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Si3N4及びAlN燒結体の粒界相の熱力学的評価

氏名 渡利 広司
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第25号
学位授与の日付 平成2年3月26日
学位論文の題目 Si3N4およびA1N焼結体の粒界相の熱力学的評価
論文審査委員
 主査 助教授 石崎 幸三
 副査 教授 長倉 繁麿
 副査 教授 松下 和正
 副査 助教授 植松 敬三
 副査 助教授 高田 雅介
 副査 東京工業大学 教授 福長 脩

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目次
第1章 序論 p.1
1-1 セラミックス焼結体の粒界相 p.1
1-2 粒界相の制御と定量化の必要性 p.2
1-3 窒化ケイ素 p.6
1-4 窒化アルミニウム p.12
1-5 窒化物(Si3N4、AIN)の焼結 p.12
1-6 本研究の目的 p.17
第2章 粒界相の制御 p.22
2-1 HIP相図 p.22
2-1-1 HIP相図の必要性 p.22
2-1-2 HIP相図の作成方法 p.23
2-2 HIP相図の応用例 p.35
2-2-1 Si3N4焼結での焼結助剤と不純物炭素の安定性 p.35
2-2-2 AIN焼結での焼結助剤との不純物酸素の安定性 p.42
2-3 実験方法 p.49
2-3-1 原料粉末の特性 p.52
2-3-2 焼結 p.52
(a)カプセルHIP焼結
(b)常圧焼結
(c)ホットフレス焼結
2-3-3 焼結体の加工 p.55
2-3-4 焼結体の密度測定 p.56
2-3-5 X線回折 p.57
2-3-6 質量分析及びAES分析 p.57
2-3-7 破面観察 p.58
2-3-8 硬度試験 p.58
2-3-9 破壊靱性試験 p.58
2-3-10 曲げ強度試験 p.59
2-3-11 熱係数の測定 p.59
2-3-12 Si3N4原料粉末への炭素の添加 p.63
2-4 応用例の実験結果及び考察 p.66
2-4-1 Si3N4焼結での焼結助剤と不純物炭素の安定性 p.66
2-4-2 AIN焼結での焼結助剤との不純物酸素の安定性 p.78
2-5 機械的性質 p.87
2-6 熱伝導率 p.89
2-7 結論 p.96
第3章 粒界相の定量化 p.102
3-1 序論 p.102
3-1-1 焼結体の粒界相の定量化 p.102
3-1-2 固定の比率 p.103
3-1-3 Si3N4焼結体の比熱 p.109
3-2 実験方法 p.112
3-2-1 Si3N4焼結体の作製 p.112
3-2-2 オキシナイトライドガラスの作製 p.113
3-2-3 極低温での比熱測定 p.113
3-3 実験結果及び考察 p.117
3-3-1 Si3N4焼結体中のガラス相の確認 p.119
3-3-2 ガラス相の定量化 p.126
3-4 結論 p.132
第4章 総括 p.137
第5章 付録 p.141
5-1 自由エネルギーとエントロピについて p.141
5-2 Si3N4焼結体の熱伝導 p.143
謝辞 p.146

