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ガスタービンエンジン用超耐熱合金の開発に関する研究

氏名 大野 丈博
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第4号
学位授与の日付 昭和63年12月31日
学位論文の題目 ガスタービンエンジン用超耐熱合金の開発に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 田中 紘一
 副査 教授 小林 勝
 副査 助教授 鈴木 俊夫
 副査 助教授 武藤 睦治
 副査 東京工業大学 教授 鈴木 朝夫

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第1章 序論 p.1
1.1 ガスタービン用材料について p.1
1.2 単結晶超耐熱合金の概略と本研究の目的 p.6
1.3 恒温鍛造の概略と本研究の目的 p.9
第2章 Ni基単結晶超耐熱合金のクリープ破断強度に及ぼす時効処理条件の影響 p.11
2.1 緒言 p.11
2.2 実験方法 p.12
2.3 実験結果および考察 p.14
2.3.1 時効処理後の組織 p.14
2.3.2 1040℃-137MPaクリープ p.19
2.3.3 760℃-750MPaクリープ p.26
2.3.4 結果のまとめおよび考察 p.31
2.4 結言 p.34
第3章 Ni基単結晶超耐熱合金の合金設計 p.36
3.1 緒言 p.36
3.2 Ni-Cr-Al-W-Ta-Ti系合金の合金設計 p.36
3.2.1 合金設計 p.36
3.2.2 実験合金の選定 p.41
3.2.3 実験方法 p.41
3.2.4 実験結果および考察 p.44
3.3 Ni-Cr-Al-W-Ta-Mo系合金の合金設計 p.48
3.3.1 合金設計 p.48
3.3.2 組織要因パラメーターの分布および実験合金の選定 p.53
3.3.3 実験方法 p.55
3.3.4 実験合金の評価と組織要因パラメーターの限定 p.55
3.3.5 有望合金の特性および考察 p.63
3.4 開発合金の特性評価 p.69
3.4.1 実験方法 p.69
3.4.2 クリープ破断特性に及ぼす時効処理条件の影響 p.72
3.4.3 耐食、耐酸化性の評価 p.72
3.4.4 クリープ破断強度の比較 p.72
3.5 結言 p.78
第4章 大気中恒温鍛造用金型材料の開発 p.79
4.1 緒言 p.79
4.2 実験方法 p.79
4.3 実験結果および考察 p.81
4.3.1 既存のNi基鋳造合金の評価 p.81
4.3.2 新合金の開発 p.84
4.3.3 開発合金Nimowalの特性 p.90
4.3.4 Nimowal合金の大気中恒温鍛造への適用 p.101
第5章 超耐熱合金の大気中恒温鍛造 p.105
5.1 緒言 p.105
5.2 大気中恒温鍛造装置 p.106
5.3 Waspaloyの大気中恒温鍛造 p.106
5.3.1 実験方法 p.106
5.3.2 実験結果 p.110
5.3.3 考察 p.116
5.4 IN-100の大気中恒温鍛造 p.124
5.4.1 実験方法 p.124
5.4.2 実験結果および考察 p.124
5.5 結言 p.128
第6章 結論 p.133
参考文献 p.137

