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ガラス融液と磁性材料の界面反応に関する研究

氏名 新田 敦己
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第11号
学位授与の日付 平成元年3月25日
学位論文の題目 ガラス融液と磁性材料の界面反応に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 松下 和正
 副査 助教授 小松 高行
 副査 教授 三山 創
 副査 教授 一ノ瀬 幸雄
 副査 助教授 植松 敬三
 副査 教授 田邊 伊佐雄

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第1章 緒論 p.1
参考文献 p.4
第2章 種々の遷移金属酸化物を含んでいるガラスのガラス化範囲および諸物性 p.6
2.1 緒言 p.6
2.2 実験方法 p.7
2.2.1 ガラス作製 p.7
2.2.2 ガラス化範囲の決定 p.7
2.2.3 ガラスの熱的性質 p.7
2.2.3.1 熱膨張係数 p.7
2.2.3.2 粘度の測定 p.9
2.2.3.2.1 高粘度域の粘度測定 p.9
2.2.3.2.2 低粘度域の粘度測定 p.9
2.2.3.3 結晶化温度 p.11
2.2.3.4 比重測定 p.12
2.2.3.5 磁化率測定 p.12
2.2.3.6 ガラス中の遷移金属イオンの状態分析 p.12
2.3 結果および考察 p.12
2.3.1 ガラス化範囲 p.12
2.3.2 SiO2-PbO系ガラス中の遷移金属イオンの状態分析 p.17
2.3.3 熱的性質 p.20
2.3.3.1 粘度 p.20
2.3.3.2 熱的性質 p.20
2.3.4 磁気的性質 p.26
2.4 総括 p.30
参考文献 p.31
第3章 ガラス融液とフェライトの界面反応 p.33
3.1 SiO2-PbO2成分および3成分系ガラス融液へのフェライトの溶解反応 p.33
3.1.1 緒言 p.33
3.1.2 実験方法 p.33
3.1.2.1 ガラス作製 p.33
3.1.2.2 溶解反応実験 p.35
3.1.3 結果および考察 p.35
3.1.4 総括 p.38
3.2 SiO2-PbOガラス融液とMn-Znフェライトの界面反応 p.39
3.2.1 緒言 p.39
3.2.2 実験方法 p.39
3.2.2.1 ガラス作製 p.39
3.2.2.2 界面反応実験 p.39
3.2.2.3 ガラス-フェライト界面の観察および分析 p.40
3.2.2.4 X線回折測定 p.40
3.2.3 結果および考察 p.40
3.2.4 総括 p.51
参考文献 p.51
3.3 SiO2-PbOガラス融液とNi-Znフェライトの界面反応 p.52
3.3.1 緒言 p.52
3.3.2 結果および考察 p.52
3.3.3 総括 p.57
参考文献 p.57
3.4 SiO2-PbO-MO系ガラス融液とMn-Znフェライトの界面反応 p.58
3.4.1 緒言 p.58
3.4.2 結果および考察 p.58
3.4.3 総括 p.75
参考文献 p.76
3.5 SiO2-PbO-MO系ガラス融液とNi-Znフェライトの界面反応 p.77
3.5.1 緒言 p.77
3.5.2 結果および考察 p.77
3.5.3 総括 p.84
3.6 ガラス融液とフェライトの界面反応機構 p.87
3.6.1 緒言 p.87
3.6.2 界面反応機構 p.87
3.6.3 総括 p.93
参考文献 p.93
第4章 ガラス融液とフェライト界面反応による磁気特性変化 p.94
4.1 緒言 p.94
4.2 実験方法 p.94
4.2.1 ガラス作製 p.94
4.2.2 試料作製 p.94
4.2.3 磁気特性の測定 p.95
4.3 結果および考察 p.95
4.3.1 Mn-Znフェライトの磁気特性変化 p.95
4.3.2 Ni-Znフェライトの磁気特性変化 p.99
4.4 総括 p.102
参考文献 p.103
第5章 結論 p.105
本研究に関する論文発表 p.111
謝辞 p.113

