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CuGaS2の励起子系および非線形光学特性の研究

氏名 田中 久仁彦
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第216号
学位授与の日付 平成13年3月26日
学位論文題目 CuGaS2の励起子系および非線形光学特性の研究
論文審査委員
 主査 教授 打木 久雄
 副査 教授 上林 利生
 副査 助教授 内富 直隆
 副査 助教授 安井 寛治
 副査 助教授 小野 浩司

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第一章 序論
1-1 カルコパイライト型半導体の研究の背景 p.1
1-2 本研究の目的 p.3
1-3 本論文の構成 p.5
1-4 付録 カルコパイライト型半導体の概説 p.6
(1) カルコパイライト型半導体の結晶構造 p.6
(2) カルコパイライト型半導体のバンド構造 p.6
(3) カルコパイライト型半導体の非線形感受率 p.7
参考文献 p.9

第二章 試料の作製と実験方法
2-1 実験で用いた試料 p.11
2-1-1 試料の作製方法 p.11
2-1-2 試料の品質 p.11
2-2 実験方法 p.13
2-2-1 Ti:サファイアレーザー、Cr:フォルステライトレーザー p.13
2-2-2 定常励起励起子発光スペクトルの測定 p.14
2-2-3 時間積分発光スペクトルの測定 p.16
2-2-4 時間分解発光スペクトルの測定 p.17
2-2-5 反射第二高調波発生の測定 p.17
2-2-6 反射第三高調波発生の測定 p.18
2-2-7 試料の表面観察 p.19
2-2-8 試料の屈折率、消衰係数の測定 p.19
参考文献 p.19

第三章 CuGaS2バルク単結晶励起子系のピコ秒時間分解発光分光
3-1 はじめに p.20
3-2 実験結果 p.21
3-2-1 定常励起励起子発光スペクトルとの比較 p.21
3-2-2 励起子発光時間積分スペクトルの温度依存性 p.22
3-2-3 励起子発光時間積分スペクトルの波形分離 p.22
3-2-4 束縛励起子、自由励起子発光強度の温度依存性 p.25
3-2-5 励起子発光時間分解分光の例 p.26
3-2-6 自由励起子、束縛励起子の発光時間減衰曲線の温度依存性 p.26
3-2-7 発光強度比と発光寿命の比の温度依存性 p.30
3-3 解析と議論 p.32
3-3-1 レート方程式 p.32
3-3-2 レート方程式の解 p.33
(1) 励起子発光時間積分スペクトルの強度 p.33
(2) wFIiとwIiFの導出 p.35
(3) 束縛励起子発光寿命 p.38
(4) 束縛励起子発光寿命に対する自由励起子と束縛励起子の発光強度比の比 p.39
3-3-3 レート方程式の解と実験結果とのフィッティング p.40
(1) 自由励起子捕獲中心の捕獲断面積σi p.40
(2) 自由励起子捕獲中心濃度NAi p.42
(3) 自由励起子発光と束縛励起子発光の強度比の束縛励起子発光寿命に対する比のフィッティング p.47
(4) 自由励起子発光強度と束縛励起子発光強度 p.47
(5) フィッティングに関するその他の考察 p.50
3-3-4 その他の考察 p.50
3-4 本章のまとめ p.50
3-5 今後の課題 p.51
3-6 付録 波形分離の方法 p.53
参考文献 p.55

第四章 CuGaS2バルク単結晶の励起子分子発光
4-1 はじめに p.56
4-2 実験結果 p.56
4-2-1 時間積分励起子発光スペクトルの励起強度依存性 p.56
4-2-2 時間積分励起子発光スペクトルの偏光依存性 p.59
4-2-3 励起子発光の時間分解分光の励起強度依存性の例 p.60
4-2-4 強励起下での時間分解励起子発光スペクトル p.60
4-2-5 励起子発光時間減衰曲線の励起強度依存性 p.63
4-2-6 M発光、自由励起子発光の時間積分強度の励起強度依存性 p.66
4-3 解析と議論 p.67
4-3-1 励起子-キャリア衝突 p.67
4-3-2 励起子-励起子衝突 p.69
4-3-3 励起子分子放射再結合 p.69
4-3-4 励起子分子束縛エネルギーの検討 p.72
4-3-5 励起子分子温度の検討 p.73
4-3-6 時間積分発光強度の励起強度依存性の検討 p.74
4-3-7 その他の考察 p.74
4-4 本章のまとめ p.75
4-5 今後の課題 p.76
参考文献 p.77