 本論文は、ガスタービンエンジンに関する超耐熱合金のうち、主として、タービンブレード用Ni基単結晶超耐熱合金およびタービンディスク成形のための大気中恒温鍛造用金型材の開発について研究を行ったものである。
 第1章ではNi基単結晶超耐熱合金および恒温鍛造の概略と本研究の目的について述べた。
 第2章では、Ni基単結晶超耐熱合金のクリープ破断強度に及ぼす時効処理条件の影響について、既存の合金NASAIR100とCMSX-3を用いて系統的な研究を行い、単結晶超耐熱合金のミクロ組織を最適化するための条件を明らかにした。
 すなわち、両合金とも時効処理温度が高くなるにつれ、γ'粒子の粗大化と、不規則配列→規則配列→γ/γ'界面への転位網形成という変化を示すが、この変化を起こす時効処理温度は、γ、γ'相の格子定数のミスマッチと関係していること、クリープ破断強度は、1040℃-137MPaおよび760℃-750MPaの条件のいずれの場合も、クリープ開始時において立方体形状のγ'粒子が規則正しく配列した組織である時が最も高く、これは、1040℃-137MPaのクリープにおいてはraftの完成度、760℃-750MPaのクリープにおいては転位によるγ'のcutting機構からby-pass機構への変化と関連付けられることを明らかにした。
 第3章では、既存合金以上のクリープ破断強度を有しかつ組織安定性にすぐれた合金を開発することを目的に、Ni基単結晶超耐熱合金の合金設計を行った。
 本合金設計では、従来用いられていた電子空孔数、γ、γ'相格子定数ミスマッチなどの組織要因パラメーターに加え、γ、γ'相の固溶強化度を同時に表すためのγ、γ'相格子定数の単純平均値、また単結晶合金に特有の固溶化処理に関し、共晶γ'相の残存およびα-W等の析出を規制するための、固相線温度および固溶限指数の、合計3種の新しいパラメーターを導入した。
 第1次合金設計は、Ni-Cr-Al-W-Ta-Ti系合金について行ったが、Wの高い領域でのα-Wの析出、TaまたはTiの高い領域での熱処理windowの低下の問題があり、有望合金は見出せなかった。
 第2次合金設計は、Moの効果に着目し、Ni-Cr-Al-W-Ta-Mo系合金について行い、三角座標上での組織要因パラメーターの分布を計算し、実験的検討と合わせて組織要因パラメーターの制限を明確にし、有望組成領域を見出した。この領域は、従来合金に比較しMoを多く含む側に存在する。有望組成領域より選んだ開発合金は、組織安定性にすぐれ、かつ既存合金を大幅に上回るクリープ破断強度を示した。
 第4章では、タービングディスクの製造に関し、耐酸化性および高温強度の優れた大気中で使用可能な恒温鍛造用金型材の開発を行った。これは従来、金型にMo基合金を使用し、金型の酸化防止のために真空または不活性ガス中で行っていた恒温鍛造を、大気中で行うことを目的としたものである。
 耐酸化性および高温強度の優れた金型用材料として、Crを含まず、MoやW等の重元素を多量に固溶できる特殊な型のNi基鋳造合金に着目し、まず既存のCrを含まない合金の特性を評価しこの型の合金が恒温鍛造用金型材として有望である見通しを得た。次に、より特性の優れた合金を開発するため、Crを含まない系統の数種の実験合金について検討し、Ni-10% Mo-12% W-6% Al-0.01%Y合金、Nimowalを得た。
 さらにNimowalの諸特性をMo基合金TZM及び既存のNi基鋳造合金Mar-M200と比較し、短時間圧縮強度は950~1000℃ではMar-M200と同等、1050~1100℃ではMar-M200より高く、TZMと同等、圧縮クリープ強度は1000~1100℃においてMar-M200を上回り、耐酸化性はMar-M200とほぼ同等、被削性はMar-M200より良好であるという結果を得た。
 第5章では、開発した金型材Nimowal合金を用いて、インゴットから鍛造によって製造されるタイプの代表的超耐熱合金Waspaloy、および粉末冶金法により製造されるタイプの代表的超耐熱合金IN-100の大気中恒温鍛造を行い、所定の形状のディスクを成形して特性を検討した。
 両合金ディスクの大気中恒温鍛造においてNimowal製金型の損傷は見られず酸化も問題ない程度であり、Nimowalが大気中恒温鍛造用金型材として十分使用できることを確認した。鍛造したディスクの組織、機械的性質は良好であった。Waspaloyについては、普通鍛造材と異なる特性の挙動を示したのでその強化機構を解析した。
 第6章では、本研究にて得られた結果を要約した。
 本研究で開発したNi基単結晶超耐熱合金、および大気中恒温鍛造金型用合金は、ガスタービンエンジンのタービンブレードの高性能化およびタービンディスクの製造の効率化に大きく寄与するものと考えられる。

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