摺動特性に優れたアルミニウム合金粉末押出材の製造およびその特性に関する研究
氏名 藤田 達生
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第6号
学位授与の日付 平成元年3月25日
学位論文の題目 摺動特性に優れたアルミニウム合金粉末押出材の製造およびその特性に関する研究
論文審査委員
主査 教授 小島 陽
副査 教授 小林 勝
副査 教授 田中 紘一
副査 助教授 福澤 康
副査 東京工業大学 教授 神尾 彰彦
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第1章 序章 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.2 本研究の目的 p.5
第2章 粉末押出材の製造方法開発 p.7
2.1 緒言 p.7
2.2 粉末の製造法および粉末特性 p.9
2.3 予備成形 p.13
2.3.1 予備成形の必要性 p.13
2.3.2 金型法による成形条件 p.13
2.3.3 CIPによる成形条件 p.16
2.4 脱ガス p.21
2.4.1 脱ガスの必要性 p.21
2.4.2 粉末のガスの放出特性 p.22
2.4.3 工程によるガス量の変化 p.24
2.4.4 脱ガス条件の決定 p.28
2.5 押出 p.30
2.5.1 押出方法の検討 p.30
2.5.2 押出条件の検討 p.31
2.6 結言 p.36
第3章 Al-Si-X系合金の開発 p.37
3.1 緒言 p.37
3.2 粉末および押出材の組織 p.38
3.3 機械的特性 p.42
3.3.1 合金元素と引張特性の関係 p.42
3.3.2 疲労強度 p.47
3.3.3 熱膨張係数 p.49
3.3.4 熱伝導率 p.50
3.3.5 寸法安定性 p.50
3.3.6 比重 p.50
3.4 粉末押出材の摺動特性 p.52
3.4.1 試験方法 p.52
3.4.2 結果および考察 p.53
3.5 結言 p.55
第4章 Si粒子分散型Al-Si-X系合金基複合材料の開発 p.57
4.1 緒言 p.57
4.2 複合材料の製造方法 p.59
4.3 複合材料の組織および機械的特性 p.60
4.3.1 組織 p.60
4.3.2 引張特性 p.60
4.3.3 熱膨張係数 p.61
4.4 複合材料の摺動特性 p.62
4.4.1 試験方法 p.62
4.4.2 結果および考察 p.64
4.5 結言 p.70
第5章 セラミックス粒子分散型Al-Si-X系合金基複合材料の開発 p.71
5.1 緒言 p.71
5.2 複合材料の製造方法 p.71
5.3 複合材料の組織および機械的特性 p.72
5.3.1 組織 p.72
5.3.2 機械的特性 p.73
5.3.3 熱膨張係数 p.74
5.4 複合材料の摺動特性 p.75
5.4.1 試験方法 p.75
5.4.2 FCD70相手の摺動特性 p.75
5.4.3 アルミニウム合金相手の摺動特性 p.78
5.5 結言 p.83
第6章 鍛造性に優れたセラミックス粒子分散型複合材料の開発 p.84
6.1 緒言 p.84
6.2 複合材料の製造方法 p.85
6.3 複合材料の組織および機械的特性 p.85
6.3.1 組織 p.85
6.3.2 機械的特性 p.86
6.4 複合材料の摺動特性 p.89
6.4.1 試験方法 p.89
6.4.2 結果および考察 p.89
6.5 鍛造性評価 p.92
6.5.1 供試材 p.92
6.5.2 試験方法 p.94
6.5.3 結果および考察 p.95
6.5.4 粉末押出材の鍛造例 p.100
6.6 結言 p.104
第7章 総括および今後の展望 p.105
謝辞 p.108
参考文献 p.109
