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高Cr-Ni鋼溶接熱影響部の高温割れに関する研究

氏名 斎藤 喜一
学位の種類 工学博士
学位記番号 博乙第5号
学位授与の日付 平成2年3月26日
学位論文の題目 高Cr-Ni鋼溶接熱影響部の高温割れに関する研究
論文審査委員
 主査 教授 小島 陽
 副査 教授 矢田 敏夫
 副査 教授 一ノ瀬 幸雄
 副査 助教授 弘津 禎彦
 副査 助教授 福澤 康

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目次
序 p.1
序の参考文献 p.6
第1章 緒論 p.9
第1章の参考文献 p.22
第2章 溶接熱サイクル再現装置 p.26
2-1 緒言 p.26
2-2 装置の概要 p.26
2-2-1 高周波誘導加熱部 p.29
2-2-2 プログラム自動温度制御部 p.33
2-2-3 引張り試験部 p.37
2-3 予備試験 p.43
2-3-1 供試材料と予備試験方法 p.43
2-3-2 試験結果 p.45
2-4 総括と結論 p.51
第2章の参考文献 p.54
第3章 溶接熱サイクル再現装置による高温延性試験の脆性温度範囲に及ぼす溶接熱サイクル最高加熱温度(Tmax)の影響 p.55
3-1 緒言 p.55
3-2 供試材料 p.58
3-3 試験方法 p.60
3-3-1 供試熱サイクル
3-3-2 供試熱サイクルのTmaxの選定(熱サイクル加熱途上での試験) p.61
3-3-3 種々のTmaxを有する熱サイクルの冷却途上での試験 p.63
3-4 試験結果 p.64
3-4-1 熱サイクル加熱途上における供試料のNDTとNST p.64
3-4-2 各種Tmaxより冷却サイクル途上における強度及び絞りの挙動 p.72
3-5 考察 p.76
3-6 結言 p.81
第3章の参考文献 p.85
第4章 溶接熱サイクル再現装置による高温延性試験の脆性温度範囲に及ぼすTmaxの停滞時間と加熱並びに冷却速度の影響 p.87
4-1 緒言 p.87
4-2 供試材料 p.90
4-3 試験方法 p.90
4-3-1 熱サイクルのTmaxにおける停滞時間の影響 p.90
4-3-2 熱サイクルの加熱及び冷却速度の影響 p.93
4-4 試験結果 p.94
4-4-1 Tmaxにおける停滞時間の影響 p.94
4-4-2 加熱及び冷却速度の影響 p.96
4-5 結果の考察 p.98
4-5-1 Tmaxにおける停滞時間と加熱及び冷却速度の相違による高温延性特性について p.98
4-5-2 破面の光学顕微鏡及びSEMによる観察結果 p.105
4-6 結言 p.135
第4章の参考文献 p.138
第5章 高温延性特性より評価したHAZの高温割れ感受性とアーク溶接におけるHAZ割れとの相関性 p.139
5-1 緒言 p.139
5-2 U構付拘束割れ試験片によるI ncoloy alloy 800 の鍛造比とHAZ割れ感受性との相関性 p.145
5-2-1 供試材料 p.145
5-2-2 試験方法 p.147
5-2-3 試験結果 p.149
5-2-4 結果の総括 p.151
5-3 U構付拘束割れ試験によるI ncoloy alloy 800 系鋳造材のC含有量とHAZ割れ感受性との相関性 p.160
5-3-1 供試材料 p.160
5-3-2 試験方法 p.160
5-3-3 試験結果 p.163
5-3-4 結果の総括 p.175
5-4 含B21%Cr-32%Ni鋼のVarestraint試験によるHAZ割れ感受性との相関性 p.179
5-4-1 供試材料 p.179
5-4-2 試験方法 p.179
5-4-3 試験結果 p.185
5-4-4 結果の総括 p.191
5-5 含Nb21%Cr-32%Ni鋼の Spot Varestraint試験によるHAZ割れ感受性との相関性 p.192
5-5-1 供試材料 p.192
