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原子法レーザー同位体分離における電子ビーム蒸発過程に関する研究

氏名 大場 弘則
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第160号
学位授与の日付 平成12年12月13日
学位論文の題目 原子法レーザー同位体分離における電子ビーム蒸発過程に関する研究
論文審査委員
 主査 助教授 伊藤 義郎
 副査 教授 八井 浄
 副査 教授 青木 和夫
 副査 助教授 原田 信弘
 副査 東京大学 教授 山脇 道夫

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目次

第1章 序論
1.1 研究の背景 p.1
1.1.1 同位体の利用 p.1
1.1.2 同位体分離とウラン濃縮 p.1
1.1.3 レーザー法同位体分離 p.2
1.1.4 原子法レーザー同位体分離(AVLIS)の原理とプロセス p.3
1.1.5 AVLISの開発課題 p.5
1.2 AVLISにおける金属蒸気流の発生 p.6
1.2.1 AVLISで要求される蒸発原子の性質 p.6
1.2.2 原子ビームの生成法 p.6
1.2.3 電子ビーム加熱蒸発の問題点 p.8
1.3 本研究の目的およびねらい p.8
1.4 本論文の構成 p.11
第1章参考文献 p.12

第2章 電子ビーム加熱で生成した原子ビーム中のプラズマ特性
2.1 本章の目的と背景 p.14
2.2 実験装置 p.14
2.2.1 原子ビーム発生装置 p.14
2.2.2 プラズマ特性の測定とプラズマ除去実験 p.15
2.3 蒸発部生成プラズマの特性 p.15
2.3.1 円筒プローブ特性の測定結果 p.15
2.3.2 平板プローブによる測定結果 p.20
2.3.3 原子ビーム中のイオン量について p.22
2.4 プラズマ除去特性 p.26
2.4.1 正電位を印加した場合のプラズマ除去特性 p.26
2.4.2 負電位を印加した場合のプラズマ除去特性 p.28
2.5 本章のまとめ p.34
第2章参考文献 p.34

第3章 電子ビーム加熱蒸発で生成した原子ビームの特性
3.1 本章の目的と背景 p.36
3.2 電子ビーム加熱により生成した金属原子蒸気流の角度分布 p.36
3.2.1 はじめに p.36
3.2.2 角度分布の測定方法 p.36
3.2.3 蒸着速度の電子ビーム入力依存性 p.37
3.2.4 蒸発の角度分布 p.37
3.2.5 クヌーセン数を用いた指数nの評価 p.37
3.3 電子ビーム加熱により蒸発した原子の準安定準位密度分布 p.41
3.3.1 はじめに p.41
3.3.2 実験方法 p.41
3.3.3 吸収スペクトル測定例 p.43
3.3.4 光吸収スペクトルからの準安定準位密度の算出 p.43
3.3.5 セリウム原子の準位密度と励起温度 p.45
3.3.6 ジスプロシウム原子の準位密度と励起温度 p.49
3.4 電子ビーム加熱により生成した原子ビームの速度 p.50
3.4.1 はじめに p.50
3.4.2 原子ビーム速度の測定方法 p.50
3.4.3 測定結果 p.50
3.4.4 加熱用電子ビームによる蒸発原子の加速 p.53
3.5 本章のまとめ p.56
第3章参考文献 p.56

第4章 電子ビーム加熱時の蒸発面温度分布と原子ビームの変動
4.1 本章の目的と背景 p.58
4.2 電子ビーム加熱蒸発時の表面温度分布 p.58
4.2.1 はじめに p.58
4.2.2 銅の蒸発面温度分布計測 p.58
4.2.3 蒸発面の分光放射強度分布 p.60
4.2.4 表面温度分布 p.60
4.2.5 計測の不確定性について p.63
4.2.6 蒸着速度から推定した蒸発面温度との比較 p.63
4.2.7 ガドリニウム蒸発面の温度分布 p.63
4.3 原子ビームの変動と表面温度の時間変化 p.66
4.3.1 はじめに p.66
4.3.2 実験装置および方法 p.66
4.3.3 時間変化の測定例 p.69
4.3.4 表面温度の分布と時間変化 p.75
4.3.5 原子ビーム変動の要因 p.75
4.3.6 表面温度ピークの時間ずれについて p.78
4.4 蒸発時の液面くぼみ深さの測定 p.78
4.4.1 はじめに p.78
4.4.2 測定の原理 p.79
4.4.3 結果および考察 p.79
4.5 本章のまとめ p.88
第4章参考文献 p.88