第五章 CuGaS2バルク単結晶(112)面の反射高調波発生
5-1 はじめに p.78
5-2 実験結果 p.78
5-2-1 反射第二高調波強度の試料回転角依存性 p.78
5-2-2 反射第三高調波強度の試料回転角依存性 p.79
5-2-3 反射第三高調波強度の反射第三高調波偏光角依存性 p.83
5-2-4 試料表面の観察 p.88
5-2-5 試料の屈折率、消衰係数の測定 p.88
5-2-6 CuGaS2試料の励起子発光スペクトル p.88
5-3 解析と議論 p.93
5-3-1 反射SH強度の理論式と実験結果とのフィッティング p.93
(1) フィッティング結果に関する議論 p.94
(2) 他の試料との比較 p.97
5-3-2 反射TH強度の試料回転角依存性の測定結果の検討 p.97
5-3-3 反射TH強度理論式と実験結果とのフィッティング p.98
5-4 本章のまとめ p.104
5-5 今後の課題 p.105
5-6 付録 反射SH強度と反射TH強度の計算 p.106
5-6-1 反射SH強度の理論計算1(相対値) p.106
(1) p偏光の光が入射したときに発生するs偏光のSH強度 p.111
(2) p偏光の光が入射したときに発生するp偏光のSH強度 p.113
5-6-2 反射SH強度の理論計算2(絶対値) p.116
(1) 吸収項の導入 p.117
(2) 線形分極のみの場合 p.117
(3) 線形分極もある場合 p.121
(4) p偏光基本波入射の場合 p.126
5-6-3 反射TH強度の理論計算_ p.137
(1) CuGaS2:カルコパイライト型(42m)の反射TH強度の反射TH偏光角依存性 p.137
(2) GaAs:閃亜鉛鉱型(43m)の反射TH強度の反射TH偏光角依存性 p.138
参考文献 p.140

第六章 総括
6-1 はじめに p.141
6-2 本研究の結果の要約 p.141
6-2-1 第三章のまとめ CuGaS2バルク単結晶励起子系のピコ秒時間分解発光分光 p.141
6-2-2 第四章のまとめ CuGaS2バルク単結晶の励起子分子発光 p.142
6-2-3 第五章のまとめ CuGaS2バルク単結晶(112)面の反射高調波発生 p.143
6-3 今後の課題 p.144
6-3-1 励起子系の研究に関する今後の課題 p.144
6-3-2 非線形光学効果の研究に関する今後の課題 p.145
6-4 本研究の成果 p.146

