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触媒反応支援 CVD 法によるワイドバンドギャップ半導体薄膜の成長とデバイス応用に関する研究

氏名 三浦 仁嗣
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第534号
学位授与の日付 平成22年3月25日
学位論文題目 触媒反応支援 CVD 法によるワイドバンドギャップ半導体薄膜の成長とデバイス応用に関する研究
論文審査委員
 主査 准教授 安井 寛治
 副査 教授 打木 久雄
 副査 教授 濱崎 勝義
 副査 准教授 木村 宗弘
 副査 准教授 加藤 有行

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目次
第1章 序論 p.1
 1.1 緒言 p.1
 1.2 炭化ケイ素(SiC)成長に関する研究 p.2
 1.3 酸化亜鉛(ZnO)成長に関する研究 p.3
 1.4 本研究の背景と目的 p.8
 1.5 論文構成 p.9
 参考文献 p.10
第2章 Hot-mesh CVD法を用いたSiC薄膜成長 p.12
 2.1 緒言 p.12
 2.1.1 立方晶SiC(3C-SiC)ヘテロエピタキシャル成長 p.12
 2.1.2 SiC on Insulator 構造について p.15
 2.1.3 SiC MEMS について p.18
 2.1.4 これまでの研究 p.20
 2.1.5 HM-CVD法について p.21
 2.2 評価方法 p.25
 2.2.1 膜厚評価 p.25
 2.2.2 結合状態 p.25
 2.2.3 結晶性、配向性 p.26
 2.2.4 表面モフォロジ― p.30
 2.2.5 断面の観察 p.30
 2.3 Si(100)上へのSiC成長 p.31
 2.3.1 はじめに p.31
 2.3.2 これまで p.31
 2.3.3 実験結果と考察 p.31
 2.3.4 まとめ p.35
 2.4 水素原子密度評価 p.36
 2.4.1 はじめに p.36
 2.4.2 実験結果と考察 p.36
 2.4.3 結果と考察 p.39
 2.4.4 水素原子密度評価 p.39
 2.4.4-1 水素原子密度時間依存の評価 p.39
 2.4.4-2 形状の違いによる水素原子密度評価 p.41
 2.4.4-3 水素原子密度メッシュ温度依存性 p.43
 2.4.4-4 水素原子密度とSiC結晶成長との関係 p.45
 2.4.5 まとめ p.48
 2.5 極膜SOI基板上へのSiC成長 p.49
 2.5.1 はじめに p.49
 2.5.2 実験条件 p.49
 2.5.3 実験結果と考察 p.51
 2.5.3-1 ドライエッチングによって20nmまで膜層化したSOI基板上へのSiC成長 p.51
 2.5.3-2 top-Si層厚依存性 p.57
 2.5.4 まとめ p.63
 2.6 MEMS構造作製 p.64
 2.6.1 はじめに p.64
 2.6.2 MEMS製作手順 p.64
 2.6.3 実験結果と考察 p.66
 2.6.4 まとめ p.72
 2.7 結論 p.73
 参考文献 p.75
第3章 CEW-CVD法を用いたZnO薄膜成長 p.77
 3.1 緒言 p.77
 3.1.1 ZnO膜作製法 p.80
 3.1.2 本研究での新規手法(CEW-CVD法) p.82
 3.2 実験 p.85
 3.2.1 実験装置 p.85
 3.2.2 実験方法及び実験条件 p.87
 3.3 評価方法 p.88
 3.3.1 膜厚評価 p.88
 3.3.2 電気特性 p.88
 3.3.3 結晶性評価 p.90
 3.3.4 フォトルミネッセンス測定 p.91
 3.3.5 その他評価 p.93
 3.4 結果 p.94
 3.4.1 装置設計 p.94
 3.4.1-1 並行径を有するノズルを用いたZnO薄膜成長 p.94
 3.4.1-2 コニカルノズルを用いたZnO薄膜成長 p.100
 3.4.1-3 コニカルノズルの設計 p.104
 3.4.2 作製したZnO膜の特性 p.106
 3.4.2-1 成長速度 p.106
 3.4.2-2 作製したZnO膜の亜鉛原料の違いによる効果 p.108
 3.4.3 結晶性評価 ―X線回折測定― p.115
 3.4.4 電気特性 ―ホール効果測定― p.118
 3.4.5 表面観察 ―AFM 測定― p.122
 3.4.6 透過率測定 ―透過率測定― p.124
 3.4.7 構造評価 ―PL 測定― p.126
 3.4.8 元素分析 ―SIMS 測定― p.138
 3.5 考察 p.140
 3.6 結論 p.153
 参考文献 p.155
第4章 総括 p.157
謝辞 p.160
本研究に関する発表論文および学会発表 p.161

