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内部改質方式溶融炭酸塩形燃料電池の大容量化に関わる熱流体的スタック技術の研究

氏名 岡田 達典
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙280号
学位授与の日付 平成22年3月25日
学位論文題目 内部改質方式溶融炭酸塩形燃料電池の大容量化に関わる熱流体的スタック技術の研究
論文審査委員
 主査 教授 梅田 実
 副査 教授 佐藤 一則
 副査 准教授 齊藤 信雄
 副査 准教授 森田 正亮
 副査 日本電信電話株式会社エネルギー研究所主任研究員(本学客員教授) 千葉 玲一

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目次
第1章 序論 p.1
 1.1 はじめに p.1
 1.2 燃料電池の種類 p.2
 1.3 MCFCスタックの特徴と従来研究 p.4
 1.3.1 MCFC構造と特徴 p.4
 1.3.2 内部改質電池の形式と動削原理 p.5
 1.3.3 MCFCスタックの従来研究 p.6
 1.4 本研究の課題 p.7
 1.5 本論文の構成と概要 p.9
 本論文で用いる主な記号と定義 p.10
 参考文献 p.11
第2章 マニホールド構造とガスシールに関する検討 p.13
 2.1 はじめに p.13
 2.2 外部マニホールド構造とシール性 p.14
 2.2.1 マニホールドシール枠の信頼性 p.18
 2.2.2 マニホールドシール枠の割れ原因の推定 p.20
 2.3 内部マニホールド構造戸シール性 p.22
 2.3.1 セル層間シールの検討 p.23
 2.3.2 スタックでのシール性の検討 p.33
 2.4 まとめ p.38
 参考文献 p.39
第3章 温度分布の平準化に関する検討 p.40
 3.1 はじめに p.40
 3.2 数値解析 p.40
 3.2.1 解析手法 p.40
 3.2.2 解析条件 p.46
 3.2.3 解析結果 p.47
 3.3 スタック試験 p.48
 3.3.1 直交流タイプの試験結果 p.49
 3.3.2 対向流タイプの試験結果 p.51
 3.4 改良型内部改質方式の温度分布 p.53
 3.5 まとめ p.56
 参考文献 p.56
第4章 ガス流動均一化に関する検討 p.57
 4.1 はじめに p.57
 4.2 平板形改質器内のガス流動 p.57
 4.3 積層方向のガス分配 p.61
 4.4 ブロック間のガス分配 p.66
 4.5 高積層スタック p.70
 4.6 まとめ p.71
 参考文献 p.71
第5章 スタック性能に関する検討 p.72
 5.1 はじめに p.72
 5.2 直接内部改質スタックの開発 p.72
 5.2.1 発電特性 p.74
 5.2.2 燃料利用率依存性 p.76
 5.2.3 スチーム・カーボン比(S/C)依存性 p.77
 5.2.4 温度分布、改質率分布、電流密度分布 p.78
 5.2.5 計時特性 p.79
 5.3 間接内スタックの開発 p.82
 5.3.1 発電特性 p.83
 5.3.2 温度分布 p.84
 5.3.3 計時特性 p.88
 5.4 まとめ p.89
 参考文献 p.89
第6章 大容量スタック開発 p.90
 6.1 はじめに p.90
 6.2 大容量スタックの開発目標 p.90
 6.3 改良型内部改質方式の検証 p.91
 6.4 200kWスタック開発 p.94
 6.4.1 スタック仕様 p.94
 6.4.2 スタック試験 p.96
 6.4.3 フィールド試験 p.99
 6.5 まとめ p.103
 参考文献 p.103
第7章 総括 p.104
Appendix p.107
List of Publications p.111
謝辞 p.112

