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気相硫化法によるCu2ZnSnS4薄膜の作製と太陽電池への応用

氏名 片桐 裕則
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第172号
学位授与の日付 平成13年3月26日
学位論文の題目 気相硫化法によるCu2ZnSnS4薄膜の作製と太陽電池への応用
論文審査委員
 主査 教授 八井 浄
 副査 助教授 内富 直隆
 副査 助教授 安井 寛治
 副査 助教授 末松 久幸
 副査 信州大学 教授 伊東 謙太郎

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目次

第1章 序論
1.1 はじめに p.1
1.2 太陽電池の現状と課題 p.2
1.3 CIGS系薄膜太陽電池における問題点 p.3
1.4 Cu2ZnSnS4作製報告例 p.4
1.4.1 CZTS単結晶作製例 p.4
1.4.2 CZTS薄膜作製例 p.5
1.5 本研究の目的 p.6
1.6 本論文の構成 p.7

第2章 薄膜作製装置と評価システム
2.1 はじめに p.9
2.2 薄膜作製装置 p.10
2.2.1 電子ビーム(E-B)蒸着装置 p.10
2.2.2 高周波(RF)スパッタ装置 p.11
2.3 気相硫化装置 p.12
2.4 作製薄膜の評価方法 p.13
2.4.1 構造評価 p.13
2.4.2 光学的特性評価 p.14
2.4.3 電気的特性評価 p.15

第3章 Cu/Sn/ZnプリカーサによるCu2ZnSnS4薄膜の作製と評価
3.1 はじめに p.17
3.2 製膜条件 p.17
3.2.1 Cu/Sn/Zn積層プリカーサの作製 p.17
3.2.2 気相硫化法によるCZTS薄膜の作製 p.18
3.3 作製薄膜の評価 p.19
3.3.1 構造評価 p.19
3.3.2 光学的特性評価 p.23
3.3.3 電気的特性評価 p.26
3.4 本章のまとめ p.26

第4章 Cu/Sn/ZnSプリカーサによるCu2ZnSnS4薄膜の作製と評価
4.1 はじめに p.27
4.2 実験装置と製膜条件 p.27
4.2.1 Cu/Sn/ZnS積層プリカーサの作製 p.27
4.2.2 気相硫化法によるCZTS薄膜の作製 p.28
4.3 作製薄膜の評価 p.29
4.3.1 構造評価 p.29
4.3.2 光学的特性評価 p.34
4.3.3 電気的特性評価 p.35
4.4 本章のまとめ p.37

第5章 Cu2ZnSnS4系薄膜太陽電池の作製と評価
5.1 はじめに p.39
5.2 CZTS系新型薄膜太陽電池の構造 p.40
5.3 下部電極Mo薄膜の作製 p.41
5.4 界面層CdS薄膜の作製 p.42
5.5 上部窓層ZnO:Alの作製 p.42
5.6 新型薄膜太陽電池の出力特性 p.45
5.7 本章のまとめ p.50

第6章 Cu2ZnSnS4系薄膜太陽電池の特性改善
6.1 はじめに p.51
6.2 Mo薄膜の作製 p.52
6.2.1 RFスパッタ法によるMo薄膜の作製 p.52
6.2.2 Mo薄膜の諸特性 p.53
6.2.2.1 抵抗率特性 p.53
6.2.2.2 XRD半値幅 p.54
6.2.2.3 ガラス基板への付着性 p.54
6.2.2.4 Mo薄膜作製条件の最適化 p.55
6.3 ZnO薄膜の作製 p.56
6.3.1 ターゲットの検討 p.56
6.3.2 基板温度の検討 p.58
6.3.3 ガス圧力の検討 p.62
6.4 CZTS薄膜の作製 p.69
6.5 CZTS薄膜の諸特性 p.69
6.6 太陽電池出力特性 p.74
6.7 更なる効率改善 p.78
6.8 本章のまとめ p.80