 現在のエレクトロニクス社会を広く支えている半導体デバイスには主にSiが用いられている.近年,情報通信用の半導体デバイスは宇宙空間等,高温条件下や放射線下などの過酷な環境への用途が広がっており,このような環境にも耐えうるデバイス用材料が強く求められている.このような状況でSiデバイスでは使用が困難な用途に適用するという立場から化合物半導体が必要となっている.その中でもSiとCの1:1の定比化合物であるSiCは,その優れた耐熱性,化学的安定性,耐放射線性からSiでは困難であった用途へのデバイス用材料として期待が高まっている.一方,半導体材料の一つの用途である短波長発光デバイスでは,GaN/InGaN系デバイスが開発されているが,資源的な問題が残っている.地球上に豊富に存在し,60meVの大きな励起子結合エネルギーを有し室温で優れた発光特性を示すと考えられるZnOが,次世代短波長発光デバイス用材料として期待されている.以上のような背景をもとに,本研究ではSiCおよびZnO半導体材料の高品位薄膜作製法の開発とデバイス応用について実験研究を行った。

 本論文では,従来の半導体薄膜成長技術で物理的手法であるPLD,MBEおよびスパッタリング法,そして化学的手法である各種CVD法の特徴を述べた.そして生産性が高く大面積基板上への薄膜成長が可能で半導体デバイス用材料薄膜の作製に適しているCVD法に対する技術革新の必要性について述べた.本研究では,CVD法において反応期待を活性化させることが高品質な結晶薄膜を堆積する上で有用であるとの着想を基に,加熱した金属メッシュ表面で反応気体を分解,活性化させるHot-mesh(HM-)CD法および触媒ナノ粒子の表面反応によって活性反応種を得る触媒反応支援CVD法を提案し,それぞれの手法に最適なCVD装置を設計製作し,SiCおよびZnO膜の低温成長を行った.そしてデバイスへの応用を考えると共に,得られた膜の構造おうび電気的・光学的特性を評価し従来のCVD法によるそれら結晶膜の特性と比較した.

 HM-CVD法を用いたSiC薄膜の結晶成長では,加熱したタングステンメッシュ表面で水素ガスを分解,水素原子を生成させる方法を用いて,従来法のHot-wire CVD法よりも一桁高い密度の水素原子を発生させることができる技術を確立すると共に,750℃という低温でのSi上SiC薄膜のエピタキシャル成長に成功した.またエピタキシャル膜の結晶性と成長場に供給した水素原子密度の関係から,原子状水素がSiC薄膜のエピタキシャル成長に寄与していることを明らかにした.750℃という低温でのエピタキシャル成長の成功により熱的に不安定なSOI(Si on Insulator)基板上へのSiC結晶膜の成長にも成功した。さらに犠牲酸化によりトップSi層厚が100nmから10nm以下まで薄層化したSOI基板上にSi成長を行った結果,トップSi層厚が20nmよりも薄い場合,SICの結晶性が向上するという結果を得た.これは10数nmまでトップSi層を薄くすることで,トップSiの構造がやわらかくなり,SiCとの熱膨張係数差を緩和,すなわち良好なバッファー層として機能することで結晶性が向上したと推察された.薄いトップSi層を有するSOI基板上に成長させたSi膜を用いてMEMS構造の作製を試みた結果,1μmの寸法まで所望の微細構造を作成することに成功した.

 ZnO結晶薄膜の成長において,触媒反応をCVDに組み込む新たな手法を開発した.原理は,白金ナノ粒子表面上でのH2とO2の発熱反応により高温の水分子ビームを発生させアルキル金属ガスと気相中で反応,得られた高エネルギーZnO前駆体を用いてZnO膜の堆積を行うものである.本CVD法による高品質ZnO薄膜作製のための最適条件を検討し,固体触媒としてZrO2担体表面に白金ナノ粒子を分散担持させた触媒が十分な反応効率を持つこと,高エネルギー水分子を噴出させるノズル形状について,並行径,広角コニカル,および狭角コニカルについて検討し,狭角コニカル構造が適していること,また反応種であるアルキル金属ガスとしてDMZnが長鎖のアルキル基をもつDEZnよりも優れていることを示した.

