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リン原子含有モノマーのアニオン重合とその重合体の分子特性の評価およびリン酸基の導入

氏名 加瀬 俊男
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第19号
学位授与の日付 平成2年3月26日
学位論文の題目 リン原子含有モノマーのアニオン重合とその重合体の分子特性の評価およびリン酸基の導入
論文審査委員
 主査 教授 藤本 輝雄
 副査 教授 今井 清和
 副査 教授 青山 安宏
 副査 助教授 五十野 善信
 副査 助教授 塩見 友雄
 副査 助教授 戸井 啓夫

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目次
第1章 序論 p.1
1-1 リン酸素酸を有する重合体の合成と応用 p.2
1-2 リビングアニオン重合法の有用性と課題 p.3
1-3 モザイク荷電膜の分子設計と展開 p.5
1-4 本研究の目的 p.7
1-4 本論文の構成 p.7
文献 p.9
第2章 2-フェニル-1,3-ブタジエンのアニオン重合およびその重合体のキャラクタリゼーション p.13
2-1 緒言 p.14
2-2 実験 p.16
2-2-1 モノマー p.16
2-2-2 試薬 p.16
2-2-3 重合 p.17
2-2-4 測定 p.17
2-3 結果と考察 p.18
2-3-1 アニオン重合 p.18
2-3-2 ミクロ構造 p.18
2-3-3 溶液性状 p.26
2-3-4 ガラス転移温度 p.31
2-3-5 緩和弾性率 p.31
2-3-6 化学的安定性 p.31
文献 p.35
第3章 N,N,N',N'-テトラエチル-4- イソプロペニルフェニルフォスフォナスジアミドのアニオン重合 p.38
3-1 緒言 p.39
3-2 実験 p.41
3-2-1 モノマー p.41
3-2-2 試薬 p.42
3-2-3 重合 p.43
3-2-4 測定 p.43
3-2-5 動力学研究のためのジラトメトリー測定 p.44
3-2-6 動力学及び熱力学研究のための1H-NMR測定 p.46
3-3 結果と考察 p.49
3-3-1 モノマー合成 p.49
3-3-2 PAのアニオン重合 p.52
3-3-3 重合動力学 p.57
3-3-4 重合熱力学 p.63
文献 p.68
第4章 ビス(ジエチルアミノ)フォスフィノ基を有するブロック共重合体の合成 p.70
4-1 緒言 p.71
4-2 実験 p.73
4-2-1 モノマー p.73
4-2-2 試薬 p.76
4-2-3 重合 p.76
4-2-4 測定 p.76
4-2-5 動力学及び熱力学研究のための1H-NMR測定 p.77
4-3 結果と考察 p.79
4-3-1 PAとスチレンのブロック共重合 p.79
4-3-2 EPAのアニオン重合 p.82
4-3-3 EPAとスチレンのブロック共重合 p.93
文献 p.97
第5章 リン酸素酸をモノマー単位当たりに有する重合体の合成及びキャラクタリゼーション p.98
5-1 緒言 p.99
5-2 実験 p.100
5-2-1 重合体試料 p.100
5-2-2 試薬 p.100
5-2-3 脱保護反応 p.100
5-2-4 酸化反応 p.101
5-2-5 測定 p.102
5-3 結果と考察 p.103
5-3-1 フォスフィン酸を有する重合体の合成 p.103
5-3-2 フォスフォン酸を有す重合体のの合成 p.115
文献 p.118
第6章 結語 p.119
発表論文 p.123

