海水ウラン採取システムに関する研究
氏名 中村 奨
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第10号
学位授与の日付 平成元年3月25日
学位論文の題目 海水ウラン採取システムに関する研究
論文審査委員
主査 助教授 白樫 正高
副査 助教授 伊藤 義郎
副査 教授 梅村 晃由
副査 助教授 井上 泰宣
副査 助教授 青木 和夫
副査 東京大学 教授 古崎 新太郎
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第1章 序論
1.1 緒言 p.1
1.2 海水中のウラン p.1
1.3 海水ウラン採取研究 p.2
1.3.1 歴史的背景 p.2
1.3.2 化学工程の選択 p.4
1.3.3 海水ウラン採取用吸着剤 p.5
1.3.4 海水-吸着剤接触システム p.6
1.4 海水ウラン採取研究における課題 p.10
1.5 本研究の目的 p.11
参考文献 p.12
第2章 海水ウランコストの分析
2.1 緒言 p.14
2.2 ポンプ流動・固定床式プラント p.14
2.2.1 プラントの概要 p.14
2.2.2 化学工程 p.16
2.3 吸着プロセスのモデル化 p.16
2.3.1 吸着現象の律速段階 p.16
2.3.2 物質収支式 p.17
2.4 コスト試算の想定条件 p.18
2.5 結果と考察 p.20
2.5.1 海水線流速とベッド厚の関係 p.20
2.5.2 平衡吸着量と吸着日数の影響 p.22
2.5.3 液境膜物質移動係数と吸着日数の影響 p.25
2.5.4 ウランコストの内訳 p.27
2.6 結論 p.28
参考文献 p.29
第3章 海水ウラン採取用循環流動層の開発
3.1 緒言 p.30
3.2 実験 p.30
3.2.1 実験装置 p.30
3.2.2 吸着剤 p.31
3.2.3 粒子群沈降速度 p.32
3.3 結果と考察 p.35
3.3.1 循環流動層の開発 p.35
3.3.2 循環流動層の特性 p.38
3.3.3 循環流動層の各部形状 p.43
3.3.4 吸着剤の特性と循環流動域の関係 p.47
3.4 海流実験水槽による流動実験 p.48
3.4.1 実験装置 p.48
3.4.2 結果 p.50
3.5 結論 p.55
参考文献 p.56
第4章 回分吸着実験によるPAN-HTOの性能評価
4.1 緒言 p.57
4.2 実験 p.57
4.2.1 実験装置 p.57
4.2.2 吸着剤 p.59
4.2.3 ウラン濃度の分析 p.61
4.2.4 解析手法 p.63
4.3 結果と考察 p.64
4.3.1 粒径の影響 p.64
4.3.2 海水温度の影響 p.70
4.4 結論 p.75
参考文献 p.76
第5章 循環流動層のウラン吸着実験 p.78
5.1 緒言 p.78
5.2 実験 p.78
5.2.1 実験装置 p.78
5.2.2 解析手法 p.81
5.3 結果と考察 p.83
5.3.1 海水の比重と動粘度 p.83
5.3.2 カラム p.84
5.3.3 循環流動層 p.88
5.4 結論 p.95
参考文献 p.96
第6章 循環流動層のウラン吸着特性の解析
6.1 緒言 p.97
6.2 吸着プロセスのモデル化 p.97
6.2.1 接触部の層別化 p.97
6.2.2 層内物質収支 p.98
6.3 基礎方程式の数値解法 p.101
6.3.1 基礎式の差分化 p.101
6.3.2 計算手順 p.103
6.4 パラメーターの算定 p.104
6.5 ウラン吸着過程のシミュレーション p.107
6.5.1 吸着モデルの実験的検討 p.107
6.5.2 ウラン吸着挙動 p.108
6.5.3 操作変数の影響 p.111
6.5.4 吸着施設規模 p.119
6.6 結論 p.120
参考文献 p.121
第7章 総括
7.1 論文の要約 p.122
謝辞 p.125
本論文は、海水中に3.3ppbと極めてわずかな濃度で存在するウランを、これまでの固定床や流動床式装置に比べて、簡便で効率良く採取するための新しい接触装置の開発に関する研究をまとめたものである。本論文を要約すると次のようになる。
第1章では、海水ウラン採取研究の経緯について述べ、既往の研究をまとめた。そして海水ウラン採取研究における現在の課題を整理し、本研究の目的について述べた。
第2章では、技術的に実現可能な採取システムの一つであるポンプ流動・固定床式プラントをモデルにして、固定床方式の特徴と限界を明らかにし、今後の研究開発の方向を探るために、吸着剤性能や操作条件などの各種パラメーターとウランコストとの相関関係について調べた。その結果、吸着剤単位重量当たりのウラン吸着量を増加させるためには、高い空間速度で吸着床を運転しなければならないことがわかった。しかしウラン回収率は空間速度の増加とともに低下するので、高い空間速度での運転はポンプ台数の増加などにより経済的でないことがわかった。そしてこのような状況の下では、平衡吸着量の大きな吸着剤を使用してもウランコストの低減への寄与は小さいことが明らかになったが、吸着剤表面における物質移動係数の改善は、ウランコストの低減にかなり効果的であった。またウランコストの主要部分は、吸着プラントの減価償却と吸着剤費用、およびエネルギー費用に由来するものであった。