近年、地球環境問題、エネルギー問題、二酸化炭素排出による温暖化問題の観点から、化石燃料を効率的に利用するため、高効率発電が可能な燃料電池発電システムの研究開発が盛んに行われている。家庭用では、固体高分子型燃料電池を用いた1kW級発電システムが実証試験を経て2009年度より一般に販売される予定であるが、数百kW~数MW級の分散発電が可能で、より高効率発電が期待できる溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)は、米国で試験的な導入は行われているが、本格的な導入には至っていない。そこで本研究開発では、MCFCの大型化に必須であるスタック技術について、ガスシール性、温度分布均一化、ガス流動均一化の観点から、ショートスタックでの検証、実スケールの模擬スタックでの予備試験などを通し、最終的に200kW級の大型スタックで実証するとともに、今後の開発に一方式を提案することを目的とした。
 第1章「序論」では研究の背景、燃料電池の種類、これまでに開発された技術、および本研究の課題と必要性について述べた。
第2章「マニホールド構造とガスシールに関する検討」では、スタックにおける重要な技術開発の一つであるガスシール性に関して、外部マニホールド方式と内部マニホールド方式についてその構造とシール性能について検証試験により得られた知見をまとめた。その結果、大形スタックにおいては、外部マニホールド方式では、その構造、使用部材からマニホールドシール枠のクラックを抑制し、高度なガスシールを維持するには限界があることが分かった。一方、内部マニホールド方式では約4000時間安定したシール性を実現し、実用規模の大型スタックでガス漏れによるガス利用率の上昇が0.5%以下に抑えられる見通しが立ち、高いシール性が得られることを実証した。
 第3章「温度分布の平準化に関する検討」では、セル面内における吸熱反応である改質反応と顕熱冷却を期待する酸化剤ガス、および発熱反応である電池反応のバランスが崩れることによる温度分布を検討した。これらの反応は、主としてガスの供給方向に依存することから、セル面内のガスの流れ方向が直交流、対向流となる場合に如何に影響するかをシミュレーションと大面積セルによる実験から明らかにし、ガス供給方法の最適化を図った。電極内面でアノードガスとカソードガスが直交流となる一般的な流路構成の電池では間接内部改質器内の燃料ガスとカソードガスを対向流(アノードガスと直交流)にすることで、セル面内の温度分布が最も平滑化されることが分かった。しかし、改質器入り口部分での急な温度勾配は避けられず、大面積セルでは更なる改善が必要であることがわかった。そこで、間接内部改質と直接内部改質を併せた改良型内部改質を提案し、カソードガスの冷却負荷を低減させることを可能とした。
第4章「ガス流動均一化に関する検討」では、発電プラントでの1スタック規模と考えられる200kW級スタックに均等なガス供給を実現するため、数セル間隔で積層している平板型改質器内およびセル面内のガス流動と、積層方向各セル均一ガス供給方法について、200セルと55セル積層の模擬スタックを用いて検討した。その結果、200セル積層では、最大±5%の偏流を生じることが分かり、50セル程度のブロック構成を採用することで1%以下に抑えられる見通しを得た。また、製作精度などに起因するブロック間の差圧のばらつきは、配管に制限オリフィスを設けることで1~2%程度に抑制できることが可能であることが分かった。これらの方法を導入することで、220セル(55セル4ブロック構成)の200kWスタックは、ブロック間の性能差は全く無い、均等な性能を得ることが可能となった。
 第5章「スタック性能に関する検討」では、スタックの発電性能に関し、3kW級スタック、10kW級スタックによる発電特性の燃料利用率依存性、温度分布、改質率分布、電流密度分布および経時特性について検討し、大型スタックでの実用的な性能の目処を得た。
 第6章「大容量スタック開発」では、第2章から第4章までの知見を集約して、改良型内部改質方式について、その妥当性をショートスタックによってフロー方式、マニホールド方式などの他の要素とともに評価・検証するとともに、最終確認として、200kWスタック(1m2級220セル)で実証した。その結果、本スタックでは、天然ガスを燃料として用い、燃料利用率80%で目標の5000時間を上回る5259時間の発電試験を実施し、電圧劣化率0.4%/1000時間(目標値1%)を実現するとともにセル間の電圧分布を標準偏差で7.2mV(0.9%)に抑えることができた。
 以上のように、本研究開発により、溶融炭酸塩形燃料電池の大型化、実用化を図る上で必要となる要素技術であるガスシール性の向上、温度分布平準化、ガス流動均一化を実現し、熱流体的観点から見たスタック技術を確立するとともに、200kW級の大型スタックでその性能を実証した。この研究開発で得た知見は、二酸化炭素削減問題が益々重要となる今後に、その解決策の一提案になりえる技術であることを確信する。

本論文は「内部改質方式溶融炭酸塩形燃料電池の大容量化に関わる熱流体的スタック技術の研究」と題し、7章より構成されている。第1章「序論」では、研究の背景、燃料電池の種類と従来研究について述べるとともに、本研究の目的、課題および、論文構成について述べている。
第2章「マニホールド構造とガスシールに関する検討」では、スタックにおける重要な技術開発の一つであるガスシール性に関して、外部マニホールド方式と内部マニホールド方式の構造とシール性能について実スタックによる検証試験とシール部分を模擬した要素試験により得られた知見をまとめ、内部マニホールド方式の優位性を実証するとともに、リーク量を推定し、大形スタックで良好なシール性が得られる構造を提案している。
第3章「温度分布の平準化に関する検討」では、セル面内における吸熱反応である改質反応と顕熱冷却を期待する酸化剤ガス、および発熱反応である電池反応のバランスいついてシミュレーションとスタック試験結果について考察し、ガスの流れ方向との関係を明らかにしている。さらに、大面積セルでの温度分布平準化の方法を提案し、1m2級のフルサイズセルでその妥当性を実証している
第4章「ガス流動均一化に関する検討」では、レイノルズ数60000~20の広範囲にわたる流れの要素において、スタック試験と理論計算から、分岐合流による偏流を的確に把握し、それぞれに適した対応案を提案するとともに、200kW実物大の模擬スタックを用いた等価条件下での検証に取り組み、積層方向の偏流を目標値内に抑える見通しを得ている。
第5章「スタック性能に関する検討」では、燃料利用率依存性、温度分布、改質率分布、電流密度分布および経時特性についてショートスタックからサブスケールスタックで検討し、大形スタックでの目標とする性能の目処を得ている。
第6章「大容量スタック開発」では、第2章から第4章までのスタック技術を反映した改善策の妥当性を200kWスタック(1m2級220セル)で総合評価している。その結果、5000余時間の発電試験で電圧劣化、改質反応の劣化、セル電圧のバラツキなどスタック技術に依存する性能は目標値を達成しており、各章で開発した技術が同時に成り立つことを実証している。
第7章「総括」では、各章の結論を総括している。
以上のように、本論文では、内部改質方式溶融炭酸塩形燃料電池の大形化、実用化を図る上で必要となる熱流体的観点からのスタック技術を確立しており、同燃料電池の実用化を大きく前進させる研究であり、工学上および工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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