 本論文は「Si3N4及びAIN焼結体の粒界相の熱力学的評価」と題し、4つの章から構成されている。
 焼結により得られる一般のセラミックス焼結体は微視的に粒子、粒界、気孔等を含む複雑な構造を持つことが知られている。なかでも、粒界は焼結体の特性を支配する重要な因子の1つで、その重要性はセラミックスを扱っている研究者のほぼ一致した見解となっている。そのため、焼結体の粒界相の組成や量や制御できれば、焼結体の特性を大幅に改善することが可能である。しかしながら、粒界の重要性は認識されているにもかかわらず、粒界相の定量化すら確定された方法がなく、まして焼結体の粒界相の制御を科学的に行う研究など、試行錯誤の測定を除いてあまり進められていないのが現状である。そこで、本研究では、粒界相の制御さらには粒界相の定量化を熱力学的観点から試みた。
 第1章「序論」では、セラミックス焼結体の粒界相が焼結体の機械的、熱的性質等に影響を及ぼす事実を示し、焼結体の粒界相の制御さらには粒界相の特性が焼結体の特性に及ぼす重要な因子であることを示し、又、本研究の目的である、焼結体の粒界の制御及び粒界相の定量化の必要性について述べた。研究材料として期待されているSi3N4、及び機能性材料として期待されているAINを取り上げ、それらの特性についても記述した。
 第2章「粒界相の制御」では、章を5部に分け、HIP相図の作成、HIP相図の応用例、実験方法、応用例の実験結果及び考察、結論で構成されている。
 まず、はじめに熱間等方圧プレス(HIP)法を利用した粒界制御の可能性について言及し、HIP焼結の為の高圧ガスの影響を考慮した相図を作成した。その相図は、温度(T)と酸素分圧(Po2)の相図(Ellingham図)をもとに、全圧(Ptotal)の影響を考慮した高圧での反応の標準自由エネルギを求め、HIP相図(T、Po2、Ptotalの相図)としてまとめた。その結果、HIP焼結は常圧焼結やホットプレス焼結の延長として、ただ単にガス圧力の高い焼結法としてあるのではなく、HIP焼結に特有の反応領域があることを示した。
 次に、HIP相図を応用した焼結体の粒界制御を目標に、HIP焼結、常圧焼結及びホットプレス焼結中の酸素分圧、温度及び全圧ガスにより変化するSi3N4及びAIN焼結体の粒界の安定相をHIP相図をもとに見積もった。その熱力学的考察をもとにHIP焼結、常圧焼結及びホットプレス焼結を行い、焼結体の粒界相を制御し、さらには焼結体の特性をSi3N4では機械的性質、AINについては熱伝導率で評価した。
 Si3N4の焼結では助剤酸化物と添加した炭素が反応することにより、ガス圧力が低い常圧焼結やホットプレス焼結ではSiCが生成し、一方HIP焼結では添加した炭素がそのまま黒鉛の状態で安定することをHIP相図より解析し、それをオージェ電子分光分析により確認した。
 これにより、Si3N4を炭素繊維で強靱性化する場合にはHIP法がホットプレス法より望ましく、逆にSiCウィスカーで強靱性化する場合ホットプレス法が有利であることがわかった。本研究で得られたホットプレスSi3N4焼結体の破壊靱性値は、炭素添加により最大で約2倍(3→6MN/m3/2)増大することがわかった。
 AINの焼結ではAIN粉末に含まれたAl2O3及び助剤として添加したY2O3の還元反応は、通常のHIP焼結温度では起こらず酸素は酸化物として安定し、常圧焼結では酸化物の還元反応が起こることをHIP相図より解析し、それを焼結後の酸素量により確認した。このとき、焼結体に含まれた酸素量は、粒界の生成物に密接に関係し、焼結体の熱伝導率に影響を及ぼし、HIP焼結では常圧焼結に比べて約200K低い温度でち密なAIN焼結体を得たにもかかわらず、酸素が多量に存在するため、HIP焼結体は常圧焼結体よりも熱伝導率が低下する場合があることを示した。さらには、AIN焼結体のフォノンの平均自由行程が室温で10~30nmであることから、平均粒径1~10μm程度の焼結体の熱伝導が粒界の酸化物相に制御されているのではなく、AIN粒内に固溶した酸素によって制御されていることを示した。Si3N4焼結体の熱伝導もSi3N4粒内に固溶するAl原子(助剤成分)や酸素原子により制御され、AINと同じ熱伝導メカニズムであることを見いだした。
 第3章「粒界相の定量化」では、序論、実験方法、実験結果及び考察、結論の4部で構成されている。
 本章の前半の2部では、低温でのガラスの異常比熱を利用することにより、Si3N4焼結体に含まれた粒界ガラス相の定量化の可能性について論じ、さらには本章での実験方法を詳細に記述した。
 本章の後半の2部では、得られた焼結体の比熱の結果をもとに、Si3N4焼結体の粒界にガラス相が存在する証拠を低温(10K以下)でのSi3N4焼結体の比熱と、Si3N4のDebye温度(1100K)から計算した比熱の差、及び焼結体の比熱がDebyeの温度の3乗法則からずれていることにより確認した。次に、焼結体の模擬粒界ガラス相として作製したオキシナイトライドガラスの比熱、Si3N4焼結体の比熱と、Si3N4のDebye温度から計算した比熱から焼結体に存在するガラス量を仮定した式より求めた。得られた焼結体のガラス量は温度依存性を示さず、ほぼ一定の値(約35%)を示した。その値は予想されるガラス相の量に比べて大きいが、実際に焼結体に含まれたガラス量に関連づけられ、焼結体のガラス相の定量化の可能性を示唆できた。
 第4章「総括」では本研究で得られた結果を要約するとともに、本研究の研究成果が窒化物以外のセラミックスに適用できることを示し、一般性を示した研究であることを記述した。さらには、本研究を応用することにより、熱力学的な観点からセラミックスの材料設計の可能性についても触れた。

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