第5章 電子ビーム加熱における効率的蒸発法の検討
5.1 本章の目的と背景 p.90
5.2 多孔質体を用いた電子ビーム加熱蒸発特性 p.90
5.2.1 はじめに p.90
5.2.2 蒸発の方法 p.90
5.2.3 原子ビーム特性の測定方法 p.91
5.2.4 蒸発量の電子ビーム入力依存性 p.93
5.2.5 原子ビーム中のイオン量 p.95
5.2.6 蒸発角度分布 p.95
5.2.7 表面温度分布 p.97
5.2.8 原子ビームの変動と組成 p.99
5.2.9 蒸発時の熱収支 p.101
5.2.10 蒸発効率 p.101
5.2.11 原子ビームの速度 p.103
5.2.12 準安定準位密度 p.106
5.3 蒸発試料の断面観察と原子ビーム発生部の改良 p.107
5.3.1 はじめに p.107
5.3.2 断面観察 p.107
5.3.3 高融点金属束を用いた蒸発 p.115
5.4 本章のまとめ p.117
第5章参考文献 p.117

第6章 電子ビーム加熱によるウランの蒸発特性
6.1 本章の目的と背景 p.118
6.2 蒸発部生成ウランプラズマの特性 p.119
6.3 ウラン原子ビームの蒸発角度分布 p.120
6.4 電子ビーム加熱で生成したウラン原子の準安定準位密度分布 p.122
6.5 電子ビーム加熱生成したウラン原子ビームの速度 p.126
6.5.1 はじめに p.126
6.5.2 実験装置 p.126
6.5.3 測定結果 p.126
6.5.4 電子ビーム加熱時のウラン蒸発原子の加速 p.128
6.6 ウランの蒸発面温度分布 p.129
6.7 電子ビーム加熱によるウランの蒸発実験 p.133
6.7.1 はじめに p.133
6.7.2 蒸発量の電子ビーム入力依存性 p.133
6.7.3 蒸発部温度の推定 p.137
6.7.4 蒸発効率 p.137
6.7.5 試料断面の観察 p.137
6.7.6 ウラン蒸発効率向上実験 p.143
6.8 本章のまとめ p.145
第6章参考文献 p.146

