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アルミニュウム合金ダイカストの潤滑に関する研究

氏名 青山 俊三
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第69号
学位授与の日付 平成5年3月25日
学位論文の題目 アルミニウム合金ダイカストの潤滑に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 梅村 晃由
 副査 教授 小島 陽
 副査 教授 高田 孝次
 副査 教授 宮田 保教
 副査 助教授 東 信彦

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目次
第1章 緒論 p.1
1.1 研究の背景と従来の研究 p.1
1.1.1 研究の背景 p.1
1.1.2 従来の研究 p.3
1.2 本研究の目的および論文の構成 p.7
参考文献 p.8
第2章 ダイカスト金型の離型剤皮膜厚さの評価 p.11
2.1 緒言 p.11
2.2 実験装置及び方法 p.11
2.2.1 光沢度の測定 p.11
2.2.2 スプレー実験装置 p.12
2.2.3 実験条件 p.14
2.3 実験結果と考察 p.14
2.4 結言 p.27
参考文献 p.28
第3章 アルミニウム合金ダイカストの鋳物と金型の間の摩擦係数 p.29
3.1 緒言 p.29
3.2 実験装置及び実験方法 p.29
3.2.1 摩擦係数測定装置 p.29
3.2.2 実験方法 p.31
3.2.3 実験条件 p.31
3.3 実験結果 p.32
3.3.1 摩擦力の時間変化 p.32
3.3.2 鋳物の充填条件の影響 p.35
3.3.3 鋳物厚さとチルタイムの影響 p.35
3.3.4 金型の表面状態の影響 p.35
3.4 考察 p.41
3.5 結言 p.46
参考文献 p.47
第4章 中空円筒ダイカスト鋳物を用いた離型力の評価 p.48
4.1 緒言 p.48
4.2 円筒鋳物の押付圧の理論 p.48
4.3 実験方法 p.50
4.4 実験結果 p.54
4.5 考察 p.57
4.5.1 鋳物と中子間の摩擦係数について p.57
4.5.2 離型時の鋳物の変形状態について p.57
4.5.3 押付圧の理論値と実測値の比較および離型力の計算について p.63
4.6 結言 p.66
参考文献 p.66
第5章 スリーブ内熱伝達におよぼす粉末被覆の効果 p.67
5.1 緒言 p.67
5.2 実験方法 p.67
5.2.1 断熱粉末とその塗布方法 p.67
5.2.2 チルブロック熱伝達率測定実験 p.68
5.2.3 スリーブ中での溶湯温度低下測定実験 p.71
5.3 実験結果および考察 p.74
5.3.1 チルブロック熱伝達率測定実験 p.74
5.3.2 スリーブ中での溶湯温度低下測定実験 p.78
5.4 結言 p.81
参考文献 p.83
第6章 粉体スリーブ潤滑によるダイカスト鋳物の品質向上 p.84
6.1 緒言 p.84
6.2 実験方法 p.84
6.2.1 潤滑性試験 p.84
6.2.2 鋳込み実験 p.85
6.3 実験結果 p.85
6.3.1 潤滑性 p.85
6.3.2 鋳物品質 p.88
6.4 考察 p.93
6.4.1 粉体潤滑剤としての断熱粉末の効果 p.93
6.4.2 断熱粉末としての効果 p.98
6.4.3 圧力の伝達について p.99
6.4.4 鋳物の組織について p.103
6.5 結言 p.103
参考文献 p.103
第7章 総括 p.104
7.1 まとめ p.104
謝辞 p.106
著者の学術研究業績 p.107

