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除排雪に対する意識の定量的評価に関する研究

氏名 宮腰 和弘
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第64号
学位授与の日付 平成7年6月21日
学位論文の題目 除排雪に対する意識の定量的評価に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 松本 昌二
 副査 教授 梅村 晃由
 副査 教授 早川 典生
 副査 助教授 福嶋 祐介
 副査 助教授 中出 文平

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目次
第1章 序論 p.1
1-1 研究の背景と目的 p.1
1-2 本研究のフレーム p.3
1-3 本研究の構成 p.7
第2章 除排雪に対する評価 p.9
2-1 積雪地域における雪対策の現況 p.9
2-2 雪対策の課題 p.16
2-3 除排雪に対する評価の計画的課題 p.24
2-4 既往の研究 p.26
2-5 本研究の方法 p.31
2-5-1 意識の評価方法 p.31
2-5-2 本研究における構造化の考え方 p.36
第3章 市街地除排雪量シミュレーション p.46
3-1 はじめに p.46
3-2 除排雪の考え方と算定方法 p.47
3-3 対象地区と現況 p.51
3-4 ケーススタディー p.53
3-5 まとめ p.56
第4章 市街地除排雪に対する住民の意識構造と定量化 p.57
4-1 評価の構造化と調査 p.57
4-1-1 除排雪評価に対する階層構造の設定 p.57
4-1-2 除排雪に対するアンケート調査 p.65
4-2 評価要素の重みづけと評価値の算出 p.68
4-2-1 評価要素の重みづけ p.68
4-2-2 評価値の算出 p.95
4-3 総合評価の算出 p.105
4-3-1 自宅の除排雪に対する総合評価 p.105
4-3-2 道路除排雪に対する総合評価 p.118
4-4 まとめ p.131
第5章 市街地における冬季歩行環境の定量化 p.134
5-1 評価の構造化と調査 p.134
5-1-1 歩行環境に対する階層構造の設定 p.134
5-1-2 各評価要素の状態設定 p.136
5-1-3 各評価要素の導入方法 p.140
5-1-4 冬季歩行環境のアンケート調査 p.142
5-2 評価要素の重みづけと評価値の算出 p.146
5-2-1 現況の分析 p.146
5-2-2 AHP手法における一対比較頻度結果 p.151
5-2-3 各評価要素の重みづけ p.163
5-2-4 評価値の算出 p.172
5-2-5 自宅前道路の除排雪環境に対する満足度 p.179
5-2-6 地図データの頻度集計 p.187
5-3 総合評価の算出 p.191
5-3-1 状態設定の検討 p.192
5-3-2 リンク得点の算出 p.201
5-3-3 個人のルート得点の算出 p.203
5-3-4 個人ルート得点の検証 p.220
5-4 まとめ p.229
第6章 積雪地域における除排雪の改善による総合評価の変動 p.234
6-1 対象地区における除排雪レベルの設定 p.234
6-2 除排雪に対する総合評価の変動 p.237
6-3 冬季歩行環境に対する総合評価の変動 p.239
6-3-1 地区得点による除排雪レベルの検討 p.239
6-3-2 除排雪レベルの改善による総合評価の変動 p.240
6-4 まとめ p.243
第7章 総括 p.244
7-1 本研究のまとめ p.244
7-2 今後の課題 p.253
謝辞 p.255
参考文献 p.256

