プラズマ溶射セラミックコーティング材の熱サイクル損傷特性に関する研究
氏名 大木 基史
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第191号
学位授与の日付 平成14年6月19日
学位論文題目 プラズマ溶射セラミックコーティング材の熱サイクル損傷特性に関する研究
論文審査委員
主査 教授 武藤 睦治
副査 教授 古口 日出男
副査 助教授 井原 郁夫
副査 新潟大学教授 石橋 達弥
副査 豊橋技術科学大学教授 福本 昌宏
[平成14(2002)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.
第1章 序論
1.1 プラズマ溶射しゃ熱コーティング材に関するこれまでの研究 p.1
1.2 本研究の目的 p.5
1.3 本論文の構成と概要 p.6
参考文献 p.8
第2章 プラズマ溶射しゃ熱コーティング材の真空中における熱サイクル損傷特性
2.1 緒言 p.10
2.2 供試材および実験方法 p.12
2.2.1 供試材 p.12
2.2.2 熱サイクル試験 p.15
2.2.3 熱伝導率測定 p.18
2.2.4 熱応力解析 p.20
2.3 実験結果および考察 p.23
2.3.1 熱サイクルき裂発生・成長挙動 p.23
2.3.2 傾斜機能化による熱サイクル損傷改善の要因 p.33
2.3.3 しゃ熱特性 p.35
2.4 結言 p.36
参考文献 p.37
第3章 プラズマ溶射しゃ熱コーティング材の大気中熱サイクル損傷ならびにしゃ熱特性
3.1 緒言 p.39
3.2 供試材および実験方法 p.41
3.2.1 供試材 p.41
3.2.2 熱サイクル試験 p.43
3.2.3 熱伝導率測定 p.46
3.2.4 密度測定およびX線回折 p.46
3.3 実験結果および考察 p.48
3.3.1 表面損傷 p.48
3.3.2 コーティング層内部における損傷 p.52
3.3.3 セラミックトップコートの気孔率の変化 p.58
3.3.4 トップコート焼結現象に与える酸素分圧の影響 p.60
3.3.5 しゃ熱特性 p.62
3.4 結言 p.67
参考文献 p.69
第4章 プラズマ溶射しゃ熱コーティング材の長時間高温保持熱サイクル損傷特性に及ぼす傾斜組成化および雰囲気の影響
4.1 緒言 p.70
4.2 供試材および実験方法 p.72
4.2.1 供試材 p.72
4.2.2 熱サイクル試験 p.74
4.2.3 成分分析 p.76
4.2.4 熱応力解析 p.76
4.3 実験結果および考察 p.79
4.3.1 コーティング表面における損傷観察結果 p.79
4.3.2 試験片側面における損傷観察結果 p.84
4.3.3 成分分析結果 p.87
4.3.4 気孔率測定結果 p.94
4.3.5 傾斜層内の酸化 p.96
4.3.6 熱応力 p.97
4.3.7 傾斜組成コーティング材と2層構造コーティング材の損傷特性の相違 p.101
4.4 結言 p.104
参考文献 p.105
第5章 プラズマ溶射耐摩耗コーティング材の熱サイクル損傷特性
5.1 緒言 p.106
5.2 供試材および実験方法 p.108
5.2.1 供試材 p.108
5.2.2 熱サイクル試験 p.110
5.2.3 熱伝導率測定 p.112
5.2.4 熱応力解析 p.112
5.2.5 Indentation Fracture(IF)法を用いた破壊じん性値測定 p.114
5.3 実験結果および考察 p.115
5.3.1 熱サイクルによる表面損傷 p.115
5.3.2 熱伝導率 p.122
5.3.3 熱サイクルにより生じる熱応力 p.123
5.3.4 破壊じん性値におよぼす気孔とコーティング組成の影響 p.124
5.4 結言 p.127
参考文献 p.128
第6章 結論 p.129
謝辞 p.132
近年, 地球環境保全・省資源・省エネルギなどの観点から, 産業機器の使用条件の高温・高圧・高速度化が進み, その構成部材の使用環境が過酷化している. 例えば, ガスタービンやジェットエンジンにおいても作動ガスの高温化が進んでおり, 対応策として金属部材へのしゃ熱コーティング(Thermal Barrier Coating, TBC)の適応が進んでいる. 構造材としての金属部材上に, しゃ熱・耐食等の機能的コーティングを付加することによって, 機能を分化して更なる性能向上を図る, というのがしゃ熱コーティングの基本的概念である.