 本研究はリン酸素酸をモノマー単位当たりに持ち、生体機能を栽挿し得る重合体の合成を目的とした。本研究により明らかになったことを以下に記す。
 第2章 2-フェニル-1,3-ブタジエン(2 PB)は種々の条件下で理想的なアニオン重合が進行し、高分子量で分子量分布の狭い重合体(Mn=1.64×105, Mw/Mn=1.03)になる。重合体のミクロ構造は重合溶媒の影響を受けず、主として重合温度に依存するようである。そのミクロ構造から、2 PBの生長反応では1,4付加が選択的に進行すると推定され、この推定はモノマーのフロンティア電子密度の計算値からも支持される。1,4-E構造含有率92%のポリ(2 PB)の特性比は、θ点近傍(n-ブチルホルマート中、65℃)での固有粘度測定より6.9と求まる。そのガラス転移温度は28℃である。また、応力緩和測定により求めた擬平衡ずり弾性率GoeNは1.26×106 dyne/cm2(log GoeN=6.10)で、これから算出される絡み点間分子量は2.1×104である。嵩高いフェニル置換基はこのポリマーの鎖の堅さ、自由体積、および動的相互作用に大きく寄与するものと考えられる。このように、2 PBのアニオン重合生とポリ(2 PB)の分子特性を明らかにしたが、ポリ(2PB)は大気中で容易に分解反応を起こすため、リン酸素酸を導入するためのプレポリマーとして利用することは困難である。
 第3章 ビス(ジエチルアミノ)フォスフィノ基を有するα-メチルスチレン型の新規モノマー、N,N,N',N'-テトラエチル-4-イソプロペニルフェニルフォスフォナスジアミド(PA)を合成し、そのアニオン重合性を詳細に調べた。PAはTHF中、n-BuLiを開始剤に用い-20℃で開始反応させた後、-78℃で生長反応させると、分子量分布の狭い重合体になる。ジラトメトリー法による動力学的解析の結果は、その重合が少なくとも-40℃以下ではリビング機構で進行することを示している。-40℃から-78℃の温度範囲ではアウレニウスプロットに直線関係が成立することから、その温度範囲では唯一種類のイオン種により重合が進行すると推定でき、また、活性化エンタルピーは-7.2kcal mol-1と求まる。1H-NMR法による熱力学的解析から、重合エンタルピー△Hss、重合エントロピー△SSS、および天井温度TCが、それぞれ-6.00kcal mol-1、-20.7cal mol-1K-1、および290Kと求まる。これらの事実から、THF中、n-BuLiを開始剤として用い、その天井温度より高い温度で開始反応させた後、それより低い温度で生長反応させる重合方法により、PAが設計通りの分子量と狭い分子量分布を有する重合体になることが明らかである。リン原子含有モノマーのリビングアニオン重合に成功したのは、本研究が初めてである。
 第4章 同様な条件でPAをスチレンとブロック共重合させると、分子量分布の狭いポリ
(St-b-PA)が得られるが、ポリ(PA-b-St)は分子量分布の広いものしか得られない。ビス(ジエチルアミノ)フォスフィノ基が電子吸引性であるために、PAのカルバニオンの求核性が低下しているためと推定した。そこで、ビス(ジエチルアミノ)フォスフィノ基とフェニル基の間にアルキレン基を持つ構造のモノマー、N,N,N',N'-テトラエチル-2-(-4-イソプロペニルフェニル)エチルフォスフォナスジアミド(EPA)を合成し、そのアニオン重合性とブロック共重合性を調べた。PAと同様な重合条件でEPAも分子量分布の狭い重合体になる。1H-NMR法による解析の結果は、少なくとも-78℃においてその重合がリビング機構で進行することを示している。また、-78℃における生長反応速度定数は0.57Lmol-1S-1であり、熱力学的パラメーターは△HSS=-7.87Kcal mol-1、△SSS=-29.0calmol-1K-1、TC=274Kと求まる。これらの値はα-メチルスチレンの値といずれも同程度でありPAとは対照的である。EPAとスチレンとのブロック共重合は同様な重合条件で理想的に進行し、分子量分布の狭い三元ブロック共重合体、ポリ(St-b-EPA-b-St)が得られる。
 第5章 上で得たビス(ジエチルアミノ)フォスフィノ基を有する重合体を蟻酸または塩酸と反応させることにより、フォスフィン酸を有する重合体を得ることができる。ポリ(PA)から得られる重合体はフォスフィン酸のみをモノマー単位当たりに持ち、しかも分子量分布の狭いポリ(4-ヒドロキシフォスフィノイル-α-メチルスチレン)である。フォスフィン酸を有する重合体をオゾンまたは過酸化水素で酸化させることにより、フォスフォン酸を有する重合体を得ることができる。ポリ(EPA)から得られる重合体はフォスフォン酸のみをモノマー単位当たりに持ち、しかも分子量分布の狭いポリ(4-(2-ジヒドロキシフォスフィノイル)エチル-α-メチルスチレン)である。
 以上に述べたように、本研究により、モノマー単位当たりにリン酸素酸を有する重合体を合成する方法を確立することができた。

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