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立体骨組構造の有限変位解析の精密化に関する研究

氏名 岩嵜 英治
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第20号
学位授与の日付 平成2年3月26日
学位論文の題目 立体骨組構造の有限変位解析の精密化に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 林 正
 副査 教授 矢田 敏夫
 副査 助教授 長井 正嗣
 副査 助教授 池田 清宏
 副査 助教授 古口 日出男

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目次
第1章 序論
1-1 緒言 p.1
1.2 既往の研究 p.2
1.3 研究目的と概要 p.6
参考文献 p.8
第2章 空間曲線部材の有限変位場
2.1 概説 p.13
2.2 仮定・座標系と部材の幾何学 p.14
2.3 有限変位場 p.19
2.4 まとめ p.28
参考文献 p.30
第3章 円弧アーチの曲げねじれ座屈解析
3.1 概説 p.31
3.2 解析仮定と基礎式 p.32
3.3 支配方程式と座屈条件式 p.34
3.4 既往の研究との比較 p.38
3.5 まとめ p.47
参考文献 p.48
第4章 曲線部材の折れ線近似の妥当性
4.1 概説 p.49
4.2 検討方法と直線要素の基礎式 p.50
4.3 幾何学量の極限値 p.55
4.4 円弧アーチの曲げねじれ座屈での検証 p.60
4.5 まとめ p.66
参考文献 p.67
第5章 直線要素による有限変位解析
5.1 概説 p.69
5.2 一般化変位と変位関数 p.70
5.3 変位関数の妥当性の検証 p.72
5.4 マトリックス法の定式化 p.76
5.5 数値解法 p.83
5.6 数値計算例 p.90
5.7 まとめ p.96
参考文献 p.98
第6章 曲線要素による有限変位解析
6.1 概説 p.99
6.2 全ポテンシャルエネルギー p.101
6.3 汎関数の変形 p.103
6.4 数値解法 p.106
6.5 数値計算例 p.109
6.6 まとめ p.115
参考文献 p.117
第7章 結論 p.119
謝辞 p.120
付録A 微小要素の力のつり合い p.121
付録B 円弧部材の断面定数 p.123
付録C 曲線部材と直線要素上の座標系の関係 p.124
付録D 増分法における基礎式の誤差について p.127
付録E 薄肉断面部材の平衡方程式 p.133
付録F 充実断面部材の平衡方程式 p.144
付録G 曲線要素の停留条件式(6.27) p.152

 本論文は、マトリックス構造解析法による立体骨組構造の有限変位解析に関して、従来の解析法よりも精度の良い解析方法を開発し、マトリックス法の信頼性を向上させることを目的としている。
 このために、薄肉曲線部材の精密な有限変位場を導き、変位場の妥当性の確認をかねて円弧アーチの横倒れ座屈を解析し、既往の研究との比較を行っている。また、マトリックス法で従来より用いられている慣用の直線要素による曲線部材の折れ線近似に関する妥当性を検証し、非線形解析においても矛盾のない直線要素によって解析する手法を提案している。さらに、曲線部材を曲線要素として扱い少ない自由度で精度よく解析するための手法を提案し、これらの要素の精度と計算効率を数値計算により検討している。
(1)空間曲線部材の有限変位場
 幾何学的非線形挙動を表現する方程式は、仮想仕事の原理により有限変位場から数学的演算により誘導できることから、幾何学的非線形解析の精度は変位場の精度に左右される。
 このために、多くの研究が行われているが、3次元空間での有限回転が非可換であるためにベクトル代数により扱うことができないことと、横断面が有意なそり変形をするような博肉断面部材では3次元的な断面のそりを1次元化された棒部材で正確に評価することが困難なことから薄肉断面部材の厳密な変位場は求められていない。
 そこで、断面剛の仮定に従う変位に、そり変位を加えた変位場を仮定して、せん断変形はSt.-Venantのねじれによる変形だけを考慮し、薄肉断面の仮定によりそり変位を部材軸上の変位で近似的に表している。また、部材軸上の変位から求めた部材軸の単位接線ベクトルと回転から求めたベクトルとが断面剛の仮定により等しいことから回転と変位の厳密な関係を求めて、断面剛の仮定を満足した変位場を誘導している。
(2)円弧アーチの曲げねじれ座屈解析
 円弧アーチの曲げねじれ座屈は古くから多くの人々により研究され、近年においても座屈前の変形の影響や部材を構成する母線の初期曲率の影響を考慮した研究が行われている。しかし、曲線部材の3次元的な変形挙動の把握や前述のように変位場の誘導が困難なことから個々の研究者による結果に違いがある。
 そこで、本論文で誘導した変位場を用いて、円弧アーチの横倒れ座屈の支配方程式を仮想仕事の原理により誘導し、既往の研究結果との比較を行い相違点について考察している。また、解析解が容易に求められる求心荷重を受けたアーチと等曲げを受けたアーチの座屈荷重を数値計算により示している。
(3)曲線部材の折れ線近似の妥当性
 曲線部材をマトリックス法により解析する場合には、曲線要素よりも直線要素を用いて折れ線部材として扱うことが多い。線形解析に関しては、折れ線近似により曲線部材を表した場合の数値解の精度と妥当性が理論的に確認されている。しかし、幾何学的非線形解析の数値解の精度と妥当性に関しては明らかにされていない。
 そこで、マトリックス法で一般化変位として変位、回転とねじれ率の合計7自由度を使用して、部材軸方向変位は1次式、曲げによるたわみとねじれ角は3次式で表される慣用の直線要素を用いて、曲線部材を折れ線部材として近似し、要素数を無限大にしたときの解の妥当性について解析的な方法により調べている。この結果、線形解析や平面問題の幾何学的非線形解析に関しては折れ線部材として扱っても妥当な解が得られるが、曲線部材の3次元幾何学的非線形解析では妥当な解が得られないことを明らかにしている。
(4)直線要素による有限変位解析
 上述のような慣用の直線要素では、節点での回転、ねじれ率と部材軸上の変位との関係式に線形項だけを用いているので、ここではこれらの一般化変位に非線形解析においても矛盾のない有限な回転とねじれ率を用いた要素を誘導し、この要素による折れ線近似の妥当性を前述と同様の方法で確認している。さらに、この要素による計算方法と慣用の計算方法との違いについて考察し、ここで誘導した直線要素の精度と収束性について数値計算により調べている。
(5)曲線要素による有限変位解析
 曲線要素に比べて直線要素が多く用いられるのは、一般に定式化が容易であることと、変位法により誘導した曲線要素は剛性が過大に評価されて、収束性が極度に悪化するなどの問題があるためである。このために、精度のよい曲線要素を誘導するための研究が行われ、アイソパラメトリック要素や次数低減積分による手法や混合法による方法が提案されている。
 本論文では、変位と回転の拘束条件と、変位と伸び率の拘束条件を汎関数に含めて全ポテンシャルエネルギーの汎関数を修正し、ハイブリッド法的な手法により曲線要素を誘導している。この方法では、要素内の変位関数が必要なのは回転だけであり、少ない自由度で精度のよい解析ができる。
 以上のように、精密な変位場を誘導し非線形解析においても矛盾のない直線要素と曲線要素による解析法を開発できたので、立体骨組構造の有限変位解析の精度と信頼性を向上させることができた。

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