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ブロック対角化理論による対称構造物の構造解析の並列高速化に関する研究

氏名 有尾 一郎
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第65号
学位授与の日付 平成7年6月21日
学位論文の題目 ブロック対角化理論による対称構造物の構造解析の並列高速化に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 鳥居 邦夫
 副査 教授 小川 正二
 副査 教授 林 正
 副査 教授 丸山 久一
 副査 東北大学 助教授 池田 清宏

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目次
第1部 理論 p.1
第1章 序論 p.3
第2章 群論 p.6
2.1 群の基本概念 p.6
2.1.1 群の定義 p.7
2.1.2 対称操作の定義 p.7
2.1.3 対称構造物に対する系統的分類法 p.9
2.1.4 同形写像と準同形写像 p.11
2.1.5 共役元と類 p.11
2.1.6 部分群と不変部分群 p.12
2.2 群の表現 p.12
2.2.1 群Gの表現行列 p.12
2.2.2 表現論一般 p.13
2.2.3 可約表現と既約表現 p.14
2.2.4 指標とその性質 p.15
2.2.5 既約表現列の直交性 p.17
2.2.6 線形変換群 p.19
第3章 群論と構造力学 p.21
3.1 群論と動力学 p.21
3.1.1 動的問題 p.23
3.2 群論と静力学 p.25
3.3 軌道概念 p.27
3.3.1 軌道の概念と座標変換行列のスパーシティ p.27
3.3.2 局所座標変換 p.29
第4章 二面体群に対するブロック対角化理論 p.31
4.1 二面体群Dnと既約表現 p.31
4.2 ブロック対角化 p.34
4.2.1 静的釣合方程式 p.34
4.3 並進変位と回転変位の対称変換 p.38
4.3.1 並進変位と回転変位の変換行列の相互関係 p.41
4.4 軌道 p.43
4.4.1 軌道の概念と座標変換行列のスパーシティ p.43
4.4.2 要素に対する軌道概念 p.45
4.4.3 各種行列の局所座標変換 p.47
4.4.4 座標変換に対する計算効率 p.50
第II部 応用 p.51
第5章 二面体群に不変な系の数値解析 p.53
5.1 静的解析に対する要素剛性 p.53
5.1.1 座標変換行列の組立 p.53
5.1.2 正方形板平面要素のブロック対角化 p.54
5.1.3 D3不変板要素の剛性行列のブロック対角化 p.60
5.2 静的離散化構造系のブロック対角化 p.62
5.2.1 要素N×Nを持つ正方形板 p.62
5.2.2 Dn不変板曲げ構造モデル p.64
5.3 動的構造系への適用 p.74
5.3.1 D6不変はり構造物 p.75
5.3.2 各種の行列の同時ブロック対角化 p.77
5.3.3 減衰を持たない集中質量系の振動解析 p.80
5.3.4 減衰を持つ集中質量系の振動解析 p.83
5.3.5 Dn不変m層構造の固有値解析 p.85
5.3.6 演算効率の解析評価 p.85
5.3.7 実固有値解析の演算効率の評価 p.88
第6章 結論 p.92
参考文献 p.95
付録A D3不変板要素 p.101
A.1 座標変換行列 p.101
A.2 要素剛性行列 p.105
A.3 ブロック対角化された要素剛性行列 p.107
付録B D2不変板曲げ要素 p.109
B.1 D2板曲げ要素剛性行列 p.109
B.2 ブロック対角化されたD2不変板曲げ要素剛性行列 p.111
B.3 ブロック対角化されたD4不変板曲げ要素剛性行列 p.112
付録C 各軌道に対する座標変換行列成分生成のための基礎式 p.114
付録D ブロック対角化解析法のフローチャート p.118
表目次
2.1 D4の指標表 p.16
2.2 D6の指標表 p.16
4.1 既約表現μとその共役行列との関係 p.42
4.2 例えば,n=4に対する要素間に拡張された軌道に属する要素の数 p.47
5.1 正方形板に対する要素間の軌道の数 p.64
5.2 各要素に対する演算回数 p.64
5.3 D6不変な座標変換行列Hμ(z方向成分) p.78
図目次
2.1 対称構造物に対する系統的分類法 p.10
3.1 4種類の軌道 p.27
4.1 変位の定義 p.39
4.2 回転変換rが変位ベクトルに及ぼす影響 p.39
4.3 鏡映変換sが変位ベクトルに及ぼす影響 p.40
4.4 4種類の軌道 p.43
4.5 要素に対する軌道 p.47
4.6 各軌道に対する鏡映対称性 p.48
5.1 長方形節点および要素に対する軌道の種類 p.55
5.2 正方形板の軌道分解 p.55
5.3 各既約表現に対する変形モード p.56
5.4 4節点の座標系 p.57
5.5 正三角形板要素 p.60
5.6 列ベクトルHが表す変形パターン(1M typeに対応) p.61
5.7 各対称群に対する変形 p.65
5.8 分割nに対する計算時間 p.66
5.9 分割nに対する配列容量 p.67
5.10 離散化Dn不変薄板モデル(n=3,4,6) p.68
5.11 位数nに対するブロック対角行列 p.68
5.12 剛性行列K p.69
5.13 ブロック対角行列 p.70
5.14 位数nと所要配列容量の関係 p.71
5.15 位数nと所要計算時間の関係 p.72
5.16 D6不変な構造モデル p.76
5.17 D6不変な集中質量系の行列式|S(λ)|とその既約表現による行列との比較 p.81
5.18 複素固有値λに対する行列式|S(λ)|の絶対値の分布 p.82
5.19 ブロック対角化後の複素固有値λに対する行列式|μ(λ)| p.84
5.20 Newton-Raphson法による収束性能の比較 p.86
5.21 正n角形m層構造(n=12,m=4) p.87
5.22 各種のn,mに対する所要計算時間 p.89
5.23 行列サイズNに対するQR反復時間の比較 p.91
D.1 ブロック対角化の解析方法の流れ図 p.119

