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液晶界面配向解析のための光学測定法の開発とその応用

氏名 田所 利康
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第199号
学位授与の日付 平成15年3月25日
学位論文題目 液晶界面配向解析のための光学測定法の開発とその応用
論文審査委員
 主査 教授 赤羽 正志
 副査 教授 高田 雅介
 副査 助教授 安井 寛浩
 副査 助教授 河合 晃
 副査 助教授 小野 浩司
 副査 講師 木村 宗弘

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目次
 第1章 序論 p.1
 1.1 本研究の背景 p.2
 1.2 本研究の目的 p.3
 1.3 界面配向測定法の概要 p.3
 1.4 本研究の意義 p.5
 1.5 本論文の構成 p.7

 第2章 液晶 p.11
 2.1 液晶の研究の歴史 p.12
 2.2 液晶相 p.13
 2.2.1 液晶の分類 p.13
 2.2.2 ネマティック相とスメクティック相 p.15
 2.2.3 スメクティックC*相 p.16
 2.3 液晶の物性 p.17
 2.3.1 誘電率異方性 p.17
 2.3.2 屈折率異方性 p.17
 2.3.3 粘性の異方性 p.17
 2.3.4 その他の異方性 p.18
 2.4 液晶の連続体理論 p.18
 2.4.1 ダイレクタと配向秩序 p.18
 2.4.2 フランクの弾性自由エネルギー密度 p.19
 2.4.3 誘電的自由エネルギー密度 p.20
 2.4.4 アンカリングエネルギーとアンカリング強度 p.20
 2.4.5 単位面積当たりの全自由エネルギー p.21
 2.4.6 Ericksen-Leslieの粘弾性理論 p.22
 2.5 まとめ p.23

第3章 エリプソメトリ p.25
 3.1 エリプソメトリの概要 p.26
 3.1.1 エリプソメトリの原理 p.26
 3.1.2 エリプソメトリの解析の流れ p.27
 3.1.3 エリプソメーターを用いたΔ,Ψ測定 p.29
 3.2 偏光変調エリプソメトリ p.30
 3.2.1 光弾性変調子による偏光変調 p.30
 3.2.2 ジョーンズマトリクス法 p.32
 3.2.3 偏光変調エリプソメトリの解析法 p.33
 3.2.4 繰り込みエリプソメトリ p.37
 3.3 偏光変調分光エリプソメーター p.38
 3.3.1 装置概要 p.39
 3.3.2 光サーボコントロールによる安定性の向上 p.41
 3.4 まとめ p.42

第4章 色素ドープ法,全反射法の開発 p.43
 4.1 サンドイッチ型液晶セルにおける偏光解析 p.44
 4.2 色素ドープ法 p.45
 4.2.1 色素ドープ液晶 p.46
 4.2.2 色素ドープ反射エリプソメトリ p.47
 4.3 全反射法 p.50
 4.3.1 エバネッセント場を利用した界面液晶配向の観測 p.50
 4.3.2 全反射エリプソメトリ p.52
 4.4 色素ドープ法と全反射法 p.52
 4.5 界面液晶配向変化の解析手順 p.54
 4.6 まとめ p.54

第5章 色素ドープ法を用いた液晶界面配向解析 p.55
 5.1 ECB液晶セルの電場応答 p.56
 5.2 色素ドープ法を用いたECB液晶セルの解析 p.57
 5.2.1 ECB液晶セルのダイレクタ分布計算 p.58
 5.2.2 色素ドープ反射エリプソメトリにおけるΔの解析 p.60
 5.2.3 ECB液晶セルの透過エリプソメトリ p.60
 5.2.4 配向計算/光学計算パラメーター p.60
 5.3 測定条件とパラメーターの決定 p.61
 5.3.1 色素ドープ液晶セル p.61
 5.3.2 セル厚測定 p.62
 5.3.3 プレチルト角測定 p.63
 5.3.4 測定波長の決定 p.64
 5.3.5 測定パラメーター p.67
 5.4 電場応答ダイナミクスの測定結果 p.68
 5.4.1 バルク液晶の電場応答ダイナミクス p.68
 5.4.2 界面液晶の電場応答ダイナミクス p.69
 5.5 電場応答ダイナミックスのシミュレーション p.71
 5.5.1 電圧に依存したセル内ダイレクタ分布 p.71
 5.5.2 電場応答カーブシミュレーション p.72
 5.6 緩和プロセスにおけるダイレクタ分布ダイナミクス p.74
 5.6.1 速い緩和と遅い緩和の起源 p.74
 5.6.2 表面ダイレクタの電場応答と緩和時間 p.75
 5.6.3 セル内各部のダイレクタ電場応答 p.77
 5.7 まとめ p.78