 サファイア基板上に堆積させたZnO薄膜に対するX線回析ZnO(0002)のωロッキングカーブ測定より,0,07036°の小さな半値幅を示す非常に高い配向性を有する膜であること,AFM像の観察から六角柱状の粒径約8μmの大きな粒子により構成された結晶性の良好なエピタキシャル膜であることを示した.また紫外・可視・近赤外透過スペクトルから,400-2000nmの波長範囲で95%以上の透過率を示す非常に透明性の高い膜であること,さらに低温でのPL測定において,自由励起子発行FXAのピーク,中性束縛励起子発光D°Xとその5L0までのL0フォノンレプリカピーク,およびTESピークが明確に観測されたことから,得られたZnO膜が不純物密度の低い高頻度結晶膜であることを示した.ホール効果測定の結果,最適条件でサファイアA面上に成長させたZnO膜の電子移動度がこれまでに作成されたほかのあらゆる成長法によるZnOエピタキシャル膜に比べ大きな値を示した.以上の結果により,白金ナノ粒子を用いた本CVD法が高品質ZnO膜作成に極めて優れた方法であると結論を得た.

 本論文は,「触媒反応支援CVD法によるワイドバンドギャップ半導体薄膜の成長とデバイス応用に関する研究」と題し,触媒反応を利用した新規CVD手法の開発とその炭化物および酸化物ワイドギャップ半導体薄膜作製への適用の結果についてまとめたものであり,4章より構成されている.

 第1章「序論」では,大面積基板への堆積が可能で生産性の高いCVD法に関して説明した後,SiCおよびZnO膜の作製手法及び研究の現状に関して述べ,省エネルギー成長技術の開発の重要性を示し,本研究の目的を述べている.

 第2章「ホットメッシュ(HM-)CVD法を用いたSiC薄膜成長」では,HM-CVD法を用いてSiおよびSOI基板上さらには段階的に薄層化させたトップSi層を有するSOI基板上へのSiC成長を行い,SiC成長に関してエピタキシャル膜の結晶性と成長場に供給した水素原子密度の関係から,原子状水素がSiC薄膜のエピタキシャル成長に寄与していることを明らかにしている.作製したSiCOI基板にドライプロセスおよびウェットプロセスを用いて微細加工を行い,MEMSデバイス用の微細構造パターン形成を行いSiC膜を用いたMEMSデバイス応用が実現できることを述べている.

 第3章「触媒反応支援(CEW-)CVD法を用いたZnO薄膜成長とその特性」では,白金ナノ粒子表面でのH2とO2の発熱反応により高温の水分子ビームを発生させアルキル金属ガスと気相中で反応,得られた高エネルギーZnO前駆体を用いてZnO膜の堆積を行う新規のCVD技術について述べている.本CVD法による高品質ZnO薄膜作製のための最適条件を検討し,固体触媒としてZrO2担体表面に白金ナノ粒子を分散担持させた触媒が十分な反応効率を持つこと,高エネルギー水分子を噴出させるノズル形状について,並行径,広角コニカル,および狭角コニカルについて検討し,狭角コニカル構造が適していること,また反応種であるアルキル金属ガスとしてDMZnが長鎖のアルキル基をもつDEZnよりも優れていることを明らかにしている.そして最適化した条件でサファイアA面上に成長させたZnO膜の電子移動度がこれまでに報告されている他のあらゆる成長法によるZnOエピタキシャル膜に比べ大きな値を示し,本手法が酸化物エレクトロニクス薄膜を堆積させるための有用な技術であることを述べている.

 第4章「総括」では,本研究で得られた実験結果についてまとめている.

 以上,SiCおよびZnO膜に関して,それぞれの手法に最適なCVD装置を設計製作し,低温成長を行った.そしてデバイスへの応用を考えると共に,得られた膜の構造および電気的・光学的特性を評価し従来のCVD法によるそれらの結晶膜の特性と比較し,これまでに無い優れたCVD手法であることを述べている.よって,本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める.

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