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分子層厚さPFPE潤骨膜のトライボロジー特性

氏名 川口 雅弘
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第266号
学位授与の日付 平成15年3月25日
学位論文題目 分子層厚さPFPE潤骨膜のトライボロジー特性
論文審査委員
 主査 教授 田中 紘一
 副査 教授 井上 泰宣
 副査 教授 柳 和久
 副査 教授 古口 日出男
 副査 教授 金子 覚
 副査 独立行政法人産業字術総合研究所機械システム研究部門 総括研究員 加藤 孝久

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目次

第1章 序論 p.1
1.1 本研究の目的と背景 p.1
1.2 本論文の構成 p.6

第2章 分子層厚さPFPE潤骨膜の塗布とその定量的評価 p.7
2.1 緒言 p.7
2.2 分子層厚さPFPE潤骨膜の塗布 p.12
 2.2.1 供試材 p.12
 2.2.2 潤骨膜の塗布 p.13
2.3  潤骨膜厚の測定 p.14
 2.3.1 偏光解析法 p.14
 2.3.2 膜厚測定 p.16
 2.3.3 単分子層以下の潤骨膜厚 p.20
2.4 塗布実験 p.21
 2.4.1 溶液の濃度,引き上げ速度が潤骨膜厚に及ぼす影響 p.21
 2.4.2 加熱時間が潤骨膜厚に及ぼす影響 p.22
2.5 考察 p.25
 2.5.1 加熱処理が潤骨膜厚に及ぼす影響 p.25
 2.5.2 加熱仕官が固定層膜厚に及ぼす影響 p.27
2.6 2章のまとめ p.28

付録2.1 偏光解析法 p.29
付録2.2 回転位相子によるψ,デルタの測定 p.30
付録2.3 XPSによる潤骨膜厚算出およびエリプソ-タによる潤骨膜厚との比較 p.31
付録2.4 塗布実験結果 p.33

第3章 分子層厚さPFPE潤骨膜のトライボロジー特性 p.35
3.1 緒言 p.36
3.2 付着特性 p.36
 3.2.1 はじめに p.36
 3.2.2 付着実験 p.37
 3.2.3 付着実験の結果 p.40
 3.2.4 付着実験結果の考察 p.43
 3.2.5 付着特性のまとめ p.44
3.3 摩擦特性 p.45
 3.3.1 はじめに p.45
 3.3.2 摩擦実験 p.45
 3.3.3 摩擦チャート p.47
 3.3.4 固定層および流動層が摩擦係数に及ぼす影響 p.50
 3.3.5 摩擦特性のまとめ p.57
3.4 摩耗特性 p.58
 3.4.1 はじめに p.58
 3.4.2 摩耗実験 p.58
 3.4.3 分子層厚さ潤骨膜の摩耗過程 p.60
 3.4.4 耐久実験 p.69
 3.4.5 磨耗特性のまとめ p.76
3.5 3章のまとめ p.77

付録3.1 Hertz接触 p.78
付録3.2 メニスカス架橋の定量化 p.79
付録3.3 耐久実験にける摩擦特性 p.82

第4章 分子層厚さPFPE潤骨膜の摩耗モデル p.86
4.1 緒言 p.87
4.2 摩耗モデルの提案 p.87
 4.2.1 摩耗断面積モデル p.89
 4.2.2 修正摩耗断面積モデル p.89
 4.2.3 各モデルの特徴 p.90
 4.2.4 定数Cの影響 p.92
4.3 各モデルと実験結果の比較 p.93
4.4 考察 p.94
 4.4.1 負荷荷重の影響 p.94
 4.4.2 線速度(しゅう動速度)の影響 p.98
4.5 4章のまとめ p.100

