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自励AC-AC直接電力変換技術とその応用

氏名 野村 弘
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第24号
学位授与の日付 平成4年9月16日
学位論文の題目 自励AC-AC直接電力変換技術とその応用
論文審査委員
 主査 教授 高橋 勲
 副査 教授 村田 正男
 副査 教授 入澤 寿逸
 副査 助教授 近藤 正示
 副査 東京工業大学 教授 深尾 正

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目次
第1章 序論
1.1 本研究の位置づけ p.1
1.1.1 自励交流直接電力変換 p.1
1.1.2 交流変換技術開発の歴史的背景 p.4
1.2 本研究の意義と目的 p.6
1.2.1 自励交流変換器の利点と問題点 p.6
1.2.2 AC-AC変換器の応用分野 p.8
1.2.3 本研究の目的 p.9
1.3 論文の構成と概要 p.10
第1章の参考文献 p.13
第2章 AC-AC変換器の入出力波形解析
2.1 まえがき p.14
2.2 スイッチング関数による入出力波形の解析 p.15
2.2.1 出力電圧 p.15
2.2.2 入力電流 p.17
2.2.3 出力電圧波形の分類 p.17
2.3 線形位相変調と入出力波形 p.19
2.3.1 スイッチング関数の導入 p.20
2.3.2 出力電圧波形 p.23
〈1〉2パルス変換器 p.23
〈2〉3パルス変換器 p.24
〈3〉6パルス変換器 p.26
2.3.3 入力電流波形 p.28
〈1〉2パルス変換器(単相出力) p.28
〈2〉3パルス変換器(三相出力) p.28
〈3〉6パルス変換器(三相出力) p.29
2.4 AC-AC変換器の入力力率 p.31
2.4.1 入力基本波力率 p.31
2.4.2 出力電圧波形と入力力率 p.33
2.4.3 仮想電圧と無効電力 p.37
2.4.4 入力無効電力の計算 p.39
2.4.5 位相変調方式と入力力率 p.42
2.5 出力電圧調整と波形改善 p.43
2.5.1 PWMによる電圧制御 p.43
2.5.2 PWMによる波形改善 p.43
〈1〉2パルス変換器3台による三相‐三相変換 p.45
〈2〉6パルス変換器3台による三相‐三相変換 p.45
2.6 むすび p.49
【付録】 p.50
第2章の参考文献 p.51
第2章に関連する筆者発表論文 p.51
第3章 AC-AC変換器回路の問題点と解決策
3.1 まえがき p.52
3.2 交流回路における自励転流の問題点 p.53
3.2.1 双方向半導体スイッチ回路 p.53
3.2.2 交流回路における自励転流の問題点 p.54
3.2.3 電源リアクタンスのエネルギー処理法 p.55
3.3 自然転流の原理を取り入れた強制転流法 p.57
3.3.1 転流コンデンサによる転流 p.58
3.3.2 電源側インパルス重畳転流 p.59
3.3.3 負荷側インパルス重畳転流 p.60
3.3.4 特性比較 p.61
〈1〉基本式 p.61
〈2〉最大素子電圧と転流時間 p.63
〈3〉転流電力 p.64
〈4〉電源側と負荷側インパルス重畳転流の比較 p.65
〈5〉実験結果 p.65
3.4 スナバ回路によるエネルギー処理 p.66
3.4.1 スナバ電圧 p.66
3.4.2 スナバ損失 p.68
3.4.3 実験結果 p.69
3.5 電圧クランプ回路によるエネルギー処理 p.70
3.5.1 基本特性 p.71
3.5.2 スナバエネルギーとクランプエネルギーの割合 p.72
3.5.3 AC-AC変換器のクランプ回路 p.73
3.6 電源過渡インピーダンスの測定 p.75
3.6.1 直列共振を利用した測定 p.75
3.6.2 電源インピーダンスの周波数特性 p.76
3.7 むすび p.79
第3章の参考文献 p.80
第3章に関連する筆者発表論文 p.81
第4章 サイクロコンバータへの応用
4.1 インパルス重畳転流方式サイクロコンバータ p.82
4.1.1 回路構成例 p.82
4.1.2 新転流方式サイクロコンバータ p.84