 本研究は、積雪地域の冬季における敷地と道路の除排雪、及び道路歩行環境に対する住民の意識構造を把握し、除排雪システムを意識面から定量的に評価する方法を提案し、実証することを目的とする。
 本研究で提案した評価方法は、排雪量の算定、住民の意識構造の定量化、除排雪システムの総合評価という3段階から構成されている。
 除排雪評価における住民の意識構造は、複雑で多岐の基準にわたり、また、複数の評価基準には定性的なものも含め共通の尺度が存在しない。そこで本研究では、複雑で多様な意識、主観的判断を定量化するために有効とされる、階層分析法(Analytic Hierachy Process=AHP手法を適用した。
 まず、対象地域内の各除排雪システム(機械除雪、消雪パイプ、流雪溝)の設置状況下で、道路と敷地の除排雪について、排雪作業のシミュレーションを行い、排雪量を算定する。また、街区内の建蔽率、除排雪システムの設置状況を変化させ、排雪量を算定することにより、多雪年、平雪年、少雪年の排雪量を比較し、地域における除排雪システムの改善に伴う除雪量軽減の状況を示した。
 次に、階層分析法を用いるため、除排雪の評価に対する意識のなかで重要な要素を把握し、評価構造の構築を行った。道路と敷地の除排雪については「環境」、「労働」、「費用」の3要素、歩行環境については「利便性」、「快適性」、「安全性」の3要素に、大きく分けて、評価構造を設定した。以上の設定にもとづき、アンケート調査結果により、評価要素の重要度を定量的に算出した。つづいて、各要素について考えられる降積雪の変化、道路と敷地の除排雪システム、住宅形式、歩行環境の変化を含んだ様々な状況に対して、住民意識の定量化を行った。各評価要素の設定状況に対して、アンケート調査により「これ以上悪い状況だと不満」と考えられる状況を選択してもらい、各状況における頻度の割合をとる。それから、最も悪い状況から頻度の割合を累積し、その累積百分率の値を評価値と定義した。この評価値に、各評価要素の重ねを掛けて、全ての評価要素について合計し、得られた値を総合評価得点とした。
 最後に、対象市街地において、除排雪システムについて得られた総合評価得点により、除排雪に対する住民意識の定量的評価を行った。
 長岡市および小千谷市の地域住民を対象としてアンケート調査を行い、以上の評価方法を実証した。その結果の概要を以下に示す。
1)道路の除排雪における評価では「環境」の要素が重要視されている。4m道路は、消雪パイプの設置を行わない限り評価は低く、満足できる状況ではない。消雪パイプは、現在の除排雪システムの中では最も評価得点が高い。機械除雪を中心とした除排雪を考えた場合、最低6m以上の幅員の道路を設置していく必要がある。流雪溝に対する評価得点は、消雪パイプより低くなっている。これは、除排雪に住民の労働力が必要なためである。しかし、多雪の場合、評価は他の除排雪システムに比較して低下しない。
2)敷地の除排雪については、「玄関から道路までの除雪」、「屋根雪の除雪回数」等の「労働」の評価要素が大きな重みをもつ。少雪でない限り、住民の要求基準を満たすことはかなり難しい。克雪型住宅に対する評価は、多雪時には高いが、少雪時では、投資した費用が評価得点を低下させた。建蔽率は、屋根雪を敷地内で処理できる状況に下がると、評価得点が向上した。
3)歩行環境については、「安全性」が特に重要視され、路面状態、ぬれや汚れが評価の大きな部分を占めている。歩道があり除雪される場合には、大きな問題はみられない。しかし、歩道がない消雪パイプの道路では、自転車走行の場合と異なり、「ぬれや汚れ」が評価得点を低下させる場合が多い。むしろ、幅員の広い道路で、機械除雪によりきちんと歩行空間が確保された場合、高い評価得点が得られた。
4)機械除雪、消雪パイプ、流雪溝の各除排雪システムを比較すると、少雪時には、機械除雪を中心とした除排雪システムでも道路、敷地、歩行環境いずれについても十分な評価得点が得られた。平年雪の場合は、降雪のあった直後に、道路では消雪パイプ、敷地では流雪溝の評価が高くなった。歩行環境は、歩道除雪が行われた場合には評価が高い。多雪時には、道路、敷地、歩行環境とも消雪パイプ、流雪溝の評価得点は高いけれども、機械除雪では、満足のいく評価はえられにくい。
 以上の実証研究により、階層分析法を適用した住民意識の総合評価得点は、除排雪システムの相違がもたらす道路、敷地、歩行環境の状況を定量的に示していることが検証された。よって、本研究の除排雪に対する定量的評価の方法は、除排雪システムを計画、設置していく際に、その評価向上の度合いを測定するための実用的かつ有効な方法であることが示された。

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