第1章 緒論
 酸化物ガラスは、成形および加工のしやすさ、透明であること、絶縁体で機密性があり化学的に安定であるという性質のために日常生活に欠くことのできない材料の1つである。この成形および加工のしやすさや化学的に安定であるという性質のために、ガラスは電子デバイスおよび磁気デバイスに利用されている。その1つの例として、磁性材料をガラス等の材料で接合して製品化される磁気ヘッドがある。このようなデバイスではガラス部分の形状が薄膜またはそれに近い状態のものもあり接合界面の反応および接合部の特性変化がデバイス全体の性能にとって重要な問題となってくる。ガラスとフェライトの界面反応について研究例は少なく、その界面反応機構についての研究はほとんどない。
 本研究は、ガラス-フェライトの界面反応機構を明らかにすることを目的とし、遷移金属酸化物を含んだSiO2-PbO系のガラス化範囲を決定するとともに遷移金属酸化物を含んだガラスの諸物性について調べ、ガラス融液とフェライトの界面反応をEPMAを用いて調べ、ガラス-フェライト界面反応機構モデルについて検討した。また、界面反応による磁気特性変化についても調べ、界面反応機構モデルとの関係について検討した。
第2章 種々の遷移金属酸化物を含んでいるガラスのガラス化範囲および諸物性
 SiO2-PbO-MO(M=Fe, Mn, Zn, Ni)系のガラス化範囲は、MnO≒ZnO物>FeO1.5>NiOの順に大きくなった。MnOを40mol%含む組成でもガラスになることがわかった。これはガラス中ではMnイオンはNWFとして作用していると考えられる。FeO1.5およびMnOを含むガラスについて状態分析を行なった。その結果、FeO1.5を含んだガラスでは鉄イオンのうち1~5%がFe2+イオンであり、MnOを含んだガラスではマンガンイオンのうち5~30%がMn3+イオンであることがわかった。遷移金属酸化物を含むガラスの粘度は、遷移金属の種類による差が見られず、粘度に与える寄与はSiO2含有量が最も大きかった。
第3章 ガラス融液とフェライトの界面反応
 SiO2-PbO 2成分系および遷移金属酸化物を含んだ3成分系ガラスとフェライトを1000℃の温度で反応させ、その溶解量を測定した。フェライトのガラスへの溶解反応は、ガラス融液の粘度に依存することがわかった。3成分系ガラスに対する溶解速度は、粘度のみからの予想値よりも小さかった。これは、ガラスーフェライト界面で溶解速度を遅くする反応が起こっていることを示している。Mn-Znフェライトの溶解速度はNi-Znフェライトの溶解速度よりも大きかった。これとMnOを含む系のガラス化範囲広いことと関連している。2成分系のガラス融液とフェライトを800~1000℃の温度で反応させ、ガラス-フェライト界面をEPMAを用いて分析を行った。その結果、Mn-Znフェライトにおいて900℃以下の温度でガラス-フェライト界面に中間層が析出した。この中間層は、Pb2(Mn, Fe)2Si2O9およびPb8(Mn, Fe)Si6O21結晶であった。Ni-Znフェライトでは中間層は析出しなかったが、フェライトの界面近傍でZnの濃度の減少およびNiの濃度の増加が見られた。これは、ガラス化範囲が広いフェライト中のZnイオンがガラス中に溶解したためである。
 3成分系のガラス融液とMn-Znフェライトの界面反応では、ガラス-フェライト界面で相互拡散反応が起こり、ガラス中に含まれる遷移金属イオン(MnまたはZn)がフェライト中に拡散しフェライトの界面近傍で濃度が高くなった。Ni-ZnフェライトとMnOを含んだガラス融液との反応では、フェライトの界面近傍でMnの濃度が高い相が生成した。これらの結果に基づいて、スピネル構造のA siteのイオンとガラス中に含まれる遷移金属イオンとが相互拡散反応する反応機構モデルを提案した。
第4章 SiO2-PbO系ガラス融液とフェライトの界面反応による磁気特性変化
 SiO2-PbO 2成分系および3成分系ガラス粉末とフェライト粉末を種々の温度で熱処理し、飽和磁気モーメント(Ms)を測定した。その結果、Mn-ZnフェライトのMsは熱処理温度の上昇と共に減少した。これはフェライトがガラス融液中に溶解することによるためである。しかし、900℃では800℃よりもMsが増加した。これは相互拡散反応によりフェライト界面近傍に大きな磁気モーメントを持った相が生成されたためであると考えられる。しかし、ZnOを含んだガラスとの反応では、900℃の熱処理でもMsはさらに小さくなった。これは界面に反強磁性体が生成されたためである。Ni-Znフェライトとガラスの反応では、熱処理温度が900℃まではMsはあまり変化しなかったが、1000℃でMsが大きくなった。特にFeO1.5を含むガラスの反応ではMsの増加が急であった。これもMn-Znフェライトと同様に相互拡散反応によって界面付近に大きな磁気モーメントを持った相が生成されたためであると考えられる。以上の結果より、ガラス融液とフェライトの反応によるMsの変化は、フェライト成分の溶解と界面での相互拡散反応によっ決まると考えられる。
第5章 結論
 以上のように本研究ではガラス融液とフェライトの界面反応機構を解明し、そのモデルを提案した。また、そのモデルによって反応による磁気特性変化を説明することができた。ガラスとフェライトの界面反応は、ガラス組成と温度を適当に選ぶことにより制御できることを見いだした。

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