第5章 総括 p.101

参考文献 p.104
本研究に関する発表論文および特許 p.109

謝辞 p.110

 本研究では,分子層厚さの潤滑膜のトライボロジー特性を正確に把握し,固定層,流動層がトライボロジー特性に及ぼす影響について定量的に明らかにすることを目的とした.本研究ではまず,磁気ディスク表面上に固定層,流動層の膜厚をサブナノメートルオーダーで制御して潤滑膜を塗布する手法を確立し,作成した試料の付着実験,摩擦実験,摩耗実験を行った.また,得られた結果より,固定層,流動層が付着特性,摩擦特性,摩耗特性に及ぼす影響について定量的に明らかにし,考察した.さらに,分子層厚さの潤滑膜の摩耗に関するモデルを提案し,実験結果を比較,検討後,モデルの妥当性について検討した.以下に,本研究で得られた結論を各章ごとに示す.
 1章では,磁気記録装置の動向と問題点を概説し,本研究の必要性,目的を述べた.
 2章では,本章では分子層厚さのZdol潤滑膜の塗布実験を行い,偏光解析装置(Ellipsometric device)を用いて潤滑膜の膜厚を測定し,塗布における溶液の濃度,引き上げ速度,加熱時間が潤滑膜の固定層および流動層の膜厚に及ぼす影響を定量的に明らかにした.また,加熱時間が固定層および流動層の膜厚に及ぼす影響について考察した.
 溶液の濃度および引き上げ速度の増加に伴って,潤滑膜の総膜厚(固定層膜厚+流動層膜厚)は増加する.これは塗布時において,総膜厚が供試基板面上に残留する溶質の量に比例するためである.一方,加熱処理の時間に伴って総膜厚は減少する.これは加熱処理によって潤滑分子が分解,蒸発,緻密化しているためだと考えられる.また,潤滑膜の固定層は加熱時間に伴って増加する.これは加熱処理によって潤滑分子と供試基板との化学反応が促進されたためだと考えられる.以上より加熱処理を施すことによって,潤滑膜の固定層は厚化し,流動層は薄化する.また,潤滑膜の緻密化に伴って潤滑膜は平滑になる.加熱時間が固定層膜厚に及ぼす影響については,反応速度則によって数式的によく再現できることがわかった.
3章では,2章の手法を用いて供試基板上に形成した潤滑膜のトライボロジー特性に関する実験を行い,固定層,流動層がトライボロジー特性に及ぼす影響について考察した.
付着特性に関して,分子層厚さの潤滑膜の付着実験を変位制御型微小荷重試験機で行った.その結果,潤滑膜の付着特性は流動層が支配的であることがわかった.分子層厚さの潤滑膜の場合,固定層の影響が相対的に大きくなるため,総膜厚における固定層,流動層の膜厚を把握しておく必要がある.摩擦特性に関して,スピンスタンドを用いて分子層厚さの潤滑膜の摩擦実験を行った.分子層厚さの潤滑においては,潤滑分子による接触界面の被覆および潤滑分子の易動性が摩擦力を支配するため,固定層,流動層それぞれの被覆性および易動性が,摩擦力を左右する影響因子である.固定層は主としてDLC表面の被覆によって,流動層は主として易動性によって,摩擦係数の低下に寄与していると考えられる.また,固定層の方が摩擦係数の低減効果が大きいことから,分子層厚さの潤滑では,被覆性の向上に伴う固体接触の回避によって摩擦係数の低下が達成できるといえる.しかし,固定層膜厚には限界があるため,さらなる摩擦係数の低下は流動層付与によって達成できると考えられる.また,固定層,流動層共に単分子層となる,2分子層構造に近づくにつれて摩擦特性が高くなることがわかった.
摩耗特性に関して,摩擦試験機を用いて分子層厚さの潤滑膜の摩耗耐久実験を行った.分子層厚さの潤滑膜は,流動層,固定層の順に摩耗し,潤滑膜が完全に破壊すると,連続的な固体接触による固体摩耗が生じる.また,分子層厚さの潤滑膜の摩耗耐久特性は,固定層及び流動層の組み合わせが重要であり,摩耗耐久特性の最も高い潤滑膜は,固定層,流動層それぞれが単分子層となる2分子層構造であることがわかった.
4章では,分子層厚さの潤滑膜の摩耗モデルを提案した.また,実験結果と比較することで,提案したモデル式の妥当性について検討した.さらに,負荷荷重,線速度が潤滑膜の摩耗に及ぼす影響について実験を行い,実験結果とモデルとの比較を行った.
分子層厚さの潤滑膜の摩耗現象は,時間に対して指数関数的に変化し,一般的な反応速度則と同じ式の形で表すことができることがわかった.また,モデル式は実験結果をよく再現することがわかった.負荷荷重の増加に伴い潤滑膜の摩耗は促進することが,実験およびモデルより確認できた.線速度の増加に伴い潤滑膜の摩耗は促進することが,実験およびモデルより確認できた.以上より,モデル式は実験結果を良く再現することから,分子層厚さの潤滑膜の摩耗現象を概ね表す式として,モデル式は潤滑剤設計の指針になりうると推測する.今後,潤滑剤の掻き出しの影響や,固定層,流動層膜厚の影響などをモデル式に導入することで,信頼性の高いモデルになると考えられる.
 5章では本研究の総括を述べた.

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