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自己回帰モデルを用いた振戦疾患自動鑑別システムの基礎研究

氏名 岡田 清
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第193号
学位授与の日付 平成14年9月18日
学位論文題目 自己回帰モデルを用いた振戦疾患自動鑑別システムの基礎研究
論文審査委員
 主査 教授 福本 一朗
 副査 教授 神林 紀嘉
 副査 教授 山元 皓二
 副査 教授 渡邊 和忠
 副査 助教授 高原 美規

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第1章 序論 p.1
 1.1 研究の背景と目的 p.1
 1.2 論文の構成 p.4

第2章 被験者、測定方法、ROC(receiver operating characteristic)解析の概要、及びAR(autoregressive)モデルの概要 p.5
 2.1 被験者 p.5
 2.2 測定方法 p.7
 2.3 ROC(receiver operating characteristic)解析の概要 p.8
 2.3.1 ROC曲線 p.8
 2.3.2 ROC曲線の利用法 p.10
 2.4 AR(autoregressive)モデルの概要 p.13

第3章 線形予測係数による鑑別 p.15
 3.1 第3章でのデータの取り扱いについて p.15
 3.2 主要振戦周波数 p.15
 3.3 ARモデルの次数 p.17
 3.4 線形予測係数による鑑別…年齢による差を考慮しない場合 p.18
 3.5 線形予測係数による鑑別…年齢による差を考慮する場合(75歳以下と76歳以上) p.22
 3.6 線形予測係数による鑑別に関する考察 p.32
 3.7 第3章のまとめ p.33

第4章 特性方程式の根を用いる鑑別 p.35
 4.1 第4章でのデータの取り扱いについて p.35
 4.2 ARモデルの次数 p.35
 4.3 特性方程式の根の数学的な考察 p.35
 4.4 解析方法 p.39
 4.5 特性方程式の根を用いる鑑別に関する結果 p.39
 4.5.1 データの概要 p.39
 4.5.2 振戦加速度のパワについて p.44
 4.5.3 実軸上に存在する特性根の符号について p.48
 4.5.4 利き腕の振戦の基本共振周波数における周波数帯域幅とその分散について p.49
 (1)健常高齢者とパーキンソン病患者 p.53
 (2)健常高齢者と本態性振戦患者 p.53
 (3)健常高齢者と振戦疾患患者 p.54
 (4)パーキンソン病患者と本態性振戦患者 p.55
 (5)ARモデルの次数を変化させたときの検討 p.55
 4.6 特性方程式の根を用いる鑑別に関する考察 p.56
 4.6.1 実軸上に存在する特性根の符号について p.56
 4.6.2 利き腕の振戦の基本共振周波数における周波数帯域幅とその分散について p.57
 4.6.3 パーキンソン病患者の利き腕と非利き腕について p.58
 4.7 第4章のまとめ p.64

第5章 ARモデルの特性根と物理モデルパラメータとの関係 p.66
 5.1 拮抗する二つの筋肉を考慮した前腕の生理的振戦 p.66
 5.1.1 生理的振戦の基本式の誘導 p.66
 5.1.2 比較の対象とする生理的振戦のデータ p.72
 5.1.3 生理的振戦の基本式の妥当性の検討…シミュレーション p.76
 5.2 ARモデルの特性根と式(5-28)の近似解との関係 p.80
 5.3 ARモデルの特性根と物理モデルパラメータの関係式のまとめ p.83
 5.4 第5章のまとめ p.86