 溶融した状態のアルミニウム金属を高速かつ高圧で金型キャビティに充填するアルミニウム合金ダイカストは、高い寸法精度と高い生産性を持ち、材料自身の軽量性のために、自動車の軽量化を中心として、年々使用量が増えている。この場合、強度部品、耐圧部品、後加工のない部品への適用も進んでいる。
 しかし、高速高圧で充填されるアルミニウム金属は、金型表面や射出スリーブ面と反応し、金型の焼き付けや、スリーブの侵食を引き起こし、ダイカスト操業上のトラブル因子となっている。また、アルミニウムの金型材に比較して大きな熱膨張係数は、鋳造時の収縮により、離型抵抗を生み、離型時のさまざまな問題発生の原因となる。これらの問題への対処として、古くから鋳物と金型間、あるいは、鋳物とスリーブ間に、離型剤あるいは塗布する方法が採用され、高い効果を上げている。しかし、これらに対する学術的研究は極めて少なく、最近その必要性が実際的な面からも強く呼ばれるようになっている。そこで、アルミニウム合金ダイカストの金型と鋳物の間の潤滑条件の解明、離型時に発生する離型抵抗の解明、ならびに射出スリーブ中での溶湯凝固による破断チル層の発生を防止する潤滑法の開発を行った。
 金型潤滑条件の解明として、金型面の光沢度の変化を測定することから金型潤滑剤である離型剤の付着量を評価する方法を開発した。この光沢度の測定から、金型温度が離型剤の付着に最も影響すること、金型温度が410K~510Kの範囲で離型剤が良く付着すること、金型温度が570Kを越えると通常の条件では離型剤が付着しなくなること、その場合離型剤の濃度を上げ、スプレー時間を長く、距離を短くする必要があること、などを明らかにした。
 さらに、ダイカスト鋳造時の鋳物と金型の間の摩擦状態を調べる装置を開発した。この装置を用いて、鋳物と金型間の摩擦係数を測定した結果、離型剤を塗布しない場合1以上の高い値を示し、離型剤を塗布する事によって0.2~0.3に下がることを明らかにした。また、摩擦係数がこの値となるための離型剤の付着量、金型面の光沢度が70%以下に下がる値として判定できることがわかった。これによって、光沢度測定によって適切な離型剤の塗布条件を求めることができるようになった。
 次に、離型時に発生する離型抵抗を解明するため、中子を有する外径30mmから17.5mm、内径20mmから7.5mmの円筒ダイカスト鋳物を対象とし、溶融充填後中子引き抜きまでの時間を変えて、鋳物内部温度、離型力を測定した。また、弾塑性解析の方法を用いて、鋳物内の変形状態と中子面押付圧を計算した。計算した押付圧を、離型力と摩擦係数から求めた押付圧と各温度で比較した結果、両者は良く一致した。これより円筒鋳物の離型力の計算する式
F=2πa l μY ln(a/b)
が求められた。ここで、a、b、lは円筒の内半径、外半径、および円筒長さで、Yは離型時の鋳物の降伏応力、μは摩擦係数である。また、上記の弾塑性解析は、鋳物の肉厚が薄い場合鋳物全域が塑性変形状態にあること、肉厚が厚い場合でも一部が塑性変形していることを示した。
 溶湯とスリーブ間の伝達を抑制し破断チル層の発生を防ぐ第1段階として、チップとスリーブ間の潤滑を通常の油性潤滑から、タルク粉末をスリーブ内に静電塗布する粉末潤滑に変え、スリーブ-溶湯間の熱伝達率を測定した。熱伝達率は、チルブロックを用いた温度測定とスリーブ内温度の凝固計算適合法の両者から求めた。結果として、両者の方法は良く一致すること、タルク粉末の塗布によって熱伝達率が、塗布なしの場合に比べ、約15分の1の0.5kw/(m2・K)に減少することがわかり、この値は、スリーブ中での溶湯の凝固を防止するのに十分な値であることが明らかになった。
 さらに、破断チル層防止の第2段階として、タルクに樹脂を混合した粉末を塗布し、鋳物とスリーブ間の摩擦係数を測定した。樹脂粉末の一定量混合により、摩擦係数が4分の1に低下し、かつ第1段階の実験で示された低い熱伝達率を与える粉体潤滑剤を開発することができた。この潤滑剤を用いて実際にダイカスト鋳造し、その効果を品質調査から確認したところ、破断チル層の発生が抑制され、鋳物の機械的性質が著しく向上することがわかった。また射出圧力が良く伝搬され、鋳物表面にチル層が形成するとともに、鋳物の密度が向上することがわかった。

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