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マイクロ電極を用いる電極触媒上の酸素還元反応の電気化学的研究

氏名 吉仕 彰
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第541号
学位授与の日付 平成22年3月25日
学位論文題目 マイクロ電極を用いる電極触媒上の酸素還元反応の電気化学的研究
論文審査委員
 主査 教授 梅田 実
 副査 教授 野坂 芳雄
 副査 教授 小林 高臣
 副査 准教授 伊藤 治彦
 副査 准教授 松原 浩
 副査 長岡工業高等専門学校名誉教授 中澤 章

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目次
第1章 緒論 p.1
 1.1 はじめに p.1
 1.1.1 化石燃料に依存する人間社会とその危惧 p.1
 1.1.2 化石燃料依存からの脱却 p.4
 1.2 燃料電池 p.5
 1.2.1 燃料電池の歴史 p.5
 1.2.2 燃料電池の特徴 p.6
 1.2.3 燃料電池の種類 p.7
 1.2.4 固体高分子形燃料電池(PEFC)の概要 p.8
 1.3 酸素還元反応 p.9
 1.3.1 PEFCにおける酸素還元反応 p.9
 1.3.2 水溶液中における酸素還元反応 p.11
 1.3.3 過酸化水素によるPEFCの劣化 p.12
 1.4 微小電極 p.14
 1.5 走査型電気化学顕微鏡(SECM) p.16
 1.6 ナノマシニング p.17
 1.7 本研究の目的 p.19
 参考文献 p.21
第2章 Ptディスク電極上の酸素還元反応の解析 p.27
 2.1 序論 p.27
 2.2 実験方法 p.28
 2.2.1 ディスク電極上のNafionコート層の厚さ測定 p.28
 2.2.2 電極の調整 p.30
 2.2.3 電気化学測定 p.31
 2.3 結果及び考察 p.34
 2.3.1 PRDEを用いた酸素還元反応の解析 p.34
 2.3.2 SECMを用いたPtマイクロディスク電極上の酸素還元反応の解析 p.36
 2.3.3 過酸化水素の拡散に対するディスク電極上のNafionコート層の効果 p.44
 2.4 まとめ p.49
 参考文献 p.50
第3章 走査型電気化学顕微鏡を用いた固体高分子形燃料電池電極上の酸素還元反応の解析 p.52
 3.1 序論 p.52
 3.2 実験方法 p.53
 3.2.1 多孔質マイクロ電極(PME)の作製 p.53
 3.2.2 電気化学測定 p.54
 3.3 結果及び考察 p.55
 3.3.1 SECMを用いたPt担持カーボン触媒上の酸素還元反応の解析 p.55
 3.3.2 SECMを用いたカソード触媒上の酸素還元反応の解析 p.59
 3.3.3 SECMを用いたアノード触媒上の酸素還元反応の解析 p.66
 3.4 まとめ p.74
 参考文献 p.76
第4章 ナノマシニングによる燃料電池モデル電極触媒の創製と酸素還元反応の解析 p.78
 4.1 序論 p.78
 4.2 実験方法 p.79
 4.2.1 電極基板の調整 p.79
 4.2.2 マスクファブリケーションによるモデル電極触媒の作製 p.80
 4.2.3 マスクレスファブリケーションによるモデル電極触媒の作製 p.82
 4.2.4 電気化学測定 p.85
 4.3 結果及び考察 p.86
 4.3.1 モデル電極触媒のマスクスクラッチ法による検討 p.86
 4.3.3 モデル電極触媒のマスクレスファブリケーションによる検討 p.98
 4.3.4 モデル電極触媒の電気化学測定 p.103
 4.4 まとめ p.113
 参考文献 p.115
第5章 結論 p.116
発表論文 p.121
謝辞 p.122