4.1.3 実験結果 p.86
4.1.4 転流電力 p.87
4.2 転流パラメータの制御 p.88
4.2.1 転流時間の最適化 p.88
4.2.2 コンデンサ電圧の制御 p.90
4.2.3 新転流方式サイクロコンバータの特長 p.91
4.3 自己消弧素子を用いたサイクロコンバータ p.92
4.3.1 PWMサイクロコンバータ回路の開発状況 p.92
4.3.2 電圧クランプ回路を持つサイクロコンバータ p.94
〈1〉転流動作 p.94
〈2〉クランプ電力 p.95
〈3〉三相-三相サイクロコンバータ回路 p.96
〈4〉PWMゲート制御回路 p.96
〈5〉実験結果 p.99
4.3.3 クランプ回路を持つサイクロコンバータの特長 p.100
4.4 むすび p.101
第4章の参考文献 p.102
第4章に関連する筆者発表論文 p.102
第5章 力率補償装置への応用
5.1 まえがき p.103
5.2 無効電力発生装置 p.105
5.2.1 スイッチング装置のみによる無効電力の発生 p.105
5.2.2 回路構成と出力電圧 p.107
5.2.3 基本波成分に対する入力特性 p.109
5.2.4 入力電流の高調波成分 p.112
〈1〉変換器出力電流 p.112
〈2〉変換器入力電流 p.113
〈3〉全入力電流 p.113
5.2.5 実験結果 p.114
5.3 力率補償形電源装置 p.117
5.3.1 補償原理と等価回路 p.117
5.3.2 変換器容量と装置の効率 p.119
5.3.3 力率補償形電源装置と運転特性 p.120
〈1〉出力電圧 p.120
〈2〉入力電流 p.122
〈3〉相間リアクトルの容量 p.123
5.3.4 実験結果 p.124
〈1〉線形負荷 p.124
〈2〉整流器負荷 p.124
〈3〉不平衡負荷 p.127
5.4 入力力率補償形交流電圧調整装置 p.128
5.4.1 並列形力率補償と電圧調整 p.128
〈1〉力率補償とスイッチング関数 p.128
〈2〉パルス幅制御による電圧調整 p.130
〈3〉三相電圧調整回路 p.131
5.4.2 直列形力率補償と電圧調整 p.132
〈1〉電圧調整の原理 p.132
〈2〉無効電力補償の原理 p.134
〈3〉実験結果 p.135
5.5 むすび p.136
【付録】入力フィルタを持つ電力変換器の入力定常波形の計算法 p.137
第5章の参考文献 p.139
第5章に関連する筆者発表論文 p.140
第6章 チョッパ方式交流電圧調整回路への応用
6.1 まえがき p.141
6.2 降圧チョッパによる交流電圧調整 p.142
6.2.1 単相単一交流チョッパ回路 p.142
6.2.2 多相多重化による波形改善 p.144
6.2.3 部分電圧制御 p.147
6.2.4 三相電圧調整 p.149
6.3 瞬時電圧制御形交流スイッチングレギュレータ p.151
6.3.1 Cukコンバータk基本特性 p.151
〈1〉電圧制御の原理 p.152
〈2〉素子電圧と電流 p.152
〈3〉入出力波形のリップル含有率 p.153
〈4〉Cukコンバータの長所と短所 p.153
6.3.2 システムの記述と安定解析 p.154
〈1〉システムの記述 p.154
〈2〉拡大系の構成と安定解析 p.156
〈3〉安定領域 p.157
6.3.3 交流電圧の瞬時値制御 p.159
〈1〉主回路定数の選定 p.160
〈2〉制御系の構成 p.160
〈3〉シミュレーション p.161
6.3.4 実験結果 p.163
6.3.5 まとめ p.165
6.4 むすび p.166
第6章の参考文献 p.167
第6章に関連する筆者発表論文 p.168
第7章 結論 p.169
謝辞 p.174
筆者発表論文類一覧 p.175
I 大学院修士論文
II 電気学会論文誌・IEEE論文誌 掲載論文
III 電気学会論文誌研究開発ノート 掲載論文
IV 国際会議講演論文集 掲載資料
V 電気学会研究会講演論文集 掲載資料
VI 電気学会全国大会・支部大会講演論文集 掲載資料

 商用電源を直接別の周波数と電圧に変換するAC-AC直接電力変換は、間接変換(AC-DC-AC)に比べて高効率、小形軽量、電力回生等のメリットを持つが、他励式では入出力波形ひずみが大きい、入力力率が低い等の難点がある。