アルミニウム合金は軽量材料としての期待が大きく、多くの合金が開発されている。しかし、従来の溶解・鋳造法ではこれ以上の大幅な特性の向上は期待できない。1980年代より急冷凝固粉末を用いた新しいアルミニウム合金の開発が注目を集め、多くの研究所、企業等で研究されるようになった。急冷することにより、1)組織の微細化、2)偏析の消滅、3)固溶限の拡大、4)新しい準安定相の形成、5)アモルファスの形成等が期待され、これらの効果により優れた特性を持った合金が開発されている。しかし、これらの合金は繁雑な工程を経て製造されるためコストが高く、それに見合うほどの特性が得られていないため、試験的な使用の報告はあるが広く利用されるまでには至っていない。特に自動車産業での使用を前提とする日本においては、コストが高いことは使用上大きな制約を受ける。
ここでは、比較的簡略化された粉末冶金合金の製造法の開発及び日本で早期に実用化が見込まれる摺動用途を前提とした、Al-Si-X系合金および粒子分散型複合材料の開発を目的とした。
粉末冶金合金を製造する上で重要なことは以下の3点である。
1)粉末表面の酸化被膜を破って、アルミニウム合金同士を強固に結合させる。
2)粉末表面の酸化被膜に含まれる水分、ガス等を適切に除去する。
3)粉末時の特性を最終製品まで維持する。
本研究では、粉末冶金合金の製造法として粉末押出法を採用し、さらに雰囲気脱ガス法を採用する製造工程を開発し、安定した低い吸蔵ガス量の粉末冶金材料を生産性高く製造するための条件を明らかとした。
また、粉末冶金材料の高機能・多機能性を発揮できる用途として摺動用材料がある。摺動用材料は、摺動特性はもちろんのこと、機械的特性、熱膨張係数等多くの要求特性を満足させる必要がある。ところが、これまで摺動用アルミニウム合金としてはAl-Si系鋳造材料しかなかった。使用条件が厳しくなったために摺動特性自体が不足する場合も生じてきており、さらに軽量化、高性能化の要求から機械的特性等の向上も望まれている。そのため、粉末冶金材料を適用し、急冷凝固による合金設計上の効果および粉末であるための複合化の容易さを有効に利用することにより、従来材料よりも大幅に特性の向上した材料が得られることが期待される。このような理由から、本研究では粉末冶金材料の摺動用途への適用を前提とし、本製造方法により製造したAl-Si-X系合金および粒子分散型複合材料の特性を明らかとした。
本研究により以下のことがわかった。
1)製造法に関しては、従来実施されてきた真空脱ガスに代って、生産性に優れた連続炉を使用した雰囲気脱ガスによっても十分低いガス量の押出材が得られる。
2)この方法を用いて製造したAl-Si-X系合金の特性評価結果では、Fe、Ni、Mn等の遷移金属を多量に添加することにより、従来の鋳造法によるAl-Si合金に比較して、高温強度に優れ、熱膨張係数の小さい摺動用合金が得られる。
3)さらに、Si粒子、セラミックス粒子を添加することにより、耐摩耗性が大幅に向上する。
4)Fe、Ni、Mn等の遷移金属を多量に含むAl-Si-X系合金にセラミックス粒子を分散させた粒子分散型複合材料は、アルミニウム合金同士の組合わせでも良好な摺動特性を示す。
5)セラミックス粒子を分散させることにより、耐摩耗性の面ではアルミニウム合金中にSiを含む必要がなく、このような粒子分散型複合材料とすることで靭性、鍛造性に優れた摺動用材料を得ることができる。
これらの合金は、その優れた特性を生かしてコンプレッサー部品、エンジン部品等へ量産使用されている。また、今後の大量使用を目指して評価中のものも多い。製品化にあたっては、使用される用途あるいは目的に応じた材料設計が必要であるが、粉末押出法は材料設計上の自由度が大きく、使用される部品毎に、また機種毎に要求特性の異なる摺動用材料の製造方法として非常に適している。本研究で開発した合金系を基本として、今後も多くの合金が開発され、より多くの製品に適用されることを期待したい。