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塗膜の物性に関する研究

氏名 佐藤 弘三
学位の種類 工学博士
学位記番号 博乙第4号
学位授与の日付 平成2年3月26日
学位論文の題目 塗膜の物性に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 藤本 輝雄
 副査 教授 青山 安宏
 副査 教授 今井 清和
 副査 教授 朽津 耕三
 副査 助教授 五十嵐 善信
 副査 助教授 塩見 友雄

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目次
第1章 緒論 p.4
1-1 塗料の概要 p.1
1-2 塗料の構成と塗料物性 p.2
1-3 本研究の概要 p.5
第2章 熱硬化性塗膜の粘弾性 p.7
2-1 緒言 p.7
2-2 アルキド・メラミン樹脂及びアクリル・メラミン樹脂系塗膜の粘弾性 p.8
2-3 熱硬化エポキシ樹脂系塗膜の粘弾性 p.13
第3章 塗膜の力学的性質に及ぼす顔料効果 p.20
3-1 緒言 p.20
3-2 塗膜の弾性率に及ぼす顔料補強効果 p.20
3-3 塗膜の粘弾性に及ぼす顔料の影響 p.25
第4章 熱硬化性塗膜の内部応力の成因と緩和 p.41
4-1 緒言 p.41
4-2 熱硬化性塗膜の内部ひずみ p.42
4-3 塗膜の内部応力の吸湿緩和 p.49
第5章 振かん法による塗膜物性の測定 p.56
5-1 緒言 p.56
5-2 振かん法による塗膜のガラス転移温度の評価 p.57
5-3 振かん法で測定した塗膜の物性 p.60
第6章 塗膜の摩耗抵抗 p.71
6-1 緒言 p.71
6-2 NC系塗膜の落砂摩耗 p.71
6-3 落砂摩耗抵抗の解析 p.78
第7章 塗膜の付着とぬれ性 p.84
7-1 緒言 p.84
7-2 プラスチックの研摩処理によるぬれ性と付着 p.86
第8章 結論 p.94

 日本の塗料生産高は米国に次いで世界第2位で、1988年度の生産量は202万トン、出荷金額は7007億円に達している。第2次大戦後の塗料工業は高分子科学と石油化学工業の発展をベースにして、産業の近代化と生産性の向上を図ってきたが、最近の技術革新に対応して一層の技術的向上を図らなければならない。塗料工業は対象分野が広範囲で、使用原材料の種類が多く、また要求性能も多様であるために、基本的にtailer madeであって多品種少量生産の性格があり、商品開発も"try and error"をよぎなくされている。そのため塗料技術は経験主義的要素が大きいが、技術革新に対処するためには、塗料の本質を究明して塗料技術の科学的基準を明示することが重要である。
 塗料は塗装という賦形操作を経過するためにバインダーの分子量に制限があり、また多様な要求性能を満足させるために、バインダーは原則として相溶するポリマーブレンド系が使用されている。しかも配合組成は顔料、溶剤、界面活性剤など多くの添加剤を加えた複雑な不均質粘弾性系として構成されている。
 このような塗料・塗膜の性能は、通常慣用試験法に評価されているが、これらの試験方法は塗料・塗膜の品質管理及び実用性能の判定には適していても、塗料の本質を究明する手段としては余り適当ではない。塗料・塗膜も基本的には高分子科学の手法を用いて、その性質の特徴を解明することが可能である。
 本論文では第2章に熱硬化性塗膜としてアルキド・メラミン樹脂及びアクリル・メラミン樹脂系塗料、エポキシ樹脂系塗料を選定して、塗膜の動的粘弾性を測定し、塗膜組成とガラス転移温度Tgや橋かけ間分子量Mcとの関係を検討した。橋かけ剤量の増加とともにMcは小さくなり、Tgは上昇する。Mcは官能基当量付近で最小になり、実験値と計算値がほぼ一致した。なお橋かけ剤がメラミン樹脂の場合には、Tgは橋かけ密度と必ずしも比例せずトリアジン環濃度の影響の大きいことを指摘した。
 第3章では顔料添加塗膜の動的粘弾性を測定して、塗膜の弾性率とTgに及ぼす顔料の影響を検討した。バインダーと顔料が相互作用する場合には、顔料添加によりTgが上昇し、弾性率補強効果も大きくなる。また顔料の種類により顔料補強効果が異なるので、Viogtモデル及び相対弾性率の温度依存性からその影響を検討した。
 第4章では塗膜の割れ、剥がれなどの重大欠陥と関係する内部応力の成因を、アルキド・メラミン樹脂及びフェノール樹脂・ポリビニルブチラール系塗膜の内部応力の変化から解析し、内部応力がガラス転移後の弾性率、Tg及び熱膨張係数と直接的に関係していることを明らかにした。また塗膜形成後も吸脱湿に伴い塗膜の内部応力は増減するが、エキポシ樹脂塗膜を用いて吸脱湿に伴う内部応力の変化を追跡し、その特徴を明らかにした。
 第5章では塗膜の硬さ測定法として使用されている振かん硬さの簡易粘弾性測定法として価値を検討した。振かん法で求めたTgの値は自由ねじり振動法でTgの値よりも高い傾向があるので、その内容を検討してその理由が振かん硬度計の圧力のめり効果によるためと推論した。また振かん法としての応用について検討し、その実用性と限界について指摘した。
 第6章ではニトロセルロース系塗膜の落砂摩耗抵抗を検討し、落砂摩耗抵抗の物理的意義を解析するとともに、摩耗抵抗と塗膜の力学的性質との関係についても考察した。
 第7章では最近注目されているプラスチック塗装について、被塗物の研磨処理による表面粗さ濡れ張力の変化がと、塗膜の付着性に及ぼす影響を常温乾燥型塗料を用いて検討した。プラスチック表面を研磨処理すると、表面粗さと濡れ張力が増加し、塗膜の付着性は向上する。この場合塗膜の付着に対して、良い効果を及ぼすのは表面粗さよりもぬれ性であり、ぬれ張力が38dyne/cm以上になると、実用上差し支えない程度の付着性が得られる。ポリオレフィン系プラスチックは研磨処理により表面粗さが増しても、ぬれ張力は34dyne/cm以下であるので付着性は向上しない。
 上述したように、本論文は塗膜の物理的性質を測定して、高分子物性論の立場から塗膜の本質を解明し、塗料技術の科学的基準を明示することを目的としたものである。本論文の実測値は自家製装置によるものが大部分で、最近の構成度化した装置による測定値と比較すると、実験精度は若干劣る。しかし高分子物性論の基礎に立脚して計画、解析しており、得られた成果は十分な価値があると確信している。

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