本文ここから

室温作動型光検知式水素ガスセンサーに関する研究

氏名 濱上 寿一
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第123号
学位授与の日付 平成8年3月25日
学位論文の題目 室温作動型光検知式水素ガスセンサーに関する研究
論文審査委員
 主査 教授 高田 雅介
 副査 教授 赤羽 正志
 副査 教授 植松 敬三
 副査 教授 小松 高行
 副査 助教授 安井 寛治

平成7(1995)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

目次
第1章 序論 p.1
1.1 水素のクリーンエネルギーとしての現状と展望 p.1
1.2 水素の安全性 p.3
1.3 水素センサー p.4
1.3.1 電気検知式水素センサー p.6
1.3.2 光検知式水素センサー p.7
1.4 本研究の目的 p.10
1.5 本論文の構成と概要 p.11
参考文献 p.12
第2章 Pd/MoO3二層薄膜の作製と水素ガス検知特性 p.14
2.1 はじめに p.14
2.2 実験方法 p.16
2.2.1 Pd/MoO3二層薄膜の作製 p.16
2.2.2 薄膜のキャラクタリゼーション評価 p.19
2.2.3 水素ガス検知特性 p.20
2.3 実験結果 p.22
2.3.1 薄膜のキャラクタリゼーション p.22
2.3.2 室温水素ガス検知特性 p.26
2.4 考察 p.28
2.4.1 Pd/MoO3薄膜の着色機構 p.28
2.5 まとめ p.32
参考文献 p.33
第3章 MoOx薄膜の性状と水素ガス検知特性 p.34
3.1 はじめに p.34
3.2 実験方法 p.35
3.2.1 MoOx薄膜の作製 p.35
3.2.2 MoOx薄膜のキャラクタリゼーション評価 p.37
3.2.3 水素ガス応答特性 p.39
3.3 実験結果 p.40
3.3.1 MoOx薄膜のキャラクタリゼーション p.40
3.3.2 室温水素ガス応答特性 p.49
3.4 考察 p.50
3.5 まとめ p.52
参考文献 p.53
第4章 Pd単層薄膜における感度の繰り返し耐久性に及ぼす膜厚の影響 p.54
4.1 はじめに p.54
4.2 Pd-H2系一般理論 p.56
4.3 実験方法 p.59
4.3.1 Pd単層薄膜の作製 p.59
4.3.2 Pd薄膜のキャラクタリゼーション評価 p.61
4.3.3 繰り返し水素ガス応答特性 p.61
4.4 実験結果 p.63
4.4.1 Pd薄膜のキャラクタリゼーション p.63
4.4.2 水素ガス応答特性 p.65
4.4.2.1 回復特性に及ぼす酸素分圧の影響 p.65
4.4.2.2 初期水素応答特性 p.66
4.4.2.3 繰り返し耐久性 p.69
4.5 考察 p.74
4.5.1 反射光による水素応答性と光学顕微鏡観察 p.74
4.5.2 PCT線図による繰り返し耐久性の考察 p.80
4.6 まとめ p.82
参考文献 p.83
第5章 総括 p.84
謝辞 p.87
研究業績リスト p.89
付録 p.92
付録1 高周波マグネトロンスパッタリング装置 p.92
付録2 Corning#7059ガラスの組成と諸物性値 p.93
付録3 使用光源の発光スペクトルと強度の安定性 p.95