第3章では、第2章の結果を踏まえて、既存の接触装置に比べて高い線流速で運転でき、なおかつ自然海流で運転できる新しい接触装置の開発を行なった。そして槽内が仕切壁にて吸着剤粒子の上昇流部と下降流部とに区画されており、ノズル状に絞った流入口を槽底部に、流出口を槽上部に有する新しい接触装置、循環流動層装置(略して循環流動層と呼ぶ)を開発した。吸着剤粒子はこの装置内を堆積も流出もせず安定して循環し続ける。この吸着剤粒子の循環状態は、槽上部に櫛形の邪魔板を取り付けることによってさらに安定したものとなった。実際に海水からウランを採取するために使われている、ポリアクリロニトリルをバインダーとして造粒した含水有酸化チタン吸着剤(PAN-HTO)を使用して、循環流動層は既存の流動床式装置に比べて2~3倍の線流速で運転することができた。特に循環流動層は、多孔板などの吸着剤支持材を必要としないので、高い線流速で装置を運転しても目詰まりの心配がないなど優れた特徴を有している。また海流実験水槽内に循環流動層を設置して実験を行なったところ、海流を利用しても装置を運転できることが明らかになった。
第4章では、循環流動層のウラン吸着能力を解析的に予測する際の基礎データとするために、PAN-HTOのウラン吸着特性を天然海水を用いた回分吸着実験により調べた。実験では、ウラン吸着特性に対する吸着剤粒径、海水温度の影響を系統的に調べた。その結果、PAN-HTOのウラン吸着等温線はFreundlich式で整理でき、海水中のウランの吸着過程は、粒径・海水温度によらず、液境膜物質移動と粒子内拡散の両者に依存していることが明らかになった。平衡吸着量および吸着速度は海水温度の上昇とともに増加した。そして海水温度30℃、平均粒径0.48~0.76mmの範囲で、平衡吸着量として127~175μg-U/g-adと造粒吸着剤としては比較的高い値を得た。また粒子内拡散係数は粒径によらずほぼ一定であった。
第5章では、循環流動層の吸着性能を明らかにするために、PAN-HTOを吸着剤に使用し、天然海水からのウラン吸着実験を行なった。実験では、吸着剤粒径や海水温度とウラン吸着速度の関係、および接触部槽高とウラン回収効率の関係などについて詳しく調べた。同時に吸着剤性能を評価するためのカラム吸着実験も行なった。カラム吸着実験においても回分吸着実験と同様に、ウラン吸着速度は液境膜物質移動と粒子内拡散の両者に依存していることが明らかになった。液境膜物質移動係数と粒子内拡散係数はともに海水温度が高いほど大きくなった。また液境膜物質移動係数は吸着剤粒径によっても変化し、粒径が小さいほど大きくなった。粒子内拡散係数としては、海水温度26~28℃、14/24meshの吸着剤で2.2×10-6cm2/Sという値を得た。天然海水を用いて循環流動層のウラン吸着実験を行なった結果、吸着剤の流出は極くわずかであり、また目詰まりを起こすこともなく、長時間安定して運転することができた。ウラン吸着速度は、カラム吸着実験の結果と同様に、吸着剤粒径が小さく、海水温度が高いほど速かった。装置規模を3段階に変えて吸着実験を行なったところ、接触部槽高に比例してウラン回収効率が増加した。また循環流動層のウラン吸着性能は、流動床式装置以上のものになることが予測できた。
第6章では、循環流動層におけるウラン吸着挙動を動力学的に解析した。循環流動層の接触部において吸着剤粒子に関する完全混合層列モデルを仮定して、層内の物質収支式と吸着剤粒子の吸着速度式から、循環流動層における吸着の進行を記述するモデルを提示した。そしてシミュレーションによる計算結果と第5章で得たウラン吸着実験の結果とを比較することにより、吸着モデルとシミュレーションプログラムの有効性を確認した。このプログラムを使用して、循環流動層を実用規模の大きさにスケールアップした場合の吸着剤性能や操作条件などの各種パラメーターとウラン吸着特性との関係について調べた。その結果、循環流動層の吸着性能を向上させるためには、平衡吸着量の大きな吸着剤を使用し、接触部における吸着剤粒子の体積分率を大きくし、接触部槽高を高くしなければならないことが明らかになった。また海水の平均線流速は吸着剤の平衡吸着量と密接に関係し、適正な値が存在することがわかった。そして循環流動層を吸着施設に用いた場合、流動床式装置に比べて吸着床面積を大幅に低減できることが明らかになった。
第7章では、本研究で得た結果を要約した。
本研究で開発した海水ウラン採取用の新しい接触装置、すなわち循環流動層はこれまでの接触装置に比べて、
1)多孔板などの吸着剤支持材を必要としないので構造が簡単で、海水中の懸濁物質による目詰まりの心配がない。
2)高い上限を持つ幅広い速度域で運転することができ、自然海流を利用しての運転が可能である。
3)吸着床面積を大幅に低減することができる。
などの特性を有しており、非常に優れた接触装置になるものと思われる。