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酸化物高温超伝導体に関する研究

氏名 松田 元秀
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第39号
学位授与の日付 平成3年3月25日
学位論文の題目 酸化物高温超伝導体に関する研究
論文審査委員
 主査 助教授 高田 雅介
 副査 教授 山下 努
 副査 教授 松下 和正
 副査 助教授 弘津 禎彦
 副査 助教授 石崎 幸三
 副査 助教授 小松 高行
 副査 東京大学 教授 柳田 博明

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目次
第1章 緒言 p.1
§1-1 本研究の背景 p.1
§1-2 セラミックスの性質 p.4
§1-3 本研究の目的 p.5
§1-4 本論文の構成 p.5
参考文献 p.7
第2章 酸化物高温超伝導体について p.8
§2-1 はじめに p.8
§2-2 酸化物高温超伝導体の特徴 p.8
§2-3 Ba2ReCu3O7-δ(Re=Y, Gd, Lanthanide)系超伝導体の性質 p.15
§2-4 Bi系超伝導体の性質 p.18
§2-5 まとめ p.21
参考文献 p.22
第3章 Ba2ReCu3O7-δ系の超伝導特性と焼成工程 p.26
§3-1 はじめに p.26
§3-2 実験 p.27
§3-2-1 試料の作製 p.27
§3-2-2 生成相の同定および格子定数測定 p.27
§3-2-3 組織観察 p.28
§3-2-4 組成分析 p.28
§3-2-5 密度測定 p.29
§3-2-6 抵抗率測定 p.29
§3-2-7 臨界電流密度測定 p.33
§3-2-8 磁化測定 p.34
§3-3 実験結果と考察 p.35
§3-3-1 焼成温度と微細構造 p.35
§3-3-2 焼成温度と格子定数および超伝導転移温度 p.41
§3-3-3 微細構造と零抵抗温度 p.44
§3-3-4 微細構造と臨界電流密度 p.49
§3-3-5 磁気特性 p.51
§3-3-5-1 Ba2GdCu3O7-δ系の磁化特性 p.51
§3-3-5-2 微細構造と磁化ヒステリシス p.54
§3-3-5-3 低磁界における磁化特性と磁束の侵入過程 p.58
§3-3-5-4 微細構造と低磁界における磁化特性 p.69
§3-3-5-5 微細構造と反磁性を示す部分の体積割合 p.78
§3-4 まとめ p.82
参考文献 p.83
第4章 Bi(Pb)-Sr-Ca-Cu-O系の超伝導特性と焼成工程 p.86
§4-1 はじめに p.86
§4-2 実験 p.87
§4-3 実験結果と考察 p.88
§4-3-1 焼成温度と微細構造 p.88
§4-3-2 焼成温度と超伝導特性 p.94
§4-4 まとめ p.101
参考文献 p.102
第5章 Bi(Pb)-Sr-Ca-Cu-O系の超伝導特性と冷却工程 p.103
§5-1 はじめに p.103
§5-2 実験 p.104
§5-3 実験結果と考察 p.105
§5-3-1 冷却速度と超伝導特性 p.105
§5-3-2 急冷した試料の超伝導転移温度および格子定数 p.110
§5-3-3 アニール温度と超伝導特性 p.117
§5-3-4 アニール雰囲気と超伝導特性 p.128
§5-4 まとめ p.135
参考文献 p.136
第6章 結言 p.138
謝辞 p.140
業績一覧 p.141