第6章 全反射法を用いた液晶界面配向解析 1 p.79
 6.1 全反射による界面配向測定 p.80
 6.1.1 全反射光学配置 p.80
 6.1.2 入射角の決定と浸入長の推定 p.81
 6.2 全反射法を用いたECB液晶セルの電場応答解析 p.83
 6.2.1 ECB液晶セルの電場応答測定 p.83
 6.2.2 ECB液晶セルの配向転移に関する考察 p.85
 6.3 界面フリッカー現象の解析 p.88
 6.3.1 液晶セルと測定条件 p.88
 6.3.2 フリッカー現象とその発生メカニズム p.89
 6.3.3 フリッカー応答波形の周波数依存性 p.93
 6.3.4 配向膜とフリッカー応答 p.96
 6.3.5 エージング処理とフリッカー応答 p.97
 6.3.6 フリッカー観測における透過TRSEと全反射TRSEの違い p.99
 6.4 光配向の液晶再配向プロセス p.101
 6.4.1 光配向液晶セル p.101
 6.4.2 測定光学装置 p.102
 6.4.3 再配向ダイナミクスの測定結果 p.103
 6.5 まとめ p.105

第7章 全反射法を用いた液晶界面配向解析 2 p.107
 7.1 表面安定化強誘導性液晶セルの電場応答 p.108
 7.2 SSFLCのスメクティック層構造 p.109
 7.2.1 SSFLCの解析座標系とパラメーター p.109
 7.2.2 ブックシェルフ構造とシェブロン構造 p.110
 7.3 SSFLCの分極反転とΔ,Ψ p.114
 7.4 TRSEを用いたSSFLCセルの測定 p.115
 7.5 層構造と分極反転ダイナミクス p.116
 7.5.1 層構造が異なるSSFLCセル p.117
 7.5.2 BセルとCセルの分極反転ダイナミクス測定 p.117
 7.6 配向膜と分極反転ダイナミクス p.127
 7.6.1 配向膜が異なるSSFLCセル p.127
 7.6.2 PAIセルとPIセルの分極反転ダイナミクス測定 p.128
 7.6.3 PAIセルおよびPIセルのヒステリシス測定 p.133
 7.7 まとめ p.137

第8章 偏光近接場光学顕微鏡の開発 p.139
 8.1 近接場光学顕微鏡 p.140
 8.1.1 NSOM研究の歴史的な流れ p.140
 8.1.2 近接場光の発生と検出 p.141
 8.1.3 NSOMの測定モード p.142
 8.2 装置開発のコンセプト p.146
 8.3 偏光NSOMの測定システム p.147
 8.3.1 偏光NSOMシステムの概要 p.147
 8.3.2 プローブ p.149
 8.3.3 プローブ位置制御 p.151
 8.3.4 測定光学系の消光調整 p.153
 8.4 まとめ p.155
第9章 偏光近接場光学顕微鏡を用いた液晶界面配向解析 p.157
 9.1 ECBモードにおける液晶配向転移のNSOM観察 p.158
 9.1.1 ECB液晶試料と測定の概要 p.158
 9.1.2 液晶電場応答の深さ依存性測定 p.159
 9.1.3 界面液晶の配向分布イメージング p.161
 9.2 IPSモードにおける液晶配向転移のNSOM観察 p.164
 9.2.1 IPSモードの電場応答 p.164
 9.2.2 IPSモード液晶試料と測定の概要 p.165
 9.2.3 IPSモードにおける消光調整 p.166
 9.2.4 櫛歯電極間の液晶配向分布イメージング p.167
 9.2.5 IPSモード液晶セルの配向分布シミュレーション p.170
 9.3 まとめ p.173

第10章 結論 p.175
謝辞 p.181
参考文献 p.183
業績 p.189
付録A 主要記号および主要略称 p.199
 A.1 主要記号 p.199
 A.2 主要略称 p.201