 水素は次世代のクリーンで無尽蔵な二次エネルギー源として期待されており、実用化にむけて多岐にわたる基礎研究・応用技術開発が精力的に推進されている。その成果の一端として、ニッケル・水素化物電池やリン酸型燃料電池が実用に供され、水素を燃料とした無公害な水素自動車の走行試験が実施されている状況にある。
 産業界、一般社会、果ては家庭において水素がエネルギー源として普及するためには、爆発、火災、酸素欠乏による窒息に対する充分な安全性の確保が最重要課題である。災害防止のためには水素をモニターする水素ガスセンサーの開発が必要となる。
 実用水素ガスセンサーには水素ガスの接触に伴う素子の電気伝導度変化を電気的手法により検出する電気検知方式が広く利用されている。可燃性ガスである水素を検知するにもかかわらず、この方式では素子を加熱した状態で使用しなければならないため安全性において問題が残る。これに対し、電気検知方式とは全く異なる原理で作動する光検知式水素ガスセンサーは、素子の光透過率・反射率変化を利用して光学的手法により水素の検知を行う。この方式では室温作動が期待されることから水素の安全検知が実現できる可能性がある。しかしながら、センサー技術としての歴史が浅いため、材料探索、検知機構、センサー特性の改善などの詳細についてはほとんど不明のままであった。
 本研究では、室温作動型光検知式水素ガスセンサーに着目し、材料物性の視点からセンサー材料の探索と検知機構さらにセンサー特性の改善のための材料設計に関しての知見を得ることを目的とした。また、本研究ではガラス上に形成したPd/MoO3とPdの二種類の薄膜状試料を用いており、前者は水素によって着色した光透過率が減少するタイプであるのに対し、後者は透過率が増加するタイプである。
 本論文は『室温作動型光検知式水素ガスセンサーに関する研究』と題し、次の5つの章から構成されている。
 第1章『序論』では、被検ガスの対象としている水素の利用用途を概観し、本論文の主旨である室温作動型光検知式水素ガスセンサーを研究する意義について述べるとともに本論文全体の概要を説明した。
 第2章『Pd/MoO3薄膜の作製と水素ガス検知特性』では、新規なセンサー素材探索の観点から、WO3とともにクロミズム材料の代表として研究されているMoO3を取り上げ、Pd/MoO3薄膜をスパッタ法を用いて作製し、Pd/MoO3薄膜の室温におけるガス検知特性を調べた。その結果、Pd/MoO3薄膜の色は空気中ではlight grayであるのに対し、水素中ではdark blueに着色した。この着色現象はMoO3薄膜中のMo5+イオンの生成に起因することを、電子スピン共鳴(ESR)分析より明らかにした。着色による光透過率の減少からPd/MoO3薄膜は水素に対して検出感度を持つことが確認された。また、低濃度の水素ガス検知における応答速度は、従来のWO3を凌駕することを確認した。さらに、CH4、iso-C4H10に対するガス検知特性を調べた結果、Pd/MoO3薄膜は全く検出感度を示さなかったことから、水素に対して高選択性を有することが明らかとなった。したがって、Pd/MoO3薄膜は室温作動型光検知式水素ガスセンサー素材として有望であることを見いだした。
 第3章の『MoOx薄膜の性状と水素ガス検知特性』では、高速応答性をもつ着色材料設計の観点から、着色媒体であるMoOx薄膜の性状を変化させ、着色(応答)速度との相関について調べた。MoOx薄膜中の酸素含有量が着色速度に及ぼす影響について検討した結果、酸素含有量の増加とともに着色速度が向上することを明らかにした。また、MoOxの結晶性と着色速度に関する検討から、多結晶膜が非晶質膜に比べ着色速度が高いことを明らかにした。これよりPd/MoO3薄膜における着色速度は、Pd層の付着状態を含めた酸化物層の酸素含有量と結晶性に強く依存していることを明らかにした。
 第4章の『Pd単層薄膜の繰り返し水素ガス検知特性に及ぼす膜厚の影響』では、多数回の繰り返し測定に優れる材料設計の観点から、Pd薄膜の室温における繰り返し水素ガス検知特性に及ぼす膜厚の影響について調べた。その結果、Pd薄膜の膜厚の減少とともにセンサー特性の耐久性が向上することが明らかとなった。また、センサー特性の劣化は膜形状の不可逆変化に起因し、その原因は水素雰囲気下での水素化物(β-PdHx)の形成に伴う大きな体積膨張によることと推測した。この知見から、繰り返し水素検知用としてPd薄膜を利用する場合は膜厚の制御が必要であることを見いだした。
 第5章の『総括』では本論文で得られた研究成果を要約し総括とした。

平成7(1995)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る