 近年発見された酸化物高温超伝導体はセラミックスであり、粒子、粒界および空孔などを有する複雑な微細構造を持つ。一般に、セラミックスが示す特性はその微細構造に強く影響され、さらにその微細構造は粉体合成をはじめとするいろいろな工程の諸因子に強く依存することが広く知られている。それゆえ、作製プロセスの違いによる微細構造および諸特性の変化を調べることは材料開発を行う上で大変有意義なことであり、プロセシングの理解なしに所望の機能を持った超伝導体は作れないといっても過言でない。このような観点から、本研究では将来実用材料として有望視されているBa2GdCu3O7-δ系およびBi(Pb)-Sr-Ca-Cu-O系超伝導体の作製プロセス微細構造に与える影響を検討し、さらにその微細構造と超伝導特性の関係を明らかにすることを目的とした。
 本論文は「酸化物高温超伝導体に関する研究」と題し、次の6つの章より構成されている。
 第1章「緒言」では、酸化物高温超伝導体の発見の意義に触れ、今後その超伝導体の実用化を考えていく上で、酸化物高温超伝導体がセラミックスであることに着目した検討が必要であることを述べた。そして、セラミックスが持つ性質を示し、酸化物高温超伝導体の作製プロセスが微細構造および超伝導特性に与える影響について検討することの重要性を述べた。
 第2章「酸化物高温超伝導体について」では、酸化物高温超伝導体が持つ共通の特徴並びにBa2GdCu3O7-δ系とBi系高温超伝導体の性質を概説した。そして、高い転移温度を得るにはBa2GdCu3O7-δ系では酸素中での熱処理が、またBi系においてはPbの添加が有用であることを述べた。
 第3章「Ba2GdCu3O7-δ系の超伝導特性と焼成工程」では、Ba2GdCu3O7-δ系超伝導体作製の焼成温度が微細構造に与える影響を検討し、さらにその微細構造と超伝導特性の関係を明らかにすることを試みた。その結果、950℃以上で焼成した試料の粒界には、Baが多くGdが少ない第二相が析出していることを発見した。さらに、この第二相が臨界電流密度および磁化特性を大きく低下させることを明らかにした。また、下部臨界磁界以下で、試料内への磁束の侵入に起因する磁化の変化が観測された。その磁束は弱結合部が存在する粒界に侵入し、試料表面から粒界を通じて試料内部に徐々に入って行くことを述べた。さらに、この磁束の侵入過程は微細構造に大きく依存することを明らかにした。そして、低磁界における磁化特性で、磁束が粒界に侵入した後、再び磁化が直接的に変化しだす磁界が高い試料ほど、高い臨界電流密度を示す傾向にあることを指摘した。また、粒子径が小さい試料では磁場侵入による影響を強く受け、反磁性を示す部分の体積割合が著しく小さくなることを示した。
 第4章「Bi(Pb)-Sr-Ca-Cu-O系超伝導特性と焼成工程」では、Bi(Pb)-Sr-Ca-Cu-O系超伝導体作製時の焼成温度が微細構造および超伝導特性に与える影響について検討した。その結果、現在、100K以上の零抵抗温度を持つ試料を得るには、低酸素圧下で長時間焼成(約50時間~200時間程度)することが望ましいといわれているが、本研究では焼成温度を最適化することによって、24時間という比較的短い焼成時間でも100K以上の零抵抗温度を持つ試料の作製が可能であることを見出した。また、焼成温度とかさ密度の関係を検討した結果、一般的なセラミックスの焼成とは異なり、焼成温度の増加にともない試料のかさ密度は減少する傾向を示すことを指摘した。これは、Bi(Pd)系超伝導体特有の薄片状粒子が無秩序に成長することに起因していることが走査型電子顕微鏡観察から明らかとなった。
 第5章「Bi(Pb)-Sr-Ca-Cu-O系超伝導特性と冷却工程」では、Bi(Pb)-Sr-Ca-Cu-O系超伝導体作製時の冷却速度が超伝導特性に与える影響について検討した。その結果、
 1):100℃/h程度で冷却した試料では100K以上の零抵抗温度を示したが、
 2):非常に遅い冷却速度(<10℃/h)で得た試料および急冷した試料ではその零抵抗温度は85K以下の値に留まることを見出した。急冷した試料の零抵抗温度が低下した原因は、高い転移温度を得るために必要となる酸素が急冷試料の格子内に吸収されていないためであることが分かった。一方、非常に遅い速度(<10℃/h)で冷却した試料では、high-Tc相からなる粒子間に弱結合部が生成し、その影響で零抵抗温度が低下したことがあきらかとなった。さらに、その弱結合部の生成は熱処理雰囲気の酸素分圧に強く依存することを示し、これにはhigh-Tc相中へのPbの固溶度が深く関係していることを述べた。
 第6章「結言」では、第3章から第5章で述べた結果と知見を要約し、さらに超伝導材料開発における幾つかの指針を述べた。

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