第7章 結論 p.83

謝辞 p.87

参考文献 p.88

本研究に関する発表論文および口頭発表 p.90

 本論文は、化石エネルギー源の枯渇化・地球温暖化に対処する方策として、気相硫化法によるCu2ZnSnS4(CZTS)薄膜の作製と太陽電池への応用について述べたものである。本材料は、地殻中に豊富に存在する元素だけで構成されており、しかも、有毒性元素を含んでいない。従って、本材料が実用化されると、環境調和型の省資源・無毒性薄膜太陽電池が構成できることになる。また、本論文で提案する作製法は、薄膜の大面積化・低コスト化に有利な手法で、将来の大量生産段階にも十分対応できる作製法である。
 第1章では、研究背景と本研究の目的を述べた。すなわち、現在のエネルギー資源に関する問題点を明らかにし、クリーンなニューエネルギー資源開発の重要性を述べた。次に、次世代太陽電池として有望視されている、カルコパイライト系薄膜太陽電池では、稀少元素・有毒性元素を使用することに問題があることを指摘した。これらの問題点を克服するために、構成元素中に稀少元素・有毒性元素を全く含有しない新型材料CZTS薄膜の研究・開発が重要であることを述べた。
 第2章では、CZTS薄膜の作製法として気相硫化法を提案した。本手法は、プリカーサ作製後に硫化を行う二段階作製法で、大面積化に特に有用な方法で、将来の低コスト化に貢献できる手法である。また、プリカーサ作製には、E-B蒸着の他に、スパッタ法、スプレー法さらにはスクリーン印刷法も適用できる。本章においては、Cu/Sn/Znの積層プリカーサをE-B蒸着で作製した。さらに、パイレックス反応管炉内での気相硫化を行い、CZTS薄膜を作製した。XRD測定結果より見積もった格子定数は、参考文献の値と極めて良く一致しており、良好な結晶性が示唆された。さらに、光学測定から得られたバンドギャップおよび光吸収係数は、本材料が薄膜太陽電池の光吸収層として極めて有望であることを示した。一方、SEM観察結果より、表面平坦性に大きな問題があることが明らかとなった。また、化学量論比に近い組成のCZTS薄膜の抵抗率は、10^4Ωcm台であることを確認した。Al/ZnO:Al/CdS/CZTS/Mo/ガラス構造の新型薄膜太陽電池を作製し、開放電圧400mV、短絡電流密度6.0mA/cm2、変換効率0.66%を得た。これらの成果を1996年太陽電池国際会議(PVSEC-9)で報告しているが、上述した構造の新型薄膜太陽電池の作製は本報告が初の試みである。
 第3章では、気相硫化時の体積膨張を抑制し、基板への付着性を向上させるため、プリカーサ1層目にZnSを用いた。さらに、硫化システムのパイレックス反応管を石英反応管に交換し、より高温度・長時間での硫化を行った。その結果、付着性に優れ結晶粒径の大きなCZTS薄膜の作製に成功した。AES測定の結果、深さ方向にも均一な組成の薄膜が形成されていることが明らかとなった。また、広範囲の組成比のCZTS薄膜を作製し、抵抗率測定を行った。その結果、僅かな組成比の変化に対し、抵抗率は6桁もの変化を示すことが明らかとなった。化学量論比に近い組成のCZTS薄膜を用いた太陽電池では、開放電圧372mV、短絡電流密度8.36mA/cm2、フィルファクター0.347、変換効率1.08%を得た。Cu-poor組成のCu/(Zn+Sn)=0.893の太陽電池では、開放電圧735mV、短絡電流密度11.7mA/cm2、フィルファクター0.289、変換効率2.49%を記録した。この開放電圧は、シュツットガルト大学が報告している最大開放電圧570mVを遥かに凌駕する値である。
 第4章では、太陽電池出力特性の改善のために、下部電極Mo・上部窓層ZnOの最適化を行った。両薄膜とも、RFスパッタ法で製膜した。Mo薄膜では、放電ガス圧力を段階的に下げることによって、基板に対する良好な付着性と12.6×10-6Ωcmの低抵抗率を達成した。ZnO薄膜では、高基板温度・低放電ガス圧力のもとで、可視光領域における90%以上の高透過率と5.8×10-4Ωcmの低抵抗率を達成した。膜厚の異なるCZTS光吸収層と、これら最適化された膜との積層により太陽電池を構成した。最も薄いCZTSを用いた太陽電池で、0.503のフィルファクターを得た。第3章までの最大フィルファクターが0.347であったことから、大幅な改善であると言える。さらに、高基板温度でプリカーサを作製し、積層膜内での元素の相互拡散を活性化させることにより、2.62%の最大変換効率を得た。この変換効率は、CZTS系薄膜太陽電池における現在のトップデータである。
 第5章では、本論文の総括を行った。

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