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クーロン摩耗を伴う動吸振器系の研究

氏名 白石 明男
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第23号
学位授与の日付 平成4年9月16日
学位論文の題目 クーロン摩擦を伴う動吸振器系の研究
論文審査委員
 主査 教授 五十嵐 昭男
 副査 教授 吉谷 豊
 副査 教授 久曽神 煌
 副査 教授 矢鍋 重夫
 副査 教授 丸山 暉彦

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目次
主な記号 p.1
第1章 緒論 p.5
1.1 本研究の目的 p.5
1.2 2自由度動吸振器系およびクーロン摩擦力を伴う2自由度系に関するこれまでの研究 p.6
1.2.1 2自由度動吸振器系に関する研究 p.6
1.2.2 クーロン摩擦力を伴う2自由度系に関する研究 p.11
1.2.3 これまでの研究の問題点 p.12
1.3 本研究で対象とする動吸振器系と本研究の特長 p.17
1.4 本論文の構成と各章の概要 p.19
第2章 定常振動の解 p.20
2.1 解の導出の方針 p.20
2.2 一定振幅の力で加振される系(A種) p.21
2.2.1 A(r,R)形の解 p.21
2.2.2 A(r)形についての解の簡略化 p.29
2.2.3 A(R)形についての解の簡略化 34
2.3 振動数の2乗に比例する振幅の力で加振される系(B種) p.39
2.3.1 B(r,R)形の解 p.39
2.3.2 B(r)形、B(R)形についての解の簡略化 p.41
2.4 変位で加振される系(C種) p.46
2.4.1 C(r,R)形の解 p.46
2.4.2 C(r)形についての解の簡略化 p.51
2.4.3 C(R)形についての解の簡略化 p.56
2.5 クーロン摩擦力を考慮した厳密解導出のイギリス p.60
2.6 まとめ p.65
第3章 ディジタルシミュレーション p.66
3.1 DDSプログラムとその機能 p.66
3.2 DDSによる解の検証 p.70
3.2.1 振動の定常化の確認 p.70
3.2.2 厳密解とDDSによる振動波形の比較 p.77
3.3 まとめ p.84
第4章 動吸振器系の最良調整 p.85
4.1 最良調整値の実用計算式導出の方針 p.85
4.1.1 計算式の一般形 p.85
4.1.2 計算式導出の手順 p.86
4.1.3 実用計算式の適用範囲 p.87
4.2 A種の系の最良調整 p.88
4.2.1 クーロン摩擦力を考慮しない最良調整値 p.88
4.2.2 A(r)、A(R)およびA(r,R)形の最良調整値 p.90
4.2.3 最良調整の効果 p.91
4.3 B種の系の最良調整 p.108
4.3.1 クーロン摩擦力を考慮しない最良調整値 p.108
4.3.2 B(r)、B(R)およびB(r,R)形の最良調整値 p.108
4.3.3 最良調整の効果 p.110
4.4 C種の系の最良調整 p.126
4.4.1 クーロン摩擦力を考慮しない最良調整値 p.126
4.4.2 C(r)、C(R)およびC(r,R)形の最良調整値 p.127
4.4.3 最良調整の効果 p.128
4.5 クーロン摩擦力を考慮した最良調整の具体的意義 p.144
4.6 まとめ p.145
第5章 変位倍率の等価粘性解 p.146
5.1 A種の系の等価粘性解 p.146
5.1.1 A(r,R)形の等価粘性解 p.146
5.1.2 A(r)形の等価粘性解 p.150
5.1.3 A(R)形の等価粘性解 p.153
5.1.4 等価粘性解の誤差 p.154
5.2 B種の系の等価粘性解 p.170
5.2.1 B(r,R)形の等価粘性解 p.170
5.2.2 B(r)、B(R)形の等価粘性解 p.174
5.2.3 等価粘性解の誤差 p.175
5.3 C種の系の等価粘性解 p.186
5.3.1 C(r,R)形の等価粘性解 p.186
5.3.2 C(r)、C(R)形の等価粘性解 p.188
5.3.3 等価粘性解の誤差 p.191
5.4 まとめ p.207
第6章 動吸振器系設計の手順および設計法に関する問題 p.208
6.1 動吸振器系設計の手順 p.208
6.1.1 基本手順 p.208
6.1.2 従来の設計法の問題点と本設計法の特長 p.210
6.1.3 数値例 p.211
6.2 設計法に関するいくつかの問題 p.213
6.2.1 速度依存性をもつ乾性摩擦力の取扱い p.213
6.2.2 調整値の補正法 p.214
6.2.3 等価粘性解の利用 p.215
6.2.4 目的関数が主系最大倍率Vxlmaxでない場合の調整法 p.215
6.3 まとめ p.216
第7章 結論 p.217
7.1 定常振動の解 p.217
7.2 ディジタルシミュレーション p.217
7.3 動吸振器系の最良調整 p.218
7.4 変位倍率の等価粘性解 p.218
7.5 動吸振器系設計の手順および設計法に関する問題 p.218
7.6 まとめ p.219
文献 p.220