謝辞 p.148

本研究に関する公表論文、学会発表 p.149

 I-III-VI2族カルコパイライト型半導体CuGaS2は、室温で2.49eVのバンドギャップを持つ直接遷移型半導体であり、緑色発光材料として期待されている。しかし、発光素子へ応用するために不可欠な基礎的光学特性はまだ十分には明らかになっていない。特に化合物半導体の励起子系は発光特性に深く関わっているため、これまでCuGaS2の励起子系に関する報告例は多数ある。しかし、それらは全て定常状態での励起子系の研究である。励起子について議論をする際に、励起子がどのように生成され消滅するか、つまりその動的挙動を知ることは重要である。また、超高速素子の応用を考える際にもキャリアダイナミクスの研究が必要である。しかし、CuGaS2をはじめとするカルコパイライト型半導体においては、励起子の動的挙動に関する報告例はほとんどなかった。特にピコ秒オーダーでの高時間分解能での時間分解分光の報告例は全くない。また、光学利得は強励起下で得られることから、強励起下での励起子状態を知ることも重要である。しかし、強励起下での励起子系に関する報告もこれまでほとんどなく不明な点が多い。
 カルコパイライト型半導体は、光学的一軸異方性による複屈折性と、非酸化物であるために赤外域で広い透過性を持つことから、非線形光学材料としての応用が期待されている。しかし、CuGaS2に関しては筆者の知る限りCO2レーザーの波長10.6μmにおける第二高調波発生の報告が一件あるのみであり、CuGaS2の非線形光学特性に関して十分なデータがあるとはいえない。
 本研究では以下の三つの光学特性を明らかにすることを目的とした。(1)ピコ秒時間分解分光法によるCuGaS2励起子の動的挙動の観測を行い、励起子生成消滅がどのように行われているのかを明らかにする。(2)強励起下では励起子系がどのような挙動を示すかを明らかにする。(3)CuGaS2の非線形光学効果を観測し、CuGaS2の非線形感受率に関する新たな情報を得る。目的(1)に関しては、ピコ秒時間分解励起子発光の温度依存性の研究を行った。この研究では自由励起子、束縛励起子の発光強度、発光寿命の温度依存性を求め、提唱した励起子生成消滅のモデルから導出したレート方程式と実験結果とのフィッティングを行った。これまでのCuGaS2自由励起子の放射再結合寿命は、非放射再結合過程が支配的であったために自由励起子発光時間減衰曲線から求めることは出来なかった。しかし、フィッティングの結果から、1自由励起子体積あたりの自由励起子振動子強度から自由励起子放射再結合寿命を求められること、CuGaS2バルク単結晶自由励起子の放射再結合寿命が500~600ps程度であるということを初めて示した。さらに、自由励起子、束縛励起子の発光強度、発光寿命の温度依存性とレート方程式をフィッティングすることにより、束縛励起子を生成する自由励起子捕獲中心密度および、その捕獲断面積を求め、本論文で用いた試料の自由励起子捕獲中心密度は~1016cm-3、捕獲断面積は~10-14cm2オーダーであることを明らかにした。
 目的(2)に関しては、ピコ秒時間分解励起子発光の励起強度依存性の研究を行った。強励起下において自由励起子発光よりも数meV低エネルギー側で速く減衰し、低エネルギー側に広がるスペクトルを観測した。解析の結果、この発光はこれまで報告の無かったCuGaS2の励起子分光発光であることがわかった。さらに、励起子分子束縛エネルギー4.5meVという値を得た。励起子分子発光の観測はCuGaS2のみならず、カルコパイライト型半導体において初めてである。
 目的(3)ではCuGaS2バルク単結晶(112)面から発生する反射第二および第三高調波の研究を行った。具体的には、波長約850~920nmにおけるGaAsに対するCuGaS2バルク単結晶の相対的な二次非線形感受率χ(2)r14、χ(2)r36の値を求めた。また、波長約1220nmにおけるCuGaS2バルク単結晶の11個ある三次非線形感受率のそれぞれの比を求めた。その結果、850~920nmでは相対的な二次非線形感受率には明確な波長依存性はなく、χ(2)r14=(1.0±0.2)×10-1、χ(2)r36=(1.1±0.2)×10-1という値が得られた。これらの値はCuInS2、CuInSe2などの他のカルコパイライト型半導体の相対的な二次非線形感受率と同程度であった。また、1220nmにおけるCuGaS2のχ1(=χ(3)xxzz+χ(3)xzxz+χ(3)xzzx)に対する相対的な三次非線形感受率は
χ1=χ(3)xxzz+χ(3)xzxz+χ(3)xzzx=1.0,χ2=χ(3)xxyy+χ(3)xyxy+χ(3)xyyx=1.5,
χ3=χ(3)yyzz+χ(3)yzyz+χ(3)yzzy=1.05,χ4=χ(3)xxxx=0.85,
χ5=χ(3)zzzz=-0.10となった。
 励起子系の研究で得られた成果は、I-III-VI2族カルコパイライト型半導体において初めてピコ秒時間分解分光を行うことにより得られた結果である。これらの結果は他の化合物半導体のものと比較することにより、カルコパイライト型半導体の光物性、特に励起子系の特徴を明らかにする基礎的データを提供するものである。また、非線形光学特性の研究で新たに得られた非線形感受率は、CuGaS2の非線形光学素子としての応用を考える際に必要な基礎データとなるであろう。

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