でない場合には、平均値を推定し信号値から減算する処理を行う必要がある。平均値が零である仮定が成立しない場合には、正しい解への収束が保証されない。さらに、入力信号の有色性は、多くの適応アルゴリズムにおいて収束特性の劣化をもたらす要因の一つとなっている。提案法では、PN(pseudorandom noise)系列を利用することにより従来の白色化手法では考慮されていない直流オフセットを含む有色入力に対しても効果的な白色化を実現している。適応フィルタおよび未知システムの入力にともにPN系列を乗じることが許されるいくつかの応用においては、本手法が適用可能である。
最後の第7章では、上記の各章で述べた手法の要点と主要な成果を要約し、本論文をまとめている。

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