固体高分子形燃料電池のカソード極(酸素極)には、Pt基材料担持カーボン電極触媒が使用されている。この電極触媒上で起こっている酸素還元反応の解析には、反応時に副生する過酸化水素(H2O2)を捕捉するために回転リングディスク電極(RRDE)法やチャンネルフロー電極法が、多くの研究で用いられている。これは、H2O2が固体高分子形燃料電池の部材を劣化させるため、これを捕捉し解析することが重要だからである。これらの方法において、酸素還元反応を行わせるジェネレーター電極は、電極基板上にPt基材料担持カーボンを付着させることにより作製されている。しかしながら、この電極基板のサイズは数mmの大きさであるため、測定結果は電気化学的にノイズである電気二重層への充電電流を含んでいる。また、上記の方法では、H2O2を強制対流によって捕捉極であるディテクター電極に輸送し、捕捉を行っている。これは、実際の固体高分子形燃料電池の電極反応で生じたH2O2が、自然拡散することで固体高分子形燃料電池の各部材へ輸送されるという現象と異なっている。つまり、固体高分子形燃料電池におけるH2O2を評価するには、自然拡散により、H2O2をディテクター電極まで到達させ、これを捕捉する手法が必要である。
このような背景から、本論文では、走査型電気化学顕微鏡(SECM)法により、酸素還元反応を解析している。SECM法では、ジェネレーター電極で副生するH2O2は自然拡散し、ディテクター電極を走査させながら、このH2O2を捕捉することで、H2O2の発生量や拡散距離を測定することができる。本研究では、SECMのジェネレーター電極として、電極サイズがマイクロメートル以下のPtディスク電極, 多孔質マイクロ電極(PME)およびモデル電極を使用し、これらの電極上で副生するH2O2の発生量および拡散距離などを検討することを目的としている。
第1章では、本研究の研究対象である固体高分子形燃料電池における酸素還元反応の解析手法を記載し、現行の手法の問題点およびこれを改善するための手法を述べることで、本研究の目的を明確に説明している。さらに、モデル電極触媒を用いた酸素還元反応を解析することの重要性とこの電極の作製方法についても記述している。
第2章では、RRDE法と本論文で新たに提案するSECM法の両手法で、Ptディスク電極上の酸素還元時に副生するH2O2の生成量を測定し、SECM法により得られた結果の妥当性を、RRDE法での結果と比較することで検証している。なお、SECM法では、H2O2の拡散距離の解析も行っている。また、より固体高分子形燃料電池に実装されている電極触媒の解析に近づけるため、電極触媒層に使用されるプロトン伝導性樹脂・NafionアイオノマーをPtディスク電極にコートし、これをジェネレーター電極として用いることで酸素還元反応の解析をしている。この結果では、両手法において、Nafionコート層の厚みが増すほど、酸素還元反応機構自体に変化がないものの、酸素還元能は若干低下する傾向が認められる。また、H2O2の発生率もNafionコート層の厚みが増すほど、低下する傾向がある。ただし、この低下を詳しく解析したところ、実際は、H2O2の発生量は大きく変化していない。この結果は、Nafionの拡散係数が小さいことより、H2O2のバルクへの拡散が抑制されていることを示唆する。
第3章では、第2章で確立したSECM法において、Pt担持カーボン触媒(Pt/C)をPMEに充填し、それをジェネレーター電極として用いることで、固体高分子形燃料電池を模した電極上での酸素還元反応を測定している。その結果、Ptディスク電極と同様に、酸素還元反応の解析を行えることを見出している。また、Pt/C触媒にNafionアイオノマーを混合した電極触媒を用いた測定から、Pt/C触媒だけの場合と比較し、酸素還元能は変化せず、副生するH2O2の拡散量および拡散距離を抑えられることを明らかにしている。さらに、Co, Ru, Sn等を含有したPt基材料担持カーボン下における、SECM法を用いた酸素還元測定の結果をPt単味の場合と比較することで検討している。この検討では、Co, Ru, Sn等を含有させることで、酸素還元能を低下させずに、H2O2の発生量および拡散距離を抑えられることを解明している。
第4章では、Pt/C触媒を模したモデル電極触媒をナノマシニングによって作製する方法を検討している。その結果、マスクを用いるマスクスクラッチ法とマスクインデント法, マスクを用いないディップペンめっき法とディップペン無電解めっき法によって、Pt粒子サイズと粒子間隔を独立して制御したモデル電極触媒を創製している。具体的には、絶縁薄膜をインデントするマスクインデント法によって、最小で500 nm間隔毎に30-60 nmのPt粒子を堆積することに成功している。また、これらのモデル電極触媒を用いた電気化学測定では、マスクスクラッチ法により作製したモデル電極上での酸素還元測定によって、Ptローディングサイズが小さいほど、H2O2の発生率が小さいという結果を得ている。さらに、モデル電極上のPt粒子をex-situで電気化学的に劣化させ、劣化前後で全く同じ位置のPt粒子をSEMによって観察し、その劣化現象についても検討している。
第5章では、本研究で得られた知見を総括的にまとめている。

 本論文は、「マイクロ電極を用いる電極触媒上の酸素還元反応の電気化学的研究」と題し、5章より構成されている。第1章「緒論」では、本論文の研究対象である固体高分子形燃料電池における酸素還元反応の解析手法の現行の問題点を述べ、これを改善するためのマイクロ電極を用いる酸素還元反応の解析手法を記載することで、本研究の目的を明確に説明している。
 第2章「Ptディスク電極上の酸素還元反応の解析」では、本論文で新たに提案する走査型電気化学顕微鏡法による酸素還元反応の解析手法を確立している。また、より固体高分子形燃料電池に実装されている電極触媒に近づけた、プロトン伝導性樹脂・NafionアイオノマーでコートしたPtディスク電極を用いた酸素還元反応の解析を行っている。その結果、Nafionの拡散係数が小さいことより、過酸化水素のバルクへの拡散が抑制されていることを解明している。
 第3章「走査型電気化学顕微鏡を用いた固体高分子形燃料電池電極触媒上の酸素還元反応の解析」では、固体高分子形燃料電池の電極に模した、Pt担持カーボン触媒にNafionを混合した電極触媒を充填した粉体マイクロ電極をジェネレーター電極として用い、酸素還元反応の解析を行った。その結果、Nafionの混合により、酸素還元能を変化させずに、副生する過酸化水素の拡散量および拡散距離を抑えられることを明らかにしている。また、Co, Ru, Sn等を含有したPt基材料担持カーボンを同様に充填した電極による酸素還元反応の解析の結果、こちらも酸素還元能を低下させずに、過酸化水素の発生量および拡散距離を抑えられることを解明している。
 第4章「ナノマシニングによる燃料電池モデル電極触媒の創製と酸素還元反応の解析」では、Pt担持カーボン触媒を模したモデル電極触媒をナノマシニングによって作製する方法を確立している。また、このモデル電極触媒を用いた酸素還元測定より、Ptローディングサイズが小さいほど、過酸化水素の発生割合が低下するという結果を得ている。さらに、モデル電極上のPt粒子をex-situで電気化学的に劣化させ、その現象についても検討している。
 第5章「結論」では、本研究で得られた知見を総括的にまとめている。
 以上のように、本論文は、既存の手法では行うことができなかった、実装電極触媒及びモデル電極上における酸素還元時に副生される過酸化水素の拡散メカニズムを解明しており、工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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