 近年群論的分岐理論に基づく対称構造物のブロック対角化理論が提案され、その数値解析上の利点が示されてきた。この理論は対称構造物の剛性、減衰、質量行列等の各種の行列を対称とする系の幾何学的対称性に基づいた座標変換を行うことによりブロック対角化し、支配方程式を複数の独立な式に分解するものである。この座標変換は一般のデカルト座標系で表される対称構造物の支配方程式を既約表現に対応する複数の独立な式として分解できるので、膨大な計算量を必要とする大規模離散系構造においては非常に有利となる。
 本学位論文は構造解析における、静的および動的問題に関するブロック対角化理論をまとめたものである。本論文の構成は、第1章から第4章までを第1部(理論)、第5章を第II部(応用)とした。前半部は群論を利用するための基礎概念に重きを置き、後半部は構造解析への利用法に力点を置いた。
 本論文の第1章では、ブロック対角化理論の発展に関する背景とその有用性および妥当性について述べた。
 第2章では対称性を数学的に記述するための、群の基本概念や群の表現論を述べる。幾何学的対称性を持つ系の力学的挙動を解明するための対称性の記述法および演算法について述べる。対称構造物を系統的に分類するには、群論を用いることが有効である。このような群論的観点は構造系の対称性が完全系でなく、多少不完全な系に対しても有益な物理的予測が得られるものである。また、ブロック対角化を実際に適用するにあたり、ブロックの数、ブロックの種類およびブロックの大きさ等のブロック対角化原理の基本的性質を数学的に記述する。
 第3章では前章の群論と構造力学に関係する運動方程式および剛性方程式の対称条件の一般化理論について記述する。すなわち、対称構造物に対するエネルギ変分原理から導かれる運動方程式および剛性方程式等の支配方程式の対称変換を記す。この条件式を満たすとき、支配方程式はブロック対角化が可能となる。そのほか、構造物の動的解析を行うにあたり、複素固有値解析の計算効率について本手法と従来の手法を理論的に比較した。その結果、構造モデルによっても異なるが、系の自由度が増加するに従い、従来より計算速度比を大幅に向上させることを明らかにした。
 第4章はブロック対角化理論は任意の構造解析に対して成り立つ理論であるが、本章では軸対称構造物の対称性を表す二面体群Dnとその既約表現の定義について詳細に論じる。また、ブロック対角化理論の応用として、群Dnを持つ構造系の釣合方程式、微分方程式、複素動剛性行列、および制御系の行列のブロック対角化法について述べる。そのほか、固有値解析に関する理論的計算効率の評価および対称変換における変位と回転の間の対称性に関する相互関係について詳細に検討する。特に、本研究は回転の対称性を考慮し一般化された変位ベクトルに拡張し、また、変位の対称性に対する座標変換と回転の対称性に対する座標変換との関係を明らかにした。これにより、変位と回転の対称性に対する座標変換に伴う計算効率および変換行列生成のための計算効率も向上させ、配列容量の面においてもその有用性が発揮される。
 第5章では群Dnを持つ軸対称構造物に関する豊富な数値解析例を取り上げ、本理論と有限要素法との適合性に関わる適用計算について述べる。軌道概念から導かれる軌道要素の種類と構成および座標変換行列の組立方法について、正n角形の構造モデルを用いて具体的に述べる。本理論による大規模静的離散化対称構造から多角形離散化動的モデルまでの多岐にわたって、その数値解析結果を得た。特に、複素固有値解析の反復解法においては、既約表現空間が独立な空間であるための解の収束安定性を向上させ、それに伴い反復回数が著しく減少することが可能となった。この結果を著者は本研究において確認した。このほか、従来の解析結果と比較し、本理論に対する有用性と演算効果等について詳細に調べた。
 本研究で得られた研究成果の総括を第6章にまとめた。
 本論文をまとめることにより、群論的分岐理論を基礎としたブロック対角化法を構造解析に利用するための群の表現論を用いて、この解析法の数値解析から実用的な数値解析までを一貫して記述表現することができた。また、幾何学的対称性の不変的性質を構造力学および計算力学に反映させることができた。

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