 一方、AC-AC変換へ自励転流を導入すると、交流波形の任意の時刻にスイッチングが可能となり、波形制御の自由度が他励式に比べて格段に増える。そこでAC-AC変換回路にもインバータ回路と同様のPWM制御を取り入れれば、入出力波形ひずみが少なく、電力の流れが双方向な理想に近い変換器を得られると考えられる。
 しかし、自励AC-AC変換器の実用例は未だ皆無に等しい。このことは、この種の変換器は解決すべき多くの問題をかかえており、それゆえに応用研究も遅れていることを示している。
 本研究はこのような背景と観点から、自励AC-AC変換回路が持つ問題点とその解決策を見いだし、その上に立った応用技術の開発を行い、AC-AC電力変換の分野に新たな技術の構築を計ることを目的とした。
 本論文では第1章 序論、第7章 結論とともに上述の目的に沿ってその内容を3つの部分に分け、(1)基礎理論(2章)、(2)ハード面の検討(3章)、(3)応用(4、5、6章)としている。
 第2章では、AC-AC直接変換器の入出力波形解析、線形位相変調スイッチング関数の導入、入力基本波力率特性の解明、電圧調整と波形改善法について述べている。中でも変換器の入力基本波力率が出力基本波力率の反転となる性質がいかにして生まれるかを重点的に検討しており、仮想電圧の導入により入力無効電力を直接計算し、従来定性的にしか説明されていなかった上記の力率反転特性を解析的に証明することができた。
 第3章ではAC-AC変換器回路を自励転流する場合、転流時の電源リアクタンスに保有されるエネルギーと、スイッチの短絡を防止するDead Time期間の負荷エネルギーをいかに処理するかが問題となることを指摘した。これに対し、次の2つの解決策を示した。
 (1) サイリスタで構成される大容量変換器には自然転流の原理を取り入れたインパルス重畳転流を用いれば、上記の問題点を無理なく解決できるのみならず、転流時間の制御も可能な信頼性の高い変換器を構成することができる。
 (2) 自己消弧素子で構成されるAC-AC変換器には電圧クランプ回路を付加することで高周波スイッチングが可能となる。
 さらに転流過渡状態における電源インピーダンスの測定法を開発し、実測値を示した。
 第4章では第3章の検討を元に考案した三相サイクロコンバータ回路を示し、従来の回路が持つ過大な素子電圧、転流時間等の問題点が解消され、信頼性の高い変換器が製作できることを実験により検証している。
 第5章では第2章で述べたAC-AC変換器の入力力率特性に着目した無効電力発生装置、力率補償形電源装置、力率補償形交流電圧調整装置を提案している。いずれの応用もエネルギー蓄積素子(L,C)を用いることなく、スイッチング回路のみで無効電力の発生や力率補償ができることを示したものであり、従来の補償方式とは大きく異なっている。
 無効電力発生装置はその速応性や効率および波形の点で従来の同期調相機や可変インピーダンス方式を大きく上回っており、電力系統や配電系統の調相設備として有望である。
 力率補償形電源装置はエネルギー蓄積素子や制御系を全く用いずに入力力率を常に1に保つことのできるユニークな電源装置であり、配電系統の末端に接続された低力率変動負荷による電圧変動の補償などへの適用が期待される。
 これらの応用には共通して変換器容量は装置容量の約2分の1ですみ、かつ入出力高調波は変換器の発生する量の約2分の1という大きな特長を持っている。
 第6章は高周波チョッパ方式による交流電圧調整への応用である。まず降圧コンバータを用いた単相および三相交流電圧調整回路を示し、電圧クランプ回路の必要性、波形改善法などについて述べた。次にCukコンバータの入出力波形が良好なこと、電圧調整範囲が広いこと、交流電源のもれインダクタンスがスイッチングの障害にならないことに着目し、これを応用した瞬時値制御形の交流スイッチングレギュレータを提案した。
 これはAC-AC変換器の出力電圧の瞬時値を制御し、電圧のみならずその波形をも制御しようとする初めての試みである。正弦波入出力、装置の小形軽量化が可能、高速応答(約300μs)などの特長を持ち、従来の他励式で実効値検出形に比べて飛躍的に波形や過渡特性に優れたものが得られている。

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