しゃ熱コーティング材に関する近年の研究状況としては, 熱衝撃・熱サイクル損傷に関する評価, およびコーティングの損傷メカニズムの解明に研究の主眼が置かれるようになってきている. 特に, 熱サイクル付与に伴うコーティングの損傷拳動(熱サイクル損傷特性)の詳細な観察および検討に関しては, 実際に熱サイクル付与によって発生する現象を把握し, 損傷メカニズムとして体系づけるために不可欠なアプローチであるが, 現時点ではまだ不十分である. また傾斜組成しゃ熱コーティング材における上記の検討はほとんど未着手の状態にあり, 熱応力緩和という有用な特性を実機に適用するまでの段階に至っていない.
そこで本論文では, 現時点ではまだ不明瞭な部分の多い, プラズマ溶射しゃ熱コーティング材の熱サイクル付与による損傷メカニズムを解明することを主な目的とした. 本論文は全6章からなり, 各章の概略は以下の通りである.
第2章「プラズマ溶射しゃ熱コーティング材の真空中における熱サイクル損傷特性」においては, しゃ熱コーティング材の熱サイクル損傷特性解明の第一段階として, 高温酸化の影響を除去し純粋に熱応力の効果を抽出する, 真空雰囲気中における2層構造しゃ熱コーティング材と傾斜組成しゃ熱コーティング材の熱サイクル損傷特性に関する検討を行った. また, 熱応力緩和の観点から提案されている傾斜組成しゃ熱コーティング材の有効性に関しても検討を加えた. その結果, 傾斜組成しゃ熱コーティング材が真空雰囲気中熱サイクル付与に対する優れた損傷特性を有すること, 傾斜組成しゃ熱コーティング材では 2層構造しゃ熱コーティング材と比較して臨界き裂発生温度が約200度向上すること、真空雰囲気中熱サイクル付与に伴うしゃ熱特性の変化は認められないこと,等を明らかにした.
第3章「プラズマ溶射しゃ熱コーティング材の大気中熱サイクル損傷ならびにしゃ熱特性」においては, 第2章とは対照的に, 主として酸化の影響を強調することを意図して,大気雰囲気中における短時間および長時間高温保持熱サイクル試験を2層構造しゃ熱コーティング材を用いて行い, 雰囲気および高温保持時間が熱サイクル損傷特性に与える影響を検討した. また, しゃ熱特性の時間依存的変化に関する考察も行った. その結果, 熱サイクル損傷拳動は高温保持時間の長短にかかわらず熱応力に依存すること, 一方しゃ熱特性は高温保持時間の影響を受け, 長時間高温保持条件では劣化を生じること, しゃ熱特性劣化の原因はセラミックトップコートの焼結現象およびそれに起因する緻密化(トップコート気孔率の減少)であること, 等を明らかにした.
第4章「プラズマ溶射しゃ熱コーティング材の長時間高温保持熱サイクル損傷特性に及ぼす傾斜組成化および雰囲気の影響」では, 熱応力緩和に対し優位性をもつ傾斜組成しゃ熱コーティング材をガスタービン等の使用環境において適用する目的のもと, 高温酸化が傾斜組成しゃ熱コーティング材の熱サイクル損傷特性に与える影響を詳細に検討するために, 大気および真空雰囲気中における長時間高温保持熱サイクルを, 2層構造および傾斜組成しゃ熱コーティング材を用いて行った. その結果, 長時間高温保持条件でも真空雰囲気中であれば傾斜組成しゃ熱コーティング材は優れた損傷特性を有すること, 一方大気雰囲気中では酸化による材質劣化がより顕著となり, 熱サイクル損傷特性が2層構造しゃ熱コーティング材より劣化してしまうこと, 等を明らかにした.
第5章「プラズマ溶射耐魔耗コーティング材の熱サイクル損傷特性」では, 自動車用ピストンへの適用を想定した耐魔耗コーティング材に対する特性評価として, 前章までで確立されたプラズマ溶射セラミックコーティング材の熱サイクル損傷特性評価方法を適用することを試みた. これは, 本コーティング材がエンジンの始動・停止に伴う温度変化, 長期間の繰返し加熱・冷却という, 熱サイクル負荷状態となるからである. 2種類の耐魔耗コーティング材(A試験片:90wt%Al2O3-10wt%CeO2, B試験片:70wt%Al2O3-10wt%CeO2-20wt%ZrO2)を用いて真空雰囲気中熱サイクル試験を行った結果, 両材の損傷拳動はほぼ同様だが B 試験片の方が高い損傷抵抗を有すること, 発生する熱応力の相違および組成に起因するじん性の相違がその要因となっていること, 等を明らかにした.
第6章「結論」では, 以上の結果および考察を踏まえて, プラズマ溶射セラミックコーティング材の熱サイクル損傷特性に関する結論をまとめた.