付録B 偏光変調エリプソメトリの解析法 p.203

液晶の界面配向現象は,LCDのデバイス特性を決定付ける重要な役割を果たしているにもかかわらず,十分な理解が得られているとは言い難く,その発現メカニズムの究明は液晶科学におけるフロンティアとなっている.液晶界面配向研究の進展を滞らせる大きな要因は,液晶-配向膜界面という極めて限定された領域で発生する配向現象を観測・解析し得る実験手法に,満足なものが無いことにある.本研究では,このような観点から,液晶界面配向を選択的に観測することができる二つの光学的測定法の開発を行った.すなわち,時間分解分光エリプソメトリ(TRSE: Time-resolved spectroscopic ellipsometry)をベースにした色素ドープ反射TRSE法と全反射TRSE法,そして液晶界面配向観測のためにデザインされた偏光近接場光学顕微鏡(NSOM: Near-field scanning optical microscope)である.
前者のエリプソメトリは,一つの光を偏光面で分割して解析する干渉法であり,高い感度と定量性故に,半導体などの固体表面における高精度な薄膜計測法として,十分に定着した技術である.しかし,液晶の界面配向研究に適用しようとした場合,液晶のような光学異方性媒質の解析が行えるエリプソメトリ解析法の確立と,界面液晶からの微弱な信号をバルク液晶の信号から分離検出する測定手法の開発が必須である.本研究では,光学異方性媒質に対してエリプソメトリ解析法を拡張し,液晶配向転移の定量的な解析を可能にした.また,バルク液晶情報が支配的な対向基板からの反射光除去を目的として,液晶に吸収色素を添加する色素ドープ反射TRSE法,全反射界面で局所的に発生するエバネッセント波を利用する全反射TRSE法を開発し,液晶界面配向の選択的な観測を実現した.
一方,NSOMは,プローブ先端部の波長よりも十分に小さい領域に局在する近接場光を用いて,光の回折限界を超える高い解像度を得る手法である.NSOMの場合,プローブ先端を試料表面に近接させる必要があることから,液晶セル内部の界面配向を観測することは不可能とされてきた.本研究では,こうした問題を解決し,NSOMを界面における局所的な配向分布観測に適用するために,プローブを液晶中に浸した状態で,「液晶の電場駆動」および「界面配向のNSOM観測」を両立させる,新たなNSOM測定系デザインを考案し,液晶界面配向観測に特化した偏光NSOMの開発を行った.本研究により開発された偏光NSOMによって初めて,印加電場に応答して変化する液晶界面配向の二次元イメージング,液晶配向分布のデプスプロファイリングが可能になった.
さらに,本研究では,開発した界面配向観測法を用いて,様々な駆動方式を持つ液晶試料に対して測定を行い,界面に特有な配向現象の観測および解析に成功した.本研究の応用測定で得られた成果は,以下の通りである.
・色素ドープ反射TRSE法を用いて,ネマティック液晶セルの電場応答ダイナミクスを観測し,界面液晶の電場応答ダイナミクスをバルク液晶から分離して観測することに成功した.連続体理論に基づく理論計算から,バルクおよび界面の配向転移ダイナミクスを定量的に解釈した.
・全反射TRSE法を用いて,界面フリッカー現象.光配向の液晶再配向プロセス,表面安定化強誘電性液晶(SSFLC: Surface-stabilized ferroelectric liquid crystal)セルの分極反転ダイナミクスの測定・解析を行い,従来法では測定が不可能であった界面固有の配向現象を明らかにした.
・偏光NSOMを用いて,液晶中にプローブを挿入した状態で,液晶配向界面近傍の局所的な液晶ドメインの観測に初めて成功した.
・ECBモード(Electrically controlled birefringence mode)液晶試料に対して,NSOMプローブを用いて液晶に電場を印加し,局所的な液晶電場応答のデプスプロファイリング測定,液晶界面配向の二次元イメージング測定に成功した.
・偏光NSOMを用いて,IPSモード(in-plane switching mode)の基板上における,櫛歯電極構造に依存した局所的な界面液晶配向分布の二次元イメージングに成功した.
これら,本研究で行った液晶界面配向の応用測定は,色素ドープ反射TRSE法,全反射TRSE法,偏光NSOMの開発によって,初めて可能になったアプリケーションであり,本研究で開発した界面配向観測法の有用性を示すものである.すなわち,色素ドープ反射TRSE法および全反射TRSE法による測定では,液晶電場応答ダイナミクスの実時間測定(時間分解能:20μs)が可能であり,アンカリングに強く影響された界面液晶に特有な配向転移現象を実験的に捉えることができるばかりでなく,その測定結果を連続体理論に基づく理論計算によって定量的に解析することが可能である.また,偏光NSOMによる界面配向観測では,液晶界面配向の二次元イメージング,液晶配向分布のデプスプロファイリングが可能であることから,局所的な液晶ドメインの電場応答観測,液晶界面配向のキャラクタリゼーションに力を発揮する.
本研究で行った界面配向観測手法の開発は,界面配向メカニズムの解明といった学術的な観点のみに留まらず,次世代LCD開発の鍵となる界面配向の制御・評価という産業的な観点からも非常に重要である.

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