 一般に動吸振器系の設計に関する基礎的な研究は、主系と動吸振器からなる2自由度動吸振器系を対象とし、系の運動方程式の解の導出と動吸振器を効果的に動作させるための最良調整法の検討を主体として行われている。
 この種の研究としては、古くはOrmondroydやBrockの研究があり、また、池田、ThompsonおよびRandallなどの比較的新しい研究も知られている。
 これらの研究は、いずれも、系に作用する減衰力をすべて粘性減衰力に限定して取り扱っている。
 しかし、これらに基づいて設計した動吸振器系では、実際上、可動構成要素の案内部やダシュポットの軸封装置などに、潤滑油の介在しない乾性摩擦力が発生し易く、このため、動吸振器が所期の動作をしない場合もみられる。
 このような場合には、粘性減衰力と乾性摩擦力が共存するものとして動吸振器系を設計する必要があるが、このための基礎的かつ具体的指針はこれまでのところ全く不明である。
 このような観点から、本研究では、粘性減衰力に実際上不可避の乾性摩擦力が付随する動吸振器系の設計法を取り上げることにした。
 振動の解析では、乾性摩擦力はクーロン摩擦力として取り扱われることが多い。本研究でも、乾性摩擦力は、一般化して、クーロン摩擦力として取り扱う。
 したがって、本研究の目的は、粘性減衰力とクーロン摩擦力が共存する動吸振器系を対象とした設計法の提示である。
 動吸振器系は、一般に、その加振形式によって、3種類に分類されている。すなわち、主系が一定振幅の調和的な力で加振される場合、加振振動数の2乗に比例する力で加振される場合および基礎の調和的な変位で加振される場合である。
 本研究では、この3種すべてを対象として、その設計法を検討する。
 本論文は、以下に示すように、7章から構成されている。
 第1章「緒論」では、本研究の目的を述べ、対象とする系の構成を具体的に説明した。
 また、本研究に直接かかわる従来の研究を概観し、これまでのところ、動吸振器系にクーロン摩擦力が作用る場合の設計上の具体的対応策は、まったく知られていないことを示した。
 これに対して、本研究は、クーロン摩擦を伴い動吸振器系の振動の厳密解を導き、これに基づいて動吸振器系を効果的に動作させるための最良調整値の計算法を提示するなど、この種の動吸振器系の設計法を具体的に明らかにする点に特長があることを述べた。
 第2章「定常振動の解」では、本研究で対象とする動吸振器系について、設計や解析の基礎となる無停滞定常振動の厳密解を導出した。
 また、粘性減衰力とクーロン摩擦が共存する動吸振器系について、粘性減衰力のみを考慮した線形2自由度系の解による振動変位倍率の計算値と本研究の解によるそれとを比較した。これによってクーロン摩擦力が作用する系の設計には、線形2自由度系の解による計算は、誤差が過大になる場合があるため不適当であることを示し、本研究での厳密解導出の意義を具体的に明らかにした。
 第3章「ディジタルシミュレーション」では第2章の解による振動波形の数値計算例を連続型シミュレーション(HITAC DDS)の結果と比較し、両者が一致することを示して、第2章の解の妥当性を検証した。
 第4章「動吸振器系の最良調整」では、クーロン摩擦力が作用する動吸振器系に対する最良調整値の実用計算式を提示し、これを用いた動吸振器系の吸振効果を例示した。
 さらに、ここに導いた最良調整値を用いると、従来から知られている粘性減衰力のみを考慮した調整値を用いる場合に比べて、同一の吸振器質量の下では、より効果的な動吸振器系を構成できること、また、同一の吸振効果を得るのに、より小さい吸振器質量で足りることを例示し、クーロン摩擦力を考慮した最良調整の具体的意義を明らかにした。
 第5章「変位倍率の等価粘性解」では、動吸振器系の質量の振動変位倍率を簡単に近似計算するための等価粘性解を示し、その誤差について、多数の計算例を掲げた。
 これらによって、この近似解を設計に利用するための具体的指針を提示した。
 第6章「動吸振器系設計の手順及び設計法に関する問題」では、前章までの結果を用いてクーロン摩擦力が作用する動吸振器系を設計するための基本手順を示した。また、従来の方法の問題点とクーロン摩擦力を考慮した本設計法の特長を述べ、これらを具体的に裏付ける数値例を示した。
 さらに、動吸振器系の設計上参考となる二、三の問題について考察した。
 第7章「結論」では、本研究の成果をとりまとめた。

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