第6章 結論 p.87

謝辞 p.90

参考文献 p.91

論文目録 p.96

 我々は神経変性疾患において患者数の多い疾患であるパーキンソン病に注目し, その前腕の振戦を解析することによって類縁疾患からの鑑別支援システムを構築すべく研究を行ってきた. 類縁疾患としては, 振戦のみを単独の症候とする疾患である本態性振戦があげられる.
 パーキンソン病は緩徐進行性であるがL-Dopaをはじめとする薬物が著効を示すことから, 発症が1~2年未満の初期における診断が重要である. それは初期における治療の選択が, 予後に大きな影響を及ぼすためである
 厚生省特定疾患・神経変性疾患調査研究班によるパーキンソン病の診断基準では, 自覚症状, 神経所見で1以上の項目に該当し, 臨床検査所見で異常がなく, 鑑別診断でどの項にも該当しない場合にパーキンソン病と判定することになっている. これは, 敏感度と特異度が共に高い診断基準ではあるが項目も多く複雑であり, また, 患者がパーキンソン病を念頭に置いていない一般内科を訪れた場合には, 脳梗塞などの診断で長く経過を見られるなど, この診断基準を適用されない場合も生じ得る.
 このことから, パーキンソン病の初期における診断支援のために, 前腕の振戦を解析することによる類縁疾患からの鑑別支援システムの構築を急ぐ必要がある.
 これらの背景のもとに, 本研究の目的を次の2点とした.
( 1 )パーキンソン病の初期における診断支援のために, 従来から用いられている高速フーリエ変換を用いた前腕の振戦の主要振戦周波数に加えて, AR(autoregressive)モデルのパラメータを診断のために用いることを提案する.
 鑑別すべき群は,「パーキンソン病患者群」,「本態性振戦患者群」,「健常高齢者群」の3群である. 類縁疾患からの鑑別支援システムという観点から, これらのパラメータは, たとえばある患者が「パーキンソン病患者である確率が何%増加する, あるいは何%減少する」というように用いられる.
( 2 )次に, このARモデルのパラメータが, 前腕の物理モデルのパラメータとどのように結びつけられるかを明らかにする.
 生理的振戦や病理的振戦の詳細な観察を基礎とする, 筋肉の動きや振戦の数理モデルに関する優れた報告は多い. しかし, 現在までに提案されている数理モデルは局所的な筋肉の動きや振戦を記述する段階にとどまり, 上肢, 下肢のように身体の大きな部分の振戦を記述する微分方程式のような数理モデルの提案はない. 本研究では机上に肘をついた姿勢での, 拮抗する2つの筋肉を考慮した前腕の生理的振戦を記述する2階の非線形微分方程式を導く. そして, ARモデルのパラメータと, この非線形微分方程式のパラメータとがどのような関係にあるのかを明らかにする.
 結果として, ARモデルのパラメータを用いることにより, 主要振戦周波数のみでは難しかった健常高齢者群と振戦疾患患者群の鑑別を可能にすることができた. また, ARモデルのパラメータと前腕の物理モデルのパラメータとの関係を明らかにしたことにより,物理モデルのパラメータがどのように変化すると振戦疾患になるのかを研究する道を開くことができた.
 本論文は第1章~第6章で構成されるが, 以下に各章の概要を述べる.
 第1章では, 本研究の背景と目的について述べる.
 第2章では, 本論文全体に共通な事柄, 即ち, 被験者, 測定方法, ROC(receiver operating characteristic)解析の概要, ARモデルの概要を述べる.
 第3章では, ARモデルの線形予測係数によって, パーキンソン病患者群, 本態性振戦患者群, 健常高齢者群を鑑別できるかどうかを検討する. 最初に年齢による差を考慮しない場合, 次に本能性振戦患者では加齢とともに振戦の周波数が低くなることから, 年齢による差を考慮する場合(75歳以下と76歳以上)について検討する. なた, 先行研究である主要振戦周波数による鑑別の結果とも比較する.
 第4章では, 7次のARモデルの特性根の幾何学的配置, 特性根の値から計算される基本共振周波数における周波数帯域幅, その周波数帯域幅の標準偏差によって, パーキンソン病患者群, 本態性振戦患者群, 健常高齢者群を鑑別できるかどうかを検討する.
 第5章では, まず拮抗する二つの筋肉のモデルを用いて, 前腕の生理的振戦をシミュレートする2階の非線形微分方程式を導く. 次にこの物理モデルのパラメータと, ARモデルのパラメータとがどのような関係にあるのかを明らかにし, 第3章, 第4章で用いたARモデルのパラメータの物理的な意味を明らかにする.
 最後に第6章では, 本研究で得られた結果をまとめ, 今後の課題と展望を述べる.

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