第7章 結論 p.147

謝辞 p.150

本研究に関わる発表 p.151

 次世代のウラン濃縮生産技術として有望視されている原子法レーザー同位体分離においては、レーザー光のターゲットとなる原子ビームを効率よく安定に発生させることが必須である。原子ビーム生成法として考えられている電子ビーム加熱蒸発技術は、主に真空蒸着の分野において発展してきたが、この分野での目的は均一蒸着膜の形成と高密度大量蒸発であった。原子法レーザー同位体分離での原子ビーム生成過程では蒸発効率の向上だけでなく、安定で上方に指向性があり適度な速さで上昇すること、さらに中性で低エネルギー準位の原子ができるだけ多く分布すること等が要求されている。しかしながら要求されている蒸発原子の状態や特性等については知られていない。本研究の目的は電子ビーム加熱で生成した原子ビーム特性および蒸発面での様々な現象を実験的に把握し、蒸発の熱効率向上や安定した原子ビーム生成を実験検証することにより、原子法レーザー同位体分離装置設計に有用な原子ビーム生成条件等を提示することである。
 第1章では、原子レーザー法同位体分離の技術開発経緯と原理特徴、原子ビーム生成過程における電子ビーム加熱蒸発法の特徴と現状の問題点等を示して本研究の位置付けを述べた。
 第2章では、加熱方式の異なる電子ビーム蒸発装置でガドリニウム原子ビームを生成させ、蒸発部近傍で発生するガドリニウムプラズマの特性を調べた。原子ビーム中プラズマの電子温度およびイオン量を測定し、プラズマの電子温度が非常に低いこと、プラズマは加熱用電子ビームと蒸発原子との衝突電離で生成し、生成量が電子銃の加熱方式から推定可能であることを見出した。また、プラズマ中に設けた平行平板電極に高い負電位を印加するとプラズマが除去できること、プラズマ特性を用いて除去に必要な電極電位が推定できることを明らかにした。
 第3章では、電子ビーム加熱で生成した原子ビームの空間特性を把握するため蒸発角度分布、準安定準位密度占有率、原子ビーム速度を調べた。蒸発原子の指向性は蒸発面での原子密度と蒸発スポット径に依存することを実験的に明らかにした。準安定準位密度比より求めた蒸発原子の原子励起温度は蒸発面温度よりもはるかに低く、蒸気量の増加に伴い原子間衝突により原子励起温度が一層低下し、基底準位に分布する原子の割合が増加することを明らかにした。また、昇華性の蒸発原子は蒸発面温度と熱平衡状態に近いエネルギー準位に分布することを初めて明らかにした。原子ビーム速度の測定では、原子ビームが蒸発面温度から推定される平均速度よりもはるかに速く、加速機構として、真空中への膨張冷却による加速に加え、原子励起エネルギーが原子間衝突によって運動エネルギーに転換されるだけではなく、蒸発面近傍において電子ビーム衝突により蒸発原子が電離され、このイオン化エネルギーもイオン-原子間衝突を通して運動エネルギーに転換してさらに加速されることを見出した。以上のことから、電子ビーム加熱蒸発過程では原子ビームの性質が蒸発面近傍での原子-原子衝突、原子-電子衝突およびイオン-電子衝突に強く依存することを明確にした。
 第4章では、電子ビーム加熱蒸発面と原子ビームの関係を調べた。バンドパスフィルターとCCDカメラを用いて、るつぼ内の蒸発面温度分布を測定し、蒸発量から推定した表面温度が測定温度とほぼ一致することを示した。蒸発過程での表面温度と原子ビームの時間変化の関係、および蒸発時の液面くぼみ深さを調べ、電子ビームスポット部において深いくぼみが形成されると、液面が変動して表面温度が変化するために原子ビーム密度も変動することを明らかにした。これらの結果から、対流熱損失や液面形状の時間変化を抑制することが効率よく安定した原子ビームの生成につながると結論づけた。
 第5章では、電子ビーム蒸発における熱効率向上のため、多孔性の高融点金属焼結体に蒸発試料を含浸させて毛管現象を利用した蒸発方法を考案し、銅、ガドリニウムおよびセリウムについて蒸発を試みた。その結果、るつぼへの熱損失が低減されて蒸発に使用されるエネルギーが液体プールからの蒸発に比べてはるかに増大することを見出した。また、密度の時間変動のない安定した原子ビームが生成できること、中性に近い原子ビームが得られること、原子ビームが多孔質体の材質に汚染されないことから、本蒸発方法が他の産業分野でも応用可能であることを示した。
 第6章では、ウランの電子ビーム加熱蒸発特性を調べるとともに効率良く蒸発させる方法を検討した。ウラン原子ビームは他の金属原子ビームと多くの共通した特性を持つことが確認され、電子ビーム加熱による原子ビーム生成過程をより明確にすることができた。しかしながら蒸発方法に関しては液体腐食というウラン固有の性質から、模擬金属と同様の方法では効率的な蒸発は困難である。これについてはタングステンを用いた液体ウラン対流および伝導熱損失低減により解決し、目標の蒸発効率に到達することを示した。
 第7章では本研究で得られた成果をまとめ、原子法レーザー同位体分離における分離装置設計に有用なデータを提供できただけでなく、他分野への応用も期待できることを結論として述べた。また、今後の開発課題についても述べた。

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