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分布型水文情報に対応する流出モデルの開発

氏名 陸 旻皎
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第47号
学位授与の日付 平成3年3月25日
学位論文題目 分布型水文情報の対応する流出モデルの開発
論文審査委員
 主査 教授 早川 典生
 副査 教授 後藤 巌
 副査 教授 小川 正二
 副査 助教授 小池 俊雄
 副査 東京大学 教授 虫明 功臣

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目次
1 序論 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.2 研究の必要性 p.3
1.3 研究の目的 p.4
1.4 本論文の構成及び内容 p.5
2 モデルの構築 p.7
2.1 モデルの概要 p.7
2.2 流出量の推定 p.9
2.3 疑河道網の算出手法 p.10
2.3.1 入力データの整備 p.10
2.3.2 メッシュ点における最急勾配方向の算出 p.12
2.3.3 各点の集水面積と勾配の計算 p.13
2.3.4 計算例 p.13
2.4 疑河道網における直接流出の追跡 p.15
2.5 基底流出の追跡 p.16
2.6 疑河道網における河道則 p.16
2.7 河道則を利用した最適追跡手順の決定 p.20
2.8 疑河道網算出手法の検討 p.22
2.8.1 幾何学的検討 p.22
2.8.2 モデル応答特性の検討 p.23
2.9 まとめ p.23
目次 ii
3 モデルパラメーターに関する検討 p.29
3.1 山地小流域の川幅及び粗度に関する現地調査 p.29
3.2 現地調査の結果 p.32
3.2.1 川幅について p.34
3.2.2 山地小河川の流れ抵抗について p.35
3.3 Manningの粗度係数の流下方向での変化 p.36
3.4 河道特性モデル及びその流出モデルへの組み込み p.37
3.5 実験流域での洪水解析 p.38
3.5.1 白坂の洪水解析 p.38
3.5.2 裏筑波試験地山口川での洪水解析 p.39
3.6 まとめ p.43
4 水文現象の数値シュミレーション p.44
4.1 降雨時空間分布の流出への影響 p.44
4.1.1 降雨空間分布について p.44
4.1.2 雨域の移動について p.47
4.2 河道特性の流出への影響 p.51
4.3 流出成分の分離について p.56
4.4 まとめ p.60
5 モデルの実流域への適用 p.62
5.1 魚野河での洪水解析 p.62
5.2 利根川での洪水解析 p.68
5.3 渡川での洪水解析 p.72
5.4 まとめ p.77
6 結論 p.78
A 流域の抽出方法 p.81
B 本研究で得られた擬河道網 p.83
C 河道特性の流出への影響 p.91
目次 iii
D 謝辞 p.96
参考文献 p.97

 水文学、特に流出解析において、流出の発生、集中過程はきわめて複雑であり、強い非線形性を持つ現象である。その上に、その生起場となる流域斜面の特性と、入力となる降雨が時間的空間的に絶えず変化している。一方、リモートセンシング技術の発達と地理情報システムの整備などにより、流出現象の入力と生起場に関する情報が確保可能になりつつあり、これらの情報を取り入れた流出解析法を確立することがきわめて重要となっている。本論文では、実用的で、様々な水文素過程を取り入れうる拡張性を有する分布型降雨流出モデルの開発を行う。すなわち、レーダー雨量を入力とし、国土数値情報標高データを用いた分布型洪水流出モデルの開発を中心とし、モデルの構築から、モデルの実用性にわたって、検討を行うものである。
 第一章では、本研究の位置付けと目的について述べる。第二章では、本研究で開発した分布型降雨流水モデルの詳細について説明する。第三章では、モデルパラメーターの流域内の分布状況を調べるために行った山地小流域における川幅及びManningの粗度係数nの現地調査を報告し、調査結果をモデルに組み込む。第4章では、モデルを用いて降雨の時空間分布の流出への影響を数値シミュレーションにより調べる。第5章はモデルを実河川に適用し、その実用性を検討する。第六章では、各章の結語をまとめ、本論文の結論を述べる。各章で得られた成果を以下に示す。
 第二章は、モデルの基本的な考え方、構造及びモデルの構築に必要なデータ及び計算アルゴリズムを示す。本モデルでは、流域にメッシュを掛け、流域面積を正方形あるいは正方形に近い長方形メッシュによって表現する。雨量から、各メッシュでの流出量を算出し、それを直接流出成分と基底流出成分に分離する。後者は集中型である貯留関数法によって流出高に変換され、前者は擬河道網を介して、流域の出口までKinematicWave法で追跡計算される。両者の和が流出ハイドログラフとなる。ここで擬河道網は、各メッシュ点における水の流下方向を、周囲8点との間の勾配が最大となる方向として、流域地形情報を用いて算出するものである。本研究では、地形情報から擬河道網を自動的に算出するアルゴリズムを開発し、擬河道内の洪水追跡法及び擬河道網内の最適追跡手順を提示した。また、モデルの構造上のパラメーターであるメッシュサイズと座標系による算出擬河道網及びモデルへの影響についても検討を行い、魚野川のような地形条件に対し、100m~500mの範囲では、流域集水面積分布と流路長へのメッシュサイズの影響が小さいことが明らかになった。モデルの応答としての流出特性はメッシュサイズが100m、250mの場合には大きな差がないが、500mの場合にはある程度違いが生じることが分かった。
 第三章では、実験流域、東京大学農学部演習林白坂流域と建設省裏筑波試験地山口川流域において、洪水追跡に必要なパラメーターである渓流の川幅とManningの粗度係数nについて現地調査を行い、それらの空間分布を得た。川幅は流下方向に大きくなる傾向にあり、各河道断面の川幅がほぼその集水面積の平方根に比例する。また、Manningの粗度係数nは集水面積の増大に伴い減少する。これらの結果を河道特性モデルとして定式化し、分布型降雨流出モデルに組み込み、両流域の洪水解析に適用した結果、実測ハイドログラフと計算ハイドログラフの間によい一致が得られた。
 第四章は数値シミュレーションにより、流域内における降雨の空間分布と雨域移動の流出への影響を明らかにするものである。すなわち、降雨空間分布の流出への影響は主に流路長分布によるものであり、また雨域が流路方向に移動する場合には、降雨強度と雨域移動速度に応じてハイドログラフに大きな違いが生じるを示した。また、河道特性の流出に及ぼす影響も河道特性モデルのパラメーターの感度解析により明らかにした。さらに、流出及び水質負荷の同時追跡により、河道集中の流出、水質濃度、流出成分分離への影響が示され、水質濃度を用いた流出成分分離で得られた基底流出に、河道集中が大きな影響を及ぼしうることを明らかにした。
 第五章では、構築した流出モデルを用いて、魚野川、利根川と渡川の計8流域に発生した実洪水の予測計算を行った。用いた雨量データはいずれも気象庁のレーダーアメダス合成値で、時間雨量である。流量データは時間毎の値である。モデルによる予測計算流量は実測流量を全般的によく再現した。全般的にみて、計算の洪水ピークが速く出る傾向があるが、これは本モデルの流出量計算に洪水毎の流出係数と直接流出配分率を用いたためであり、流出量計算の詳細を考慮することによって改善されるものと思われる。また、第三章で得られた河道特性モデルを用いる事により、同一流域内の異なる流量地点に同じパラメーターを使えることが明らかになった。
 以上、本論文では、分布型降雨流出モデルを開発し、それを実験流域から実流域までの洪水に適用し、幅広くその実用性を検証して、モデルの有用性を実証した。

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