5-5-2 試験方法 p.193
5-5-3 試験結果 p.198
5-5-4 結果の総括 p.205
5-6 結言 p.206
第5章の参考文献 p.209
第6章 21%Cr-32Ni鋼溶接熱影響部の高温割れ感受性に及ぼす合金元素の影響 p.210
6-1 緒言 p.210
6-2 Cr含有量の影響 p.213
6-2-1 供試材料 p.213
6-2-2 試験結果 p.218
6-2-2-1 鋳造材についての試験結果 p.218
6-2-2-2 鋳造材についての試験結果 p.218
6-2-2-3 顕微鏡及び物理治金学的試験結果 p.234
6-2-2-4 総括 p.248
6-3 Al及びTiの影響 p.251
6-3-1 供試材料 p.251
6-3-2 試験結果 p.252
6-3-2-1 高温延性試験結果 p.252
6-3-2-2 破断部付近の顕微鏡組織試験 p.282
6-3-2-3 EPMAによる線分析試験 p.291
6-3-3 総括 p.296
6-4 Bの影響 p.298
6-4-1 供試材料 p.298
6-4-2 試験結果 p.299
6-4-2-1 高温延性試験結果 p.300
6-4-2-2 EPMAによる液化粒界の線分析試験 p.307
6-4-3 結果の総括 p.323
6-5 Nbの影響 p.324
6-5-1 供試材料 p.324
6-5-2 試験結果 p.327
6-5-2-1 高温延性試験結果 p.327
6-5-2-2 液化粒界の顕微鏡による観察結果 p.340
6-4-2-3 液化粒界のEPMAによる線分析試験 p.345
6-5-3 結果の総括 p.358
6-6 Siの影響 p.359
6-6-1 供試材料 p.359
6-6-2 試験結果 p.361
6-6-2-1 高温延性試験結果 p.361
6-6-2-2 破面付近の顕微鏡組織観察結果 p.371
6-6-2-3 EPMAによる液化粒界の組織分析結果 p.377
6-6-3 結果の総括 p.384
6-7 Pの影響 p.389
6-7-1 供試材料 p.389
6-7-2 試験結果 p.390
6-7-3 結果の総括 p.412
6-8 Niの影響 p.414
6-8-1 供試材料 p.414
6-8-2 試験結果 p.416
6-8-3 結果の総括 p.433
6-9 鋳造比の影響 p.435
6-9-1 供試材料 p.435
6-9-2 試験結果 p.435
6-9-3 結果の総括 p.467
6-10 21%Cr-32%Ni鋼のHAZ割れ感受性をBTRより評価する予測モデル式の導出 p.472
6-10-1 解析手法 p.472
6-10-2 解析結果と予測モデル式 p.473
6-11 結言 p.482
第6章の参考文献 p.491
第7章 HAZの高温割れ機構に関する一考察 p.498
7-1 緒言 p.498
7-2 溶質原子の粒界富化機構と割れ感受性 p.498
7-3 組成的液化と第2相粒子の大きさとの関係 p.510
7-4 第二相粒子の微細化によるHAZ割れ感受性改善例 p.517
7-4-1 材料 p.517
7-4-2 溶接性評価試験 p.522
7-4-3 評価試験結果 p.523
7-5 結言 p.530
第7章の参考文献 p.536
第8章 総括 p.537
本論文に関連した発表論文 p.559

【背景】高Cr-Ni鋼溶接熱影響部の高温割れ(HAZ割れ)は、通常概観が数grainから数mm程度の微細なものが主で、通常の非破壊検査法では検出が困難な場合が多いこと、及び外観の微細さの故に存在が認められても、それを不問とする等、HAZ割れ軽視の傾向があったこと、更にはHAZ割れ用の適切な評価試験法が無いため、HAZ割れ低減対策を積極的に進めようとする働きも少なく、評価試験法の開発も溶接金属のそれに比べ著しく遅れた。又かかる理由からHAZ割れに関する知見も少なく、その防止策も、殆ど溶接金属からの類推に依存してきた。