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誘導電動機の高速トルク制御法とその高性能化に関する研究

氏名 野口 敏彦
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第81号
学位授与の日付 平成8年3月25日
学位論文の題目 誘導電動機の高速トルク制御法とその高性能化に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 高橋 勲
 副査 教授 村田 正男
 副査 助教授 近藤 正示
 副査 助教授 大石 潔
 副査 明治大学 教授 松瀬 貢規

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目次
誘導電動機の高速トルク制御法とその高性能化に関する研究
目次
第1章 序論 p.1
1.1 本研究の技術的背景 p.1
1.2 技術的課題と本研究の目的 p.4
1.3 本論文の概要 p.7
参考文献 p.9
第2章 誘導電動機の一般化トルク制御理論 p.11
2.1 緒言 p.11
2.2 誘導電動機の電圧電流方程式と伝達関数 p.12
2.2.1 一般化二相回転機の電圧電流方程式とトルク p.12
2.2.2 誘導電動機の電圧電流方程式とトルク p.18
2.2.3 誘導電動機の伝達関数 p.20
2.3 誘導電動機の磁束およびトルク発生機構 p.24
2.3.1 二次磁束鎖交数に着目したトルク発生機構 p.24
2.3.2 一次磁束鎖交数に着目したトルク発生機構 p.27
2.4 誘導電動機の一般化トルク制御法 p.29
2.4.1 磁束フィードフォワード形トルク制御法 p.29
2.4.2 磁束フィードバック形トルク制御法 p.32
2.4.3 磁束シミュレータの構成と推定特性 p.37
2.5 結言 p.41
参考文献 p.44
第3章 誘導電動機の直接トルク制御法 p.45
3.1 緒言 p.45
3.2 直接トルク制御法の概要 p.46
3.3 ベクトル制御法との比較 p.48
3.4 一次磁束鎖交数制御時の過渡解析 p.50
3.5 電圧形インバータによる誘導電動機の制御 p.52
3.5.1 一次磁束鎖交数の制御法 p.52
3.5.2 トルクの制御法 p.56
3.5.3 スイッチングテーブルの構成 p.57
3.6 シミュレーションによる制御特性の検証 p.59
3.7 実験システムと制御特性の評価 p.63
3.7.1 実験システムの構成 p.63
3.7.2 実験結果と制御特性の評価 p.66
3.8 結言 p.66
参考文献 p.68
第4章 直接トルク制御法における高性能化 p.71
4.1 緒言 p.71
4.2 一次磁束鎖交数の演算補償法 p.72
4.2.1 磁束演算補償法の原理と構成 p.72
4.2.2 シミュレーションによる補償特性の検証 p.74
4.3 磁束振幅制御による最大効率運転法 p.78
4.3.1 最大効率運転法の原理と構成 p.78
4.3.2 シミュレーションによる磁束振幅制御特性の検証 p.81
4.3.3 実験結果と運転特性の評価 p.83
4.4 ディザ信号を利用した低騒音駆動法 p.83
4.4.1 低騒音駆動法の原理と制御システムの構成 p.83
4.4.2 シミュレーションによる駆動特性の検証 p.87
4.4.3 実験結果と駆動特性の評価 p.89
4.5 結言 p.92
参考文献 p.93
第5章 一次磁束鎖交数に着目した誘導電動機の速度センサレス制御法 p.95
5.1 緒言 p.95
5.2 座標変換を用いた直接トルク制御法 p.96
5.3 すべり周波数推定機構による速度推定法 p.99
5.4 シミュレーションによる制御特性の検証 p.100
5.5 実験システムと制御特性の評価 p.103
5.5.1 実験システムの構成 p.103
5.5.2 実験結果と制御特性の評価 p.106
5.6 電動機パラメータ感度の検討 p.109
5.7 結言 p.112
参考文献 p.112
第6章 磁束演算フィードバック形ベクトル制御法とパラメータ変動に対するロバスト化 p.115
6.1 緒言 p.115
6.2 磁束演算フィードバック形ベクトル制御法 p.116
6.2.1 二次磁束鎖交数シミュレータ p.116
6.2.2 磁束シミュレータを利用したベクトル制御法 p.119
6.2.3 基本的な制御特性と問題点 p.121
6.3 瞬時無効電力による二次抵抗の変動補償法 p.123
6.4 シミュレーションによる制御特性の検証 p.126
6.5 実験システムと制御特性の評価 p.128
6.5.1 実験システムの構成 p.128
6.5.2 実験結果と制御特性の評価 p.130
6.6 結言 p.132
参考文献 p.133
第7章 電動機パラメータの完全無調整化と適応化 p.135
7.1 緒言 p.135
7.2 電動機パラメータの算定条件依存性 p.136
7.2.1 相互インダクタンスの特性 p.136
7.2.2 漏れインダクタンスの特性 p.137
7.2.3 鉄損抵抗の特性 p.140
7.3 漏れインダクタンスの同定法 p.140
7.4 相互インダクタンスと二次定数の同定法 p.144
7.5 シミュレーションによる制御特性の検証 p.148
7.5.1 シミュレーション結果 p.148
7.5.2 相互インダクタンスが同定特性に与える影響 p.150
7.6 実験システムと制御特性の評価 p.152
7.6.1 実験システムの構成 p.152
7.6.2 実験結果と制御特性の評価 p.152
7.7 結言 p.154
参考文献 p.155
第8章 結論 p.157
8.1 本研究で得られた成果 p.157
8.2 今後の展望と課題 p.161
8.2.1 直接トルク制御法に関する課題 p.161
8.2.2 制御系のロバスト化と適応化に関する課題 p.162
8.3 あとがき p.162
謝辞 p.163
著者の発表論文 p.165
付録 p.171
付録1 p.171
付録2 p.172
付録3 p.172
付録4 p.174