しかし近年の原子力工業を初めとするエネルギー関連分野や航空・宇宙関連の分野では、その使用環境の過酷さに加え、安全重視の観点から、HAZ割れに対し無欠陥の対応が求められており、その防止に向けて積極的な取組が急がれている。本研究はこのような背景の下で実施したもので、HAZ割れの評価法として、割れを溶接熱リサイクル過程における材料の強度や延性等の物性面より評価する溶接熱サイクル再現装置を用いた高温延性試験法に着目し、その試験結果の信頼性を高めるべく従来の制御機構に大幅な改善を加えた装置を製作し、本装置を用いてこれまで曖昧であった熱サイクル構成要素の高温延性特性への影響について詳細な検討を加え、本装置による試験基準を確立すると同時に高Cr-Ni鋼のHAZ割れに及ぼす合金元素の影響等を明らかにした。以下本研究の各章毎の概要を述べる。
【序】では背景で述べた如き理由からHAZ割れに関する積極的な研究の必要性を述べた。
【第1章】は緒論で、HAZ割れに関するこれまでの知見とHAZ割れの評価試験法として熱サイクル再現装置による高温延性試験法が最も合理的な手段であることを論考した。
【第2章】では、本研究の為に設計製作した熱サイクル再現装置の概要で、特にアーク溶接においてHAZが遭遇する熱サイクルを再現できるよう、高周波加熱方式により、温度制御機構その他に大幅な改善を加えた。その結果HAZの実測熱サイクルを十分に再現し、310及び316型ステンレス鋼を用いた予備試験において、HAZ割れに定量的情報が、即ち割れの発生する脆性温度範囲(BTR)での強度や延性値を求める事を確認した。
【第3章】では、熱サイクルの最高加熱温度TmaxのBTRに及ぼす影響を検討し、延性;0となる温度(NDT)より、強度が0となる温度(NST)が最も合理的であることを明らかにした。
【第4章】では、BTRに及ぼす熱サイクル加熱及び冷却速度、並びにTmaxにおける停滞時間の影響を詳細に検討し、試験基準として、Tmax;NST、加熱及び冷却速度;180及び80℃/sec、Tmaxの停滞時間;3sec、引張速度;33mm/secを確立すると共に延性特性値として定めた上記のNDTやNSTの他、液化開始温度(LIT)やBTRの下限温度(L・BTR)の物理冶金的意味、及びBTR;100℃(臨界BTR)以下ではHAZ割れを生じない事を明らかにした。
【第5章】では、上記試験条件で得られた割れを傾向と従来の拘束割れ試験の結果とを比較し、両者には良好な相関関係が見られ、試験条件の妥当性を確認した。
【第6章】では、基本組成21%Cr-32%Niの材料を用い、HAZ割れに及ぼすC,Al,Ti,B,Nb,i,P,Niや鍛造比の影響を詳細に検討し:C=0.4%迄の範囲内では、大型のCr23C6の精製を押えればHAZ割れを防止できる。AlはHAZ割れに影響しない。Ti>1.5%でBR;160℃を示し、割れ感受性を持つ。B=約0.01%でBTR;260℃を示し急激に感受性を高める。B>0.3%では再び低下するが、BTR;150℃でなお感受性があり(溶接金属では割れに対し免疫となる)。Nb=0.3%でBTR;160℃、約3%で220℃を示し、割れ感受性を高める。Si=3%にてBTR;約120℃にあり、感受性は低い。P=0.1%迄のBTR;100℃で、感受性無し(溶接金属では激しい割れを示す)。Ni=二相域で若干感受性を増すもBTR;100℃。鍛造比=1のみBTR;160℃を示し、感受性を持つなどを明らかにし、hじゅうらいのHAZ割れ対策は修正すべきことを指摘した。又以上の結果を重回帰分析し、BTRの予測モデル式を導出した。
【第7章】では、HAZ割れ機構を検討し、HAZ割れ感受性は単に合金元素量の他、組織中に存在する第二相粒子の組成的液化と深い関係があり、その量や粒径の調整が、製造上の重要な因子となることを明らかにした。又拡散理論より、その最小粒径を求め、その成果は核燃料再生処理装置用材料の製造に適用し、結果正当性を証明した。

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