 本論文では究極の可変速駆動技術を確立するために誘導電動機のトルク制御アルゴリズムを抜本的に見直し再構築するとともに、電動機パラメータに対する完全なロバスト化と適応化についても検討した。
 まず、第1の目的として電力変換器による誘導電動機駆動システムのトルク制御特性を本質的に向上させるため、すでに発表されているベクトル制御法とはまったく異なる誘導電動機の直接トルク制御法を提案した。従来、誘導電動機の高速トルク制御法はトルク伝達関数定数化を最大の命題として、ベクトル制御法に立脚する理論体系のもとで研究が行われてきた。しかし、これまでは誘導電動機と電力変換器が複雑に絡み合う運転特性を総合的に改善するという立場からは検討されておらず、電動機の高速トルク応答と低磁束・トルクリップルや電力変換器の最適PWMを両立させることは極めて困難であった。ここで提案する直接トルク制御法は誘導電動機の磁束とトルクを直接的にフィードバックし、それらの瞬時的な状態に応じて電力変換器の最適スイッチングを行うことにより以上の問題を抜本的に解決する。この手法によれば誘導電動機と電力変換器をひとつのシステムとしてとらえるため、システム全体の調和をとりながら総合的に運転特性の最適化を実現することができる。
 次に第2の目的として誘導電動機の高速トルク制御法において不可欠とされる電動機パラメータの完全無調整化を実現するために、パラメータに対する制御系のロバスト化と適応化について検討した。周知のように誘導電動機自身では磁束とトルクを個別に制御できる機構を有していない。したがって、誘導電動機の高速トルク制御法では制御装置で磁束とトルクの発生機構を数学モデルとしてあらじめ用意しておき、それをシミュレートすることで問題の解決を図っている。しかし、この数学モデルは電動機パラメータを用いて構成されるため、実機とのパラメータミスマッチが生じた場合には正確な動作を期待することができない。これは、磁束とトルクを独立に制御する機構が崩壊したことに相当し、制御特性に極めて深刻な影響を及ぼす。このような問題に対して提案する手法では誘導電動機の瞬時無効電力に着目し、オンラインでパラメータを同定することによって飛躍的な特性改善を図る。この手法によれば一次抵抗に対するロバスト化だけでなく相互インダクタンスや漏れインダクタンス、二次時定数に体する適応化を実現することができる。
 以上の技術的背景と目的に基づいて本論文を8つの章から構成し、各章の内容を次のように設定した。
 第1章では本論文の序論として、この研究の意義と目的について述べた。ここでは誘導電動機の可変速駆動技術を歴史的、工学的観点から再認識するとともに、現在までに著者が把握している技術的課題を掲げ、それに対応する目標設定を行った。
 第2章では誘導電動機の一般化されたトルク制御理論について解説した。誘導電動機の電圧電流方程式とトルクを一般化二相回転機から導き、それをもとに伝達関数やブロック線図について検討した。さらにこれらの検討結果を受けて誘導電動機のトルク発生機構について考案し、トルク伝達関数定数化のための制御則や磁束推定法を導出した。
 第3章では従来の方式とは制御原理をまつたく異にする誘導電動機の直接トルク制御法について論じた。ここでは本制御方式における制御則の根拠となるべき過渡解析を行った後、スイッチングテーブルに基づいて磁束とトルクの直接的な瞬時値追従制御を行う方法を具体的に展開した。その結果、ベクトル制御法を凌駕する高速トルク応答と定磁束・トルクリップルだけでなく電力変換器の最適PWMも同時に実現できることが実証された。
 第4章では前章で述べた誘導電動機の直接トルク制御法について、その制御特性をさらに向上させる手法を検討した。これらの高性能化手法は電動機パラメータに対する感度低減や高効率運転、低騒音駆動を目的としたものである。
 第5章では第3章の直接トルク制御法に変更を加えて、誘導電動機の速度センサレス制御を試みた。座標変換を利用した直接トルク制御法やすべり周波数推定機構に基づく速度推定法を理論的に説明した後、実験等によってその制御特性を検証した。
 第6章では第2章における考察をもとに磁束演算フィードバック形ベクトル制御法をとりあげ、電動機のパラメータ変動に対するロバスト化について論じた。ここで提案する手法は誘導電動機の瞬時無効電力に着目したものであり、二次抵抗だけでなく一次抵抗に対しても容易にロバスト化を図ることができる。なお、この手法は後述する電動機パラメータの完全無調整化と適応化の基礎になるものである。
 第7章では前章と同様に磁束演算フィードバック形ベクトル制御法をとりあげ、更なる高性能化の一環として電動機パラメータの完全無調整化と適応化について検討した。この手法によって電動機制御システムにおける究極の形を実現することができる。
 第8章では本論文の結論として各章ごとの総括を行った。また、本研究で残された課題にふれるとともに今後の展望についても言及した。

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